辰砂
辰砂 | |
---|---|
分類 | 硫化鉱物 |
化学式 | HgS |
結晶系 | 三方晶系 |
へき開 | 三方向に明瞭 |
モース硬度 | 2~2.5 |
光沢 | 金剛光沢 |
色 | 洋紅色 |
条痕 | 紅色 |
比重 | 8.1 |
プロジェクト:鉱物/Portal:地球科学 |
辰砂(しんしゃ、cinnabar)は硫化水銀(II)(HgS)からなる鉱物である。別名に賢者の石、赤色硫化水銀、丹砂、朱砂、水銀朱などがある。日本では古来「丹(に)」と呼ばれた。水銀の重要な鉱石鉱物。
概要
不透明な赤褐色の塊状、あるいは透明感のある深紅色の菱面体結晶として産出する。『周禮』天官冢宰[1]の鄭注に「五毒 五藥之有毒者」のひとつにあげられる[2]など、中国において古くから知られ、錬丹術などでの水銀の精製の他に、古来より赤色(朱色)の顔料や漢方薬の原料として珍重されている。『史記』巻128貨殖列伝[3]に「而巴寡婦清 其先得丹穴 而擅其利數世」、巴の寡婦清、その先んじて丹を得るも、しかしてその利を擅(ほしいまま)にすること数世と、辰砂の発掘地を見つけた人間が巨利を得た記述がある。
中国の辰州(現在の湖南省近辺)で多く産出したことから、「辰砂」と呼ばれるようになった。日本では弥生時代から産出が知られ、いわゆる魏志倭人伝の邪馬台国にも「其山 丹有」と記述されている。古墳の内壁や石棺の彩色や壁画に使用されていた。漢方薬や漆器に施す朱漆や赤色の墨である朱墨の原料としても用いられ、古くは吉野川上流や伊勢国丹生(現在の三重県多気町)などが特産地として知られた。平安時代には既に人造朱の製造法が知られており、16世紀中期以後、天然・人工の朱が中国から輸入された。現在では奈良県、徳島県、大分県、熊本県などで産する。
辰砂を空気中で 400–600 ℃ に加熱すると、水銀蒸気と亜硫酸ガス(二酸化硫黄)が生じる。この水銀蒸気を冷却凝縮させることで水銀を精製する。
硫化水銀(II) + 酸素 → 水銀 + 二酸化硫黄
陶芸で用いられる辰砂釉は、この辰砂と同じく美しい赤色を発色する釉薬だが、水銀ではなく銅を含んだ釉薬を用い、還元焼成したものである。また、押印用朱肉の色素としても用いられる。
黒辰砂
黒辰砂(くろしんしゃ、metacinnabar)の化学組成は同じ HgS だが、結晶構造が異なる。辰砂を 344 ℃に加熱すると黒辰砂が生成し、温度が下がると辰砂に戻る。
硫化水銀
硫化水銀には、赤色の辰砂と黒色の黒辰砂とが天然に存在するが、いずれも硫化水銀(II)(HgS)である。また硫化水銀には、酸化数の異なる黒色の硫化水銀(I)(Hg2S)も存在するが不安定で、速やかに単体水銀と硫化水銀(II) に不均化する。
漢方薬
伝統中国医学では「朱砂」や「丹砂」等と呼び、鎮静、催眠を目的として、現在でも使用されている。有機水銀や水に易溶な水銀化合物に比べて、辰砂のような水に難溶な化合物は毒性が低いと考えられている。
辰砂を含む代表的な処方には「朱砂安神丸」等がある。
脚注
参考文献
- 松原聰 『フィールドベスト図鑑15 日本の鉱物』 学習研究社、2003年、ISBN 4-05-402013-5。
- 国立天文台編 『理科年表 平成19年』 丸善、2006年、ISBN 4-621-07763-5。
- 小葉田淳 「朱」『日本史大事典 第3巻』 平凡社、1993年、ISBN 4-582-13103-4。
関連項目
外部リンク
- Cinnabar、Metacinnabar(mindat.org)
- Cinnabar Mineral Data、Metacinnabar Mineral Data(webmineral.com)