カルニチン

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カルニチン
Carnitine structure.png
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
投与方法 経口、経静脈(IV)
薬物動態データ
血漿タンパク結合 なし
代謝 わずか
排泄 尿(> 95%)
識別
CAS番号
406-76-8 (DL体)
541-15-1 (L体)
ATCコード A16AA01 (WHO)
PubChem CID: 10917
DrugBank APRD01070
ChemSpider 282
KEGG C00487 (DL体)
C00318 (L体)
D02176 (L体、医薬品)
化学的データ
化学式 C7H15NO3
分子量 161.199 g/mol
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カルニチン(carnitine)は、生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質で、アミノ酸から生合成される誘導体である。動物の体内で生合成されるため必須アミノ酸ではないが[1]、摂取不足や過剰消費によって欠乏症を発症することがある[2]。獣肉類の赤身に多く含まれる[3]。カルニチンは、生体内で脂質を燃焼してエネルギーを産生する際に、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリア内部に運搬する役割を担う。

日本においては、食品分野で利用されるL-カルニチン、先天性カルニチン欠乏症の治療薬としてのレボカルニチン、胃薬のDL-カルニチンがある。立体異性体のうち脂質代謝に利用されるのはL-カルニチンのみであり、エナンチオマーのD-カルニチンは活性がないとされている。以下は特に断らない限りL-カルニチンについて記述する。

概要[編集]

カルニチンは、1905年ロシアの化学者により肉抽出エキス中に発見され、1927年に構造決定された。当時チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)に必須の成長因子として、ビタミンBTと名付けられた。1960年代までにカルニチンが長鎖脂肪酸のエネルギー代謝に必須の物質として認識され、その後も生理機能に関する研究が続けられている。なお、生体内で微量生合成されることがわかり、先述のビタミンの名称は現在では使われていない。

日本においては、薬事法の適用を受けない(医薬品に該当しない)食品分野で利用されるL-カルニチン(フリーのL-カルニチン以外に加工特性を高めたL-酒石酸塩とフマル酸塩が使用されている)と、先天性欠乏症患者向け希少病医薬品であるレボカルニチン(塩化レボカルニチン、塩化L-カルニチン)、消化管機能低下に対する胃薬として数十年来使用されているDL-カルニチン(DL-カルニチン塩酸塩)がある。この中で、脂質のエネルギー代謝に関与するのはL-カルニチンである。

吸収[編集]

食事由来の外部摂取されたカルニチンは腸管において吸収される。この際、主としてOCTN (Organic zwitterions/cation transporters, Organic cation/carnitine transporters) を介して能動的に吸収され、高濃度の場合は一部受動的に吸収される。正確な吸収率についてはわかっていない。また尿細管においてもOCTNにより再吸収され、体内で効率よく使われていることが知られている。

役割[編集]

カルニチンは体内においてはほとんどが筋肉細胞に存在しており[3]、筋肉細胞内において脂肪酸をミトコンドリア内部に運搬する役割を担う。その後、脂肪酸はβ酸化を受け酢酸にまで分解されながら、生成したアセチルCoAクエン酸回路を通じてエネルギーに転換される。この脂肪酸は主に存在比率の多い長鎖脂肪酸であり、中鎖脂肪酸はカルニチンと結合せずにミトコンドリア膜を通過できることが知られているが、カルニチンと結合されてミトコンドリア内部に運搬されている中鎖脂肪酸も存在する。脂肪酸は細胞質ではコエンザイムA(CoA)と結合したアシルCoAの状態で存在するが、ミトコンドリア内膜を通過する際にはカルニチンと結合したアシルカルニチンの状態となっている。この転換の反応はミトコンドリア膜に存在する酵素により触媒されている。

Reactions through mitochondrial membrane.png

  1. アシルCoAミトコンドリア外膜に存在する酵素CPT-Ⅰ(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠ(またはカルニチンアシルトランスフェラーゼともいう))の作用により、カルニチンと結合したアシルカルニチンへと転換される。
  2. アシルカルニチンはCACT(カルニチン-アシルカルニチントランスロカーゼ)を通過して、ミトコンドリア内部に運搬される。
  3. ミトコンドリア内膜内部に存在する酵素CPT-Ⅱ(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅡ)の作用により、アシルカルニチンはアシルCoAへと転換される。
  4. フリー体となったカルニチンは細胞質に戻る。

