カントール集合

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カントール集合(カントールしゅうごう、Cantor set)は、フラクタルの1種で、閉区間 [0, 1] に属する実数のうち、その三進展開のどの桁にも 1 が含まれないような表示ができるもの全体からなる集合である。1874年イギリスの数学者ヘンリー・ジョン・スティーヴン・スミスHenry John Stephen Smith)により発見され[1][2][3][4]1883年ゲオルク・カントールによって紹介された[5][6]

カントールの三進集合とも呼ばれ[7]カントル集合カントルの三進集合とも表記される[8]。フラクタル概念の生みの親であるブノワ・マンデルブロは、位相次元が 0 の図形をダスト(塵)と呼び、カントール集合のことはカントール・ダストカントールのフラクタルダストと呼んでいた[9]

構成[編集]

上から下に3等分した真中を抜くという操作を繰り返す。その極限がカントール集合である。上図は操作を6回繰り返した状態までを示す。

カントール集合は、幾何学的には、線分を3等分し、得られた3つの線分の真ん中のものを取り除くという操作を、再帰的に繰り返すことで作られる集合である。ここで、取り除く線分は開区間である。すなわち、単位区間I = [0, 1] から、1回目の操作では (1/3, 2/3) を取り除き、2回目の操作では (1/9, 2/9) と (7/9, 8/9) を取り除き……といった具合に操作を無限に繰り返し、残った部分集合がカントール集合である[10]。最初の集合を C0 = I, 1回目操作後の集合を C1, 2回目操作後の集合を C2, ……とし、n 回目操作後の集合を Cn としたとき、和集合の形式では各集合は以下のように表せる。

\begin{align}
C_0&=\left[0, 1\right]\\
C_1&=\left[0, \frac{1}{3} \right] \cup \left[\frac{2}{3}, 1 \right]\\
C_2&=\left[0, \frac{1}{9} \right] \cup \left[\frac{2}{9}, \frac{3}{9} \right]
\cup \left[\frac{6}{9}, \frac{7}{9} \right] \cup \left[\frac{8}{9}, 1 \right]\\
&\vdots\\
C_n&=\left[0,\frac{1}{3^n}\right]\cup\dots\cup\left[\frac{3^n-1}{3^n},1\right]
\end{align}

Cn とその1つ手前の Cn−1 との関係は、次のように与えられる[11]

C_n=\frac{C_{n-1}}{3} \cup \left(\frac{2}{3}+\frac{C_{n-1}}{3}\right)

\cap_{n=0}^\infty C_n がカントール集合となる。カントール集合を単に記号 C で表すと、初期単位区間 I との差集合として次のような閉じた式で表すことができる[11]

 C=I \setminus \bigcup_{m=1}^\infty \bigcup_{k=0}^{3^{m-1}-1} \left(\frac{3k+1}{3^m},\frac{3k+2}{3^m}\right).

カントール集合の別の構成方法としては、次のような離散力学系の写像 f: IAによるものがある[12][13]


f(x)=\left\{
\begin{matrix}
3 x & x < \frac{1}{2} \\ \\
3 (1-x) & \frac{1}{2} \le x
\end{matrix}
\right.

任意な初期点を x0I とし、fn回の反復合成を f n としたとき、\lim_{n \to \infty}f^n(x_0) = -\inftyとならない x0 を元とする集合がカントール集合となる[12]

この力学系は傾き 3 としたテント写像ともいえる[14]。通常のテント写像の傾きは [0, 2] の範囲で想定され、この傾きの範囲ならば x0I である限り値域 A も最大で I であり、x が発散することはない[14]。しかし傾きが 2 を超えると、ほとんどの初期点は有限の n 回反復後に I の外に出てしまい、Iの中に二度と戻らなくなる[13]。傾き3でもほとんどの点で発散するが、カントール集合Cに属する x0 のみが発散しない。よって、カントール集合は以下のようになる。

C=\left\{x_0 : \lim_{n \to \infty}f^n(x_0) \ne -\infty \right\}

性質[編集]

カントール集合はフラクタル図形の一種で自己相似性を持つ。フラクタル次元の一つであるハウスドルフ次元log 2 / log 3 (= 0.6309297...) で、1 よりも小さい値を持つ[15]。カントール集合は、ルベーグ測度は 0 でありながら、濃度実数に等しい集合(連続体濃度非可算集合)として有名な例である[16]

カントール集合の2次元版としてはシェルピンスキーのギャスケットが、3次元版としてはメンガーのスポンジなどが知られている[17]

出典[編集]

  1. ^ Henry J.S. Smith (1874) “On the integration of discontinuous functions.” Proceedings of the London Mathematical Society, Series 1, vol. 6, pages 140–153.
  2. ^ The “Cantor set” was also discovered by Paul du Bois-Reymond (1831–1889). See footnote on page 128 of: Paul du Bois-Reymond (1880) “Der Beweis des Fundamentalsatzes der Integralrechnung,” Mathematische Annalen, vol. 16, pages 115–128. The “Cantor set” was also discovered in 1881 by Vito Volterra (1860–1940). See: Vito Volterra (1881) “Alcune osservazioni sulle funzioni punteggiate discontinue” [Some observations on point-wise discontinuous functions], Giornale di Matematiche, vol. 19, pages 76–86.
  3. ^ José Ferreirós, Labyrinth of Thought: A History of Set Theory and Its Role in Modern Mathematics (Basel, Switzerland: Birkhäuser Verlag, 1999), pages 162–165.
  4. ^ Ian Stewart, Does God Play Dice?: The New Mathematics of Chaos
  5. ^ Georg Cantor (1883) "Über unendliche, lineare Punktmannigfaltigkeiten V" [On infinite, linear point-manifolds (sets)], Mathematische Annalen, vol. 21, pages 545–591.
  6. ^ H.-O. Peitgen, H. Jürgens, and D. Saupe, Chaos and Fractals: New Frontiers of Science 2nd ed. (N.Y., N.Y.: Springer Verlag, 2004), page 65.
  7. ^ ロバート・L・デバニー 『カオス力学系の基礎』 上江洌達也・重本和泰・久保博嗣・田崎秀一訳、ピアソン・エデュケーション、2007年、新装版、79頁。ISBN 978-4-89471-028-3
  8. ^ アリグッドほか 2012, p. 166.
  9. ^ B.マンデルブロ 『フラクタル幾何学 上』 広中平祐(監訳)、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2011年、第一刷、157-161頁。ISBN 978-4-480-09356-1
  10. ^ 本田 2013, pp. 1-2.
  11. ^ a b Mohsen Soltanifar (2006). "A Different Description of A Family of Middle-a Cantor Sets". American Journal of Undergraduate Research 5 (2): 9–10. 
  12. ^ a b 本田 2013, p. 4.
  13. ^ a b アリグッドほか 2012, p. 178.
  14. ^ a b アリグッドほか 2012, p. 179.
  15. ^ 本田 2013, p. 38.
  16. ^ アリグッドほか 2012, p. 167.
  17. ^ 本田 2013, pp. 19-20.

参考文献[編集]

  • 本田勝也、2013、『フラクタル』初版第8刷、 朝倉書店〈シリーズ 非線形科学入門1〉 ISBN 978-4-254-11611-3
  • K.T.アリグッド・T.D.サウアー・J.A.ヨーク、シュプリンガー・ジャパン(編)、津田一郎(監訳)、星野高志・阿部巨仁・黒田拓・松本和宏(訳)、2012、『カオス 第1巻 力学系入門』、丸善出版 ISBN 978-4-621-06223-4

関連項目[編集]

外部リンク[編集]