河村博旨
河村 博旨（かわむら はくし 1939年4月1日[1]-2016年10月26日）は、日本の法学者。商法、特に会社法を専門とする[1]。函館大学の学長を13年間務めた[2]。青江由紀夫のペンネームを使う事もあった[1]。
略歴
[編集]広島県芦品郡有磨村(現在の福山市芦田町)の出身。織物業を営み長い歴史を持つ家の、2男3女の長男として生まれた。父親と不仲であり、大学在籍中に勘当される。1961年、中央大学法学部政治学科卒業[1]。水島広雄がそごう経営の傍ら中央大学法学部で講師をしていた頃の教え子としてもたびたび名前が挙がった[3][4][5][6][7]。1964年、中央大学大学院法学研究科民事法専攻修士課程を修了[8][1]。昭和31年より山一證券勤務[8]。
昭和40年に実家に戻り家業の丸萬織物に勤務するも、やはり馴染まず[8]、1967年（昭和42年）に函館大学商学部の講師に就任する[8]。昭和53年より同教授[8]、1989年より函館大学学長に就任[8]。2003年(平成15年)までの務めた[8]。学長を辞した後は、函館大学名誉教授[1][8]。読書家で66歳で函館を離れて69歳(2008年5月）までの間に1400冊の本を読んだとされ、年賀状も人脈を保つために個人用で2000枚、会社用で600枚の年賀状を作成していた[9]。
函館大学を定年退職後は、ヴィア・ホールディングスの常勤監査役・社外監査役に招かれて千葉県千葉市高品町に転居[1]。函館での生活は38年間だった。2012年（平成24年）6月まで同職を務めた[10][11]。晩年は季刊文芸同人誌の「海峡派」・「山音文学」などに「銀次郎の日記」などとして青江由紀夫のペンネームで社会時評、身辺雑記を残した[12]。2016年10月26日、大腸癌のために死去。
函館大学での活動
[編集]企業人による講義
[編集]河村は「空理空論で実務に役立たない学問では何もならない」と説明し[13]、1987年より「企業人による講義」を開始し学生の人気を集めた。原理原則は学内の専門教官が教える一方、理論が実務でどう応用されているかを第一線の企業人に説明してもらうことで知識の幅を広げる効果が期待された[13]。元札幌高検検事長や元日銀函館支店長、東京海上火災保険函館駅前支店長、三井生命保険参与、元東洋信託銀行副社長、みちのく銀行取締役秘書室長、青森地域社会研究所常務理事など年間12名ほどの講師を招き[14][13]、1998年には「企業人による講義」は12年目を迎えた[13]。1995年には同大学の文化講演会で芸能リポーターの梨元勝が講演をした関係で[15]、2000年10月より「芸能社会学」の講義を受け持つことになった[15]。梨元側からの提案であり河村は最初冗談だと思ったが[15]、その後何度か電話で連絡を取るうちに河村は若者が興味を持つ芸能ビジネスの世界の情報に目を付けた[15]。しかし他教授陣の理解が得られず、河村は学内の専任教授らを説得して回る破目になる[15]。梨元の講師就任には5年の年月がかかった[15]。2001年には大阪の吉本興業大阪本社をポロシャツ姿で飛び込み訪問し[16]、桂三枝に同大での特別講義を要請した[16]。突然の訪問に不審そうな顔色を浮かべる桂三枝に「なんで、私があなたを指名するのか分かりますか。私はね、あなたをずっと親戚だと思っている。だって、同じ河村でしょ。ルーツは同じですよ」と続けた[16]。桂三枝の本名は河村静也[16]。唖然とする桂はその後河村学長の押しについに折れ[16]、年14回の講義を受け持つことになった[16]。2002年9月25日に桂による初の講義が行われた[16]。
「塾」制度の導入
[編集]2001年度より大学カリキュラムを大幅に変更。教官が三人体制で入学から就職まで学生生活全般をサポートするシステムを作り上げた。入学時の受講科目選択や生活の悩み、卒業論文や就職指導までの4年間の学生生活を支援した[17][18]。また新カリキュラムに合わせて塾の演習棟などを新築、改築した。
他大学との提携
