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==原子力発電の現状==
==原子力発電の現状==
=== 世界のエネルギー消費と原子力発電 ===
[[Image:Nuclear power stations.png|thumb|350px|right|原子力発電の世界での現状:濃い緑色は原子炉をすでに持つ国。明るい青緑色は新たに持つ国。濃い黄色は追加で持つことを検討している国。薄い黄色は初めて持つことを検討している国。青は建設を中止したか廃炉した国。明るい青は廃炉をした国。赤はすべての商業用原子炉を廃炉した国。]]

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<ref name="UIC">{{cite web|url=http://www.uic.com.au/reactors.htm|title=World NUCLEAR POWER REACTORS 2005-06, 15/08/2006, Australian Uranium Information Centre}}</ref>

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原子力政策はEU加盟の各国によって違いがあるが、いくつかのEU加盟国やオーストラリア、アイルランドなどの国では稼動中の原子力発電所は存在しない。反対にフランスでは59基もの原発が稼動しており、火力を含めた総発電量の18%をイタリア、イギリス、ドイツに輸出している。<ref>{{Cite news
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| author = World Nuclear Association
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多くの[[軍隊]]や[[砕氷船]]のような民間が[[原子力船]]において[[原子力推進]]を利用している。

「本質的に安全な原子力発電プラント」([[w:en:Passive nuclear safety]])や[[核融合炉]]の開発、高温電気分解(High-temperature electrolysis、HTE または steam electrolysis)による海水淡水化、地域の暖房供給などの研究が現在も世界各国で続けられている。

===原子力発電の今後===

現在、世界的には二つの流れがある。すなわちエネルギー源としての原子力の利用を削減・廃止していこうとする流れと、エネルギー源としての原子力の利用を今後も追究していこうとする流れである。前者の立場に立つ主な国として[[スウェーデン]]、[[ベルギー]]、[[ドイツ]]などが挙げられる。[[イタリア]]は1987年に原子力発電からの脱却が政策化されたが、2007年には[[国際原子力パートナーシップ]]への参加を表明するなど、その政策は不明瞭である。詳しくは[[原子力撤廃]]の項を参照されたい。
現在、世界的には二つの流れがある。すなわちエネルギー源としての原子力の利用を削減・廃止していこうとする流れと、エネルギー源としての原子力の利用を今後も追究していこうとする流れである。前者の立場に立つ主な国として[[スウェーデン]]、[[ベルギー]]、[[ドイツ]]などが挙げられる。[[イタリア]]は1987年に原子力発電からの脱却が政策化されたが、2007年には[[国際原子力パートナーシップ]]への参加を表明するなど、その政策は不明瞭である。詳しくは[[原子力撤廃]]の項を参照されたい。



2008年1月5日 (土) 00:12時点における版

原子力発電(げんしりょくはつでん)とは、原子核反応時に出るエネルギーを利用した発電。ここでは地上の核分裂を利用した主に商業用の原子力発電について説明する。

原子力発電とは何か

総説

原子力とは原子核反応により得られるエネルギー(核エネルギー)のこと。核反応には核分裂反応核融合反応の二種類の反応があるが、発電技術として実用化されているのは核分裂反応だけなので、単に「原子力発電」と言う場合には核分裂反応のエネルギーを用いた発電方法を指す。

地上に設置された原子力発電所の場合、放射性物質の核分裂反応で発生する熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンを回すことで発電機を回して発電する。効率よく発電するためには、この沸騰した水を冷やして再び液体に戻す冷却塔という建物を必要とするが、日本や世界の多くの原子力発電所では冷却水として利用するために海や川のそばに建設することで冷却塔を省いている。火力発電所は石油や石炭、液化天然ガスといった化石燃料を燃やして熱を作り出し、原子力発電所では核分裂反応によって熱を発生させているが、発生した蒸気でタービンを回し発電機で発電するという点では、両者は似た仕組みといえる。

原子力発電プラントの基本要素(PWR)

