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「マチカネワニ」の版間の差分

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|省略 = 爬虫綱
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|名称 = マチカネワニ
|名称 = マチカネワニ
|画像=[[File:Toyotamaphimeia machikanense.jpg|250px|マチカネワニ]]
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|種 = '''マチカネワニ'''<br />''T. machikanense''
|属 = [[絶滅|†]] '''マチカネワニ属''' {{snamei||Toyotamaphimeia}} {{AUY|[[青木良輔|Aoki]]|1983}}
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|和名 = マチカネワニ
|和名 = マチカネワニ
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'''マチカネワニ'''は、[[更新世]](ミンデル氷期-リス間氷期頃、30-50万年前頃)に日本に生息していた[[ワニ]]。体長約7メートルの大型のワニである。
'''マチカネワニ'''(待兼鰐、''Toyotamaphimeia machikanensis'')は、[[更新世]](ミンデル氷期-リス間氷期頃、30-50万年前頃)に日本に生息していた[[ワニ]]。体長約7メートルの大型のワニである。


== 発見 ==
[[化石]]は、[[1964年]]5月に[[待兼山]]に位置する[[大阪大学]]豊中キャンパスの理学部で新校舎建設現場から出土した<ref>[http://www.museum.osaka-u.ac.jp/valuable_specimen/index.html 大阪大学所有・貴重標本] - [http://www.museum.osaka-u.ac.jp/valuable_specimen/sample0012.html 化石標本マチカネワニ]</ref>。発見の発端は、化石の採取に来ていた人見功ほか1人の青年が、見つけた骨片の化石を[[大阪市立自然史博物館]]に持ち込み鑑定を依頼したことである。その後の発掘を通して、ほぼ全身の化石が見つかり、ワニの化石であることが判明した<ref name="toyonaka">[http://www.city.toyonaka.osaka.jp/top/index.html 豊中市]:市の紹介 - [http://www.city.toyonaka.osaka.jp/top/shoukai/gaiyou/ichiban/wani.html マチカネワニ]</ref>。この出土は、日本で初めてのワニの化石発見であった<ref name="space">大阪大学・理学研究科・宇宙地球科学専攻 - [http://www.ess.sci.osaka-u.ac.jp/lobby/machikanewani.html マチカネワニ]</ref>。その後、他の日本各地でも、更新世のワニの化石が見つかっている<ref>[http://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/ きしわだ自然資料館] - [http://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/kwani.html キシワダワニ]</ref>。
[[化石]]は、[[1964年]]に[[大阪府]][[豊中市]][[柴原駅|柴原]]の[[待兼山]]丘陵に位置する[[大阪大学#豊中キャンパス|大阪大学豊中キャンパス]]の理学部で新校舎建設現場から出土した<ref name="The Quaternary Research">{{Cite journal|和書|author = 小畠信夫、千地万造、池辺展生、石田志朗、[[亀井節夫]]、中世古幸次郎、松本英二([[神戸大学]]教養学部地学教室)|date = 1965-9|title = [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/4/2/4_2_49/_pdf 大阪層群よりワニ化石の発見]|journal = 第四紀研究|issue = 2|volume = 4|publisher = [[日本第四紀学会]]|pages = 48-60|ref = harv}}{{Anchors|"The Quaternary Research"}}</ref><ref>[http://www.museum.osaka-u.ac.jp/valuable_specimen/index.html 大阪大学所有・貴重標本] - [http://www.museum.osaka-u.ac.jp/valuable_specimen/sample0012.html 化石標本マチカネワニ]</ref>。


