包丁
包丁(ほうちょう)とは、食材を切断または加工するための刃物で、調理器具の一種である。元の用字は庖丁。ナイフは押し切りであるが包丁は引き切りである点が異なる。
語源
『荘子』の「養生主篇」に庖丁(ホウテイ)と呼ばれる料理人が登場する。「庖」は調理場、「丁」は召使と言ったほどの意味で、「調理場で働く男」のことである。この逸話の中で庖丁は見事な刀捌きで魏の恵王に褒められ、後にその刀を庖丁と言ったのが始まり。これが日本語読みで「ほうちょう」となった。「庖」が当用漢字外とされたため、同音の「包」で代用することとなり、現在に至る。
包丁の種類
和包丁・洋包丁・特殊用途の包丁のほか、特殊な機能を備えた包丁に大別できる。
日本料理では包丁をまな板の上で用いることが多く、食材を切断した後に包丁の刃先がまな板で止まり刃先が傷まず、刃こぼれが起きることが少ない。対して、洋包丁を用いる料理では一般的にまな板を用いずに作業することが多く、食材を調理台の上に置いて片手で持つ洋包丁で切ったり削いだりして調理するのに適した形状が多い。
和包丁(わぼうちょう)
- 出刃包丁(でばぼうちょう)
- 主に魚をおろすときに使い、使用中に力を入れても刃先が撓ったり曲がらずに使えるように刃が厚く重い包丁で、形状は三角形。江戸時代に大阪府堺市の出っ歯の鍛冶師が開発したことから、出刃包丁という名前がついた。大きさにより、大出刃、中出刃、小出刃と呼び分けることがある。小出刃は鯵割包丁(あじさきぼうちょう)ともいう。なお、基本的には出刃包丁の一種であるが、身幅を狭くしたり、刃を薄くしたり、切刃を広くしたりして骨のそれほど固くない魚ならおろすことから簡単な刺身を造るまで一本でほぼまかなえるようにした万能包丁とも言うべきものもあり、相出刃、身おろし出刃、身おろし、船行など様々な種類がある(相出刃をこれらの総称とする場合もある。また中出刃を相出刃と呼ぶ人もいる)。ただし、これらの出刃包丁の亜種とも言うべき包丁の呼び方は統一的ではない。例えば木屋では刃渡り12cm程度の両刃で形状としては身おろしに近い包丁をアジ切りという名称で販売している。また、藤寅工業では、アジ切りは小出刃と同じ形状で刃を薄くしたものを指す。
- 薄刃包丁(うすばぼうちょう)
- 主に野菜全般を切るための包丁。菜切り包丁(なきりぼうちょう、なっきりぼうちょう)とも呼ばれる。本職用の片刃の物を薄刃包丁、家庭用の両刃の物を菜切包丁と呼び分けることもある。また、家庭用の小型の薄刃包丁(片刃)を特に皮むき包丁と呼ぶこともある。関東型(東型)は刃の形状が横から見るとほぼ長方形になっているが関西型は先端みね側が丸くなっており、鎌型とも呼ぶ。
- 刺身包丁(さしみぼうちょう)
- 刺身を引くための包丁で和包丁の中で最も細長い。関西型は先が尖り、その形状から柳刃(やなぎば)または正夫(しょうぶ)と呼ぶ。関東型は刃が直線的で先端を平らに切落としたような形状になっており、柳刃よりもやや薄い。関東型を蛸引(たこひき)と呼ぶが、蛸専用の包丁ではない。丸まった蛸の足を切るのに適したものなので蛸引と呼ぶとする説がある。先端が尖っていないのは喧嘩っ早い江戸っ子が喧嘩に使いにくいようにしたためだという説もある。柳刃は先端が尖っているために細工切りがしやすいなどの理由で、近時は関東も含め全国的に主流となっている。他にも柳刃を更に薄くしたフグ専用のふぐ引きがある。てっぽう(=関西方面での食材としてのフグの通称)の刺身用という意味でてっさ包丁とも呼ぶ。切断した際に包丁と素材が密着せず身離れするように和包丁固有の裏くぼ、若しくは决り(しゃくり)と呼ばれる凹みがある。刺身を切る際に刃を往復すると素材の切断面が傷み、光沢がなくなることから一方向にのみ引き切ることができるように刃渡りが長い。
- マグロ包丁
- マグロ切り、若しくはマグロ切り包丁ともいい、刃渡りが40 - 60cm程度あり大型魚のマグロを捌く際に用いる。ほとんど日本刀のようだが、若干しなるように作られている。
- ウナギ割(うなぎさき)
- 鰻を捌く際に用いる。地方により形状が異なる。
洋包丁(ようぼうちょう)
- 牛刀(ぎゅうとう)
- 主に肉類などに用いるが、野菜やパンなど様々な用途に用い、一般に刃渡りが長く大きい。
- 筋引(すじびき)
- 肉と筋を切り離すときに用い、牛刀を細身にしたような形状をしている。
- 洋出刃(ようでば)
- 骨付きの肉を骨ごと切るために、刃こぼれ等しないよう牛刀をより厚手にしたような形状をしている。
- 骨スキ(ほねスキ)
- 骨から肉を切り剥がすために用いる。東型と西型がある。サバキとも呼ばれる。
- ペティナイフ
