準天頂衛星

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日本上空を通る準天頂軌道(非対称8の字軌道)
日本上空を通る準天頂衛星システムのGIFムービー

準天頂衛星(じゅんてんちょうえいせい、quasi-zenith satellites, QZS)は、準天頂軌道(じゅんてんちょうきどう、quasi-zenith orbit)、すなわち特定の一地域の上空に長時間とどまる軌道をとる人工衛星。通常は複数の準天頂衛星が見かけの同一軌道上を周回する一組の衛星コンステレーションを構成して運用する。

準天頂軌道は、公転周期が惑星自転周期地球なら23時間56分)と等しくなる対地同期軌道に、適切な軌道傾斜角軌道離心率を持たせることによりもたらされる。

軌道力学[編集]

対地同期軌道でよく知られる静止軌道は、離心率、軌道傾斜角とも0であり、地表から見れば、赤道上の一地点の上空に静止して見える。そのため、低緯度に衛星サービスを提供するには適しているが、高緯度からは斜めになり、建物に遮蔽されると衛星からの電波が受信できなくなる。これに対して、準天頂衛星は高い軌道傾斜角を持つので、赤道上で静止せずに23時間56分周期で南北を往復する。このため、高緯度に飛来する間に衛星サービスを提供するのに適する。

このような衛星は一定の経度を単純に南北方向に往復運動するのではなく、経度を変えながら南北を往復し8の字を描く。経度が変化するのは、高緯度では地球の自転速度が遅いため、衛星が地表を追い抜き、低緯度では衛星の軌道が斜めのため、地表が衛星を追い抜くからである。このことから、準天頂衛星は「8の字衛星」とも呼ばれる。

非対称化[編集]

8の字軌道で問題となるのは、高緯度で地表が衛星に追い抜かれてしまうため、短時間しか準天頂衛星が上空に来ないことである。そのため、軌道に多少の離心率をつけて、遠地点を高緯度上空に持ってくることで、高緯度上空での公転速度を落とし、長時間滞在できるようにする。この軌道は8の字の上下のループの大きさが違うため、非対称8の字と呼ばれる。さらに離心率が大きくなると、片方のループがなくなり、涙型と呼ばれる軌道になる。

ただし、離心率を大きくすると、衛星が遠くなり、通信能力が落ちる。また、反対側の半球の高緯度では上空に近地点があるので逆に滞在時間が縮まるので、他の地域でも利用するつもりなら離心率は大きくしすぎないほうがいい。

このことから日本の準天頂衛星システム計画では、軌道傾斜角45度、軌道離心率0.1の非対称8の字が最適とされている。

衛星コンステレーション[編集]

準天頂衛星が高緯度上空で滞空できるのは公転周期の内の一部にすぎない[1]ので、3機程度の衛星を軌道上に配置しておき、常に1機が上空に現れるようにすることが考えられる。 準天頂衛星システムの各衛星の軌道は、同じ軌道形状で、昇交点赤経のみ等角度(3機なら120度)に位相をずらしている。地表から見ると同じ軌道を通っているように見えるが、絶対空間に対しては異なる軌道を通っている。

準天頂衛星システムの衛星数は、多ければそれだけコスト高になるが、少なければ衛星の仰角が低くなる。日本の準天頂衛星システムの運用を考えれば、マスク角20度(最低仰角70度)とすると、必要な衛星は3機である。これに対し、静止衛星の仰角は北緯35度(東京)で55度、北緯20度(沖ノ鳥島)でようやく70度となる。しかも準天頂衛星システムの仰角70度は最低であり、ほとんどの時間は80度以上の仰角を確保できる。

準天頂衛星システム[編集]

日本で受信可能な特定地域上にのみ留まる3機の衛星によって米国のGPSを補完及び補強するために、計画が進められている、準天頂衛星システム (quasi-zenith satellite system; QZSS) と呼ばれるものがある。2010年に1機目が打ち上げられ、2013年には運用状態となった。

また、日本のものに限らず、軌道上の準天頂衛星と地上の管制制御ステーション群、そして受信局を含めた全体を指して「準天頂衛星システム」とも呼ばれる。

長所と短所[編集]

長所
  • 天頂付近さえ開けていれば衛星からの信号が受信できる。このことは高層建築物の多い都市部で求められる要素である
短所
  • 常に衛星による便益を受けるには3機以上の準天頂衛星が必要とされる
  • 上の条件で必要とされる複数の準天頂衛星はまったく軌道面が異なるため、複数衛星の同時打ち上げはできない。また、軌道上予備の配置もやや課題を伴う
  • 衛星が常に動いているために、指向性が強く求められるサービスでは、受信局が衛星を追尾する必要がある。無指向性のサービスであれば問題にならない
  • 軌道高度が高いために、低軌道衛星やGPS衛星に比べて大きな電力を扱う大きな衛星を、打ち上げ能力の大きなロケットを用いて打ち上げなくてはならない

実用・計画例[編集]

シリウス衛星[編集]

同期軌道の人工衛星を利用した例として、米国のシリウス・サテライト・ラジオen:Sirius Satellite Radio)が提供する衛星デジタルラジオ放送がある。長楕円軌道の人工衛星3機を利用した準天頂衛星システムである。アメリカ合衆国は国土が広いため、サービスエリアとされる国土全域で衛星の仰角が高いとは限らない。

日本の準天頂衛星システム[編集]

米国製のGPSを補完する測位システムとして計画されたのが日本の準天頂衛星システムである。

複数の人工衛星を静止軌道で赤道面に対し傾けた軌道に投入することにより、常時日本上空で高仰角となるように少なくとも1機の衛星を滞空させることができる。

測位に加えて通信・放送を複合させたサービスを提供しようと、2002年三菱電機日立製作所等が出資して新衛星ビジネスが設立され、当初は官民で衛星を開発・運用することが計画された。しかし、複数の人工衛星が必要であるというコストの大きさに比べて、通信・放送ビジネスからの収益性の低さを最後まで解決できず、2006年3月に新衛星ビジネスは通信と放送の事業化断念を宣言した。一方で安全保障の観点から、日本独自に衛星測位の技術を取得しておく重要性が一部から叫ばれ、準天頂衛星は全額を国費で打ち上げる測位衛星としての位置づけに変わった。

北斗[編集]

中華人民共和国の衛星測位システムを構成する衛星群のうち、数基の衛星が準天頂軌道と極めてよく似た長楕円軌道を巡っている。

脚注[編集]

  1. ^ 日本近辺の緯度では地平線下に隠れることはないが、仰角がいちじるしく斜めになる。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]