=== 発端 ===
全身化石は[[大阪大学総合学術博物館]]に保存されているが、レプリカが複数の施設でも展示されている<ref name="space" />。発掘当時は、体長8mと推定されていたが、その後7m弱であろうと修正された。このワニは、当初は[[クロコダイル科]]の[[マレーガビアル|マレーガビアル属]]の新種と考えられ、[[1965年]]に出土した地名にちなんで''Tomistoma machikanense''と命名された。その後の研究により、マレーガビアル属ではなく別属のワニであることが示唆され、ワニに化したと伝えられる[[トヨタマヒメ|豊玉姫]]にちなんだ属名を冠した学名''Toyotamaphimeia machikanensis''が提唱されている<ref name="space" />。なお、ワニ目には複数の[[科 (分類学)|科]]があるがマチカネワニについては属する科がまだ定まっていない。
発見の発端は[[1964年]][[5月3日]]、偶然[[大阪層群]]の化石の採取に来ていた高校生、人見功と大原健二が道路側溝を作るために掘り上げられていた土の中から脊椎動物の[[肋骨]]破片を発見したことである。発見された化石はすぐに[[大阪市立自然史博物館]]の[[千地万造]]に持ち込まれた<ref name="The Quaternary Research" />。同年[[5月10日]]、千地万造と[[大阪大学]]教養学部地学教室の[[小畠信夫]]と[[中世古幸次郎]]、[[大阪市立大学]]理学部地学教室の[[池辺展生]]らによって現地調査が行われた<ref name="The Quaternary Research" />。このとき、大阪層群上部の地層中のものであることが確認され、大腿骨破片などの骨片が採集されたがワニ化石であることは未だわかっていなかった<ref name="The Quaternary Research" />。


=== 発掘 ===
大阪大学のイメージキャラクター「まっち」のほか、大阪大学や[[豊中市]]と関連する組織においてマスコット図案化され、学生・市民に親しまれている<ref name="space" />。
第1回の発掘は同年[[6月9日]]からの4日間行われ、5月10日に現地調査を行ったメンバーに加え、[[京都大学]]理学部地質学鉱物学教室の[[亀井節夫]]、石田志朗と大学院生、大阪大学教養学部の学生が加わった<ref name="The Quaternary Research" />。その後多くのメンバーが加わり本格的な調査が1回目を含め計4回実施され、調査の結果頭骨を含むほぼ完全な骨格化石が採集された([[9月17日|9月17]]-[[9月18日|18日]]第2回、[[12月4日|12月4]]-[[12月7日|7日]]第3回、[[1965年|翌]][[1月28日]]第4回)<ref name="The Quaternary Research" />。 補強、復元は京都科学標本社によって行われ、また大阪大学により研究・保存委員会が設けられて[[地質学]]、[[古生物学]]、[[組織学]]、[[歯学]]、[[生化学]]分野からの総合的な研究と保存が進められた<ref name="The Quaternary Research" />。

=== 日本におけるワニ化石について ===
この出土は、日本で初めての確実なワニ化石の発見であった<ref name="The Quaternary Research" /><ref name="space">大阪大学・理学研究科・宇宙地球科学専攻 - [http://www.ess.sci.osaka-u.ac.jp/lobby/machikanewani.html マチカネワニ]</ref>。それ以前に[[若松市]](現[[北九州市]])の[[第三紀]]層からワニ化石の産出の報告があったが、これは[[イルカ]]化石だと思われる<ref name="The Quaternary Research" />。
その後、他の日本各地でも、[[更新世]]のワニの化石([[キシワダワニ]]など)が見つかっている<ref>[http://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/ きしわだ自然資料館] - [http://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/kwani.html キシワダワニ]</ref>。

また、マチカネワニ発見以前に[[台湾]](旧[[台南州]]-[[新化区|新化郡]]-[[左鎮区|左鎮庄]])から徳永(1936)により[[ガビアル科]] {{sname||Gavialidae}} もしくはトミストマ科 {{sname||Tomistomidae}} に属すと考えられたワニ化石が発見されていた<ref name="The Quaternary Research" />。その化石は林(1963)によると[[:zh:頭嵙山期|頭嵙山期]]のもの(ヴィラフランカ期からクロマー期)とされている<ref name="The Quaternary Research" />。

== 化石 ==
[[File:Toyotamaphimeia machikanensis.JPG|thumb|250px|[[大阪大学総合学術博物館]]に展示されているマチカネワニの[[レプリカ]]。なお、実物は同館3階にて展示されている。]]
計測された値は、[[頭蓋骨]]の長さ([[上顎骨]]縫合先端と後頭顆後端間の長さ)1050mm、頭蓋骨の幅(左右方頬骨外側部の最大幅)491mm、第1[[脊椎骨]]先端から第29脊椎骨後端までの長さは2850mm前後であり、尾椎推定4000mmだったため、発掘当時は全長8mと推定されていた<ref name="The Quaternary Research" />が、その後7m弱であろうと修正された。左[[肋骨]]多数、右前足、左後足、[[恥骨]]、[[尾骨]]の大部分を欠損しているが、ほぼ完全な骨格化石だといえる。化石骨は発掘後の風化により著しく脆くなり、発掘直後には茶褐色を呈していたが、次第に変色し淡褐色となったとされる<ref name="The Quaternary Research" />。また、地層中には北西-南東方向に数本の断層があってその影響でかなり破損していた<ref name="The Quaternary Research" />。

