団扇絵

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団扇絵(うちわえ)とは、江戸時代から明治時代にかけて描かれた浮世絵版画の様式のひとつ。

概要[編集]

団扇絵の作画は早くから行われていたようで、天和4年(1684年)に菱川師宣の墨摺絵本『団扇絵尽』(大本)が鱗形屋から刊行されている。また、享保期に奥村政信鳥居清倍らの漆絵の作品で細判の「団扇売」がみられる。これには役者の紋や四季の風物を描いた団扇(うちわ)が飾られており、当時の団扇絵の状態を知ることができる。その後、延享元年(1744年)3月に三代目上村吉右衛門が堀江町の伊場屋勘左衛門に色摺りによる団扇絵「大文字屋□図」を贈ったことが始めとされ、紅摺絵の時代には鳥居清満らが役者絵の団扇絵を描いている。そして明和2年(1765年)以降の錦絵の時代に入ると、鈴木春信による中判の美人画「笠森お仙と団扇売」や、一筆斎文調の役者似顔絵の団扇絵がみられる。それによると明和期には既に美人画、役者似顔絵の錦絵摺団扇絵が現れていたことが判明する。これ以降は美人画、役者絵などの画中に描かれたり、団扇絵の現存するものも多い。また寛政期には喜多川歌麿が役者絵の団扇絵を描いている。

団扇絵は四角い紙に団扇の形に版画を摺ったもので、これを実際に竹の骨に貼って使用した。実用に供された団扇絵は消耗品として残らないが、団扇とせずにそのまま鑑賞されているものや、図柄の見本帖として綴じられていたものは現存している。現存する団扇絵によると、団扇の形は初めは丸形であったが、文化文政頃から横に広い楕円形になったことがわかる。画材としては美人画、役者絵が多いが、幕末期には風景画花鳥画も多くなってきている。ことに美人画で表裏二面を利用して全身像を描いたものや、芝居の扮装の役者と素顔の役者を表裏に描いたものなど工夫を凝らした作品もみられた。これは一つのジャンルをなすほど量が多く、作品としても優れている物が数多く見られる。歌川豊国歌川国貞歌川国芳歌川貞秀歌川広重葛飾北斎などが、かなりの分量の団扇絵を残している。なかでも特に広重は120点以上というかなりの量の団扇絵を残している。

なお、明治に入ると豊原国周歌川房種小林清親らが団扇絵を描いており、その錦絵の高度な技術と優れたデザイン力によって、また団扇形の輪郭という画様式が市民に好まれて版行された団扇絵も多く、広告用として各種商家などにおいて御得意先に配布する実用版画として3代歌川広重河鍋暁斎らがこれらを描いている。また、大阪では林基春が団扇絵を多く描いている。団扇絵は呉服屋料理屋化粧品屋などで配布したものが多数みられた。

団扇絵の改印については一枚絵とはかなり事情が異なり、別の形態の制度が設けられていた。

作品[編集]

