山にのぼる機関車

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山にのぼる機関車(汽車のえほん19)』(やまにのぼるきかんしゃ きしゃのえほん19)(原題Mountain Engines)は、低学年の児童向け絵本シリーズ「汽車のえほん」の第19巻である。なお当巻に登場する「カルディー・フェル登山鉄道」は舞台・キャラクターとも独立性が高い為、併せて解説する。

山にのぼる機関車
著者ウィルバート・オードリー
ガンバー&ピーター・エドワーズ
イギリス
言語英語
ジャンル絵本
出版社エドモンド・ワード社(1964年 - 1968年
ケイ&ワード社(1968年 - 1998年
エグモント社(1998年 - )
出版日1964年
前作がんばりやの機関車
次作100さいの機関車

概要[編集]

1964年イギリスで発行されたウィルバート・オードリー牧師執筆による汽車のえほんシリーズの第19巻。4話の短編作品を収録。挿絵はガンバー&ピーター・エドワーズが担当。ポプラ社から1980年9月に日本語訳が出版されていたが、2004年頃絶版。2010年12月にミニ新装版が発売された。

成立の過程[編集]

1945年から、ほぼ毎年に1巻ずつ続巻してきた本シリーズの第19巻。当時オードリー牧師が熱心に活動していた保存鉄道の援助の一つで、スノードン登山鉄道の援助活動の一部として執筆された。同鉄道をモデルとしたカルディー登山鉄道の機関車たちとそれにまつわるエピソードを描いた内容となっている。

テレビシリーズ『きかんしゃトーマス』では、本作のエピソードやキャラクターは現在に至るまで映像化されていない。ただし、本作に登場するカルディー・フェル山は高山鉄道の沿線としてテレビシリーズにも登場する。

収録作品[編集]

  • 登山鉄道の機関車 (Mountain Engine)
  • カルディーのつくりばなし (Bad Look-Out)
  • ロード・ハリーのだっせん (Danger Points)
  • 魔の尾根 ("Devil's Back")

登場機関車[編集]

メインキャラクターA
  • ドナルド
  • スカーロイ
  • サー・ハンデル
  • レニアス
  • ダンカン
  • カルディー

カルディー・フェル登山鉄道[編集]

機関車は全て蒸気機関車で、タンク機8両のみの陣容である。こうしたスイス製の登山鉄道用蒸気機関車は、スノードン登山鉄道に限らず以下の特徴を持ち、通常の機関車とは大分趣を異にする(スイスのブリエンツ・ロートホルン鉄道リギ鉄道が有名)。

カルディー登山鉄道のモデルとなったスノードン登山鉄道
  • ラックレールに対応するピニオン駆動輪を持っている。
  • シリンダーが通常の機関車とは逆で、運転室の下にある。
  • ボイラーの煙突側が低くなるよう傾けられている。坂道では列車が傾いても、ボイラーが水平になる(これは効率よい蒸気の使用の為)。
  • 常に機関車がふもと側、客車が山頂側に連結(厳密には客車の梺側を機関車が押さえている)され、機関車の先頭(ボイラー)も常に山頂側を向く。

といった特徴がある。

顔が機関車の両面にあるのもこれまでとの大きな相違点。塗装はスノードン登山鉄道とは異なり(スノードン登山鉄道は緑)、紫に赤い縁取り。

機関車[編集]

