更年期障害

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更年期障害
概要
診療科 婦人科学
分類および外部参照情報
ICD-10 N95.0
ICD-9-CM 627.2
DiseasesDB 8034
MedlinePlus 000894
eMedicine article/264088

更年期障害(こうねんき しょうがい、: menopause, postmenopausal syndrome, PMS)とは、卵巣機能の低下によるエストロゲン欠乏、特にエストラジオールの欠乏に基づくホルモンバランスの崩れにより起こる症候群で、その症状がひどく、仕事や家事など日常生活ができないほどの状態をいう。

概要

現在日本では、約2,000万人の更年期の世代(閉経(50歳前後)をはさんだ約10年間)の女性の多くが、エストロゲン欠乏による心身の様々な不調(ほてり・のぼせなどの血管運動神経症状)を有していると言われている。医師により「更年期障害」と診断される人は、更年期女性の2-3割とされている。

特定非営利活動法人 女性の健康とメノポーズを考える会[1]が2002年に行った更年期世代の勤労女性を対象に行った調査では、8割の女性が何らかの症状を有しており、そのうち4割が更年期の症状のために仕事に不都合があったことが判明している[2]

40代以降の男性にも起こることがあり、特に男性に起こる更年期障害のことを男性更年期障害と呼ぶこともある。

症状

情緒不安定、不安感やイライラ、抑うつ気分など精神的な症状が現れることも多い。

いずれも心身症の様相を呈することが多く、症状の強弱には精神的要素が大きくかかわってくる。

原因

女性の場合、閉経期前後になると卵巣機能が低下し、卵巣から分泌される女性ホルモンの一つである卵胞ホルモンエストロゲン)の量が減少することにより起こる。男性の場合、30歳前後より睾丸精巣から分泌される男性ホルモンであるテストステロンの量が減少し、その結果40代後半になってくると更年期障害の症状が起こることがある。

男性更年期障害が、女性の更年期障害よりも比較的問題となりにくいのは、テストステロンの分泌量の低下がエストロゲンのそれよりも緩やかであるため、その症状が表に出にくく、「年のせい」で片付けてしまうことが多くあるせいである。ただし、あくまで女性の場合と比較してということであって、男性の場合も、個人差により強い負担や自覚症状を伴う場合がある。

治療

女性に対しても男性に対しても、ホルモン療法が有効とされるが乳がんの恐れがある。その他、漢方薬プラセンタ療法を使って治療することもある。

女性に対しては、閉経前後に体内で不足してきた女性ホルモン(エストロゲン)を、飲み薬(経口剤)や貼り薬(貼付剤)として補充する「HRT(ホルモン補充療法)」が行われる。欧米ではすでに30年以上の実績があり、日本でも十数年来行われてきた療法で、更年期障害を改善しQOL(生活の質)を高め日常生活を快適に過ごすために有効かつ適切な療法として評価・活用されている[3]

HRTを継続して受けている間に、運動・食事・検診などにも注意するようになるという副次効果も推察されている[3]。月経の有無や症状の種類に応じ、エストロゲン単剤あるいはエストロゲン・黄体ホルモン配合剤などが使用される[4]。エストロゲンの補充によるさまざまな効果が女性の健康とメノポーズを考える会[1]から紹介されている[5][6]

しかし、その利用方法や症状改善の効果については、まだ一般女性には的確な情報が充分に届いていない[3]。女性の健康とメノポーズを考える会[1]からは「婦人科・更年期に詳しい医療機関[7]が紹介されている。また同会では、7年間にわたる1万件を超える電話相談で得られた女性たちのさまざまな生の声(誰にもわかってもらえない更年期の悩みの数々)から更年期の症状を徹底紹介し、第一線の更年期専門医・各界一流の講師陣がバックアップ執筆した内容を一冊の本にまとめ頒布している[8]

日本ではこれまで経口剤、貼付剤が使用されてきたが、2007年に国内初の「肌にぬるプッシュ式ボトルのジェル剤型」エストラジオール外用剤「ル・エストロジェル[9]が新たに承認、発売された[10]。塗布跡が残らず皮膚刺激も少なく毎日の使用が簡便で一定量が取り出せるのが特徴である。