  • 鳥居清満 「中村介五良の粂の平内」 紅摺絵
  • 喜多川歌麿 「丁子屋内丁山」 錦絵 東京国立博物館ボストン美術館(2点)所蔵 山口屋藤兵衛
  • 喜多川歌麿 「遊女道中図」 錦絵 東京国立博物館所蔵 版元印なし
  • 喜多川歌麿 「歌麿の書初」 錦絵 フィッツウィリアム美術館所蔵 版元印なし
  • 喜多川歌麿 「三代目市川八百蔵と三代目沢村宗十郎」 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 喜多川歌麿 「三代目沢村宗十郎と三代目瀬川菊之丞」 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 喜多川歌麿 「開帳宝納狂歌美人合 花嫁・深川芸者・後家」錦絵 日本浮世絵博物館所蔵 寛政5年‐寛政6年ころ 版元不明
  • 喜多川歌麿 「開帳宝納狂歌美人合 茶屋娘・不動詣・辻君」錦絵 日本浮世絵博物館所蔵 寛政5年‐寛政6年ころ 版元不明
  • 喜多川歌麿 「赤児」 錦絵 ブリュッセル王立美術博物館所蔵 版元印なし
  • 喜多川歌麿 「山姥と金太郎」 錦絵 フィラデルフィア美術館所蔵 版元未詳
  • 歌川豊国 「今様十二ヶ月」 錦絵12枚組
  • 歌川国貞 「杜若を持つ岩井半四郎」 錦絵
  • 歌川貞秀 「蛸踊り」 錦絵
  • 歌川貞秀 「闇の夜の蛍」 錦絵 天保13年(1842年) 国立国会図書館所蔵 伊場屋久兵衛
  • 歌川国芳 「猫のすずみ」 錦絵 天保後期 東京国立博物館所蔵
  • 歌川国芳 「猫の六毛撰」 錦絵 天保末期‐弘化4年ころ 東京国立博物館所蔵 西村屋与八
  • 歌川国芳 「見立明がらす」 錦絵 弘化4年‐嘉永5年
  • 歌川国芳 「十日乃雨」 錦絵 美人画
  • 歌川広重 「江戸名所浅草金龍山」 錦絵
  • 歌川広重 「表裏駅路八景」 錦絵揃物
  • 歌川広重 「江戸八景 浅草暮雪」 錦絵 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 歌川広重 「東都名水鑑 諸流会合して海に落」 錦絵 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 歌川広重 「甲斐川口湖水之図」 錦絵 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 歌川広重 「上総木更津海上ノ図」 錦絵 ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵
  • 歌川広重 「東都名所 雪の三景 両国雪晴の月」 錦絵大判 神奈川県立歴史博物館所蔵 伊場仙
  • 歌川広重 「東都名所 雪の三景 神田明神雪の朝」 錦絵大判 神奈川県立歴史博物館所蔵 伊場仙版
  • 歌川広重 「東都名所 雪の三景 隅田川の初雪」 錦絵大判 神奈川県立歴史博物館所蔵 伊場仙版
  • 歌川広重 「網に魚づくし」 錦絵大判 江戸東京博物館所蔵
  • 葛飾北斎 「勝景奇覧」 錦絵揃物
  • 葛飾北斎 「群鶏」 錦絵大判 東京国立博物館所蔵
  • 作者不詳 「津島団扇」1861年‐1863年 紙の博物館所蔵
  • 作者不詳 「裏絵」 制作年不詳 横浜美術館所蔵
  • 豊原国周 「手業の魁三の内 紙の織鶴」 明治13年(1880年) 紙の博物館所蔵
  • 豊原国周 「御好五色の内 松葉」 明治13年 紙の博物館所蔵
  • 歌川房種 「源氏俤」 明治14年(1881年)紙の博物館所蔵
  • 河鍋暁斎「人力車に乗る大津絵の道中」 校合摺 河鍋暁斎記念美術館所蔵
  • 河鍋暁斎「地獄の開化 十王の新聞売り、牛頭・馬頭の人力車」 校合摺 河鍋暁斎紀念美術館所蔵
  • 河鍋暁斎「鍾馗の学校」 校合摺 河鍋暁斎紀念美術館所蔵
  • 小林清親 「喫煙のマドロスと少女」 錦絵 太田記念美術館所蔵
  • 林基春 「騎馬兵」 プーシキン美術館所蔵
  • 林基春 「秋草に雁」 プーシキン美術館所蔵
  • 林基春 「瓢箪に蝶」 プーシキン美術館所蔵

ギャラリー[編集]

参考文献[編集]

  • 樋口弘編著 『幕末明治の浮世絵集成』 味燈書屋、1955年
  • 日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第3巻 大修館書店、1982年 ※18頁
  • 大田南畝 『大田南畝全集』第2巻 大田南畝 岩波書店、1986年
  • 吉田漱 『浮世絵の見方事典』 北辰堂、1987年
  • 稲垣進一編 『図説浮世絵入門』〈『ふくろうの本』〉 河出書房新社、1990年
  • 『開館25周年記念 魅惑のニッポン木版画』 横浜美術館、2014年

外部リンク[編集]