1.ゴッドレッド(Godred)
カルディーの話の中に登場する。名前はかつてソドー島を支配していた王様のゴッドレッドの名前に由来。生意気な性格で言う事を聞かず、自動ブレーキ装置が付いていることにうぬぼれ、よそ見運転した為に脱線し転落する事故を起こした。(線路に落ちていた石が原因で脱線した)その後修理されること無く他の機関車の部品取りにされ、自然消滅したらしい。
カルディーの「作り話」に登場したため、どこまでが本当なのか、ゴッドレッド自体が実在したのかも不明だが、第1話で「開業当時機関車は5台いた」、第3話で「6号機以後は増備」、前書きで「(修理中の5号機含め)機関車は7台ある」とあることから、何らかの理由で1号機がいなくなったのは確かである。いずれにせよシリーズ中で唯一「死んだ」キャラクターである。
  • スノードン登山鉄道の「ラダス」をモデルとした実話で、開業して間もない時期にラダスは転落死亡事故を起こし、廃車・解体されている[1]。 
2.アーネスト(Ernest)
カルディーの昔なじみ[2]。カルディーより先にオーバーホールの為にスイスまで帰ったことがある。
  • スノードン登山鉄道の「エニッド」がモデル。
3.ウィルフレッド(Wilfred)
カルディーの昔なじみ。カルディーより先にオーバーホールの為にスイスまで帰ったことがある。ロード・ハリーの事故で最終の下り列車を引いて、ロード・ハリーが線路に戻るまで待たされたことがある。
  • スノードン登山鉄道の「ウィドファ」がモデル。アーネストとウィルフレッドは現在引退し、静態保存されている。
4.カルディー(Culdee)
前半2話分の主役。1896年スイス製、開通時の試運転に使用された優秀な機関車で、その後今日まで事故を起こしていない。オーバーホールの為にスイスまで帰ったことがある。
サー・ハンデルとダンカンの喧嘩のときに、作り話をするようにスカーロイにたのまれ、ゴッドレッドの作り話をした(作り話か本当かは、定かではない)。
  • 名前の由来は鉄道が敷かれている山の名前で、モデルとなったスノードン登山鉄道でも4号機関車は「スノードン」。
5.シェーン・ドゥーイニー(Shane Dooiney)
前書きに「五号機関車は、まだしゅうりにだされたままです。」と登場するだけ。カルディー・フェルの近くの山の名前から命名された。
  • スノードン登山鉄道の「モール・シャボッド」がモデル。
6.ロード・ハリー(Lord Harry)→パトリック(Patrick)
後半2話分の主役。カルディーのオーバーホール中に増備された機関車で、これまでの5両に対し過熱機を搭載するなど一部設計変更されている[3]
最初はオーナーの名前からロード・ハリーと名付けられたが、無謀運転による事故の責任を負って支配人のリチャーズから名前の剥奪を受け、ただの6号機関車となり貨物輸送に就かされる。
その後は更生し、登山家の救援の功労によりパトリックと再命名された。
  • スノードン登山鉄道の「パダーン」がモデル。
7.アラリック(Alaric)
アーネストのオーバーホール中に増備された機関車で、設計変更されたタイプ。
  • スノードン登山鉄道の「ラルフ」がモデル。
8.エリック(Eric)
ウィルフレッドのオーバーホール中に増備された機関車で、設計変更されたタイプ。
  • スノードン登山鉄道の「エライリ」がモデル[4]

客車・貨車[編集]

客車(Culdee Fell Railway Coaches)
登山鉄道の機関車達が引いている客車。有蓋客車と無蓋客車がある。機関車達は客車を押して走るので前が見えない。代わりに客車が前方を見張っていてくれる。
一号客車(NO.1 coaches)
ゴッドレッドが引いていた客車。
三号客車(NO.3 coaches)
本書では「客車を付けたウィルフレッドは帰ろうにも帰れません。」と書かれるのみの登場。
六号客車(NO.6 coaches)
ロード・ハリーが押していた客車。台詞は、「ウーッ、気を付けて。」のみ。
キャサリン(Catherine)
常時連結する客車は屋根付きが一両のみで、パートナーの機関車も決まっている(これはトーマス達やスカーロイ達の鉄道も同じだが)。
登りの時には前述通り機関車が下につく為、前が見えないので、客車が注視する役目を持つ。他客時には屋根なし客車を一両増結する。色は窓下がオレンジ、窓上がクリーム色。キャサリンはカルディーの客車。
特別貨車(The Mountain Truck)
山の上のホテルに荷物を運ぶ茶色い貨車。前部(山頂側)に人員が乗れる広い車掌室があり、中央に四角い水タンク、後部に無蓋の荷台があるという構造をしている。
満載時の重量は客車たちより重いため風に強く、ロード・ハリーと共に嵐の中遭難者を助けに行ったこともある。
道具の貨車(The Tool Truck)
救助する際に必要な道具を積んだ貨車。主にロード・ハリーを助ける為にカルディーが押した貨車。

人間[編集]

ハリー・バレイン卿(Lord Harry Barrane)
登山鉄道のオーナー、物語には直接登場しない。
ウォルター・リチャーズ(Walter Richards)
日本語訳ではいつもの「じゅうやく」でなく支配人。実際の運営を司る。ガッチリとした体格でカーキ色のコートをきて帽子をかぶり、髭を生やす姿はスコットランド・ヤードの刑事のようである。
大変厳しい性格で、ミスをした機関車には名前を取り上げる罰を与えた。
パトリック(Patrick)
登山者。遭難したがロード・ハリー(この時彼は名前を剥奪されていた)の活躍によって救われ、彼の名前にちなんで6号機関車はパトリックと再命名されることになった。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ それ以来、スノードン登山鉄道に1号機関車は存在していないらしい。
  2. ^ ただ、作中では機関室の辺りしか映っておらず、全体が出て来るのは今の所『Trainz』のみである
  3. ^ 外見上はサドルタンクがカルディー達に比べ小さくなっている。
  4. ^ なお、5号機関車と8号機関車は明確に挿絵に出てこないが、第13ページ目の3台の機関車が山を登るシーンで中央の機関車は番号が3・5・8のいずれか(小さくて字が潰れているため詳細不明)で、3号機のウィルフレッドとは後部形状が異なるのでどちらかの姿である。

外部リンク[編集]