汽力発電の一種である原子力発電も原理はランキンサイクルであるため、作動流体である冷却材サイクルを形成する4要素が中心となる。

原子炉(炉心、燃料棒集合体、制御棒)、蒸気タービン復水器ポンプ

またこのほかに補助的な役割を果たす多くの機器や設備が必要となる。

発電機、変圧器、送電線、発電機建屋、圧力容器、格納容器、燃料交換装置とクレーン、原子炉建屋、一次冷却水配管系、ニ次冷却水配管系、緊急炉心冷却装置、熱交換器、加圧器、非常用ポンプ、非常用発電機、燃料プール、センサー類、冷却水フィルター、空気フィルター、各種圧力逃がし弁、復水器冷却水系設備、コントロールルームと操作機器・記録装置類・通信機器類、消火装置、放射性管理区画ゲート等

原子力発電プラントで特徴的な設備は気体・液体・固体の放射性廃棄物処理設備や放射線を検出するための環境センサー類、放射線管理区域の出入りを管理する設備である。

火力発電所との違い

一般にはわかりやすく「タービン周りは原子力発電所でも火力発電所でも同じ」とよくいわれるが以下の点で違いがある。

  • 蒸気が違う
    • タービンを回す蒸気が原子力発電所(280-290度、6.9MP)では火力発電所の蒸気(600-610度、31MP)よりも温度・圧力が低く設計されており熱効率が劣る
    • 核燃料棒の被覆に使われているジルコニウムは比較的高温に弱いため一次・二次冷却水ともにそれほど高温には出来ない
    • 火力発電所では超臨界蒸気超臨界流体)が使用されている 超臨界流体とは、液体の性質と気体の性質を持った非常に濃厚な蒸気であるので熱を効率良く運ぶことが出来る。
  • タービンが違う
    • 原子力用タービンの回転数は1500rpm又は1800rpm 火力用タービンは3000rpm又は3600

原子力発電の歴史

EBR-1:アメリカ、アイダホ州:世界初の原子力発電を行った発電所

史上初の原子力発電は、1951年、アメリカ高速増殖炉EBR-Iで行われたものである。このときに発電された量は、200ワットの電球を4個灯しただけであった。
本格的に原子力発電への道が開かれることとなったのは、1953年12月8日にアイゼンハワー大統領が国連総会で行った原子力平和利用に関する提案、"Atoms for Peace"がその起点とされている。これは、従来核兵器だけに使用されてきた核の力を、原子力発電という平和利用に向けるという大きな政策転換であった。
アメリカではこの政策転換を受け、1954年に原子力エネルギー法が修正され、アメリカ原子力委員会(AEC)が原子力開発の推進と規制の両方を担当することとなった。
原子力発電初期のキャッチフレーズは、"Too cheap To meter"であった。これは、『原子力発電で作った電気はあまりに安すぎるので、計量する必要がないほどだ』、という意味である。原子力発電はそれだけ安く大量に電気を供給できるものと期待されていた。
しかし現実はそうではなかった。最大の原因は第一次石油危機以降の建設費の高騰である。原子力発電は他の発電に比べて設備費の割合が非常に大きいため、建設費が高騰するとその影響がより大きくなってしまった。
この建設費の高騰のため、アメリカでは1974年以降原子力発電の開発がストップした。原子力発電のコストが、石炭火力発電のコストより高くなったためである。[1]この年に建設を予定されていた原子炉は74基(うち着工済み28基)あったが、すべて中止された。[2] なお、一部には、この建設費高騰は過剰な安全設備によるものとして批判する者もある。
また同年には、アメリカ原子力委員会(AEC)が推進と規制の両方を担当する事への批判から、AECを廃止し、推進をエネルギー研究開発管理部(ERDA、後にエネルギー省)、規制を原子力規制委員会(NRC)に分割することとなった。
1977年、アメリカでは民主党カーター政権が誕生した。カーター政権は1977年4月に核拡散防止を目的としてプルトニウムの利用を凍結する政策を発表した。これによりアメリカでは高速増殖炉の開発が中止され、核燃料サイクルが中止された。これ以降アメリカでは核燃料は再処理されず、基本的にワンススルー利用されるものとなった。この政策は、日本の原子力政策にも大きな影響を与えることとなった。
1979年3月28日、スリーマイル島原子力発電所事故が発生した。この事故は、アメリカのみならず世界の原子力業界に大きな打撃を与えることとなった。

