聖霊

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聖霊(せいれい、: Άγιο Πνεύμα: Spiritus Sanctus: Holy Spirit: الروح القدس)は、旧約聖書(ヘブライ語聖書)を起源とする宗教用語。ヘブライ語では「ルーアハ・カドシュ(רוח קדש)」という。「聖霊」という言葉自体はアブラハム系諸宗教ユダヤ教キリスト教イスラム)に共有されているが、各宗教間で意味は大きく異なる[1][2]。特にキリスト教では、三位一体説におけるの位格の一つを指す重要な概念。

聖霊について論じる神学聖霊論という。後述するようにイスラムでは聖霊を重要視しないため、聖霊論は主にキリスト教神学において発展した。

概略

ユダヤ‐キリスト教における聖霊

聖霊(またはたんに「霊」)は新約聖書のさまざまな箇所に登場し、マタイ福音書3章16節では「鳩」によって表象され[3]、ヨハネ福音書3章8節では Spiritus の語が「風」と「霊」の二重の意味を持たされている[4][5]

聖書において「霊」は、ヘブル語ギリシャ語も、共に「風」あるいは「息」と訳すことができる語で表現される。詩篇55篇11節やマタイ1章18節などは、この「霊」が「聖なる」という語で修飾され、「聖霊」と解釈されるが、特別に「聖なる」という語で修飾されていない場合にも文脈により聖霊を指すこともある。

旧約聖書においては、預言者や特別な人にだけ聖霊は注がれ(民数記11章25,6節で長老とエルダデとメダデへ、列王記下2章9節で、エリシャへ等)、神の働きを行った。しかし、後の時代に、すべての人に聖霊が注がれる、と預言されていた(ヨエル書2章28節)。

新約聖書において、イエスは聖霊によって身ごもり、公生涯をはじめる時のヨハネによるバプテスマを受けた後、聖霊を受け、聖霊に導かれて、荒野に行き、40日の試みに会った。また、イエスは、聖霊のことを、イエスが去った後に来る「助け主」であると弟子たちに語った。イエスの昇天後、弟子たちが五旬節に集まっていたとき、聖霊が注がれた出来事がペンテコステである。

聖霊は神に対して人のために執り成し[6]、人が聖霊によって内面から刷新されることにより「善良な行い」を行うことができるようになる。

トマス・アクィナスは『神学大全』において聖霊を「父なる神と子なるイエスの永遠の愛」と表現している[7]。また、ヒッポのアウグスティヌスは『三位一体論』において「神の属性」と表現している[8]

イスラムにおける聖霊

聖霊という概念自体はユダヤ‐キリスト教固有のものではない。同じアブラハムの宗教であるイスラムにおいても存在しており、コーランの中で数回言及されている(アル・ルゥ‐アル・クッズ、アラビア語: الروح القدس)。ただし、キリスト教ほど厳密な概念ではなく、一般的には最高位の天使ジブリール(※キリスト教におけるガブリエル)を指すと考えられている。また、イスラムでは三位一体説を採らないため、聖霊とアラーは全く別の存在として捉えられている。

イスラムでは、アラーの導きによって聖霊が母親の子宮に赤子を宿す(『コーラン』66章12節ほか)と考えられているため、出産が母体に危険を及ぼす場合を除いて中絶を禁じている[9]

言葉の由来及び訳語

旧約聖書』では「ヘブライ語:רוח קדש」(ルーアハ・カドーシュ)、『新約聖書』では「: Πνεύμα Άγιον」(プネウマ・ハギオン)などの用語と対応する漢訳聖書からの用語である。TDOTは、ルーアハは第一に「空気」を意味し、二義的に動きのある空気「風」の意味を持ち、そこから派生して、生のしるしとしての「息」、さらに「霊」の意味が出てきたと推測している[10]。ウガリット語の rh は「におい、香り:風」の意味がある。プネウマは動詞「吹く」(: πνεω)から派生した。

