蟹江一家3人殺傷事件
愛知県蟹江町母子3人殺傷事件(あいちけんかにえちょう ぼしさんにん さっしょうじけん)とは、2009年5月に愛知県蟹江町で発生した殺人事件である。2009年12月9日に捜査特別報奨金制度に指定され、容疑者逮捕により2012年12月7日に指定が取り消された[1]。
概要
事件概要
2009年5月2日午後0時20分頃、愛知県蟹江町蟹江本町の民家で家主の次男が1階和室で倒れて死亡し、三男が手を縛られて首に怪我を負っているのを、警察官が発見。翌5月3日に母親の他殺体が発見された。
司法解剖の結果、2人の殺害時刻を5月1日午後9-10時頃としている。
生存した三男によると同日午前2時ごろに帰宅し、靴を脱いでいる時に背後から強い衝撃を受け、男ともみ合ううちに手を縛られ気を失ったと語っている。三男は自分を襲った人間について「外国人のようなイントネーションの日本語を話していた」と話しているが、帰宅時酔っていたこと、コンタクトが曇ってしまったこともあり、顔については覚えていないと語っている。
また、駆けつけた警察官が玄関にうずくまる黒ずくめの男を目撃したが、被害者の一人と勘違いし、警察官が応援要請している間に逃走した。
その後の捜査から、犯人が被害者宅に長期間滞在しており家人が用意していた食事を食べた形跡や血のついた自分の衣類を洗濯機で洗った形跡があること、飼い猫まで惨殺する手口など不可解な行動が明らかになっている。
犯人像
犯人は
- モンキーレンチ(母親と次男を殺害するのに用いた凶器。国内で約3000本が流通しているが、工場に納入されるもので小売店で扱っていない)
- クラフトナイフ(三男を切りつけた凶器)
- 血のついたパーカー(サイズはLLサイズで全国で2003年から2004年にかけて、約450点販売されており、洗濯をせずに長期間着ていた可能性がある)
- 不織布マスク(スーパーマーケット、ドラッグストアなどで購入できる大量生産品)
- 防寒手袋
を遺留品として残していった。
食事に残っていた唾液から犯人の血液型はO型であると判明しており(一家にO型の人間はいない)、個人を特定する指紋も検出された。
容疑者
2012年12月7日、別の自動車窃盗事件で逮捕されていた当時29歳の中国国籍の男のDNAが本件の遺留品と一致したため、強盗殺人および強盗殺人未遂の疑いで逮捕された[2]。男は事件当時、三重大学の留学生だった。
動機については「生活に困っていた」と供述し、ひったくり等で金を得るため当時住んでいた三重県から名古屋市へ向かったが、都会の雑踏で犯行を断念し、戻りの急行電車が最初に停まった近鉄蟹江駅で降りたという[3]。空き巣狙いに切り換えて周辺を物色していたところ、被害者宅に飼い猫が入っていく様子を目撃し、玄関が施錠されていないことに気付いて侵入先に選んだ。凶器のスパナや小刀は事前に準備していたとみられ、「侵入し、見つかったら殺すつもりだった」と述べているという[4]。
三男のみ生存させたまま長時間滞在した理由は「命乞いされたため」と話しており、金のありかを尋ねたり血のついた衣服の洗濯など証拠隠滅を図る間に言葉を交わしたりするうち、殺害をためらうようになったと見られる[5]。
2015年に名古屋地方裁判所で裁判員裁判が開かれ、2月20日に松田俊哉裁判長は検察側の求刑通り被告人に対して死刑判決を言い渡した[6]。東海3県で行われた裁判員裁判で死刑判決が下るのは初めて(後に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件でも主犯の被告人に対して死刑判決が下っている[7])。同年には名古屋高等裁判所にて被告人の控訴が棄却され(石山容示裁判長)[8]、12月現在は被告人が最高裁判所に上告、最高裁にて係争中である。なお、6月4日には三男を含めた遺族3人が被告人に対し損害賠償命令制度[9]に基づいて約1億7800万円の支払いを求めていることがわかった[10]。その後民事裁判に移行し、三男以外の2人は訴訟を取り下げて請求額は5600万円となった。3月24日、名古屋地裁は三男の請求を全額認め、被告に慰謝料など約5600万円の支払いを命じた。判決理由で村野裕二裁判長は「極めて悪質、重大な事件で、動機も身勝手で同情の余地はない」「家族を奪われた原告の悲しみや心痛は余りあるものだ。被告は真摯な反省をしているとは認め難い」と指摘した。三男の代理人弁護士は「請求を認容する判決をいただいたが、実際に被告から履行される可能性がないに等しいことを考えると、誠に遺憾でならない」とのコメントを出した[11][12]。
出典
- ^ “懸賞金の指定取り消し=容疑者逮捕で警察庁”. 時事通信. (2012年12月7日)[リンク切れ]
- ^ “愛知一家殺傷:29歳の中国国籍の男 強盗殺人容疑で逮捕”. 毎日新聞. (2012年12月7日)[リンク切れ]
- ^ “名古屋で盗み断念し現場へ=逮捕の男、電車で移動-愛知親子3人殺傷”. 時事通信. (2012年12月8日)[リンク切れ]
- ^ “愛知・一家3人殺傷事件 男「見つかったら殺すつもりだった」”. FNN. (2012年12月8日)[リンク切れ]
- ^ “愛知一家殺傷:命ごいされ、三男殺害ためらう”. 毎日新聞. (2012年12月8日)[リンク切れ]
- ^ “愛知・蟹江の母子3人殺傷、被告に死刑判決 名古屋地裁”. 朝日新聞デジタル. (2015年2月20日) - オリジナルからのアーカイブ
- ^ なお、この被告人は闇サイト殺人事件で無期懲役刑が確定した後に碧南事件で逮捕されている。
- ^ “高裁、一審の死刑判決支持 愛知・蟹江の3人殺傷”. 朝日新聞デジタル. (2015年10月14日) - オリジナルからのアーカイブ
- ^ 犯罪被害者支援のため、重大事件の刑事裁判の判決後、同じ裁判官が公判記録を使って賠償額などを審理する制度。
- ^ “死刑判決の被告に、家族3人を殺傷された遺族が賠償請求”. 産経ニュース. (2012年6月4日) - オリジナルからのアーカイブ
- ^ 『中日新聞』2016年3月25日朝刊社会面「蟹江の3人殺傷被告に5600万円賠償命令 名古屋地裁」
- ^ 『産経新聞』2016.3.24 15:43「3人殺傷で32歳の中国人被告に賠償支払い命令、5600万円」