ファイアリー・クロス礁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ファイアリー・クロス礁(2000年) 南西部の岩礁を中国が埋め立てて人工島を造成している。
南沙諸島における南シナ海周辺諸国の実効支配状況

ファイアリー・クロス礁(ファイアリー・クロスしょう、英語:Fiery Cross Reef、ベトナム語: Đá Chữ Thập / 𥒥𡨸十中国語: 永暑礁)は、南沙諸島にある環礁中華人民共和国により南西部の岩礁周辺が埋め立てられ、南沙諸島最大の人工島(中国名:永暑島、中国語: 永暑岛)が造成されている。

概要[編集]

礁全体は、北東から南西方向に長さ約22キロメートル、幅約7キロメートルの細長い楕円形の環礁である。

このうち、南西部の岩礁が主たる礁である。中国がこの岩礁とその周辺部を埋め立てて陸地造成を進めている。CSIS(戦略国際問題研究所)の分析では陸上面積が2.74 km2、3300メートルの滑走路を持つ人工島となっている[1]

1947年中華民国が「永暑礁」の名称を公布した。現在、中国、中華民国(台湾)およびベトナム主権領有)を主張している。国連海洋法条約では、干潮時にのみ海面上に現れる岩礁(暗礁)である干出岩は、国連海洋法条約上の領土とはならない。また排他的経済水域(EEZ)も設定できないが、自国のEEZ内であれば、その国が建造物を建設することができる。

ベトナムが占領していたが、1987年5月25日に中国の国家海洋局南沙考察隊が領有を主張するための主権碑を建設[2]1988年スプラトリー諸島海戦(赤瓜礁海戦)において中国人民解放軍がベトナム軍に勝利し、奪取する[3]。その後は、中国が実効支配し、中国人民解放軍海軍南海艦隊の重要な戦略拠点となっている[4]2013年1月には、中国国有会社のチャイナ・モバイルが、移動通信基地を設置し、開通させたことが報じられている[5]。軍事関係者200人が常駐して要塞化している。

2016年7月12日の常設仲裁裁判所による裁定で、国連海洋法条約における「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」であり、排他的経済水域および大陸棚を有さない岩であると認定され、同時に干潮時のみ海面上に現れる岩礁(暗礁)ではなく満潮時でも海面上に現れる岩だとも認定された[6][7]

人工島の造成[編集]

中国による埋め立てが進むファイアリー・クロス礁の南西端(2015年5月)

2014年8月から埋め立てが開始され、人工島の造成は11月に終了し、2015年1月からは3300メートルの滑走路の建設が開始され、港湾施設の整備も続けられている[1]

2015年3月16日に国際軍事専門誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウイークリーが、ファイアリー・クロス礁で3月23日に撮影された衛星写真を公表し、中国によって海軍艦船やタンカーが接岸できる大規模な軍港施設や3300メートルの滑走路などの建設が進められているのが確認された[8]

2015年5月20日にアメリカ海軍P-8Aポセイドン対潜哨戒機による偵察飛行にアメリカCNN記者が同乗し、ファイアリー・クロス礁周辺上空に接近した際に、中国海軍から「わが国の軍事警戒区域に接近している。直ち立ち去るように」と繰り返し警告を受けた[9]

2015年7月2日にアメリカのシンクタンクのCSISが、中国が浅瀬を埋め立てて施設の建設を続けているファイアリー・クロス礁の様子を6月28日に撮影した衛星写真を公開し、3300メートルの滑走路がほぼ完成しているほか、誘導路や駐機場とみられるスペースも整備が進んでいると分析、さらに2つのヘリポートと10基の衛星アンテナ、レーダー塔とみられる施設などが確認できると分析している[10]

2016年1月2日、中国外交部が、建設していた飛行場の完成と滑走路を使用して試験飛行をしたことを明らかにした。これに先立ちベトナムは、この試験飛行に抗議する声明を発表している[11]。1月6日には、中国南方航空ボーイング737-800海南航空エアバスA319-100が試験飛行で海口国際空港より運航、着陸して、中国最南端の飛行場として運用可能なことを国際的にアピールした[12]。4月17日、中国の新華社通信が、ファイアリー・クロス礁に中国海軍の哨戒機1機が着陸したと報道。中国が軍による南沙諸島での飛行場利用を明らかにしたのは初めてである[13]。5月2日には、中国海軍が駐留兵士らを慰労するため、南海艦隊に就役している揚陸艦「崑崙山」を派遣し、演劇団を上陸させた。同行記者によると、飛行場や港、灯台、住居施設が既に完成しており、病院や海洋観測センターが建設されている[14]

脚注[編集]

  1. ^ a b Asia Maritime Transparency Initiative ISLAND TRACKER AMTI and CSIS
  2. ^ 平松茂雄『甦る中国海軍』勁草書房、1991年、186ページ。
  3. ^ 南シナ海と尖閣諸島をめぐる馬英九政権の動き 竹内孝之(日本貿易振興機構アジア経済研究所)2012年10月
  4. ^ 南シナ海問題における日本の役割と課題 福田保(日本国際問題研究所研究員)2011年8月8日
  5. ^ 南沙諸島:永暑礁に中国の3G移動通信開通 中国ニュース速報(朝鮮日報)2013年1月4日
  6. ^ “南シナ海、中国の「九段線」に法的根拠なし 初の国際司法判断”. 日本経済新聞電子版 (日本経済新聞社). (2016年7月12日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM12H5B_S6A710C1000000/?dg=1&nf=1 2016年8月10日閲覧。 
  7. ^ PH-CN-20160712-Award: PCA Case No.2013-19 In the matter of The South China Sea Arbitration (The Republic of The Philippines - The People's Republic of China) (PDF)” (English). PCA. pp. 174,259,260. 2016年8月10日閲覧。
  8. ^ ““中国の野望”くっきり 南沙諸島での滑走路建設の衛星写真公表 軍事専門誌が初めて”. 産経ニュース (産経新聞社). (2015年4月17日). http://www.sankei.com/world/news/150417/wor1504170020-n1.html 2015年7月28日閲覧。 
  9. ^ 中国の人工島建設に堪忍袋の緒が切れつつある米軍”. Japan Business Press (2015年5月28日). 2015年7月28日閲覧。
  10. ^ “南シナ海の中国滑走路「ほぼ完成」、米シンクタンク”. AFPBB News (AFP). (2015年7月2日). http://www.afpbb.com/articles/-/3053467 2016年5月4日閲覧。 
  11. ^ “中国、南沙の滑走路試験飛行 実効支配進める動き”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2016年1月3日). http://www.asahi.com/articles/ASJ134V3CJ13UHBI004.html 2016年5月4日閲覧。 
  12. ^ 中国 南沙諸島・永暑礁の新空港での試験飛行に成功”. CRI Online. 中国国際放送 (2016年1月7日). 2016年7月22日閲覧。
  13. ^ “中国軍哨戒機、南沙諸島に着陸 実効支配をアピールか”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2016年4月18日). http://www.asahi.com/articles/ASJ4L61BYJ4LUHBI020.html 2016年5月4日閲覧。 
  14. ^ “中国が揚陸艦派遣 ファイアリークロス礁 演劇団上陸、駐留兵士らを慰労”. 産経ニュース. 共同通信社. (2016年5月3日). http://www.sankei.com/world/news/160503/wor1605030039-n1.html 2016年5月4日閲覧。 

外部リンク[編集]

座標: 北緯9度32分57秒 東経112度53分21秒 / 北緯9.54917度 東経112.88917度 / 9.54917; 112.88917