組合

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組合(くみあい)とは、一般的な意味では、何らかの目的で設立された団体民法上は、複数の当事者が出資をして共同事業を営む契約をいい、また、その共同事業体のことをいう。その他、「組合」の語を含む制度がさまざまな特別法によって設けられている。

概説

組合と社団

伝統的な理解によれば、組合は団体の構成員からの独立性が弱い点で社団と峻別されるとみるが、組合であっても営利目的であれば会社設立も可能であり、権利能力及び社団性のない人的団体にのみ民法の組合に関する規定は適用されるということになる[1]。一方、そもそも、現代の実社会における組合と社団の両者を異質なものと捉えることには無理があるとの見解も主張されており、この見解によれば、もはや民法上の組合とは民法の組合に関する規定を適用すべき団体を指すというよりないとされる[2]

組合と法人格

民法上の組合や商法上の匿名組合、あるいは有限責任事業組合などは法人ではないが、農業協同組合事業協同組合生活協同組合健康保険組合など、多くの場合は法人格を有する。「組合」ないし「会社」(ともに本来は同一の単語である。羅: societas、仏: société、独: Gesellschaft)は大陸法系の私法上の概念であり、その歴史は古代ローマに遡る。

「組合」の種類

「組合」には次のものがある。法人格を有しないものはあくまで契約の一種として規定されているが、うち、匿名組合以外のものについては、講学上は合同行為という概念で契約とは区別している。

法人格を有しない「組合」

法人格を有する「組合」

民法上の組合

組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むこと約することによって成立する。日本の民法では典型契約の一種とされる(民法667条以下)。実務上は、「任意組合」や「NK」とも呼ばれる。

民法上の組合に関する規定のうち任意規定については、契約の内容が優先する。よって組合の組織構造は組合によって異なり得る。

実社会においても組合契約は広く活用されている。数人の個人が集まって商売を始めるような場合はもちろん、会社同士の共同企業体(ジョイントベンチャー。JV)も組合である。マンションなど建物区分所有者間における管理組合建物の区分所有等に関する法律3条参照)などは、法人格を取得していない場合は権利能力なき社団であることが多いが、民法上の組合とされることもないとはいえない。また、合名会社会社法の規定により法人格を与えられてはいるものの、その内部関係は組合に類似しており、かつては民法典の組合の規定が準用されていた[3]

日本の民法は、以下、この節では条数のみ記載する。

組合の法的性質

組合の法的性質については諾成有償双務契約に分類できる。組合は形式的には双務契約であるが、組合には双務契約の性質と相容れない点も多く認められる。このようなことから、組合の法的性質については双務契約説と合同行為説とが対立するが[4]、現在では契約というよりも合同行為であると解する説が有力となっている[5][6]。両説とも決定的な論証という点では問題があるとされるが[7]、一般には契約法の規定のうち組合の団体法理と相容れない規定の適用は基本的に排除される(以下を参照)[8][9]

  • 同時履行の抗弁権
    同時履行の抗弁権の組合契約への適用は制限される。すなわち出資義務につき履行済の組合員から出資義務の履行を請求された未履行の組合員は、他組合員の出資義務未履行を理由に自らの出資義務を拒むことはできない[10][11]
  • 危険負担
    危険負担の規定(534条以下や536条1項)の組合契約への適用はない。すなわち不可抗力で出資義務が履行不能に陥った場合においても、当該組合員が534条1項により履行済とされたり、536条により出資義務が消滅することはなく、当該組合員の脱退等の問題として処理される[12][13]
  • 担保責任
    担保責任の規定(560条以下)の組合契約への適用はない。すなわち出資の目的たる権利の瑕疵については、出資の評価変えや当該組合員の脱退等の問題として処理すべきで、組合契約の解除の問題とはならない[14][15]
  • 債務不履行による契約解除
    一組合員の出資義務の履行遅滞は、当該組合員の脱退や組合の解散の問題として処理され、組合契約の解除の問題とはならない[16][17]