先天性カルニチン欠乏症、CPT-Ⅰ欠乏症、CPT-Ⅱ欠乏症、CACT欠乏症の場合には上述のステップとは異なる。 クエン酸サイクルにおいて余剰なエネルギー源は脂肪酸として再合成されるが、CPT-Ⅰはその際の中間体であるマロニルCoAよりアロステリック阻害を受け活性を低下させることが知られている。

脂肪燃焼[編集]

安定同位体13Cを用いた厳密な試験において、運動を伴わない健常人被験者にて、経口摂取したカルニチンにより脂肪燃焼が促進されることが、Wutzkeらにより2004年報告された。

欠乏症[編集]

必要量の25%が生合成されるが必要量には不足するので食物から摂取する必要があり[3]、摂取不足(ダイエット、特殊除去乳の常用[4])や過剰消費(透析[5]下痢てんかん治療薬のバルプロ酸ナトリウムやピボキシル基含有抗菌薬の副作用、腎不全[4]、肝不全[4]、多臓器不全[4]、遺伝性疾患(カルニチン代謝異常症)など)によって発症する[2]。小児では合成能が低い、利用率が高い、筋肉量が少ないため体内蓄積量が少ないなどの理由り[3]によって、2次性欠乏症を発症しやすいとされる[3]。しかし、医療従事者のカルニチン欠乏症に関する知識が少ないとの指摘がある[4]

おもな症状は、低血糖筋緊張低下、けいれん、意識障害、ライ様症状、横紋筋融解症、ミオグロビン尿症、脂質蓄積性ミオパチー、低血糖、脂肪肝、ならびに筋肉痛、疲労、錯乱、および心筋症を伴う高アンモニア血症、死亡することもある[2][3]

ピボキシル基含有抗菌薬による二次性カルニチン欠乏症[編集]

ピボキシル基含有抗菌薬はトミロン、フロモックス、メイアクトMS、オラペネムなど多数の製品に渡る。これらの薬剤は摂取後に抗菌活性体とピバリン酸となる。ピバリン酸はカルニチン抱合を受け、尿中に排泄される。カルニチンの尿中排泄に伴い、二次性カルニチン欠乏症が引き起こされる。バルプロ酸投与同様、カルニチン欠乏により脂肪酸代謝が障害され、低血糖・高アンモニア血症を発症することがある。[6]

カルニチンの構造と生合成[編集]

L-カルニチンの生合成の過程

カルニチンは、分子構造内に四級アンモニウムを持ち、ベタイン構造をとるアミノ酸の誘導体である。水酸基を配する不斉炭素と四級アンモニウムイオン、カルボキシラートアニオンとの結合間にはそれぞれメチレン基を持っている。タンパク質を構成するα-アミノ酸はもちろん、構造的な広義のアミノ酸には定義上は該当しない物質である。

ヒトの体内においては、カルニチンは主に肝臓、腎臓においてタンパク結合性のアミノ酸のリシンメチオニンメチル基を供与する反応を経由し、数段階の反応過程を経て生合成される。この際にメチオニンはS-アデノシルメチオニンに変換されメチル基を供与し、さらに続く反応ではビタミンC、鉄、ビタミンB6ナイアシンが必要とされる。特に成長時や妊娠中には、カルニチンの必要量が通常時よりも多くなり、また生合成時に必要な各物質も不足気味となる事から外部摂取が推奨されることがある。

カルニチンの食物等からの摂取[編集]

体内には約20gのカルニチンがほとんど筋肉細胞に存在する。1日のカルニチン生合成推定量は10〜20mgであり、大部分は肉食により補給される。ただし、「健康な小児および成人は、1日に必要なカルニチンを肝臓および腎臓でアミノ酸のリジンとメチオニンにより十分な量を合成するため、食物やサプリメントから摂取する必要はない」[7]という報告もあり必須栄養素とはみなされず、摂取基準量などは設定されていない。また、「腎臓はカルニチンを効率的に保持するため、摂取した食事のカルニチン含有量が低くても、体内のカルニチン量にはほとんど影響しない。」とする報告もある[7]