全身化石は[[大阪大学総合学術博物館]]に保存されているが、レプリカが複数の施設でも展示されている<ref name="space" />。

=== 地層 ===
化石が発見されたのは[[更新世]]の地層だと考えられている<ref name="The Quaternary Research" />。[[大阪層群]]上部の[[茨木]]累層の第8海成粘土層(Ma8)の約1m下位の砂・[[シルト|シルト質粘土]]層、カスリ火山灰に当る層準であることが市原実により明らかとなった<ref name="The Quaternary Research" />。カスリ火山灰の層準は38(誤差±3)万年前ないし42(±8)万年前であるとされる。最近の[[深海底]]の[[酸素同位体比]]層序との比較によれば約55万年前だとみる意見もある。

大阪層群においては[[ステゴドン|トウヨウゾウ]] {{snamei||Stegodon orientalis}} の層(Ma1)より上位に当るが、大きくみて池辺・千地・石田([[1964年|1964]])のHorizonⅢ([[シガゾウ]] {{snamei|Elephas shigensis}}―{{snamei||Stegodon orientalis}})の層準に当る<ref name="The Quaternary Research" />。

=== 古生態学 ===
[[File:Stegodon orientalis molar - Kyoto University Museum - DSC06416.JPG|thumb|200px|同時期に生息していた[[ステゴドン|トウヨウゾウ]] {{snamei||Stegodon orientalis}} の歯の化石。]]

生息環境について、田井昭子、大西郁夫の花粉分析結果では 大阪層群の海成粘土層に普通にみられる [[ブナ|Fagus]]帯(田井,1964)の構成であり、[[温暖湿潤気候|温暖湿潤型]]であった<ref name="The Quaternary Research" />。[[ヒシ]]などが生えていた陸地内部で生活し、死んでから川により運搬され、海岸近くの河口の沼沢地で埋没したと考えられる<ref name="The Quaternary Research" />。

この時代(40-50万年前)の哺乳類では[[ステゴドン|トウヨウゾウ]]のほかに[[オオツノシカ|ヤベオオツノジカ]] {{snamei||Sinomegaceros yabei}} や[[シナサイ]] {{snamei||Rhinoceros sinensis}} 、[[オオカミ]]、[[タヌキ]]、[[ハリネズミ]]、[[トガリネズミ]]、[[モグラ]]、[[キヌゲネズミ]]、[[ハタネズミ]]などが知られており、それらとともに過ごしたと考えられる。

=== 古病理学 ===
[[1964年]]に本化石が発掘されたすぐ後既に[[大阪大学]]歯学部の西島庄次郎は右[[肋骨]]と右[[尺骨]]、右[[橈骨]]が折れて再癒合した状態に着目し、本種にも[[病理学|病理的]]痕跡が存在することは認識されていた<ref name="The Quaternary Research" />。

[[2004年]]に[[桂嘉志浩]]によって病理痕跡が詳細に研究され、論文として発表された<ref name=Katsura>{{Cite journal|first = Yoshihiro|last = Katsura|title = [http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/08912963400015041#tabModule Paleopathology of ''Toyotamaphimeia machikanensis'' (Diapsida, Crocodylia) from the Middle Pleistocene of Central Japan]|journal = Historical Biology|volume = 16(2-4)|year = 2004|month = June-December|publisher = [[テイラーアンドフランシス|Taylor & Francis]]|pages = 93-97|issn = 0891-2963|doi=10.1080/08912963400015041}}</ref>。
下顎の前部は切断され、[[脛骨]]と[[腓骨]]は骨折し、鱗板骨には嚙まれた痕跡が残されており、これらの病理的特徴は外的な要因と考えられる<ref name=Katsura/>。同種内での縄張り争いや繁殖期における雌の争奪の際に負った傷である可能性がある<ref name=Katsura/>。各痕跡は治癒した跡があり、怪我を負った後も暫く生存していたことが分かった<ref name=Katsura/>。

