北斗 (衛星測位システム)

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北斗衛星導航系統(ほくとえいせいどうこうけいとう,BeiDou Navigation Satellite System)は中華人民共和国が独自に開発を行なっている衛星測位システム(GNSS)である。2012年12月27日にアジア太平洋地域での運用を開始している[1]

中国はアメリカ合衆国のGPSに依存しない、独自システムの構築にこだわってきた[1]。最初の北斗システムは公式には北斗衛星航法実験システムと呼ばれ、北斗-1として知られる3機の衛星で構成されており、2000年から中国と周辺国で航法に提供されていた。

第二世代のシステムはコンパスまたは北斗-2として知られ、完成時には35機の衛星で構成される全地球測位システムになる予定。アジア太平洋地域において2012年から、全世界では2020年に運用体制が整う予定である。北斗測位システムの主任設計者は孫家棟

システムの概要[編集]

北斗1号[編集]

全世界をカバーするアメリカGPSとは異なり、限定された地域のみに於いて機能する。2000年から2007年にかけて4基の衛星が打ち上げられた。

北斗2号[編集]

35基の衛星打ち上げを計画している。北斗1号を発展・拡張させたものではなく、それ自体新しい衛星測位システムである。2020年までの完成を目指しており、アメリカのGPSやヨーロッパのガリレオと同様に全世界をカバーする予定である。

名称の由来[編集]

北斗測位システムの名称は中国で北斗として知られるおお熊座に由来する。おおぐま座の7つ星は北極星を意味する名称で、中国の天文学者によって北斗と命名[2]された。古い時代から、この星座は北極星の位置を探し当てる目的で使用され、北斗も衛星航法システムの用途に用いられる。

開発フェーズ[編集]

北斗システムの開発の主要実施機関は中国国家航天局である。開発は3段階で進められている[3]

  • フェーズ1. - システム実証フェーズ
期間は2000年から2003年まで。測位機能、時刻配信機能等のシステムの根幹を成す機能を、地域を限定して実証することを目的とする。3機の衛星を打ち上げ、実行された。
  • フェーズ2. - 地域限定サービス構築フェーズ
期間は2004年から2011年末まで。中国ばかりでなく、東経84度~169度、北緯55度~南緯55度のアジア太平洋地域を対象とした地域限定サービスの運用開始を目的とする。1機の中高度衛星、5機の傾斜同期軌道衛星、4機の静止衛星が打ち上げられ実施された。
  • フェーズ3. - グローバルサービス構築フェーズ
期間は2012年から2020年まで。現在構築中。今まで打ち上げた衛星を含め合計35機の衛星を打ち上げ、世界中でサービスを提供できるようにする。

2013年5月現在、開発はフェーズ3段階にあり、着実に衛星打ち上げを成功させ、その数を増やしている。

現在のサービス提供性能は、水平位置精度25m、垂直位置精度30m、時刻精度50ナノ秒となっており、実利用できる性能までには至っていない。衛星の信号仕様の詳細も公表されておらず、受信コード解読用集積回路を製造できるのは中国政府に許可を与えられた国内企業のみで独占され、外国企業が専用集積回路を製造することができないなどの問題が存在する。

実験システム (北斗-1)[編集]

詳細[編集]

北斗-1は4機(3機が稼動中で1機は予備)の衛星から構成される実験的な航法システムである。衛星自体は中国のDFH-3静止通信衛星を元にしており打ち上げ重量はそれぞれ1000kg[4]である。中軌道の衛星を用いるアメリカのGPSやロシアのGLONASSやヨーロッパのガリレオシステムと異なり、北斗-1は静止衛星を使用するため、このシステムは大規模な複数の衛星を必要としないが、地球上で使用できる範囲が衛星を見通せる地域に限定[5]される事を意味する。利用できる地域は東経70°から140°、北緯5°から55°の範囲[6]である。

進展状況[編集]

最初の衛星である北斗-1Aは2000年10月31日に軌道に投入された。2機目の北斗-1Bは2000年12月21日に打ち上げられた。3機目の北斗-1C(予備機として)は2003年5月25日に軌道投入され[5]実験システムが完成した。

海洋監視船などの公用船だけでなく、民間の漁船にも利用が進んでおり、2012年時点で約20万隻が利用している[7]という。

位置の計算[編集]