ただし、例外的にこれらの規定の適用や類推適用が認められる場合があり得るとされる[18]

組合の成立要件

組合の成立要件は以下のとおりである(667条1項)。

  1. 複数の当事者が存在すること
  2. 当事者たる組合員による出資があること
    組合への出資は財産的価値のあるものであればよく、金銭不動産などはもちろん、債権無体財産権、労務、信用でもよい(667条2項)[19][20]。出資は組合の成立と同時でなくともよい[21]。金銭を出資の目的とした場合において、組合員がその出資をすることを怠ったときは、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならない(669条)。
  3. 特定の共同事業を営むことを目的とすること
    「共同」といえるためには、組合の構成員全員が事業遂行に関与するものである必要がある[22]。営利目的・公益目的・中間目的(慈善親睦等)を問わない[23]。利益の分配がある場合には全員が受け取るものでなければならず、利益を一部の構成員のみが受け取る場合(獅子組合と呼ばれる)は民法上の組合ではない[24][25]。ただし、損失を生じた場合においてそれを負担しない者があってもよいとされる[26]。事業は継続的なものでなくとも一回限りのものであってもよい(当座組合と呼ばれる)[27]
  4. 当事者が組合の成立を約すること(当事者意思の合致)

組合の財産関係

  • 組合財産の帰属
    組合の財産は「総組合員の共有に属する」と規定されている(668条)。しかし組合においては通常の共有と異なり各組合員による持分の処分や清算前の分割ができないなど団体的拘束を受ける。こうした独特な所有関係を表現するため、学説においては、組合財産は、前述の組合・社団峻別論を前提として、組合員によって合有されるといわれてきた。
    これについて判例は最判昭33.7.22で次のように述べている。「所論のように組合財産が理論上合有であるとしても、民法の法条そのものはこれを共有とする建前で規定されており、組合所有の不動産の如きも共有の登記をするほかはない。従つて解釈論としては、民法の組合財産の合有は、共有持分について民法の定めるような制限を伴うものであり、持分についてかような制限のあることがすなわち民法の組合財産合有の内容だと見るべきである。そうだとすれば、組合財産については、民法667条以下において特別の規定のなされていない限り、民法249条以下の共有の規定が適用されることになる。」
  • 組合の債権
    組合の有する債権は組合を構成する各人に分割されるわけではない。これを直接認めた規定はないが、677条が組合の債務者がその債務を組合員の債権と相殺することができないと規定していることから演繹される(各組合員の分割債権であるならば相殺も可能なはずである)。
  • 組合の債務
    組合の負っている債務も各組合員の負担部分に応じた分割債務になるわけではないことが判決によって確認されているが(大審院昭和11年2月25日判決 民集15巻281号)、各組合員は組合の債務について直接無限責任を負う。すなわち、組合の債権者は各組合員に対して損失分担の割合の限度で直接、際限なく債務の履行を求めることができる。債務を負担する割合は組合員の損失分担の割合に応じて変化するが、債権者がその割合について知らない場合には同じ割合での分割債務になる(675条)のであって、連帯債務になるわけではない。

組合の対内的関係

  • 業務執行者を置かない場合
    組合の業務執行は、共有持分の過半数を持って行われる(670条1項)。
  • 業務執行者を置く場合
    業務の執行は、組合契約でこれを委任した者(業務執行者)が数人あるときは、その過半数で決する(670条2項)。

組合の対外的関係

組合の常務

組合の常務は各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる(670条3項本文)。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない(670条3項但書)。