日本における原子力発電の歴史

日本における原子力発電は、1954年3月に当時改進党に所属していた中曽根康弘ら三人の議員により原子力研究開発予算が国会に提出されたことがその起点とされている。この時の予算2億3500万円は、ウラン235にちなんだものであった。
1955年(昭和30年)12月19日に原子力基本法が成立し、原子力利用の大綱が定められた。この時に定められた方針が「民主・自主・公開」であった。そして基本法成立を受けて1956年1月1日に原子力委員会が設置された。初代の委員長は読売新聞社社主でもあった正力松太郎である。
1956年(昭和31年)6月に日本原子力研究所が特殊法人として設立され、研究所が茨城県東海村に設置された。これ以降東海村は日本の原子力研究の中心地となっていく。
1957年(昭和32年)11月1日には、国策会社として、電気事業連合会加盟の9電力会社[3]および電源開発の出資により日本原子力発電株式会社が設立された。
日本で最初の原子力発電が行われたのは1963年10月26日で、東海村に建設された実験炉であるJPDRが初発電を行った。これを記念して10月26日は原子力の日となっている。
日本に初めて導入された商用発電炉は同じく東海村に建設された。運営主体は日本原子力発電である。原子炉の種類は世界最初に実用化された英国製のガス冷却炉であった。しかし経済性等の問題によりガス冷却炉はこれ一基にとどまり、後に導入される商用発電炉はすべて軽水炉であった。

原子力発電の現状

世界のエネルギー消費と原子力発電

原子力発電の世界での現状:濃い緑色は原子炉をすでに持つ国。明るい青緑色は新たに持つ国。濃い黄色は追加で持つことを検討している国。薄い黄色は初めて持つことを検討している国。青は建設を中止したか廃炉した国。明るい青は廃炉をした国。赤はすべての商業用原子炉を廃炉した国。

2004年の実績では、原子力発電によって世界中のエネルギーの3.5%、世界中の電力の15.7%が供給されており、米国、日本、フランスで世界中の原子力による電力の57%が発電されている。[4]

2007年には、国際原子力機関 (IAEA) は世界中で435基の原子力動力炉が31か国で運転されている[5]と報告している。[6] [5]

米国は最も多くのエネルギーを原子力によって生産しており、原子力発電によって総電力の20%をまかなっている。フランスにいたっては、2006年の実績では80%もの電気エネルギーを原子炉から得ている。[7][8] 欧州連合 (EU) 全体では、電力の30%を核エネルギーから得ている。 [9]

原子力政策はEU加盟の各国によって違いがあるが、いくつかのEU加盟国やオーストラリア、アイルランドなどの国では稼動中の原子力発電所は存在しない。反対にフランスでは59基もの原発が稼動しており、火力を含めた総発電量の18%をイタリア、イギリス、ドイツに輸出している。[10][11] 多くの軍隊砕氷船のような民間が原子力船において原子力推進を利用している。

「本質的に安全な原子力発電プラント」(w:en:Passive nuclear safety)や核融合炉の開発、高温電気分解(High-temperature electrolysis、HTE または steam electrolysis)による海水淡水化、地域の暖房供給などの研究が現在も世界各国で続けられている。

原子力発電の今後

現在、世界的には二つの流れがある。すなわちエネルギー源としての原子力の利用を削減・廃止していこうとする流れと、エネルギー源としての原子力の利用を今後も追究していこうとする流れである。前者の立場に立つ主な国としてスウェーデンベルギードイツなどが挙げられる。イタリアは1987年に原子力発電からの脱却が政策化されたが、2007年には国際原子力パートナーシップへの参加を表明するなど、その政策は不明瞭である。詳しくは原子力撤廃の項を参照されたい。

