パラアンキロサウルス類

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パラアンキロサウルス類
Parankylosauria
生息年代: 中生代白亜紀、105–70 Ma
パラアンキロサウルス類の一属である、ステゴウロスの骨格図とホロタイプ標本
パラアンキロサウルス類の一属である、ステゴウロスの骨格図とホロタイプ標本
地質時代
白亜紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 鳥盤目 Ornithischia
階級なし : Saphornithischia
階級なし : ゲナサウルス類 Genasauria
亜目 : 装盾亜目 Thyreophora
下目 : 曲竜下目 Ankylosauria
階級なし : パラアンキロサウルス類 Parankylosauria
学名
Parankylosauria
Soto-Acuña et al., 2021
和名
パラアンキロサウルス類(パラアンキロサウルスるい)[1]

パラアンキロサウルス類[1]学名Parankylosauria)は、南アメリカ大陸南極大陸オーストラリア大陸白亜系から知られている基盤的曲竜類恐竜分類群。この分類群は中期ジュラ紀に他の曲竜類から分岐したと考えられているが、判別可能な証拠は発見されていないため、分岐した期間は不明である[2]

研究史[編集]

パラアンキロサウルス類の一属、アンタークトペルタ化石

当時の中生代南半球大陸南アメリカ大陸南極大陸オーストラリア大陸アフリカ大陸インド亜大陸ジーランディア)は、ゴンドワナ大陸と呼ばれる超大陸に統一さていた。これは、同じくパンゲア大陸に端を発する北半球ローラシア大陸とは対照的であった。ゴンドワナ自体は、ジュラ紀白亜紀の間に徐々に分裂していった[3]。ローラシア大陸の曲竜類は、歴史的にもはるかに広範囲に記録があり、研究されてきた。ゴンドワナにおける曲竜類の報告は1904年まで遡り、オーストラリアからの標本は、様々な断片的な化石から知られるロリコサウルス英語版ラメタサウルス英語版ブラキポドサウルス英語版をグループ化することが記載されていた[4]。この化石の多くは、誤同定されたものであって曲竜類のものではないことが後に判明することになり、その中には命名されたも含まれていた[4][5][6]。ゴンドワナ大陸で確認された最初の決定的な曲竜類は1964年にオーストラリアで発見され、後に1980年ミンミ・パラベルテブラMinmi paravertebra)と命名された[4]。南アメリカとオーストラリアの曲竜類が生物地理学的につながっている可能性は、発見と同時に、推測に基づくものではあるが提起された[7]

ゴンドワナ大陸産の曲竜類は依然として謎に包まれている。また、化石物質は依然として乏しく、南部の分類群については系統発生学的文脈で解釈することは困難である。例えば、南極大陸で発見されたアンタークトペルタ脊椎骨は、真曲竜類のものと比べあまりにも異質であり、キメラ標本に基づくため海棲爬虫類英語版に属するのではないかと疑問視されていた。2021年に発表されたステゴウロスの記載によって、それまでの混乱の解消に役立った。ステゴウロスのタイプ標本には十分な骨格が保存されており、これらの南半球産曲竜類はこれまで認識されていなかった単一系統のグループ分けがあることが明らかになった。そのため、Sergio Soto-Acuñaらによるステゴウロスの研究では、前述の2属とクンバラサウルスをもとに「Parankylosauria」という造語が用いられた。上位分類群であるAnkylosauria(曲竜類)にちなんだこの名は、「曲竜類の側にいる」という意味である[2]

パラアンキロサウルス類はゴンドワナ大陸産の曲竜類だけではなかった。2022年アルゼンチンからノドサウルス科パタゴペルタ英語版が記載され、ノドサウルス亜科英語版北アメリカ産ノドサウルス科と密接であることが判明した。このことは、より古代のパラアンキロサウルス類に加え、より派生した真曲竜類も南アメリカに生息していたことを示唆している[8]。一方で、2024年の研究ではパタゴペルタもパラアンキロサウルス類に含まれたという可能性が指摘されている[9]

解剖学[編集]

マクアウィトル(スパイク)のないクンバラサウルスの生態復元模型
ヒトと比較した3属のパラアンキロサウルス類とのサイズの比較図

パラアンキロサウルス類の既知の属はすべて約1.5メートルから約4.0メートルの小型恐竜であり、それに比例して大きな頭蓋骨を持っていた。このグループの最も特徴的な特徴はマクアウィトル(スパイク)で、マクアフティルという武器にちなみ名付けられた。これらの特徴は、剣竜類ザコマイザーアンキロサウルス亜科から知られるスパイクに似ているが、それぞれ独自の進化を遂げたものである。これは尾の先端にある構造であり、5対の頑丈な皮骨板(皮膚の中にある骨)が融合して形成され、尾の側面を取り囲み、先端付近では全体を取り囲んでいた。この武器はステゴウロスでは知られており、アンタークトペルタでは間接的な証拠に基づいて記載されているため疑わしく、完全な尾が知られていないクンバラサウルスでは確認されていない。前者の分類群では、この武器は尾の劇的な短縮に関連しており、他のどの種類の曲竜類よりもはるかに少ない椎骨で構成されていた。このグループの他の多くの属と同様に、骨硬膜はパラアンキロサウルス類の体の大部分を覆い、棘のある装甲として機能していたと考えられている[2]