位置を計算する為以下の手順[5]が用いられる。

  1. 遠隔端末から空へ向かって信号が送信される。
  2. それぞれの静止衛星が信号を受信する。
  3. それぞれの衛星が端末からの信号をそれぞれ受信した正確な時刻を地上局へ送る。
  4. 地上局では端末の緯度と経度を計算してデーターベースの地図から高度を認識する。
  5. 地上局から端末へ三次元の位置を衛星に送る。
  6. 衛星から計算された位置データを端末へ送る。

2007年、北斗システムの精度はGPS単独よりもかなり高く最高0.5m[8]であり、既存の利用者は端末の校正により20m精度(校正しない場合は100m精度)[9]に出来ると新華社が報じている。

端末[編集]

衛星は地上局と遠隔端末の両方と通信することになるため、これを利用して短いメッセージの送受信(漢字120文字/回)が可能である。

2008年時点で北斗-1の端末の1台あたりの費用は20000元 (US$2,929)でGPSのおよそ10倍の値段[10]である。端末が高価な理由として"輸入された集積回路を使用しているから"と言われるが、代替品のチップを用いる事により値段を1000元以下に出来る[11]と見られる。2009年11月16日から21日に深圳市で開催された中国ハイテクフェア ELEXCON 2009では、端末価格は3000元以下[12]だとされる。

用途[編集]

  • 1000台以上の北斗-1端末が2008年の四川大地震で被害地域で情報の供給に[13]使用された。*2009年10月より雲南省の全ての中国の国境警備隊員は北斗-1端末を装備[14]する。航法システムの主任設計者である孫家棟は、"多くの組織が私達のシステムを使用することはとても好ましい"[15]と語った。

利点と欠点[編集]

  • 衛星測位がメインではあるが、メッセージの送受信機能を備えており、緊急時の通信に利用できる。

全地球システム (北斗-2またはコンパス)[編集]

詳細[編集]

北斗-2は既存の北斗-1の拡大版ではない。5機の静止衛星を含む35機の衛星から構成される新しいシステムで、北斗-1と下位互換性があり、30機の非静止衛星(27機は中軌道で3機は傾斜対地同期軌道)[16]で全地球を完全にカバーし、2段階のサービスが供給される。無料サービスは民生用途で、ライセンスサービスは中国政府と軍用途[17][18]である。

  • 無料でのサービスは測位精度10mで同期時計の精度は10ナノ秒で測定速度は0.2 m/秒である。
  • 許可されたサービスでは無料サービスよりも精度が高く通信に使用する事も可能でシステムの状態に関する情報が利用者に提供される予定である。

進展状況[編集]

2011年12月末、限定的ながら10機の衛星による稼働が可能となり、中国とその周辺地域を対象に試験運用を開始する。2012年10月に打ち上げた16機目の北斗により運用範囲がアジア太平洋地域へ広がり、2013年初等に正式にサービス提供を開始する予定である。2020年ごろまでに合計で30機余りを打ち上げて地球規模でシステムを完成させ、世界各地での運用を目指す[19]

人工衛星の一覧(2012年10月時点)[編集]

日付 打ち上げロケット 衛星 軌道 利用 システム
2000年10月31日 長征 3A 北斗-1A 静止軌道 140°E No(墓場軌道) 北斗-1
2000年12月21日 長征 3A 北斗-1B 静止軌道 80°E Yes
2003年5月25日 長征 3A 北斗-1C 静止軌道 110.5°E Yes
2007年2月3日 長征 3A 北斗-1D 超同期軌道[20] No(軌道から脱離)
2007年4月14日 長征 3A コンパス-M1 中軌道 ~21,500 km Yes(試験のみ) 北斗-2
2009年4月15日 長征 3C コンパス-G2 No(軌道から脱離)
2010年1月17日 長征 3C コンパス-G1 静止軌道 144.5°E[21] Yes
2010年6月2日 長征 3C コンパス-G3[22] 静止軌道 84.7°E Yes
2010年8月1日 長征 3A コンパス-IGSO1 傾斜対地同期軌道[23] Yes
2010年11月1日 長征 3C コンパス-G4 静止軌道 160°E Yes
2010年12月18日 長征 3A コンパス-IGSO2 傾斜対地同期軌道 Yes
2011年4月10日 長征 3A コンパス-IGSO3 傾斜対地同期軌道 Yes
2011年7月27日 長征 3A コンパス-IGSO4 傾斜対地同期軌道 Yes
2011年12月2日 長征 3A コンパス-IGSO5 傾斜対地同期軌道 Yes
2012年2月25日 長征 3C コンパス-G5 静止軌道 Yes
2012年4月30日 長征 3B コンパス-M3 中軌道 Yes
2012年4月30日 長征 3B コンパス-M4 中軌道 Yes
2012年9月29日 長征 3B コンパス-M5 中軌道 Yes
2012年9月29日 長征 3B コンパス-M6 中軌道 Yes
2012年10月25日 長征 3C コンパス-G6 静止軌道 Yes
  • 注記:全ての日付は中国標準時を基準にする