一方、アメリカは2006年に輸入化石燃料への依存量を減らすなど幾つかの目的を持つ新しいエネルギー政策「国際原子力パートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership、GNEP)」を発表。日本、フランス、台湾、ロシアなどとの協力によってこの政策を推進してゆくことを発表した。2007年にはオーストラリア、ブルガリア、ガーナ、ハンガリー、ヨルダン、カザフスタン、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロヴェニア、ウクライナ、イタリア、カナダ、韓国がこの計画への参加を表明している。この計画の中心となるのは核燃料サイクルと新型の高速炉である。詳細は国際原子力パートナーシップの項を参照されたい。

日本の現状

現在の日本では経済性や安全性から軽水炉の2つのタイプ、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)が使われている。現在、沸騰水型原子炉は、米ゼネラルエレクトリック(GE)の技術を導入した東芝日立製作所で製造されており、加圧水型原子炉は米ウエスチングハウス(WH)の技術を導入した三菱重工業で製造されている。しかし、2006年に東芝がウエスチングハウスを買収したため、今後業界再編が起きるのではないかと考えられている。

日本の原子力発電は需要に合わせた電気出力の増減(負荷追従運転)は行わず、常時一定の電力供給を専門としている。これはチェルノブイリ原子力発電所の重大事故のもともとのきっかけが負荷追従運転の実験にあった点が影響していると言われている。[[1]] 夜間などの電力が余る時間帯の原子力発電電力を揚水発電所へ送って、上のダムへと水をくみ上げ昼間の発電に備える工夫も行っているが、負荷追従運転が出来ないのは経済性からいえば無駄である。現在フランスでは商用原子炉で負荷追従運転が認可されている。

増え続ける使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの処分方法とウラニウムの輸入量を減らすための解決策として、高速増殖炉計画が推進されていたが、技術的な困難さのために計画は頓挫した。現在はMOX燃料によるプルサーマル計画が進められているが、これには賛否両論が存在している。

2004年現在、日本における定格最大出力電力の約30%、電力量の約50%を担っている。一次エネルギーとしての原子力エネルギーは電力事業のみであり、日本での一次エネルギーに対する割合は15%程度となっている。原子力エネルギーにおいて、世界で最も高いウェートを示している国はフランスであり、国の一次エネルギーとしては40%、発電電力量としては75%を超えている。このように、原子力エネルギーが高い割合を占める国では、原子力発電は発電出力の変更を行わないか極めて遅いため、調整力として揚水発電や電力輸出入を活用している事が多い。フランスの場合でも、ヨーロッパに張り巡らされた送電網、特に隣国ドイツとの電力輸出入が活用されている。

原子力発電に関する諸議論

利点

現行の原子力発電の利点として、以下の諸点が挙げられている。

  • 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しない
  • 酸性雨光化学スモッグなど大気汚染の原因とされる窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を排出しない
  • 使用する燃料の重量・体積が化石燃料型の発電に比べて極端に少なくて済む
  • 核燃料の交換頻度が低い事や核燃料物質の国際的な入手ルート・価格がほぼ確立し安定している為に、化石燃料型の発電に比べて相対的に安定した電力供給が期待できる
  • 経済性が高い(発電量当りの単価が安い)という意見がある(しかし、この意見は廃炉や放射性廃棄物の半永久管理に関するコスト(現状では見積もり不能)などを一切考慮していない)
  • 化石燃料資源の乏しい国でも比較的少量の核燃料を繰り返し使用する再処理技術(=核燃料サイクル)の確立により核燃料物質の入手に関わる制約が圧倒的に緩和できる
  • 技術力のあることが国際的にアピールできる
  • 海水からのウラン採取が実現すれば燃料はさらに豊富となる
  • 原子力発電所ができると、地元には一定の雇用が期待できるほか、電源立地地域対策交付金などの電源三法交付金固定資産税法人税などの税収も確保できる。

