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ハヤブサ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハヤブサ科
生息年代: 始新世 - 現世, 50.3 - 0 Ma[1]
チゴハヤブサ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ハヤブサ目 Falconiformes
: ハヤブサ科 Falconidae
学名
Falconidae
Leach, 1819
タイプ属
Falco
Linnaeus1758

ハヤブサ科(ハヤブサか、Falconidae)は、ハヤブサ目の科の1つである。ハヤブサ類・カラカラ類が含まれる。現生種では本科のみでハヤブサ目を構成し[2][3]、約65種の昼行性猛禽類が分類される。おそらく暁新世南米を起源として生まれたと考えられる[4]。現生種は2-3の亜科に分けられ、ワライハヤブサなどが分類されるワライハヤブサ亜科英語版ハヤブサチョウゲンボウを含むハヤブサ亜科英語版を認める体系が一般的だが、ハヤブサ亜科のカラカラ族を独立したカラカラ亜科とする見解もある。

分布と生息地

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南極大陸を除く全世界に広く分布し[5]、中央アフリカの密林や、一部の島嶼部、高緯度北極圏を除けばどこでも見られる。一部の種は分布域が非常に広く、特にハヤブサグリーンランドからフィジーまで分布し、これは鳥類の中で最も広い自然分布域である。他の種は分布がより限定されており、モーリシャスチョウゲンボウなど島嶼部の固有種も存在する。ツンドラから熱帯雨林サバンナ海岸砂漠まで多様な環境に生息し、一般的には開けた土地を好む[5][6]。森林に生息する種であっても、途切れた森林や森林の端を好む傾向がある。ハヤブサやチョウゲンボウは都市部にも生息する[7]。主にハヤブサ属は完全な渡り鳥で、一部の種はユーラシア大陸で夏を過ごし、冬にはアフリカ渡りをするが、他の種は部分的に渡りを行う可能性がある。アカアシチョウゲンボウ東アジアから南アフリカまで、非常に長い距離を移動する[8]

形態

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小型から中型の猛禽類であり、最小種は体重35gのモモグロヒメハヤブサ英語版、最大種は体重1,735g、翼開長130cmに達するシロハヤブサである[6]。鉤爪状のと、鋭く曲がった爪を持ち、視力は優れている。羽毛は通常茶色、白、栗色、黒、灰色で、縞模様を持つ種が多い。雌の方が大型化するが、羽毛に性的二形がある種は少ない[7]

生態と行動

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飛行能力が高く、ハヤブサは急降下する際の速度から、世界最速の鳥類と呼ばれる。ほとんどの種は単独で縄張りを持って行動するが、カラカラのように社会的な群れを形成する種も知られる[7]

食性

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ワライハヤブサはヘビを専食する

肉食動物であり、鳥、コウモリなどの哺乳類[9]爬虫類昆虫腐肉を食べる[5]。ハヤブサ属などは素早い捕食者だが、カラカラなどは定住して餌を食べる。新熱帯区モリハヤブサ属英語版は森で様々な獲物を狩る。ハヤブサなどは食料を隠し場所に蓄える[10]。単独で狩猟し、つがいで縄張りを守るが、渡りの時期には大きな群れを形成することもある。ヘビを専食するワライハヤブサや、主にの幼虫を食べるアカノドカラカラ英語版のように、一部の種は食性が特化しているが、他の種はより広範囲の獲物を捕食する。他の鳥から獲物を奪う労働寄生も行う[7]

繁殖と成長

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一般的に単独で繁殖するが、ニシアカアシチョウゲンボウなど約10%の種は群れを作る[11]一夫一婦制であるが、一部のカラカラは、若鳥が親の子育てを手伝うヘルパーとなることもある。カラカラを除いて巣をつくらず、断崖などに直接卵を産んだり、他の鳥類の古巣などを利用する[5]。例えば、コビトハヤブサハタオリドリ科の巣や、崖の岩棚に巣を作る。産卵数は約2-4個で、ほとんどは雌が抱卵する。抱卵期間は種によって異なり、体の大きさと相関し、小型種では28日間、大型種では最大35日間続く。雛は28-49日で巣立つが、これも大きさによって異なる[7]

分類

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ハヤブサ科はイギリス生物学者であるウィリアム・エルフォード・リーチ英語版によって、1819年に設立された[12][13]。ハヤブサ類、カラカラ類、モリハヤブサ類から構成される。亜科の分類については、専門家によって意見が分かれている。伝統的に、ハヤブサ科のうちカラカラ類4属(現在の分類では5属)は形態上の共通点から単系統のカラカラ亜科 Polyborinae に分類されてきた。ハヤブサ属 Falcoコビトハヤブサ属 Polihieraxマメハヤブサ属 Microhierax はハヤブサ亜科 Falconinae に分類された。しかし、残りのモリハヤブサ属 Micrasturワライハヤブサ Herpetotheresシラボシハヤブサ Spiziapteryx の分類には諸説あり、これらをカラカラ亜科に含める見解もあった[7]