日本ハリストス正教会における「聖神」

[11]正教会に属する日本ハリストス正教会では「聖霊」に相当する位格について、": Πνεύμα"(プネウマ)に「神(しん)」、": ψυχή"(プシュケ)に「霊」をあてる同教会における訳し分けの方法の帰結として、原語のギリシャ語:": Άγιο Πνεύμα"に「聖神(せいしん)」を訳語として当てている。この「神」「霊」の訳し分けは「聖神」にとどまらず、聖書・祈祷書中における全ての": Πνεύμα"(プネウマ)・": ψυχή"(プシュケ)の翻訳に適用されており、教会スラヴ語の訳し分けにも同様に対応している。「精神」等の日本語に見られる通り、英語の"Spirit"にあたる言葉に「神」の字を用いることはそれほど奇異なものではない。英語の「spiritual」に相当する訳語として「属神的(ぞくしんてき)」という訳語さえ生み出された。「せいしん」と呼ぶと、「精神」と混同されるように思う向きもあろうが、祝文(祈祷文)では大体は三つの位格をセットで称えるし、日常会話では「神聖神(かみせいしん)」など様々に呼ぶので、それほど混乱しない。また、印刷物においては「聖神゜(せいしん)」「神゜(しん)」のように、「神」の字の右上に○印を付けることで「神(かみ)」と区別していることもある(字体が存在しないため、本項では半濁点で代用した)。

カトリック教会正教会の間での聖神/聖霊の捉え方の根本的な違いについては、フィリオクェ問題を参照。

なお、中国語ではカトリック教会も「聖神」を用いる。[12]

聖霊の働き

人・教会に関わる聖霊の働き

  • 神の前に自分が罪人であることを認めさせる[13][14]
  • イエスを主であると告白させる(コリントの信徒への手紙一12章3節、イイススの祈りも参照)[15][16]
  • 聖書執筆・編集、宣教:神のことばを思い起こさせ、正しい解釈に導き、宣べ伝えさせる[17][18][19]
  • 信仰者に内在し、神の目に正しい生活・行いをすることができるようにさせる[20]

イエス・キリストに関わる聖霊の働き

イエス・キリストは聖霊によって、処女マリアから生まれたのであり、またマタイ3:16、マルコ1:10、ヨハネ1:32から、イエス・キリストはその働きにあたって聖霊の力を受けたとされる。イエス・キリストは助け主(パラクレートス)なる聖霊(ヨハネ14:16,26、15:26、16:7)を弟子らに約され、その約束どおりペンテコステの日に教会に注がれた聖霊により、教会は前進したと認められている。[21][22]

教派における強調点

福音派新生 (キリスト教)聖化 (プロテスタント)の働きにおける聖霊の働きを強調する[23][24]。また聖霊は「宣教御霊」であると告白される[25]

聖霊の恩恵

聖霊の賜物

旧約聖書(イザヤ書11章2-3節)には聖霊の属性について言及があり、トマス・アクィナスは次の7つを正式に「聖霊の賜物」として挙げている[26]。また、ヨハネ・パウロ2世の著書『カトリック教会のカテキズム』にも同様な記述がある[27]

  • 知恵 - この世界において神の働きを認識できる
  • 悟性 - キリスト教徒としての正しい生き方を理解できる
  • 分別 - 善悪を正しく判断できる
  • 勇敢 - 恐怖を克服して信仰を全うするための覚悟がある
  • 知識 - 神の言葉を知っている
  • 敬虔 - 神や教会に対する深い崇拝の念を抱く
  • 畏怖 - 神の偉大さや崇高さについて畏怖の念を抱く

ただし、上記の7つは主にローマ・カトリック教会における理解[28]であり、これら以外にも「聖霊の賜物」として挙げられるものがある[29]

新約聖書には第一コリント書12章で聖霊の九つの賜物について述べられており、聖霊が「みこころのままに」今も人々に分け与えてくださるものとして記されている。ケネス・E・ヘーゲンはこれらの聖霊の九つの賜物を以下の三つに分類しており、「教会がそれらの賜物を熱心に求める」なら、「御霊は一人一人に個別的に、ご自分がなさりたい通りに分け与えてくださるようになる」と述べている[30]

  • 発言の賜物…「預言」「種々の異言」「異言の解き明かし」
  • 力の賜物…「信仰の賜物」「力の働き(奇跡)」「いやしの賜物」
  • 啓示の賜物…「知恵のことば」「知識のことば」「霊の見分け」

