洗い越し

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Rawney Ford (geograph 4388083).jpg
フランス北部の町メジーユ英語版に見られる洗い越し。石畳の舗装道が川と交差している。

洗い越し(あらいごし)とは、森からの沢水を山側から谷側に流すために道を横切る様に作られた排水溝の機能を持たせた構造で、道の流水による侵食や崩壊を防ぐ目的がある[1]。この構造を実現する土木工法は洗越工と表記される[2]

日本語において「川などを歩いて渡る」ことは、漢語で「徒渉/渡渉(としょう)」[3][* 1]大和言葉で「かちわたり徒渡/徒渡り[4]歩渡歩行渡)」[5]といい、その適地は「徒渉地/渡渉地」「徒渉点/渡渉点[6]」などという。

日本語には「渡し」という言葉もあるが、川や海を渡過すること、または、渡過する場所をいう[7]。元々は浅瀬を歩く「徒渡(かちわたり)」を指したが[7]大化改新以降、徒渡の困難な場所にと船子(水夫)を置くよう定められた[7]江戸時代には幕府が制度を大規模に整備している[7]。ほかにも、船で人を対岸に運ぶこと、その船、その船の着く場所をも指す[8]

また、「川越/川越し(かわごし)」は、川を歩いて渡ることをいう[9][10]。上述のとおり、江戸時代には厳格に整備された制度「川越(かわごし[11]、かわごえ[12])」が成立し、独特の社会や職種が生み出された[11][12]

概要[編集]

大昔にもあったであろうことを想起できる素朴な渡渉地。もっとも、都市として繁栄できたのはこのように小規模な渡渉地ではない。

徒歩での渡渉が可能な場所は、に限らず、交易戦争の観点からも重要であり、洋の東西を問わずこうした場所のそばには関所が設けられてきた。

英語の "ford" や ドイツ語の "Furt" は、逆成語としてゲルマン祖語に "furduz (=ford、渡渉点)" (cf. )、インド・ヨーロッパ祖語に "pértus(=crossing、横断、交差、交差点)" が想定されるほど、遠い昔から長く広く用いられてきた「徒渉/渡渉」の要衝を表す語群のなかにあって、最もよく知られているという意味での代表格である。日本では「浅瀬」と漢訳されることが昔から多かったこれらの語は、正確には本項でいうところの「徒渉地/渡渉地」「徒渉点/渡渉点」のことであって、後述する「固有名詞の中の渡渉点」節で示すように多くの固有名詞の構成語にもなってきた。このような徒渉点/渡渉点を中核として成長したことを示す都市名が世界各地に存在する[13]。ただし、アメリカ州オセアニア州などの入植地に築かれた都市の場合、本来の徒渉地起源の都市名とは興りが全く違っていて、繁栄しているその都市が郷里であったり憧れの地であったりすることによる、ちなんだりあやかったりの命名である例が非常に多く、これらは直接的な徒渉地由来地名には当たらない。

和歌山県の熊野古道などで江戸時代以前に作られたとされる遺構を見ることが出来る[1]。日本でも、大河に対する渡り場は「渡り」「渡し」「川越」「河越」などと呼ばれ、今も各地にそのような地名が残る。「川越し人足」による「徒歩渡し、輩台渡し、馬渡し」を行っていた東海道大井川の渡しは有名である[14][15]

固有名詞の中の渡渉点[編集]

※[ ]内は語源学的表記法に準ずる。[A<B]は「AはBから派生、BはAの語源」の意。
※略称は、En=英語、ME=中英語、OE=古英語、De=ドイツ語、OHG=古高ドイツ語、La=ラテン語
  • 「渡渉点」
  • 「地形 + 渡渉点」
  • クリフォード [ EnME: Clifford(ファミリーネーム)< Clifford(地名。※12世紀初出)< clyfsteep bank, cliff {切り岸、険しい土手}, OE: clif)+ ford(渡渉点)] [17]
  • 「生物 + 渡渉点」
  • 「人間集団 + 渡渉点」

カール大帝は占領地の不案内な徒渉地を通ってマイン川を渡る必要があったが、神が遣わされた1頭の牝鹿の導きで安全に渡ることができた。"マイン河畔のフランクフルト(現・フランクフルト・アム・マイン)"の地名の興りにまつわる伝説である。本作はレオポルド・ボーデ英語版の手になる1888年水彩画フランクフルト歴史博物館英語版所蔵。
  • 「構造物 + 渡渉点」

現代の渡渉点[編集]