クンバラサウルスの頭蓋骨の図

パラアンキロサウルス類は、よりよく研究されている真曲竜類に比べ、より原始的な獣脚類や剣竜類に見られた特徴をより多く保持していた。これらは胴体に最も当てはるが、かなり長くて細い手足を持っていることが最も顕著に見られた。頭蓋骨は比較的、他の曲竜類のものと類似しており、これは曲竜類の進化の初期に高度な頭骨形質の獲得したことを示していると考えられている。また、真曲竜類とは異なり、クンバラサウルスの保存されている骨皮や、他の属に見られる側腹の骨皮の欠如から、パラアンキロサウルス類はその近縁種と比べて、むしろ軽い鎧で覆われていなかった可能性があると考えられている。剣竜類の表面的な骨板よりも補強されているが、真曲竜類に見られるような過剰な構造ではなかった[2]

分類[編集]

スパイクを形成する、ステゴウロス尾椎とその周囲の皮骨板
ステゴウロスの想像図

このタクソン系統学的に「アンキロサウルスよりもステゴウロスに近いすべての分類群」と定義され、逆の定義を持つ真曲竜類と対をなす。以下のクラドグラムは、Sergio Soto-Acuñaらによる2021年の研究の系統解析に基づき、再現されたものである[2]

レソトサウルス

スクテロサウルス

エマウサウルス

スケリドサウルス

ユーリ脚類
剣竜類

ファヤンゴサウルス

ステゴサウルス科

曲竜類
パラアンキロサウルス類

クンバラサウルス

アンタークトペルタ

ステゴウロス

真曲竜類

ノドサウルス科

リャオニンゴサウルス

ゴビサウルス

シャモサウルス

アンキロサウルス亜科

2022年、Timothy Gは、クンバラサウルスとされている新しい標本(SAMA P40536)について、Frauenfelderらは2021年の研究のデータセットでその新しい標本をテストし、パラアンキロサウルス類と同様の配置と構成を発見したが、ヴィクトリア・アーバー英語版フィリップ・J・カリーにより、この標本は2016年に発表した論文の古い系統データセットにコード化されていた。

レソトサウルス

スケリドサウルス

ファヤンゴサウルス

クンバラサウルス

SAMA P40536

ミモオラペルタ

ノドサウルス科

アンキロサウルス科

脚注[編集]

  1. ^ a b 真鍋真『きみも恐竜博士だ!真鍋真先生の恐竜教室』真鍋真監修、岩波書店、2022年。ISBN 978-4-00-116042-0 [要ページ番号]
  2. ^ a b c d e Soto-Acuña, Sergio; Vargas, Alexander O.; Kaluza, Jonatan; Leppe, Marcelo A.; Botelho, Joao F.; Palma-Liberona, José; Simon-Gutstein, Carolina; Fernández, Roy A. et al. (2021). “Bizarre tail weaponry in a transitional ankylosaur from subantarctic Chile”. Nature 600 (7888): 259–263. doi:10.1038/s41586-021-04147-1. PMID 34853468. https://www.researchsquare.com/article/rs-821192/latest.pdf. 
  3. ^ "Gondwana". Encyclopaedia Britannica. 2021年12月13日閲覧
  4. ^ a b c Molnar, R.E. (1980). “An ankylosaur (Ornithischia: Reptilia) from the Lower Cretaceous of southern Queensland”. Memoirs of the Queensland Museum 20: 65–75. 
  5. ^ Lamanna, Matthew C.; Smith, Joshua B.; Attia, Yousry S.; Doson, Peter (2010). “From dinosaurs to dyrosaurids (Crocodyliformes): removal of the post-Cenomanian (Late Cretaceous) record of Ornithischia from Africa”. Journal of Vertebrate Paleontology 24 (3): 764–768. doi:10.1671/0272-4634(2004)024[0764:FDTDCR]2.0.CO;2. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1671/0272-4634%282004%29024%5B0764%3AFDTDCR%5D2.0.CO%3B2. 
  6. ^ Salgado, Leonardo (2013). “Considerations on the bony plates assigned to titanosaurs (Dinosauria, Sauropoda).”. Ameghiniana 40 (3): 441–456. https://ameghiniana.org.ar/index.php/ameghiniana/article/view/972. 
  7. ^ Arbour, Victoria M.; Currie, Philip J. (2015). “Systematics, phylogeny and palaeobiogeography of the ankylosaurid dinosaurs”. Journal of Systematic Palaeontology 14 (5): 1. doi:10.1080/14772019.2015.1059985. 
  8. ^ Riguetti, Facundo; Pereda-Suberbiola, Xabier; Ponce, Denis; Salgado, Leonardo; Apesteguía, Sebastián; Rozadilla, Sebastián; Arbour, Victoria (2022-12-31). “A new small-bodied ankylosaurian dinosaur from the Upper Cretaceous of North Patagonia (Río Negro Province, Argentina)”. Journal of Systematic Palaeontology 20 (1): 2137441. doi:10.1080/14772019.2022.2137441. ISSN 1477-2019. https://doi.org/10.1080/14772019.2022.2137441. 
  9. ^ Soto Acuña, Sergio; Vargas, Alexander O.; Kaluza, Jonatan (2024). “A new look at the first dinosaur discovered in Antarctica: reappraisal of Antarctopelta oliveroi (Ankylosauria: Parankylosauria)”. Advances in Polar Science 35 (1): 78–107. doi:10.12429/j.advps.2023.0036. 

関連項目[編集]