一方、体内のL-カルニチンは、加齢に伴う生合成能の低下および食事量の減少により、高齢になるほど筋肉中のL-カルニチン(遊離カルニチン、アセチルカルニチン)濃度が低下することがわかっており、また、最近ではダイエットや偏食などにより若年層でもL-カルニチンが不足しがちになっていると言われていることから、年齢を問わず積極的な摂取が必要と考えられる[8]。「L-カルニチンはアミノ酸のL-リジンL-メチオニンか[生合成されるので、成長期あるいは出産期以外には特に補給する必要はない」という意見もあるが、上述の通り生合成量はわずかであり、主に食事により摂取されるものが大部分である。L-カルニチンはビタミンではないものの、conditional nutrientとしてコリンイノシトールタウリンなどとともに重要な栄養素として位置づけられている[9]

カルニチンは赤身の肉、魚肉、鶏肉、牛乳などの動物性食品に豊富に含まれていて、通常、肉の色が赤ければ赤いほど、カルニチン含有量が高くなる[7]。カルニチンが多い畜肉は草食動物由来で「幼畜よりも成畜」からの肉と考えられる[10]。乳製品では、カルニチンは主にホエー画分に含まれる[7]

食材中のL-カルニチン含有量の代表値[11]
食材 mg/kg 脚注
ヤギ 2210 [12]
仔羊
(ラム)
1900 [12]
鹿肉 1174

[13](ラムの2.44倍)

牛肉 1180 [12]
豚肉 274 [12]
鶏肉 80 [12]
ロブスター 270 [12]
岩ガキ 243 [12]
鯨肉 134 [13]
牛乳 55 [13]
ヨーグルト 41 [12]
牛乳 40 [12]
マグロ 34 [12]
31 [12]
ブロッコリー 4.8 [12]
アボカド 4.0 [12]

アセチルカルニチン[編集]

アセチル-L-カルニチンの構造式

アセチルカルニチン (Acetylcarnitine) とは、カルニチンのアセチル化された形体であり、通常はL体で存在する。天然のサプリメントで植物や動物の中に存在するアミノ酸である。

体内のカルニチンのうち約1割はアセチルカルニチンの状態で存在する。アセチルカルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達し、アセチルコリン量を増やすことがわかっている。実際にアルツハイマー病初期症状の改善に効果がある可能性があるとして世界中で研究が進められており、ブレインフードとして応用されはじめている。

筋肉中のカルニチンは加齢に伴い減少することが示されている[1]

サプリメント・他応用例[編集]

カルニチンの血中濃度は身体が調整しているため、多量に摂取しても追加の利益はない可能性がある[14]

先述の通り脂肪燃焼が促進されることから、いわゆる「ダイエット」分野に連想されて利用されることが多い。9件のランダム化比較試験 (RCT) のメタアナリシスからは、体重やBMIが減少していた[15]。2017年に5件のRCTから、カルニチンはインスリン抵抗性の治療に有用であったが、1年までの長期間の試験は一部であるため、強く確認されるにはより長期間の試験が必要とされている[16]。4週間以上の試験期間の14件のランダム化比較試験から、慢性腎臓病に対するカルニチンのサプリメントは、アルブミン、総タンパク質、総コレステロールなどを上昇させ、有用であることを示しているためより厳格な試験によって確認されていく必要があり、また慢性腎臓病では体重とBMIに明確な影響はみられなかった[17]多嚢胞性卵巣症候群では、2019年の文献探索で卵胞や卵巣細胞が大きくなり、体重減少の可能性が示されるが、確認にはランダム化比較試験などより厳格な必要である[18]

24件のRCTから、カルニチンは特に1日1500mg以上の場合に脂質プロファイルを改善し、また低カロリーな食事と共に血糖制御を改善する[19]

運動関連[編集]