フランスはブルターニュ地方ベルデ島英語版に見られる洗い越し。
公園内の舗装された洗い越しをピックアップトラックが渡る。アメリカ合衆国イリノイ州

現代においても、昔ながらの自然地形の中に生じた渡渉点やインフラが不備であるがゆえの自然さながらに見える渡渉点というものは、世界に偏在する。あるいはまた、そのような景観が面白がられて観光地化する例や、地域住民が生活するうえで何らかの利点があることにより、あえて維持されている例もあり、必ずしも残念な事情によって整備されないことで残っている地形というわけでもない。

一方で、現代的都市文明圏においては、多くの場合、大河や都心部の川には橋がかけられるのが普通であるため、洗い越しが見られるのは橋を架けることが費用対効果に見合わない山岳部や農村地帯に限られている。また、自然公園などでは景観自然保護のためにあえて洗い越しにしておくことがある。しかし、大抵の洗い越しは、前後の道路が砂利道の場合でも、川底だけはコンクリート舗装石畳にして水流による侵食を抑制する[1]

国道352号奥只見湖岸の洗い越しの一例

現在の日本では洗い越しは少なく、それのある国道都道府県道は、いわゆる「酷道」や「険道」として名所になっているところもある[23]

降雨時およびその後は水量が増すため、通行禁止になることもあり、通行出来る場所(場合)でも細心の注意が必要である。

渡渉点の戦い[編集]

世界史上において、渡渉点が戦場になることもあった。特筆すべき戦いとして以下のものを挙げることができる。

また、フィクションとしては、イギリス陸軍大尉の手になる小説仕立ての兵法書愚者の渡しの防御』が知られている。1904年刊行。本作では、周囲で唯一車両が渡河できる「愚者の渡し」の防衛を説明している。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ それが第1義であるが、第2義としては「陸を歩いたり、水を渡ったりすること」「あちこちを遍歴すること」をいい[3]、「跋渉(ばつしよう)」と同義語である[3]

出典[編集]

  1. ^ a b c 表寿一「熊野古道の自然空間における生態学的、人文・社会学的価値に関する評価」『近畿大学工業高等専門学校研究紀要』第3巻、近畿大学工業高等専門学校、2010年、 55-70頁。
  2. ^ 災害に強い森林作業道開設の手引き (PDF) 宮城県 集約化施業取組推進プロジェクトチーム 平成23年3月
  3. ^ a b c 小学館『デジタル大辞泉』、三省堂大辞林』第3版. “徒渉/渡渉”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  4. ^ 徒渡り”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  5. ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “徒渡・歩渡・歩行渡”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  6. ^ 奥出 2011, p. 115.
  7. ^ a b c d ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』. “渡し”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  8. ^ 小学館『デジタル大辞泉』、三省堂『大辞林』第3版. “渡し”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  9. ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “川越(かわごえ)”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  10. ^ 川越し(かわごし)”. goo辞書. goo. 2019年10月15日閲覧。
  11. ^ a b 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』. “川越(かわごえ)”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  12. ^ a b 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』. “川越(かわごえ)”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  13. ^ 紅山 2004, p. 84.
  14. ^ 橋のない川はどうやって渡っていたのですか? - 東海道への誘い”. 横浜国道事務所(公式ウェブサイト). 国土交通省 関東地方整備局 横浜国道事務所. 2019年10月15日閲覧。
  15. ^ 雑学博物館 大井川の川越え料金は水の深さで決まる? 項 著者: 日本博学倶楽部。[出典無効]
  16. ^ ford (n.)”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  17. ^ Clifford”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  18. ^ Hertfordshire”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  19. ^ Oxford”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  20. ^ 平凡社世界大百科事典』第2版. “オックスフォード”. コトバンク. 2019年10月15日閲覧。
  21. ^ a b Hereford”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  22. ^ Stafford”. Online Etymology Dictionary. 2019年10月15日閲覧。
  23. ^ 松波他 2008 [要ページ番号]

参考文献[編集]

  • 奥出阜義『ハンニバルに学ぶ戦略思考─「戦略の父」が教える11の原則』ダイヤモンド社、2011年2月18日。ISBN 978-4-478-01506-3
  • 紅山雪夫『ヨーロッパものしり紀行 《城と中世都市》編』新潮社新潮文庫〉、2004年4月。ISBN 978-4-10-104324-1
  • 松波成行、渡辺郁麻、金町ゴールデン、大山顕 他「松波成行「国道157号」」『酷道をゆく─日本全国の「酷い国道」を走る!!』イカロス出版〈イカロスMOOK〉、2008年3月20日。ISBN 978-4-86320-025-8

関連項目[編集]