現在の系統からは、ハヤブサ科はワライハヤブサ亜科(ワライハヤブサとモリハヤブサ属)とハヤブサ亜科に分かれ、ハヤブサ亜科はカラカラ族 Caracarini(カラカラ類)とハヤブサ族 Falconini に分かれる[14][15][16][17][18]。シラボシハヤブサはハヤブサ族に含める見解もあるが、遺伝的にはカラカラ族に含まれることが明らかになっている。カラカラ亜科からワライハヤブサ亜科を分離し、3亜科を認める見解もある[19]。モリハヤブサ属・ワライハヤブサは、古くはタカ科のほうに近縁だとする説もあった[15]。その後、ハヤブサ亜科かカラカラ亜科に含めたり、単型のモリハヤブサ亜科 Micrasturinaeやワライハヤブサ亜科に、もしくは2属を1亜科に分離する説などが現れた。シラボシハヤブサは、コビトハヤブサ属に近縁と考えられてきたが、カラカラ類に近縁としカラカラ亜科に含める説もあった。ハヤブサ亜科にカラカラやワライハヤブサを含む場合もある[19]

伝統的に、昼行性猛禽類であるハヤブサ科・タカ類タカ科など)・コンドル科は同じタカ目 Flaconiformes に分類されてきた。しかし、形態・分子双方から疑問が呈され、ハヤブサ目 Falconiformes(ハヤブサ科のみ)とタカ目 Accipitriformes(タカ類とコンドル科)に分離された。ハヤブサ目はタカ目と異なり、鉤爪が小さく比較的大きさがそろっており、この比率は生態が大きく異なるスズメ目とほぼ同じである[17]。現在、ハヤブサ目はスズメ目+オウム目姉妹群であると考えられている[17][20]

系統

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以下の系統樹は、Fuchsらが2015年に発表した包括的な分子系統学的研究に基づく[21]。種数は国際鳥類学会議 (IOC)のリストによる[22]。Fuchsらは遺伝的分岐の浅さから、キノドカラカラ英語版キバラカラカラ属英語版アンデスカラカラ属英語版を統合することを提唱した。この変更はClements鳥類分類では採用されているが、IOCのリストでは採用されていない[21][22][23]

ハヤブサ科
ワライハヤブサ亜科

ワライハヤブサ

モリハヤブサ属 - 7種

ハヤブサ亜科
ハヤブサ族

コビトハヤブサ

マメハヤブサ属 – 5種

アジアコビトハヤブサ

ハヤブサ属 – 39種

カラカラ族

シラボシハヤブサ

カンムリカラカラ属 – 2種

アカノドカラカラ

アンデスカラカラ属 – 4種

キノドカラカラ

キバラカラカラ属 – 2種

下位分類

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現生の属と種は国際鳥類学会議 (IOC) による[22]

絶滅属

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これら以外にも複数の絶滅属が知られる。

人間との関係

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ハヤブサは古代エジプトで、ファラオの祖先である天空と太陽の神ホルスの化身として神格化されていた。カラカラはアステカ文明の伝説にも登場する。ハヤブサは鷹狩りにおいて長く使用されてきた。狩猟動物や家畜を捕食するため迫害され、その結果グアダルーペカラカラでは絶滅につながった。島嶼部の数種は劇的に減少しており、モーリシャスチョウゲンボウはかつて4羽まで激減した。セーカーハヤブサを含む約5種がIUCNによって危急種とされている[7]。開発による生息地の破壊、乱獲、農薬による獲物の減少や中毒などにより生息数が減少している種もいる[24][25][26][27][28]