聖霊の結び実

新約聖書(ガラテヤの信徒への手紙5章22-23節)では、肉欲に溺れることでもたらされる結果(=悪徳)と聖霊の導きに従うことよってもたらされる結果(=美徳)を対比する箇所が存在する。聖霊の導きに従うことで得られる恩恵は「聖霊の結び実」あるいは「御霊の実」と呼ばれ、以下の9つが挙げられている[31]

、幸福、安楽、忍耐、慈悲、高潔、忠節、温厚、節制。

脚注

  1. ^ John R. Levison The Spirit in First-Century Judaism 2002 p65 "Relevant Milieux : Israelite Literature : The expression, holy spirit, occurs in the Hebrew Bible only in Isa 63:10-11 and Ps 51:13. In Isaiah 63, the spirit acts within the corporate experience of Israel.."
  2. ^ Emir Fethi Caner, Ergun Mehmet Caner More than a prophet: an insider's response to Muslim beliefs about Jesus and Christianity" 9780825424014 2003 p43 "In Surah al-Nahl (16:102), the text is even more explicit: Say, the Holy Spirit has brought the revelation from thy Lord in Truth, in order to strengthen those who believe and as a Guide and glad tidings to Muslims."
  3. ^ ウィキソース出典  (英語) マタイによる福音書(口語訳), ウィキソースより閲覧。  3章16節
  4. ^ ウィキソース出典  (英語) ヨハネによる福音書(口語訳), ウィキソースより閲覧。  3章8節
  5. ^ シュトゥットガルト版ヴルガータ聖書 ヨハネ福音書(ラテン語版ウィキソース) 3:8
  6. ^ ローマ人への手紙8章27節
  7. ^ http://www.newadvent.org/summa/1037.htm
  8. ^ http://www.newadvent.org/fathers/130105.htm
  9. ^ 英語版ウィキペディア「w:Islam_and_abortion」より。
  10. ^ G. Johannes Botterweck, Helmer Ringgren, Heinz-Josef Fabry (eds) , Theological dictionary of the Old Testament (TDOT) vol.XIII, pp.365-402
  11. ^ 本節出典:質問:「アミン」「ハリストス」「聖神゜」「生神女」の意味は?(正教会の語彙)教派いろいろ対照表
  12. ^ 中国語版「カトリック教会のカテキズム」
  13. ^ ヨハネの福音書16章8節「その方(聖霊)が来れば、罪について、義について、また、裁きについて、世の誤りを明らかにする」
  14. ^ Millard J. Erickson(1992). Introducing Christian Doctrine.. Baker Book House. p. 279.
  15. ^ 『新聖書注解 新約 2』339頁、いのちのことば社 ISBN 9784264000068
  16. ^ カリストス主教 講演第5回 前 イイススの祈りの実践
  17. ^ 第二テモテ3章16節「聖書はすべて神の霊の導きの下に書かれ」、ヨハネの福音書14章26節「父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊が、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる」
  18. ^ A.E マクグラス『キリスト教神学入門』p. 430
  19. ^ その他使徒行伝(使徒の働き)2章以降における聖霊を受けた後の弟子たちの宣教を参照
  20. ^ Millard J. Erickson (1992). Introducing Christian Doctrine.. Baker Book House. pp. 265–270.
  21. ^ アウグスティヌス『三位一体論』
  22. ^ 『キリスト教大辞典』教文館
  23. ^ 宇田進『福音主義キリスト教と福音派』いのちのことば社
  24. ^ 尾山令仁『一問一答』いのちのことば社
  25. ^ ローザンヌ誓約
  26. ^ http://www.newadvent.org/summa/3.htm
  27. ^ http://www.scborromeo.org/ccc/p3s1c1a7.htm#1831
  28. ^ 英語版ウィキペディア「Seven gifts of the Holy Spirit」の項目より
  29. ^ 英語版ウィキペディア「Spiritual_gifts」に詳しい。
  30. ^ 『聖霊の九つの賜物』p.7,11,12 ケネス・E・ヘーゲン エターナル・ライフ・ミニストリーズ 2010年 ISBN 4900855707
  31. ^ http://www.allaboutgod.com/fruit-of-the-spirit.htm

参考文献

  • 『世界最強の力…聖霊』 キャサリン・クールマン エターナル・ライフ・ミニストリーズ ISBN 4900855375

関連項目

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