== 分類・名称 ==
[[File:Tomistoma schlegelii false gharial LA zoo 02.jpg|thumb|280px|近縁の[[マレーガビアル]] {{snamei||Tomistoma schlegelii}}。]]

発見当初は、本種は[[頭骨]]の特徴が現生の[[マレーガビアル属]]と類似している(鼻吻部が異常に長く狭いこと、鼻骨が外鼻孔まで届かず楔状であること、前上顎骨は片側5本、[[上顎骨]]は片側16本と上顎の歯式が同じことなど)ことからマレーガビアル属の新種とされた<ref name="The Quaternary Research" />。[[亀井節夫]]、松本英二によりに出土した地名([[待兼山]])にちなんで[[1965年]]9月、和名は'''マチカネワニ'''、[[学名]]は'''''Tomistoma machikanense'''''<small>(トミストマ・マチカネンセ)</small>と命名された<ref name="The Quaternary Research" />。

それから18年後、[[青木良輔]]により再研究され、[[1983年]]、マレーガビアル属ではなく新属のワニであることが示唆され、[[古事記]]に登場しワニに化したと伝えられる[[トヨタマヒメ|豊玉姫]]にちなんだ属名を冠した学名 '''''Toyotamaphimeia machikanensis''''' <small>(トヨタマヒメイア・マチカネンシス)</small>と命名された<ref name="Copeia">{{Cite journal|first = Riosuke|last = Aoki|title = [http://www.jstor.org/discover/10.2307/1444701?uid=3738328&uid=2129&uid=2&uid=70&uid=4&sid=21104582160283 A New Generic Allocation of Tomistoma machikanense, a Fossil Crocodilian from the Pleistocene of Japan]|journal = [[:w:Copeia|Copeia]]|volume = 1983|issue = 1|year = 1983|month = February|publisher = [[:w:American Society of Ichthyologists and Herpetologists|ASIH]]|pages = 89-95|issn = 0045-8511}}</ref><ref name="space" />。青木は関節骨後突起が分類上重要なことを指摘し、マレーガビアル属よりも[[クロコダイル属]]に近いと提唱した<ref name="Copeia"/>。この論文を出版した「[[:w:Copeia|Copeia]]」は国際的な[[爬虫類学]]の[[学術誌]]だったため、''Toyotamaphimeia''の名が世界中に浸透し、その重要性が確認された。

その後世界でワニの新たな研究が進んだため、[[大阪大学]]、[[北海道大学]]、[[国立科学博物館]]による共同研究が始まり、[[2006年]]に本種は[[トミストマ亜科]] {{sname||Tomistominae}} に属することが支持され、その中でも進化したものであることが報告された<ref name="NSMm">{{Cite journal|Author = [[小林快次|Yoshitsugu Kobayashi]], [[冨田幸光|Yukimitsu Tomida]], [[亀井節夫|Tadao Kamei]], [[江口太郎|Taro Eguchi]]|title = [http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA78131000 Anatomy of a Japanese tomistomine crocodylian, Toyotamaphimeia machikanensis (Kamei et Matsumoto, 1965), from the middle Pleistocene of Osaka Prefecture: the reassessment of its phylogenetic status within Crocodylia]|journal = National Science Museum monographs No.35|year = 2006|publisher = [[国立科学博物館|National Science Museum]]}}</ref>。そのため現生種では[[マレーガビアル]] {{snamei||Tomistoma schlegelii}} に近縁であることが解明された<ref name="NSMm"/>。この結果は[[#"The Quaternary Research"|Kobatake et. al(1965)]]と整合性を持つ。また、本亜科の種は[[ヨーロッパ大陸]]に発生し、そこから[[アメリカ大陸]]や[[アフリカ大陸]]に移動し、少なくとも40万年前にはマチカネワニやマレーガビアルのように[[アジア]]に移動し生息していたことがわかった<ref name="NSMm"/>。

=== 分岐図 ===
{{Clade | style=font-size:small; line-height:100%;
|label1=[[正鰐亜目]] {{sname||Eusuchia}}
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== 関連事項 ==
大阪大学の公式マスコットキャラクター「ワニ博士」<ref>[http://www.osaka-u.ac.jp/sp/drwani/ 大阪大学 ワニ博士]</ref>のほか、大阪大学宇宙地球科学専攻のマスコットや[[豊中市]]と関連する組織においてマスコット図案化され、学生・市民に親しまれている<ref name="space" />。