男性に対しては、ほかにクエン酸シルデナフィル[11]のようなED治療薬を使用することもあるほか、生活習慣を改めることにより症状が軽くなることもある。

プラセンタ療法

更年期障害の注射薬として、メルスモン製薬が作っているメルスモン注射薬がある。

漢方薬

漢方では加味逍遥散桂枝茯苓丸柴胡加竜骨牡蛎湯女神散などが用いられる。[12]

今後の課題

1996年の発会以来、女性の健康とメノポーズを考える会[1]は、更年期世代の女性たちが、充実した更年期医療が受け入られるために、「充分にコミュニケーションのとれた医療」[13]医療従事者全体が更年期医療に関心と理解を持つことが、更年期医療に関連するさまざまな問題点の改善に繋がることの重要性を提言している。更年期女性の生涯にわたるQOL向上を目指し、健康作りのための啓発とサポート活動を続けている[3]

現在、更年期世代の人口に比し更年期医療機関がとても少ないため、女性たちは更年期医療機関を探し出すのが容易ではなく、同会の電話相談にも問い合わせが相次いでいる[14]

同会[1]は、「現在、更年期世代の女性たちは、より良い更年期医療を求めている。より多くの女性が各地域で充実した更年期医療を等しく受けることができ、QOLの高い前向きな生涯を歩んでいけるよう、後から続く世代の女性たちのためにも、今、確かな礎を築いて行かなければならないのではないだろうか」[3]と警鐘を鳴らしている。

備考(諸外国との比較)

各国での更年期医療事情調査結果[15][16] :日本でのHRT普及率は、他先進諸国と比べると極めて低く、アジアの中でも低い。

  • 日本:1.5%
  • アメリカ:40%
  • オーストラリア:66%
  • カナダ:45%
  • イギリス:37%
  • アイスランド:47%
  • フランス:41%
  • ベルギー:39%
  • フィンランド:35%
  • 台湾:17.4%
  • 韓国:8.8%

学会

日本更年期医学会(現、日本女性医学学会)[17]は、1986年に産婦人科更年期研究会として発足したが、その後1992年に日本更年期医学会となり、現在では1,600人以上の会員からなる学術団体である。平成23年4月1日より学会名称を「日本女性医学学会(英文名:The Japan Society for Menopause and Women's Health)」に改めた。

事務局を東京都千代田区麹町5-1弘済会館ビルに置いている。 現理事長は、水沼英樹弘前大学教授。

出典・引用

  1. ^ a b c d e NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  2. ^ NPO法人メノポーズを考える会:「東京都生活文化局助成アンケート」2002年
  3. ^ a b c d e 三羽良枝ほか:『HRT(ホルモン補充療法)使用状況に関する医師・医療機関並びに患者へのアンケート調査報告』. 日本更年期医学会雑誌12:282(2004) 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "kou02"が異なる内容で複数回定義されています
  4. ^ ホルモン補充療法に使う薬剤のいろいろ(2009年1月現在) NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  5. ^ HRT(ホルモン補充療法)とは NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  6. ^ 気になったら早めに受診。HRT(ホルモン補充療法)処方でよく改善します 更年期・老年期の腟炎(萎縮性腟炎) NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  7. ^ 全国 婦人科・更年期外来 NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  8. ^ メノポーズを考える会:『更年期一人で悩まないで! - 40代からのヘルスデザイン』古川書房 2003年7月 ISBN:9784892363016(第1章 電話相談にみる更年期世代のさまざまな症状、第2章 知っておきたい更年期の医療、第3章HRT(ホルモン補充療法)、第4章 ヘルスケア <巻末>更年期医療を行っている医療機関一覧〔日本更年期医学会データより〕)
  9. ^ ル・エストロジェル0.06% 患者向医薬品ガイド” (PDF). 医薬品医療機器総合機構 (2007年7月). 2010年1月27日閲覧。
  10. ^ 肌にぬるジェル状のHRT(エストロゲン製剤)が発売になりました NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  11. ^ バイアグラ錠25mg/錠50mg 患者向医薬品ガイド” (PDF). 医薬品医療機器総合機構 (2008年1月). 2010年1月27日閲覧。
  12. ^ 日本医師会『漢方治療のABC (日本医師会生涯教育シリーズ)』日本医師会、1992年。ISBN 978-4260175074 
  13. ^ 医療専門職が充分時間をかけて受診者の話を聞き一緒に考える。情報と意思の交流が充分され、治療法についても受診者の意思が尊重された受診者に納得のいく医療とする。いわゆるカウンセリングは、一定の制限のもとに、精神科のみ保険適用されているのが現状である。
  14. ^ 三羽良枝ほか:更年期医療における、一般女性からみた健康保険の問題点-充分にコミュニケーションの取れる医療、並びに予防医療への健康保険不適応の問題について. 日本更年期医学会雑誌9:104(2001)
  15. ^ 海外の更年期医療状況調査 2008年4月 報告(1) NPO法人 女性の健康とメノポーズを考える会
  16. ^ 有馬牧子:日本女性のHT普及率の社会的現状について~勤労女性の更年期状況とQOLから見た諸外国のHT普及率との比較~. 更年期と加齢のヘルスケア8:60(2009)
  17. ^ 日本女性医学学会