組合の訴訟上における取扱い

組合は法人ではなく、また、民事訴訟法第29条の「社団」といえるか一義的に明らかではないため訴訟上当事者能力を有するか(訴訟上請求定立の主体またはその相手方となることができるか)争いがある。この点について、判例は一定の組合について当事者能力を肯定した(最高裁昭和37年12月18日民集16巻12号18頁)。したがって、組合を被告として、または、組合が原告となって訴訟を提起することは可能である。もっとも、組合は法人ではないから権利能力の主体となり得ず組合財産は代表名義で登記することが通常である。そこで、組合名義でなされた債務名義(勝訴判決)に基づいてこのような代表名義でなされた不動産に対して執行することができるか困難な問題がある(通説は、執行債権者は民事執行法23条3項および27条2項に基づいて代表者に対する執行分の付与を受け、これによって、強制執行が可能であるとする)。一定の要件を満たす組合について訴訟上の原告とすることは可能である(民事訴訟法29条)が、既判力との関係で困難な問題がある。そこで、組合員全員を被告として訴えを提起する方法(固有必要的共同訴訟となる)や、業務執行組合員を任意的訴訟担当とする方法も検討すべきである。民事訴訟法29条は訴訟上の効果を認めるにすぎない。したがって、組合は私法上の権利義務の主体となることができないことに変わりはないから、訴えは適法であるとしても組合に対する登記請求は棄却となる(最高裁昭和47年6月2日民集26巻5号957頁)。

組合員の変動

  • 組合への加入
    契約である以上、本来であれば旧組合の解散・新組合の成立の手続きを踏むことになるが、このような手続は煩瑣であるので、新規の組合員の加入は他の組合員全員の同意によって可能と解されている[28]
  • 組合員の交替
    組合員の交替(地位の譲渡)は組合契約の定めによるか、または、他の組合員全員の同意により可能である[29][30]
  • 組合からの脱退
    組合からの脱退事由については任意脱退(678条)と非任意脱退(679条680条)とがある[31][32]

組合の消滅

組合はその目的である事業の成功またはその成功の不能によって解散する(682条)。また、やむを得ない事由があるときは、各組合員は組合の解散を請求することができる(683条)。この他、組合契約に定めた解散事由の発生、存続期間の満了、全員の合意、組合員が一人になったときにも消滅する。組合の消滅に遡及効はない(684条620条)。組合が解散したときは清算手続に入り、総組合員が共同して、またはその選任した清算人が清算手続を行う(685条以下)。払戻しは、出資の種類を問わず、金銭ですることができる(681条2項)。

脚注

  1. ^ 大島ほか、pp.146-147
  2. ^ 内田、p.310
  3. ^ 平成17年法律第87号(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)による削除前の商法第68条。
  4. ^ 川井、p.332
  5. ^ 内田、p.309
  6. ^ 遠藤ほか、p.232
  7. ^ 近江、p.276
  8. ^ 遠藤ほか、p.261
  9. ^ 川井、p.332
  10. ^ 遠藤ほか、p.261
  11. ^ 川井、p.332
  12. ^ 遠藤ほか、p.261
  13. ^ 川井、p.332
  14. ^ 遠藤ほか、p.262
  15. ^ 川井、p.332
  16. ^ 遠藤ほか、p.262
  17. ^ 川井、p.332
  18. ^ 近江、p.276
  19. ^ 遠藤ほか、p.258
  20. ^ 大島ほか、p.148
  21. ^ 大島ほか、p.148
  22. ^ 遠藤ほか、p.259
  23. ^ 大島ほか、pp.147-148
  24. ^ 遠藤ほか、p.259
  25. ^ 大島ほか、p.148
  26. ^ 大島ほか、p.148
  27. ^ 大島ほか、p.148
  28. ^ 内田、p.315
  29. ^ 内田、p.315
  30. ^ 大島ほか、p.152
  31. ^ 内田、p.314
  32. ^ 大島ほか、pp.152-153

参考文献

  • 内田貴『民法II 第3版 債権各論』東京大学出版会、2011年2月
  • 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健広中俊雄・山本進一『民法5 契約総論 第4版』有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月
  • 近江幸治『民法講義V 契約法 第3版』成文堂、2006年10月
  • 大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之『プリメール民法4 第2版』法律文化社〈αブックス〉、2003年3月
  • 川井健『民法概論4 債権各論 補訂版』有斐閣、2010年12月

関連項目