[[2014年]]、[[日本国|国]]の[[文化審議会]]において、国の[[登録記念物]]として登録されることが認められた<ref>{{cite web|url=http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2014/06/20140620_01|title=大阪大学 マチカネワニ化石が国の登録記念物に|accessdate=2014-8-13}}</ref><ref>{{cite web|author=The Museum of Osaka University|url=http://www.museum.osaka-u.ac.jp/|title=大阪大学総合学術博物館 マチカネワニ化石が国の登録記念物へ!!|accessdate=2014-8-13}}</ref>。


また、ワニ学者の青木良輔は中国で見つかったワニの化石はマチカネワニではないかと指摘しており、その残存個体と接した古代中国人によって空想の動物[[竜]]の原型になったと推測している([[竜#概要]]も参照)。
また、ワニ学者の青木良輔は中国で見つかったワニの化石はマチカネワニではないかと指摘しており、その残存個体と接した古代中国人によって空想の動物[[竜]]の原型になったと推測している([[竜#概要]]も参照)。
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://big_game.at.infoseek.co.jp/index.html 巨大動物図鑑] - [http://big-game.web.infoseek.co.jp/japan/machikane.html マチカネワニ]
* [http://biggame.iza-yoi.net/ 巨大動物図鑑] - [http://biggame.iza-yoi.net/japan/machikane.html マチカネワニ]


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[[Category:化石ワニ目]]
[[Category:化石ワニ目]]

2014年8月31日 (日) 06:16時点における版

マチカネワニ
マチカネワニ
マチカネワニモスクワにて)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
亜目 : 正鰐亜目 Eusuchia
上科 : クロコダイル上科 Crocodyloidea
: クロコダイル科 Crocodylidae
亜科 : トミストマ亜科 Tomistominae
: マチカネワニ属 Toyotamaphimeia Aoki1983
: マチカネワニ T. machikanense
学名
Toyotamaphimeia machikanensis
Kamei et. Matsumoto1965Aoki1983
シノニム
Tomistoma machikanense
Kamei et. Matsumoto1965
和名
マチカネワニ

マチカネワニ(待兼鰐、Toyotamaphimeia machikanensis)は、更新世(ミンデル氷期-リス間氷期頃、30-50万年前頃)に日本に生息していたワニ。体長約7メートルの大型のワニである。

発見

化石は、1964年大阪府豊中市柴原待兼山丘陵に位置する大阪大学豊中キャンパスの理学部で新校舎建設現場から出土した[1][2]

発端

発見の発端は1964年5月3日、偶然大阪層群の化石の採取に来ていた高校生、人見功と大原健二が道路側溝を作るために掘り上げられていた土の中から脊椎動物の肋骨破片を発見したことである。発見された化石はすぐに大阪市立自然史博物館千地万造に持ち込まれた[1]。同年5月10日、千地万造と大阪大学教養学部地学教室の小畠信夫中世古幸次郎大阪市立大学理学部地学教室の池辺展生らによって現地調査が行われた[1]。このとき、大阪層群上部の地層中のものであることが確認され、大腿骨破片などの骨片が採集されたがワニ化石であることは未だわかっていなかった[1]

発掘

第1回の発掘は同年6月9日からの4日間行われ、5月10日に現地調査を行ったメンバーに加え、京都大学理学部地質学鉱物学教室の亀井節夫、石田志朗と大学院生、大阪大学教養学部の学生が加わった[1]。その後多くのメンバーが加わり本格的な調査が1回目を含め計4回実施され、調査の結果頭骨を含むほぼ完全な骨格化石が採集された(9月17-18日第2回、12月4-7日第3回、1月28日第4回)[1]。 補強、復元は京都科学標本社によって行われ、また大阪大学により研究・保存委員会が設けられて地質学古生物学組織学歯学生化学分野からの総合的な研究と保存が進められた[1]

日本におけるワニ化石について

この出土は、日本で初めての確実なワニ化石の発見であった[1][3]。それ以前に若松市(現北九州市)の第三紀層からワニ化石の産出の報告があったが、これはイルカ化石だと思われる[1]。 その後、他の日本各地でも、更新世のワニの化石(キシワダワニなど)が見つかっている[4]