合計32人でのランダム化比較試験では運動能力に影響を与えていないことが判明した[20]。跛行を患う人では、メタアナリシスから歩行能力の小さな改善が示されている[21][22]。変形性関節症に対するメタアナリシスでは証拠の質は低いが、痛みの軽減に効果量0.8と大きな効果を示している[23]

癌に関連した疲労では、偏りの少ない結果では3件の研究をメタアナリシスして疲労の減少はなく、この目的での使用は裏付けられていない[24]。多発性硬化症の疲労では効果は不明である[25]。肝性脳症では、疲労や生活の質に効果はない[26]

心筋梗塞後の使用では、メタアナリシスにて死亡率や同様の症状の発症に対する利益は見られない[14]。末梢性神経障害性疼痛では、4件のランダム化比較試験があり中等度の効果であった[27]

精神機能[編集]

文献を調査し認知症に対し利益を示す証拠はなかった[28]。アルツハイマー病に効果はなく、研究規模は合計417人での多施設で実施されたランダム化比較試験である[29]。45歳以上の若年性アルツハイマーで、合計229人での多施設で実施されたランダム化比較試験を実施し、1年後に効果はなかった[30]。軽度の認知症やアルツハイマーでは、メタアナリシスによって効果量0.2と小さな効果が判明した[31]。認知症のない成人で認知機能への影響では、ランダム化比較試験は2017年までに2件しかなくその効果に結論は下せない[32]。急性ではない肝硬変の肝性脳症にて5件のランダム化比較試験から血中アンモニアを低下させる証拠があるが、低品質な証拠である[26]

抗うつ効果では、12件のランダム化比較試験を分析すると抗うつ薬と同等でカルニチンの方が副作用は少ない[33]

100歳超の超高齢者においては、血中のカルニチン濃度が高い例が知られている。高齢者に肉食を勧める東京都老人総合研究所の調査結果とも併せて興味深いところである。一般的には高齢者は体内のカルニチン保有量が少なくなっており、また肉食の機会も少なくなる傾向がある。流動食など臨床分野においてカルニチンが応用されている。

乳児用粉ミルク[編集]

カルニチンは母乳に含まれている成分で、乳幼児の成長因子である。牛乳にもカルニチンがわずかに含まれている。

牛乳アレルギーなどの対応のために導入されている大豆蛋白や乳蛋白分解物を使用した母乳代替用の粉ミルクでは、カルニチンの添加がCODEXにより国際的に推奨されており[34]、諸外国ではこの基準に準じているが 日本では法規制によってそうではないため欠乏症に注意が必要となる[35]

動脈硬化との関連[編集]

カルニチンは腸内で一部の細菌により動脈硬化の原因物質とも言われるトリメチルアミン-N-オキシドへと代謝され、これが動脈硬化を引き起こすとする説がある[36][37]

出典[編集]

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  2. ^ a b c カルニチン欠乏症 MSDマニュアル プロフェッショナル版
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  5. ^ 松本芳博、「透析患者のカルニチン欠乏症」 『現代医学』 35, 431-438, 1998, NAID 1000855442
  6. ^ 伊藤進 他: ピボキシル基含有抗菌薬投与による二次性カルニチン欠乏症への注意喚起. 日小児会誌 2012; 116: 804-806., NAID 10030557972
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  9. ^ COMMISION REGULATION (EC) No 953/2009 of 13 October 2009 on substances that may be added for specific nutritional purposes in foods for particular nutritional uses, ANNEX Category 4. Carnitine and taurine - Official Journal of the European Union
  10. ^ 常石, 英作「技術用語解説 カルニチン」『日本食品科学工学会誌』第53巻第6号、2006年、 361頁、 doi:10.3136/nskkk.53.3612017年12月20日閲覧。
  11. ^ (分析者/分析機関により数値には差違が生じている)
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  13. ^ a b c 田島眞、「各種食肉に含まれるL-カルニチン含有量とその変動要因」 『実践女子大学生活科学部紀要』 2009年3月1日 46巻 p.9-13, NAID 110007471029
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関連項目[編集]

外部リンク[編集]