問題点

現行の原子力発電には以下の問題点が指摘されている。

  • 原子力発電所の稼動中に発生する放射線への対処が難しい。
    • 放射線とは放射能を持つ物質が放つアルファ線ベータ線ガンマ線中性子線のことだが、アルファ線・ベータ線に比べてコントロールの難しいガンマ線が、発電施設で働く作業者の健康にとって有害となる可能性がある(放射能障害)。原子力発電所を建てた時点では、炉心にある核燃料以外には放射能は持たないが、発電運転を行うことやただ核燃料を保持しているだけでも周囲の物質に放射線を通じてや直接放射性物質が移動・拡散することで、放射能が広がってゆく。放射性物質はそこにあるだけで、勝手に周りに放射線を放ち、放射線を受けた物質もまた弱いながらも徐除に放射能を帯びてゆく点で管理が難しい。
  • 原子力発電所内の作業者は、膨大な熱量による危険にも晒されている。
    • 過去の原子力事故では被曝による生命の危機以前に熱死や焼死したケースも少なくない。
  • 放射性物質であり生物化学的な毒性もある放射性廃棄物を作り出す
    • 重大事故が発生すると周辺環境に多大な被害を与え、その影響は地球規模に及ぶ(国土が狭い日本において、一旦チェルノブイリ級の事故が発生した場合、放射性物質による国土の汚染は日本国内の非常に広範囲及ぶ)
    • 原子力発電所で発電運転すると、その保守作業などに使用したあらゆる物が、潜在的に放射性廃棄物となる。作業着一式から清掃具や交換部品などである。出来るだけ放射性廃棄物を減らす努力を電力会社は行っているが、やはりどうしても発生してしまう。また、長い間、炉心で核分裂反応を行った核燃料もやがては新しい物と交換しなければならず、使用済み核燃料という名の高レベル放射性廃棄物となる。一次冷却水系のフィルターや建物の空気をきれいにして外部に出すためのフィルターも放射性廃棄物となる。
    • 放射能を持った物質、つまり放射性物質を何らかの処理をして放射能を消すということが容易には出来ない。その処理に伴う放射線が新たな放射性物質を生み出すからだが、理論上は長い時間をかけてその放射線を放射しつくせば放射能は消えてしまう。ただ放射性物質の中には、1秒も経たずに放射能をほとんど失うものもあれば、数十億年経っても、半分にしか放射線が弱まらない種類もあるので(半減期)、それらが混ざり合った放射性物質は、結局は危険のない状態で保管することでしか問題を回避できない。日本をはじめ多くの国が放射性廃棄物の地下埋設処分を考えている(深地層処分)が、埋められる土地の地域住民は実際の放射性物質の漏洩というリスクを冷静に考えるだけでなく「核のゴミ」という悪いイメージも手伝って、その多くが近隣での処分に反対する。これが放射性廃棄物の処分問題である。広大な国土を持つアメリカ合衆国やロシアのような例を除けば、多くの国で地下埋設の処分地確保に問題を抱えている。
  • 原子炉の廃用に伴う諸問題
    • 原子炉の解体処分は困難な問題であり、解体出来ても出来なくても長期にわたり電力を生まなくなった原子炉を維持管理しなければいけないが、今後半永久的に発生する廃炉や放射性廃棄物の永続的な維持管理コストについて信頼できる費用見積もりがなく、我々の子孫にそれらコストを付け回しているという点でも問題を抱えている。