また、マチカネワニ発見以前に台湾(旧台南州-新化郡-左鎮庄)から徳永(1936)によりガビアル科 Gavialidae もしくはトミストマ科 Tomistomidae に属すと考えられたワニ化石が発見されていた[1]。その化石は林(1963)によると頭嵙山期のもの(ヴィラフランカ期からクロマー期)とされている[1]

化石

大阪大学総合学術博物館に展示されているマチカネワニのレプリカ。なお、実物は同館3階にて展示されている。

計測された値は、頭蓋骨の長さ(上顎骨縫合先端と後頭顆後端間の長さ)1050mm、頭蓋骨の幅(左右方頬骨外側部の最大幅)491mm、第1脊椎骨先端から第29脊椎骨後端までの長さは2850mm前後であり、尾椎推定4000mmだったため、発掘当時は全長8mと推定されていた[1]が、その後7m弱であろうと修正された。左肋骨多数、右前足、左後足、恥骨尾骨の大部分を欠損しているが、ほぼ完全な骨格化石だといえる。化石骨は発掘後の風化により著しく脆くなり、発掘直後には茶褐色を呈していたが、次第に変色し淡褐色となったとされる[1]。また、地層中には北西-南東方向に数本の断層があってその影響でかなり破損していた[1]

全身化石は大阪大学総合学術博物館に保存されているが、レプリカが複数の施設でも展示されている[3]

地層

化石が発見されたのは更新世の地層だと考えられている[1]大阪層群上部の茨木累層の第8海成粘土層(Ma8)の約1m下位の砂・シルト質粘土層、カスリ火山灰に当る層準であることが市原実により明らかとなった[1]。カスリ火山灰の層準は38(誤差±3)万年前ないし42(±8)万年前であるとされる。最近の深海底酸素同位体比層序との比較によれば約55万年前だとみる意見もある。

大阪層群においてはトウヨウゾウ Stegodon orientalis の層(Ma1)より上位に当るが、大きくみて池辺・千地・石田(1964)のHorizonⅢ(シガゾウ Elephas shigensisStegodon orientalis)の層準に当る[1]

古生態学

同時期に生息していたトウヨウゾウ Stegodon orientalis の歯の化石。

生息環境について、田井昭子、大西郁夫の花粉分析結果では 大阪層群の海成粘土層に普通にみられる Fagus帯(田井,1964)の構成であり、温暖湿潤型であった[1]ヒシなどが生えていた陸地内部で生活し、死んでから川により運搬され、海岸近くの河口の沼沢地で埋没したと考えられる[1]

この時代(40-50万年前)の哺乳類ではトウヨウゾウのほかにヤベオオツノジカ Sinomegaceros yabeiシナサイ Rhinoceros sinensisオオカミタヌキハリネズミトガリネズミモグラキヌゲネズミハタネズミなどが知られており、それらとともに過ごしたと考えられる。

古病理学

1964年に本化石が発掘されたすぐ後既に大阪大学歯学部の西島庄次郎は右肋骨と右尺骨、右橈骨が折れて再癒合した状態に着目し、本種にも病理的痕跡が存在することは認識されていた[1]

2004年桂嘉志浩によって病理痕跡が詳細に研究され、論文として発表された[5]。 下顎の前部は切断され、脛骨腓骨は骨折し、鱗板骨には嚙まれた痕跡が残されており、これらの病理的特徴は外的な要因と考えられる[5]。同種内での縄張り争いや繁殖期における雌の争奪の際に負った傷である可能性がある[5]。各痕跡は治癒した跡があり、怪我を負った後も暫く生存していたことが分かった[5]

分類・名称

近縁のマレーガビアル Tomistoma schlegelii

発見当初は、本種は頭骨の特徴が現生のマレーガビアル属と類似している(鼻吻部が異常に長く狭いこと、鼻骨が外鼻孔まで届かず楔状であること、前上顎骨は片側5本、上顎骨は片側16本と上顎の歯式が同じことなど)ことからマレーガビアル属の新種とされた[1]亀井節夫、松本英二によりに出土した地名(待兼山)にちなんで1965年9月、和名はマチカネワニ学名Tomistoma machikanense(トミストマ・マチカネンセ)と命名された[1]