参考文献

  • メノポーズを考える会:『更年期一人で悩まないで! - 40代からのヘルスデザイン』古川書房 2003年7月 ISBN:9784892363016
  • 三羽良枝論文(国立情報学研究所収録) 国立情報学研究所.2010-05-25閲覧。
  • 小山嵩夫論文(国立情報学研究所収録) 国立情報学研究所.2010-05-25閲覧。
  • 三羽良枝:電話相談から見た更年期女性の実情と問題 (特集 現代の更年期) -- (更年期障害とその特徴). 公衆衛生 74(2):109(2010)
  • 有馬牧子:日本女性のHT普及率の社会的現状について~勤労女性の更年期状況とQOLから見た諸外国のHT普及率との比較~. 更年期と加齢のヘルスケア8:60(2009)
  • 三羽良枝:私はこうしている 更年期相談 (特集 中高年女性のヘルスケア--最近の話題). 産婦人科治療 98(6):1003(2009)
  • 小山嵩夫:HRTと副作用 (特集 知っておきたい今日のホルモン療法) -- (更年期). 産婦人科治療 98(-) (増刊):724(2009)
  • 三羽良枝:「新健康フロンティア戦略--健康国家への挑戦」の推進に向けて 更年期世代の女性が受けている医療の現状と提案--女性の視点から. 厚生労働 63(1):28(2008)
  • 小山嵩夫:ホルモン補充療法の問題点と将来 (特集 更年期・閉経後の健康管理).産婦人科治療 96(6):1001(2008)
  • 小山嵩夫:ホルモン補充の今日的意味 更年期とホルモン補充療法 (特集 スローエイジングとアンチエイジング) -- (スローエイジングとアンチエイジングの基礎知識). 臨床看護 33(10):1447(2007)
  • 小山嵩夫ほか:わが国の更年期のヘルスケアと医療の現状. 更年期と加齢のヘルスケア6:282(2007)
  • 小山嵩夫ほか:中高年女性のヘルスケアに関する医療政策提言の必要性について. 更年期と加齢のヘルスケア6:298(2007)
  • 小山嵩夫:不妊・生殖・内分泌 57歳まで10年以上HRTを続けている. こんな時どうする? (特集 診療上のcontroversy--こんな時どうする) 産婦人科の世界. 58(11):1049(2006)
  • 小山嵩夫:女性の更年期障害の症状と治療を理解する (特集1 いつから始める?どう取り組む?更年期障害対策). 食生活 100(10):16(2006)
  • 小山嵩夫:Nursing Lecture(23)ホルモン補充療法(HRT)の現在とこれから月刊ナーシング. 25(14):96(2005)
  • 小山嵩夫:SPECIAL REPORT 今、期待されている更年期医療とヘルスケア. 性差と医療 2(7):763(2005)
  • 小山嵩夫:これからのホルモン補充療法 (特集 今,改めてホルモン補充療法を考える). 産婦人科治療 90(5):836(2005)
  • 小山嵩夫:WHI後のホルモン補充療法の現況 (特集 ホルモン補充療法の新たなストラテジー). 骨粗鬆症治療 4(1):31(2005)
  • 三羽良枝:更年期を迎えるということ--メノポーズを考える会の活動から (特集 更年期へのストラテジー--更年期を人生の素敵な季節にするために). 保健師ジャーナル 60(6): 518(2004)
  • 三羽良枝:更年期医療の現状-より良い医療を受けるには-. 更年期と加齢のヘルスケア3:144(2004)
  • 三羽良枝ほか:『HRT(ホルモン補充療法)使用状況に関する医師・医療機関並びに患者へのアンケート調査』報告. 日本更年期医学会雑誌12:282(2004)
  • 矢野哲:HRTの臨床-更年期障害. Pharma Medica 22(4):33(2004)
  • 陳瑞東:更年期障害. 薬局:55(5):32(2004)