    • 原子力発電所の解体に必要な費用については、総合エネルギー調査会原子力部会の平成9年の原子力安全委員会月報によると、110万kW級原子力発電施設を解体した場合に発生する約50万トン~55万トンの廃棄物のうち、放射性廃棄物として適切な処理が必要な廃棄物はわずか1万トン前後で(総廃棄物の3%以下。すべて低レベル放射性廃棄物として処分可能と想定)、残りの97%以上(コンクリートや鋼材など約49~53万トン)はビル解体等の廃棄物と同様の扱いの一般産業廃棄物として処分可能と想定[[2]]。国内原子炉についてはそれら試算に基づいて廃炉費用の積み立てを1987年3月より「原子力発電施設解体引当金」として行っているが、電気事業連合会は、国内55基の原子力発電所の解体費用が、これまでの想定より、原子炉解体によりコンクリートや金属片などの放射性廃棄物が大量に発生するなどの理由で、想定してきた約2兆6000億円から約2兆9000億円に膨らむとの試算を2007年2月8日に経済産業省に示している。なお、すでに廃止措置が決まり、現在解体作業が進行している米国初期の原子炉であるメーンヤンキー原発では、コンクリートや原子炉構造物など廃棄物の半分が放射能を帯びている[[3]]結果となっており、2010年頃から徐々に本格化する、国内原子炉の原子炉老朽化による廃炉に伴う費用予測がそもそも正しい想定に基づいて試算が行われているのか疑わしいという意見もある。
  • 高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していない
  • 発電施設および核廃棄物へのテロの危険
  • ウラン資源の可採埋蔵量に由来する資源枯渇問題
    • 地殻中のウラン235のみの利用を考えた場合、資源がそれほど豊富なわけではない。また、需要が多い中国などに海外での輸入の買い負けが指摘されている
  • 軍事転用の問題
    • 天然ウランから核燃料を作る工程で発生する劣化ウランは劣化ウラン弾となる
    • 核廃棄物はそのままで汚い爆弾となる
    • 原子力発電所そのものが攻撃目標になる
    • 使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは濃縮を行えば原爆などに転用することが可能とも言われている。
  • 起動停止の所要時間が長い(通常停止)
    • 炉の特性上、通常は負荷追従運転を行わない(日本の場合)
    • 運転停止による損失が非常に大きく、運転率を極めて高い水準に維持し続ける必要があるため、夜間電力の利用促進など、需要の増減の調整能力がきわめて弱い
  • 停止中の炉心冷却問題
    • 現在の原子炉では運転停止中であっても残留熱除去系・余熱除去系による炉心の冷却が常に必要で、地震等の苛烈な事故発生時に発電所外部電力・自家発電電力の喪失時には、最悪の場合、炉心融解の危険がある
  • 施設建設や周辺整備などに多大なコストがかかる
    • 原子力発電所の設備・施設そのものが火力発電所と比べてコスト高
    • 対応する揚水発電所の建設コスト
    • 建設反対運動への対応として、地元への見返り事業等に大きなコストがかかる
    • 電気利用者・電力会社と施設周辺に住む住民との利益・不利益が相応でない可能性がある
  • 地方の寒村などに建設されることによる弊害
    • 電力の生産地と消費地が離れて存在するため、長距離送電時の電力ロスが大きい、送電網のコスト、 また送電線事故での停電リスクが増大する
  • 地質学的側面から、立地場所が限定される
    • 原子炉を冷やすのに海水を使い、原子炉で暖められた海水が再び海に戻った時、海洋生物に何らかの悪影響があるのではないかと懸念されている。
  • 原子力発電所の新規建設数が減少していることからメーカーの原子力部門における技術の継承が困難となってきている
    • 将来の原子力発電を担ってくれる若手技術者が減少傾向にある
  • 日本では、広島長崎への原子爆弾投下や、第五福竜丸米軍水素爆弾実験で発生した放射性降下物(いわゆる「死の灰」)被曝の被害を受けたこともあり、放射能放射線に対して嫌悪感を抱く人は多く、建設時には地域住民の反対運動が頻発する。