[編集]2001年10月19日、河村は天津の南開大学との姉妹校提携の調印を行った[19]。河村が学長在任中には台湾の朝陽科技大やカナダ・ハミルトン市のモホーク大学、韓国の韓国大田市の中部大学校とも姉妹校提携を行っている[20][21][22]。
学長退任後
[編集]学長を退いた後は同大学名誉教授となった。大学の理事業務や研究の他に、商法と会社法の講義を継続した[23]。2005年には、入学式や卒業式などでの13年分の式辞を掲載した挨拶集『報恩感謝』を出版した。これは河村が学長就任後に大学学長向けとして適切な挨拶文例の資料がなかったエピソードに寄る。出版すれば「大学の発展にもつながる」と刊行を決めものでだった[2]。
函館の識者として
[編集]- 2002年10月18日には、私学教育の振興に尽くしたとして北海道より『道社会貢献賞』を贈られている[24][25]。
- 政治問題に関しても識者とされ、北海道南部の自治体で、現職の首長が選挙で相次いで落選した際には、各候補は従来通りの「絵に描いたもち」のような(実現不能な)公約ばかり訴えているのが原因であるとして、「せめて選挙の時は、新しい人に投票したい」。有権者たちの追い詰められた思いが、現職の相次ぐ落選という結果になっていると述べている[26]。また函館市のまちづくりセンターが発行している政策情報誌「サリュート・函館」にも特別寄稿が掲載されている[27]。1998年7月の参議院選挙で、大票田・函館市の道選挙区で自民党が民主党と共産党に続く第三党に転落し、自公連立政権時代に入って以降も根強かった「函館55年体制」の崩壊が進んだ。この件に関して、(自民党の）将来への視野を示さない哲学なき政治を有権者は拒否した。道南の自民党も政権党である虚栄を捨て、庶民の中へ入り込む政党に変わらなければ浮上しない。民主党には未知への期待と不安があるのだろうとコメントを寄せた[28]。
- 函館の政治経済面でも、2001年には函館空港-中国天津空港の定期便就航運動のために、航空路開設公式訪問団員として天津や北京を訪問し、中国国際航空本社を訪問するなどして活動している[29]。市営バスの民営化問題では、函館市議会公共交通調査特別委員会で参考人として参加し、市バスの民営化には賛成としながらも、職員の配置や路線の切捨てには相当の配慮が必要とした[30][31]。また1999年4月に就任した井上博司函館市長の市バス赤字問題の対応に対して、｢これまで30年議論し、議論のしすぎで出口が見えないだけ。本気でやる気があるのか疑問だ｣として、新市長の姿勢に疑念を投げかけた[32]。その他にも函館市の政治経済問題に関して度々新聞に河村の論評が掲載された[33][34][35][36][37][38]。
- 函館の生活面でも、警察活動に住民の意見を反映させるため設立された函館中央警察署協議会の初代会長に選ばれている[39]。函館に国立大学を誘致しようとした国立函館大学誘致促進期成会では、人材育成に役立つことが期待されるとしながら、30年間活動しても国立大学の誘致に至っていない現状を直視し、地元出資の公立大学設立に切り替えるべきという発想も必要と説いている[40][41]。この構想は2000年に公立はこだて未来大学という形で実現した。
- 1996年には生活上の安全活動や安全思想の普及に貢献したとして、函館市安全都市推進委員会より安全活動実践功労賞を贈られた[42]。
執筆
[編集]- 報恩感謝[2] 2004年 370 ページ
- 商法と株主総会無用論 1990年 函館大学北海道産業開発研究所
- 『手形・小切手法入門』 「手形上の権利」共同執筆者 北樹出版 1979年4月
- 『手形・小切手法入門』 「約束手形」共同執筆者 北樹出版 1979年4月
- 『会社法入門』- 共同執筆者 北樹出版 1982年
- 『株式会社の取締役』 - 共同執筆者 北樹出版 1982年
- 「銀次郎の日記」- 青江由紀夫名義で執筆され、日常の出来事が書かれている[1]。
論文