- 果物の皮むきや野菜を切るときに用いる、ペティ (petty) の名の通り小型のナイフで、種類により刃が内側に湾曲しているものを特にピーリングナイフと言う。日本だけで使われる表現で、英語圏ではペティナイフと言わず paring knife と呼ばれる。
- パン切り包丁
- イーストの発酵で発生した多孔質の柔らかいパンを切りやすいように、刃渡り当たりの刃の総長さが長くなるように刃先がギザギザになっているものや波形になっており、刃幅が薄い。
- 冷凍切り包丁
- 冷凍した食材をスライスする際に用いる。刃先がギザギザの波刃になっており塊状の肉のスジなどものこぎり状の刃で切断できる。刃の部分の厚みは2mm程度。
その他の包丁
- 万能包丁(ばんのうぼうちょう)
- 日本の家庭で一般的に使われている。菜切と牛刀の利点を備えた包丁。文化包丁(ぶんかぼうちょう)、三徳包丁(さんとくぼうちょう)ともよばれる。
- 麺切包丁(めんきりぼうちょう)
- 麺を切るための包丁。うどん切、そば切とも。
- 中華包丁(ちゅうかぼうちょう)
- 中華料理に用いられる、刃が四角く身幅の大きい包丁。方頭刀。
- 穴あき包丁
- 切ったものが包丁にくっつかないよう、刃の側面に5mm程度の複数個の穴が空いている。刃の形状自体は万能包丁と同じであることが多い。
- ディンプル包丁
- 表面に高さの低い凸面が複数あり、穴あき包丁と同様の効果がある。
構造
洋包丁と和包丁で構造が異なる。洋包丁と和包丁の厳密な区別基準というものは存在しない。概ね刃については、洋包丁は両刃(諸刃)で全鋼(刃全体が鋼でできている)であり、和包丁は、全鋼の本焼き、軟鉄の地金に鋼を貼り合せた合わせ(霞と呼ぶこともある)がある。本焼きは片刃であり、合わせは片刃と両刃がある。また、柄については、洋包丁は中子を挟み込んで鋲打ちで留めているものが多く、和包丁は中子を柄に差し込んだ上で桂を使って締めこんだ構造をしていることが多い。
- 切っ先 - 刃先、刃の先端。力を掛けず細かな細工で使う。
- そり - 刃線の中のでも変曲点、または曲率が変化している曲線部で切っ先から刃線までに位置する部分。
- 刃線 - 切断に使う部分。
- 刃元 - 力を入れた切断に使う部分。
- 刃道 - 切っ先から刃元に至る切れる部分全体の名称。
- 小刃(こば)、小刃止め - 刃道に僅かに付けた段差。切れ味を低下させずに永切れする(切れ味が低下しにくいこと)ようにするために付ける。小刃を付けることを小刃合わせ、糸刃合わせと言う。
- あご - 柄から刃が出て突き出している部分。
- マチ - 柄元となかごの境となる段。ない物も多い。みね側を上マチ(むねマチ)、刃側を下マチ(刃マチ)と言う。
- 刃渡り - 切っ先からあごまでの長さ。マチ付きの包丁では先端からマチまでの長さ。
- みね - 刃の後ろ側の部分。背、むねとも。
- おおむね - みねの下側。
- 平 - 横側の部分。
- 切刃 - 片刃の包丁の表にある斜めの平面部分。
- しのぎ筋 - 平と切刃の境目の角になる筋。単に鎬(しのぎ)とも言う。
- 刃境 - 合わせ包丁に見られる地金と鋼の境目。
- 裏すき - 刃の裏側のえぐれ。これがあることで裏が平面にならないので食材が貼り付きにくく、抵抗が減って切りやすくなる。
- 裏押し - 刃の裏側の縁の部分を研いで付けた平面。刃裏とも言う。裏押しを付ける作業を指すこともある。裏押しが実質的な完全平面であるために、裏すきによって裏が完全な平面でなくても片刃の鋭利な刃が付く。
- 柄 - 実際に手に持つ部分、即ち、取っ手。
- なかご - 柄の中に納まっている刃の根元部分。中子。
- 桂 - 和包丁で、中子を差し込む側の端を締めこむために柄に取り付けた輪っか。口輪とも言う。金属製のものを口金、水牛の角を用いたものを角巻と呼ぶ。最近の比較的低価格な包丁では、樹脂、ゴム製のものもあり、PC桂、プラスチック桂などと呼ぶ。洋包丁のつばも同じであるが、刃と一体成型になっていることが多い。
刃の素材
切り方
代表的な食材の切り方として次に示すものがある。
- いちょう切り
- 千切り
- みじん切り
- 輪切り
- 小口切り
- 乱切り
- 日本料理の切り方
- 中華料理の切り方
- フランス料理の切り方
日本国内の主な生産地
右記は経済産業大臣指定伝統的工芸品の名称
- 新潟県三条市
- 新潟県燕市
- 新潟県長岡市与板町
- 長野県上水内郡信濃町 - 信州打刃物
- 岐阜県関市
- 福井県越前市 - 越前打刃物
- 大阪府堺市 - 堺打刃物
- 兵庫県三木市 - 播州三木打刃物(但し包丁は指定品目に含まれない)
- 高知県土佐市、南国市、香美市 - 土佐打刃物
関連項目
参考文献
- 柴田書店編『包丁と砥石』柴田書店、1999年。ISBN 4-388-05843-2。
- 阿部孤柳著『包丁軌範』ジャパンアート社、1984年。