公正な評価の難しさ

原子力発電に関する様々な評価をする場合、極めて高い専門性が必要となる。しかし、日本においては原子力発電の研究者の多くが電力会社、発電プラントメーカ、原子力関連産業、原子力関連機関で働いているか、または国の核開発予算から研究助成金を受け取っている大学教授などある。したがって日本政府の原子力政策に対して、批判的な発言をしたり、この政策に不利となるデータを出すことはかなり困難であると推察できる。一方、原発反対派の発言においても専門知識の欠如に起因すると思われる事実誤認や公平性に欠けていると思われる偏った視点での分析がなされていたり、情緒的議論に流れがちである。

原子力発電所の事故

炉心融解

臨界状態は、核分裂反応が連鎖している状態であるが、仮にこの連鎖が異常に高い効率で核分裂反応が進む とすぐに核燃料内部が中性子であふれ、出来るだけ速やかにすべてのウラニウム235の原子核を核分裂される方向へと働いてしまう。制御を超えて一度に進む核分裂反応は、エネルギーの発生も一度に起こり、発生する高熱と強力な放射線があたりに放たれてしまう。これが核爆発である。

ただし現在の発電用原子炉で核爆発が起きることは全く無く、起こりえる最悪の可能性としては進みすぎた核分裂反応による高温のために炉心が溶け落ちる炉心融解である。炉心融解を避けるために、核燃料の精製度や量、形、配置、反射材、制御棒の高さ、水の圧力、ホウ酸の量、可燃性毒物の量などの調整により制御された範囲内で核分裂反応が進むようにしている。また、多少の調整のブレがあってもすぐには制御を離れないように、最初から炉心での反応そのものが簡単には進まないように設計している(負の反応度)。

発電コストなどのデータ

1kWhあたりの発電コスト

経済産業省(旧通産省)による試算

平成11年に通商産業省資源エネルギー庁が発表した試算によれば、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。[12]

  • 原子力  5.9
  • LNG火力 6.4円
  • 石炭火力 6.5円
  • 石油火力10.2円
  • 水力  13.6円


なお、この試算は漁業補償金や原子力に特有な再処理、バックエンドコストを含んだもの(燃料費は1kWhあたり1円から2円と見積もられている。)だが、電源三法による地元交付金等は含まれていない。とされているが、これまでに、こうした事業で見込みよりも安く済んだことは無く、バックエンドコストも未だに実行されていないので増える可能性が大きい。また、電源三法交付金は1kWhあたり44銭5厘であったものが37銭5厘程度まで下がっているが、電源構成比(約30%)から考えれば、原子力のためだけに殆ど使われる費用ということでは3倍程度と考えるべきである。つまり、1.12円程度は原子力発電の発電原価に付加されねばならないということになる。よって原子力発電所の発電原価は7円程度と考えられるべきで、さらにプルサーマルを行った場合の燃料費の増大などを勘案すればもっと高価と考えられる。今後、すべての再処理作業を行った場合幾らになるのかという試算も必要だろう。ただし、火力発電は現在の燃料価格の高騰により上記で示された値段から大幅に高騰していることは確実であり、その点も考慮する必要があると推測される。原子力発電コストは燃料費の割合が低いが故に、燃料費の高騰を原因とする値段の高騰を招きにくい特性がある。また、コストが安いといえども、原子力発電の発電コストは運転率80%を前提とした数字であり、安定連続発電を続けないと発電コストが幾何級数的に跳ね上がる性質があることには注意するべきである、という意見がある。

事故や老朽化により廃棄された原子炉の最終処分までのコストや最終処分後の半永久的な管理コストについての信頼できる費用見積もりが、原子力発電の総発電コストを考える上で充分に考慮されていない、という意見がある。

CO2を出さないということでは、水力や地熱、太陽、波力など再生可能エネルギーが多くの人たちの期待を集めているものの、政府や原発推進派からはコスト面での競争力が無い点を攻撃されるが、今後、投資や研究開発によってどれほど下がるのかという事も考慮に入れた上での試算が必要である、という意見がある。[13]

原子力資料情報室による試算

2005年6月に特定非営利活動法人原子力資料情報室が発表した試算によれば、運転年数40年の場合、1kWhあたりの発電コストは以下の通り。 [14]