脚注[編集]

  1. ^ a b 中国版GPS運用始まる 空母や尖閣監視船も利用か 朝日新聞 2012年12月28日
  2. ^ Atkins, William (2007年2月5日). “Chinese BeiDou navigation satellite launched from Long March 3A rocket”. iTWire.com. 2010年5月19日閲覧。
  3. ^ The construction of BeiDou navigation system steps into important stage, "Three Steps" development guideline clear and certain” (Chinese). China National Space Administration (2010年5月19日). 2010年5月19日閲覧。
  4. ^ Goebel, Greg (2008年9月1日). “International Navigation Satellite Systems”. vectorsite.net. 2008年9月1日閲覧。
  5. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「CNSA_2003」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  6. ^ BeiDou 1 Experimental Satellite Navigation System”. SinoDefence.com (2008年9月24日). 2010年5月20日閲覧。
  7. ^ 北斗卫星导航系统10月下旬完成亚太织网
  8. ^ BeiDou navigation system first goes to public, with resolution 0.5 metre” (Chinese). Phoenix Television (2007年7月18日). 2010年5月19日閲覧。
  9. ^ BeiDou Products”. BDStar Navigation. 2010年5月19日閲覧。
  10. ^ BeiDou-1 commercial controversy: 10 times the price of GPS terminal” (Chinese). NetEase (2008年6月28日). 2010年5月23日閲覧。
  11. ^ Why is China's beidou terminal so expensive?”. PRLog (2008年8月31日). 2010年5月29日閲覧。
  12. ^ 3000Yuan BeiDou Satellite Positioning System terminal solution was presented at ELEXCON” (Chinese). eetrend.com (2009年11月17日). 2010年5月29日閲覧。
  13. ^ Hongkong report: BeiDou-1 played an important role in rescuing, 7 nations providing free satellite data” (Chinese). Sohu (2008年5月20日). 2010年5月23日閲覧。
  14. ^ BeiDou-1 has equipped Yunnan troops, leading to command reform” (Chinese). Sohu (2009年10月14日). 2010年5月23日閲覧。
  15. ^ China To Set Up Independent Satellite Navigation System”. SpaceDaily.com (2010年5月24日). 2010年6月4日閲覧。
  16. ^ China Launches Another Compass GEO Navigation Satellite”. InsideGNSS.com (2010年6月2日). 2010年6月4日閲覧。
  17. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「SpaceflightNow」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  18. ^ Introduction of the BeiDou Navigation Satellite System” (Chinese). BeiDou.gov.cn (2010年1月15日). 2010年6月4日閲覧。
  19. ^ 軍事利用も視野? 人工衛星打ち上げ、アジアで中国版GPS完成”. MSN産経ニュース(共同通信) (2012年10月26日). 2012年11月17日閲覧。
  20. ^ Beidou Update”. armscontrolwonk.com (2010年1月18日). 2010年5月20日閲覧。
  21. ^ China successfully launched the third BeiDou satellite” (Chinese). Sohu (2010年1月17日). 2010年5月19日閲覧。
  22. ^ “China launches BeiDou-2 – Station and Lunar plans outlined”. NASASpaceFlight.com. (2010年6月2日). http://www.nasaspaceflight.com/2010/06/china-launches-beidou-2-station-lunar-plans-outlined/ 2010年6月3日閲覧。 
  23. ^ http://news.163.com/10/0806/06/6DCRU0AJ00014AED.html


関連項目[編集]

外部リンク[編集]