[編集]- 額面・無額面株式間の相互変更と一律変更--特に商法213条2項について (野又貞雄先生追悼号) （1977）
- 商法本質論と企業概念--企業法説上の商法概念抽出に至るまで (村上憲一郎先生追悼号) （1976）
- 無額面株式の問題点--制度導入とその後 (村上憲一郎先生追悼号) （1976）
- 額面・無額面株式間の変更と問題点--商法213条2項無用論 （1977）
- 世界が称賛する創価学会の師弟の精神 （2008）
所属
[編集]特記事項
[編集]脚注・出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l 朝日新聞人物データベース
- ^ a b c 報恩感謝＊式辞挨拶集発行＊前函館大学長・河村博旨教授＊「教育理念、参考に」＊入学や卒業式など13年分収録 2005年01月14日 北海道新聞夕刊地方 17頁 館Ｃ (全571字)
- ^ ＜視角触角＞そごう賠償請求裁判＊進む捜査 迫る時効＊流出資金解明急ぐ＊水島氏“法の大家”の誇りも 2000年11月03日 北海道新聞朝刊全道 3頁 朝三 (全1,426字)
- ^ 核心 そごう賠償請求裁判 水島氏「堅実経営だった」 プライドのぞかせ反論 進む捜査 教え子は弁護団も 2000年11月03日 中日新聞 朝刊 3頁 3面 (全2,139字)
- ^ そごう賠償査定裁判／「企業担保論」大家のプライド／「わたしも法律家」／ワンマン水島前会長 あくまで反論／捜査当局 時効にらみ立件目指す／（写真付き）2000年11月03日 神戸新聞 朝刊 31頁 朝一社 (全1,497字)
- ^ 教え子らが大弁護団 そごうの水島前会長 法律の大家 20-30人結集の構え 当局、捜査に全力 2000年11月03日 四国新聞 朝刊 2頁 総合 (全1,436字)
- ^ 表層深層＝沈黙破ったそごう水島前会長 法の大家、プライド見せる “放漫経営”批判に反論 警視庁、時効にらみ捜査急ぐ 2000年11月03日 熊本日日新聞 朝刊 三社 (全1,443字)
- ^ a b c d e f g h i j 日外アソシエーツ現代人物情報
- ^ 読む顔写真（3） 河村博旨さん ヒューマン・ギルド 2016年11月11日閲覧
- ^ ヴィア・ホールディングス 役員の異動に関するお知らせ
- ^ 人事、ヴィア・ホールディングス 2012年6月6日 16:42日本経済新聞 電子版
- ^ ☆銀次郎の日記☆ 媒酌人は無用か否か
- ^ a b c d ＜学園ウイークリー＞企業人の講義が人気＊スタートから12年目函館大学＊正規カリキュラムに設定＊実務的な内容受ける1998.05.12 北海道新聞朝刊地方 23頁 函Ｂ (全865字)
- ^ 海底動脈の起伏 青函トンネル10年（2）／結ばれた糸 利用者減少も／人的交流進む 1998年03月04日 河北新報記事情報 写図有 (全1,296字)
- ^ a b c d e f 河村博旨・函館大学学長、説得する 梨元リポーターを教授に迎える 2000年03月20日 AERA 84頁 写図有 (全553字)
- ^ a b c d e f g ＜まど＞飛び込み 2002年10月26日 北海道新聞夕刊全道 14頁 2社 (全463字)
- ^ 「塾」制度で学生生活サポート＊函館大 新年度から＊科目選択から就職指導まで＊教官3人できめ細かく 2001年03月02日 北海道新聞朝刊地方 25頁 函Ｂ (全673字)
- ^ ＜212土曜ひろば＞函館＊生活や就職支援 「塾」制度導入へ＊函館大 2001年03月10日 北海道新聞夕刊地方 9頁 圏Ｂ (全401字)
- ^ 函館大＊天津・南開大と姉妹校に＊提携調印式、旭岡中も実験中と 2001年10月20日 北海道新聞朝刊地方 26頁 道南 (全485字)
- ^ 共同研究、留学生交換も＊函館大、韓国・中部大＊姉妹提携に調印 2002年09月04日 北海道新聞朝刊地方 24頁 函Ａ (全312字)
- ^ 朝陽科技大との姉妹提携に合意＊函館大 2001年09月06日 北海道新聞朝刊地方 24頁 函Ａ (全358字)