  • 三羽良枝ほか:電話相談からみた更年期外来の現状-更年期外来の実情と受診者はどのように考え、何を求めているか. 日本更年期医学会雑誌11:78(2003)
  • 小山嵩夫:不定愁訴と更年期指数. 産婦人科治療 87(3):266(2003)
  • 小山嵩夫:更年期障害の漢方薬の選び方. 薬局 54(7):81(2003)
  • 矢野哲ほか:HRTの更年期障害に対する効果. 治療学 37(10):26(2003)
  • 水沼英樹:更年期障害とHRT. 日医雑誌 130 :746(2003)
  • 大蔵健義:HRTに対する実施法と注意点. 治療学 37(10):21(2003)
  • 野崎雅裕:選択的エストロゲン受容体調整剤とその位置づけ. 治療学 37(10):90(2003)
  • 三羽良枝:ボランティアで見つけた新たな生きがい (特集 女が社会に戻るとき--夢も仕事もあきらめない). 婦人公論 87(8):48(2002)
  • 井上聡:女性ホルモンの作用と作用機序. 日医雑誌.128:1199(2002)
  • 篠崎百合子:更年期に関すること. 薬局 53(3):65(2002)
  • NPO法人メノポーズを考える会:『東京都生活文化局助成アンケート』(2002)
  • 三羽良枝ほか:更年期医療における、一般女性からみた健康保険の問題点-充分にコミュニケーションの取れる医療、並びに予防医療への健康保険不適応の問題について. 日本更年期医学会雑誌9:104(2001)
  • 小山嵩夫:更年期の精神症状はどのように治療されているか:医療の現場から. 日本更年期医学会雑誌 9(1):53(2001)
  • 太田・牧田:閉経期への対応とHRT. medicina 38:2061(2001)
  • 小山嵩夫:医学からみた更年期女性. 日本更年期医学会雑誌 8(1):52(2000)
  • 三羽良枝ほか:更年期医療へ望む事. 日本更年期医学会雑誌7:46(1999)
  • 小山嵩夫:更年期クリニックの Know-How. 日本更年期医学会雑誌 7(1):184(1999)
  • 小山嵩夫:更年期から快適に (特集 新しい健康観). 教育と医学 47(2):1440(1999)
  • 小山嵩夫:更年期障害の診断 (特別企画 更年期). からだの科学 (204):52(1999)
  • 小山嵩夫:簡略更年期指数の背景とその解釈. 日本更年期医学会雑誌 6(1):93(1998)
  • 小山嵩夫:閉経外来の実際. 母性衛生 38(3):114(1997)
  • 小山嵩夫:更年期に差がつく35歳からのヘルシ-・ボディ (特集 年を味方にするからだの装い). 婦人公論 82(5):90(1997)
  • 小山嵩夫:更年期・老年期におけるホルモン補充療法. 日本更年期医学会雑誌 4(1):145(1996)
  • 小山嵩夫:40代女性よ、ダイエットなんかやめなさい. 婦人公論 81(11):188(1996)
  • 小山嵩夫:更年期外来アンケートの集計結果について. 日本更年期医学会雑誌 4(2):297(1996)
  • 小山嵩夫:更年期障害. medicina 32:622(1995)
  • 熊坂・大谷:更年期障害ホルモン補充療法. 産婦人科治療 70:792(1995)
  • 金子均:更年期障害と漢方療法. 産婦人科治療 70:798(1995)
  • 大川玲子:更年期障害. medicina 32:1113(1995)
  • 小山嵩夫:更年期障害. 産科と婦人科 61 Suppl. 220-221(1994)
  • 本庄滋一郎:更年期障害になる素因. 薬局 44(8):5(1993)
  • 木村好秀:更年期障害と自律神経調整剤・向精神剤の用い方. 治療 74(6):92(1992)

関連項目

外部リンク