  • 原子力  5.73円
  • LNG火力 4.88円
  • 石炭火力 4.93円
  • 石油火力8.76円
  • 水力  7.20円

1kWhあたりの二酸化炭素排出量

温室効果の原因となる二酸化炭素の排出量が少ないことは、原子力発電の利点の一つとされている。電力中央研究所が平成12年に発表した試算によれば、原子力をはじめとする各種発電方式について、発電所の建設から廃止までの発電量と二酸化炭素排出量を考慮した、1kWhあたりの二酸化炭素排出量は以下の通り。 [15]

  • 原子力 22グラム
  • 水力 11グラム
  • LNG火力 608グラム
  • 石油火力 742グラム
  • 石炭火力 975グラム

原子力発電では核分裂反応に起因する二酸化炭素の排出は全くないが、発電所の建設・運用・廃止や燃料の生産・輸送、廃棄物の処分等に起因する二酸化炭素の排出も上記の試算には含まれているため、若干の排出が見られる。この点は水力発電も同様である。

発電所建設費の例

  • 原子力 泊発電所3号機 約2900億円 91.2万kW(出力) 平成20年10月運転開始
  • 水力(揚水型) 神流川発電所 5250億円 270万kW(最大出力) 1997年5月工事開始、2011年7月工事完了予定
  • 天然ガス 市原発電所 約100億円 11万kW(出力) 平成16年10月運転開始
  • 石炭 敦賀火力発電所2号機 1275億円 70万kW(出力) 平成12年9月運転開始

世界の原子力発電所開発状況(2003)

数字(基数)は計画中の発電所を含む。()内は発電量、単位は万kW。

世界合計:498基(43549)


関連項目

注釈

  1. ^ ある試算では、1970年代では建設費が1基1億7000万ドル程度だったものが、1983年には17億ドルになり、1980年代後半では50億ドルであったとされている
  2. ^ アメリカでは、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故により原子力発電の開発が中止されたと考える人が多いが、実際はそれ以前に既に開発が中止されていた。
  3. ^ 1957年当時。現在は沖縄電力も含めて10社。ただし現在でも沖縄電力は日本原子力発電に出資していない。
  4. ^ Key World Energy Statistics” (PDF). International Energy Agency (2006年). 2006年11月8日閲覧。
  5. ^ a b World NUCLEAR POWER REACTORS 2005-06, 15/08/2006, Australian Uranium Information Centre”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  6. ^ NUCLEAR POWER PLANTS INFORMATION, by IAEA, 15/06/2005
  7. ^ Impacts of Energy Research and Development With Analysis of Price-Anderson Act and Hydroelectric Relicensing”. Nuclear Energy (Subtitle D, Section 1241). Energy Information Administration (2004年). 2006年11月8日閲覧。
  8. ^ Eleanor Beardsley (2006年). “France Presses Ahead with Nuclear Power”. NPR. 2006年11月8日閲覧。
  9. ^ Gross electricity generation, by fuel used in power-stations”. Eurostat (2006年). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  10. ^ EnerPub (2007年6月8日). “France: Energy profile”. Spero News. http://www.speroforum.com/site/article.asp?idarticle=9839&t=France%3A+Energy+profile 2007年8月25日閲覧。 
  11. ^ World Nuclear Association (2007年8月). “Nuclear Power in France”. 2007年8月25日閲覧。 (alternate copy)
  12. ^ 出典:総合エネルギー調査会原子力部会(第70回)資料3:原子力発電の経済性について(平成11年12月)
  13. ^ 参考:エコノミストの再生可能エネルギーに関する論評。 http://cruel.org/economist/economistnewenergy.html
  14. ^ 出典:公益事業学会第55回全国大会:原子力発電の経済性に関する考察(2005年6月12日)
  15. ^ 出典:(財)電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価」研究報告:Y01006(平成13年8月)

参考資料

JAIF資料