それから18年後、青木良輔により再研究され、1983年、マレーガビアル属ではなく新属のワニであることが示唆され、古事記に登場しワニに化したと伝えられる豊玉姫にちなんだ属名を冠した学名 Toyotamaphimeia machikanensis (トヨタマヒメイア・マチカネンシス)と命名された[6][3]。青木は関節骨後突起が分類上重要なことを指摘し、マレーガビアル属よりもクロコダイル属に近いと提唱した[6]。この論文を出版した「Copeia」は国際的な爬虫類学学術誌だったため、Toyotamaphimeiaの名が世界中に浸透し、その重要性が確認された。

その後世界でワニの新たな研究が進んだため、大阪大学北海道大学国立科学博物館による共同研究が始まり、2006年に本種はトミストマ亜科 Tomistominae に属することが支持され、その中でも進化したものであることが報告された[7]。そのため現生種ではマレーガビアル Tomistoma schlegelii に近縁であることが解明された[7]。この結果はKobatake et. al(1965)と整合性を持つ。また、本亜科の種はヨーロッパ大陸に発生し、そこからアメリカ大陸アフリカ大陸に移動し、少なくとも40万年前にはマチカネワニやマレーガビアルのようにアジアに移動し生息していたことがわかった[7]

分岐図

正鰐亜目 Eusuchia
クロコダイル科 Crocodylidae
トミストマ亜科(マレーガビアル亜科) Tomistominae

マチカネワニ属 Toyotamaphimeia

マレーガビアル属 Tomistoma

クロコダイル亜科 Crocodylinae

クロコダイル属(ワニ属) Crocodylus

コビトワニ属 Osteolaemus

アリゲーター科 Alligatoridae
アリゲーター亜科 Alligatorinae

アリゲーター属 Alligator

カイマン亜科 Caimaninae

コビトカイマン属 Paleosuchus

カイマン属 Caiman

クロカイマン属 Melanosuchus

ガビアル科 Gavialidae
ガビアル亜科 Gavialinae

エオガビアリス属 Eogavialis

ガビアル属(インドガビアル属) Gavialis

関連事項

大阪大学の公式マスコットキャラクター「ワニ博士」[8]のほか、大阪大学宇宙地球科学専攻のマスコットや豊中市と関連する組織においてマスコット図案化され、学生・市民に親しまれている[3]

2014年文化審議会において、国の登録記念物として登録されることが認められた[9][10]

また、ワニ学者の青木良輔は中国で見つかったワニの化石はマチカネワニではないかと指摘しており、その残存個体と接した古代中国人によって空想の動物の原型になったと推測している(竜#概要も参照)。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 小畠信夫、千地万造、池辺展生、石田志朗、亀井節夫、中世古幸次郎、松本英二(神戸大学教養学部地学教室)「大阪層群よりワニ化石の発見」『第四紀研究』第4巻第2号、日本第四紀学会、1965年9月、48-60頁。 
  2. ^ 大阪大学所有・貴重標本 - 化石標本マチカネワニ
  3. ^ a b c d 大阪大学・理学研究科・宇宙地球科学専攻 - マチカネワニ
  4. ^ きしわだ自然資料館 - キシワダワニ
  5. ^ a b c d Katsura, Yoshihiro (June-December 2004). “Paleopathology of Toyotamaphimeia machikanensis (Diapsida, Crocodylia) from the Middle Pleistocene of Central Japan”. Historical Biology (Taylor & Francis) 16(2-4): 93-97. doi:10.1080/08912963400015041. ISSN 0891-2963. 
  6. ^ a b Aoki, Riosuke (February 1983). “A New Generic Allocation of Tomistoma machikanense, a Fossil Crocodilian from the Pleistocene of Japan”. Copeia (ASIH) 1983 (1): 89-95. ISSN 0045-8511. 
  7. ^ a b c Anatomy of a Japanese tomistomine crocodylian, Toyotamaphimeia machikanensis (Kamei et Matsumoto, 1965), from the middle Pleistocene of Osaka Prefecture: the reassessment of its phylogenetic status within Crocodylia”. National Science Museum monographs No.35 (National Science Museum). (2006). 
  8. ^ 大阪大学 ワニ博士
  9. ^ 大阪大学 マチカネワニ化石が国の登録記念物に”. 2014年8月13日閲覧。
  10. ^ The Museum of Osaka University. “大阪大学総合学術博物館 マチカネワニ化石が国の登録記念物へ!!”. 2014年8月13日閲覧。

外部リンク