脚注

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  1. ^ Wortman, J. L. (1901-08-01). “Studies of Eocene Mammalia in the Marsh Collection, Peabody Museum”. American Journal of Science s4-12 (68): 143–154. doi:10.2475/ajs.s4-12.68.143. ISSN 0002-9599. https://ajsonline.org/article/125371. 
  2. ^ Remsen, Jr., J. V.; Cadena, C. D.; et al. (2010), “Part 2. Accipitriformes to Charadriiformes (below)”, in AOU, A classification of the bird species of South America (8 July 2010 ed.), オリジナルの2008年4月12日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20080412122247/http://www.museum.lsu.edu/~Remsen/SACCBaseline02.html 
  3. ^ Billerman, Shawn; Lovette, Irby; et al. (2009), “Remove the Accipitridae from the Falconiformes, and create a new order, Accipitriformes”, in AOU N&MA Check-list Committee, Proposals 2009-C, p. 86–111, http://www.aou.org/committees/nacc/proposals/2009-C.pdf 
  4. ^ Claramunt, S.; Cracraft, J. (2015). “A new time tree reveals Earth history's imprint on the evolution of modern birds”. Science Advances 1 (11): e1501005. Bibcode2015SciA....1E1005C. doi:10.1126/sciadv.1501005. PMC 4730849. PMID 26824065. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4730849/. 
  5. ^ a b c d 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥I』、平凡社1986年、118、122–124頁。
  6. ^ a b 高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会2007年、180–183頁。
  7. ^ a b c d e f g Kirschbaum, Kari. “Falconidae (falcons)”. Animal Diversity Web. 2025年2月17日閲覧。
  8. ^ Tordoff, Andrew (2002). “Raptor migration at Hoang Lien Nature Reserve, northern Vietnam”. Forktail 18: 45–48. オリジナルの2011-06-10時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110610174902/http://www.orientalbirdclub.org/publications/forktail/18pdfs/Tordoff-Raptor.pdf. 
  9. ^ Mikula, Peter; Morelli, Federico; Lučan, Radek K.; Jones, Darryl N.; Tryjanowski, Piotr (2016-07). “Bats as prey of diurnal birds: a global perspective”. Mammal Review 46 (3): 160–174. doi:10.1111/mam.12060. ISSN 0305-1838. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/mam.12060. 
  10. ^ Collopy, M.W. (1977). “Food Caching by Female American Kestrels in Winter”. Condor 79 (1): 63–68. doi:10.2307/1367531. JSTOR 1367531. 
  11. ^ Ille, R.; Hoi, H.; Grinschgl, F.; Zink, F. (2002). “Paternity assurance in two species of colonially breeding falcon: the kestrel Falco tinnunculus and the red-footed falcon Falco vespertinus”. Etologica 10: 11–15. 
  12. ^ Leach, William Elford「Eleventh Room」『Synopsis of the Contents of the British Museum』(15th)British Museum、London、1819年、63–68 [63]頁https://books.google.com/books?id=YSlhAAAAcAAJ&pg=PA63 
  13. ^ Bock, Walter J.『History and Nomenclature of Avian Family-Group Names』 222巻、American Museum of Natural History、New York〈Bulletin of the American Museum of Natural History〉、1994年、133, 245頁。hdl:2246/830http://digitallibrary.amnh.org/handle/2246/830 
  14. ^ Griffiths, Carole S. (1999), “Phylogeny of the falconidae inferred from molecular and morphological data”, Auk 116 (1): 116–130, http://elibrary.unm.edu/sora/Auk/v116n01/p0116-p0130.pdf 
  15. ^ a b Griffiths, C. S.; Barrowclough, G. F.; et al. (2004), “Phylogeny of the Falconidae (Aves): a comparison of the efficacy of morphological, mitochondrial, and nuclear data”, J. Avian Biol. 31 (1): 101–109, doi:10.1016/j.ympev.2003.11.019 
  16. ^ Remsen, Van (2007), Classification within Falconidae, Proposal (#281) to South American Classification Committee 
  17. ^ a b c Fowler, Denver W.; Freedman, Elizabeth A.; Scannella, John B. (2009), “Predatory Functional Morphology in Raptors: Interdigital Variation in Talon Size Is Related to Prey Restraint and Immobilisation Technique”, PLoS ONE 4 (11), doi:10.1371/journal.pone.0007999, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2776979/ 
  18. ^ A classification of the bird species of South America”. South American Classification Committee. American Ornithologists' Union. 2009年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月15日閲覧。
  19. ^ a b Check-list of North American Birds”. North American Classification Committee. American Ornithologists' Union. 2011年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月15日閲覧。
  20. ^ Hackett, S. J.; Kimball, Rebecca T.; et al. (2008), “A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History”, Science 320: 1763–1768 
  21. ^ a b Fuchs, J.; Johnson, J.A.; Mindell, D.P. (2015). “Rapid diversification of falcons (Aves: Falconidae) due to expansion of open habitats in the Late Miocene”. Molecular Phylogenetics and Evolution 82: 166–182. Bibcode2015MolPE..82..166F. doi:10.1016/j.ympev.2014.08.010. PMID 25256056. 
  22. ^ a b c Seriemas, falcons”. IOC World Bird List Version 14.2. International Ornithologists' Union (2024年8月). 2025年2月17日閲覧。
  23. ^ The eBird/Clements Checklist of Birds of the World: v2022” (2022年). 2023年2月4日閲覧。
  24. ^ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ6 アフリカ』、講談社、2000年、90、181頁。
  25. ^ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社、2000年、85、188頁。
  26. ^ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ7 オーストラリア、ニューギニア』、講談社、2000年、76、171頁。
  27. ^ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ3 中央・南アメリカ』、講談社、2001年、185–186頁。
  28. ^ 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』、講談社、2001年、90、187–188頁。

関連項目

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