- ^ 函館大とカナダ・モホーク大＊今夏にも姉妹提携へ＊学部長らが来校し協議 2001年05月16日 北海道新聞朝刊地方 22頁 函Ａ (全440字)
- ^ 函館大＊新学長に小笠原短大学長＊「地域から信頼を得たい」2002年12月11日 北海道新聞朝刊地方 23頁 函Ｃ (全330字)
- ^ 私学教育に尽くした5人に道社会貢献賞 2002.10.19 北海道新聞朝刊全道 36頁 四社 (全277字)
- ^ はこだて財界 掲載巻 34 掲載号 12 掲載通号 431 掲載ページ28-30
- ^ ＜わいわいワイド27＞道南の首長選、続く波乱（3の3）＊広がる有権者の危機感＊識者に聞く2002年10月11日 北海道新聞朝刊地方 26頁 函Ａ (全995字)
- ^ 函館の未来像を提言＊まちづくりセンター＊政策情報誌を発行 2002年04月16日 北海道新聞夕刊地方 9頁 夕函 (全372字)
- ^ ＜98参院選＞函館市内＊選挙区で自民 第３党に転落＊労組選挙を徹底、民主上積み 1998年07月13日 北海道新聞夕刊地方 9頁 夕函 (全1,511字)
- ^ ＜函館－天津 定期航空路実現の行方＞下＊ハードル＊高搭乗率保証がカギ 2001年10月26日 北海道新聞朝刊地方 27頁 道南 (全1,226字)
- ^ 市営バスの民営化問題＊市議会特別委の参考人意見聴取＊賛成3、反対2に2000.01.29 北海道新聞朝刊地方 20頁 函Ａ (全1,516字)
- ^ 市営バス民営化問題＊賛成、反対論が激突＊市議会特別委＊初の意見聴取 2000年01月28日 北海道新聞夕刊地方 13頁 夕函 (全375字)
- ^ ＜井上市政の課題＞中＊改革路線の行方＊職員削減どう対応＊市民要望実現への一里塚 1999年04月29日 北海道新聞朝刊地方 26頁 函Ａ (全1,038字)
- ^ 木戸浦市政に望む＊河村・函大学長に聞く＊現体制への飽き 受け止めるべき 1998年04月21日 北海道新聞朝刊地方 22頁 函Ａ (全1,179字)
- ^ ＜攻防98市長選＞明確な政策提示を＊各界の３人に聞く＊河村博旨さん、池田晴男さん、天明安枝さん 1998年03月20日 北海道新聞朝刊地方 20頁 函Ａ (全1,629字)
- ^ 拓銀破たん＊河村函大学長に聞く＊倒産を防ぐ支援急務＊企業 自助努力で人材育成を 1997年11月19日 北海道新聞朝刊地方 23頁 函Ｂ (全780字)
- ^ ＜道南圏 明日への模索＞第5部 中核都市 函館は今＊9＊18歳の別れ＊高卒者の6割が流出＊強い地元志向、少ない受け皿 1996年08月16日 北海道新聞朝刊地方 23頁 函Ｂ (全1,248字)
- ^ 元気な企業 函館発＊特色生かし市場開拓 2000年06月22日 北海道新聞朝刊全道 13頁 三経 (全3,751字)
- ^ ＜2000衆院選＞市選管がフォーラム＊なぜ？若者の無関心＊「候補者魅力ないのも一因」「公約を守るか分からない」 2000年06月16日 北海道新聞朝刊地方 25頁 函Ｂ (全1,178字)
- ^ ＜道南ファイル＞警察活動に住民の声 函館中央署に協議会 2001年07月02日 北海道新聞朝刊地方 26頁 渡桧 (全223字)
- ^ 国立以外も視野に＊大学誘致期成会で提案＊函館 1994年06月01日 北海道新聞朝刊地方 25頁 函Ｂ (全486字)
- ^ 函館公立大学基本構想＊人材養成に期待／将来は内容拡大を＊関係者の声 1996年04月12日 北海道新聞朝刊地方 26頁 函Ａ (全754字)
- ^ 19人6団体に安全実践功労賞を贈る 1996年03月02日 北海道新聞朝刊地方 26頁 函Ａ (全359字)
- ^ ［追悼抄］芸能リポーターの草分け 梨元勝さん 読売新聞 2010年10月02日 東京夕刊 5頁 写有 (全1,124字)
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