夢の雫、黄金の鳥籠

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夢の雫、黄金の鳥籠』(ゆめのしずく、きんのとりかご)は、篠原千絵による日本漫画作品。

姉系プチコミック』(小学館)にて創刊号(『プチコミック』2010年7月号増刊)より連載されている。単行本はフラワーコミックスαより刊行され、2015年8月の時点で既刊7巻。

あらすじ

オスマン帝国皇帝、スレイマン1世の后・ヒュッレムの生涯を描く歴史漫画

ルテニアの小さな村で生まれ育った少女・アレクサンドラは、鳥のように自由に生きたいという叶わぬ夢を抱いていた。ある夜、村はタタール人の襲撃に遭い、アレクサンドラは奴隷として商人に売られてしまう。マテウスと名乗るイブラヒムに買われて教育を受け彼を慕うようになるが、ヒュッレムという新たな名を与えられてオスマン帝国皇帝スレイマン1世に献上され権謀術数が渦巻く後宮で暮らすことになる。必死に一線を越えてはならないとお互いに律し続けていたが、ヒュッレムが命を狙われた事件を機に結ばれた。ヒュッレムとイブラヒム、イブラヒムの友人アルヴィーゼと皇女ハディージェ、2組の禁断の恋が燃え上がるが、皇帝スレイマンは妹ハディージェと大宰相に抜擢したイブラヒムの婚姻を公表する。

登場人物

ヒュッレム
本作の主人公。
本名は「アレクサンドラ」であり、愛称は「サーシャ」。政情不安定な貧しく小さな村で生まれ育ったルテニア人の少女。生涯村を出ることもなく結婚し子どもを産み育てるという平凡な将来に辟易し、どこへでも飛んでいける鳥を羨ましいと思っていた。タタール人に村を襲撃され、親友と共に奴隷商人に売られる。商人の元から逃げ出そうとした時に出会ったマテウスに諭され、彼の元で教養を身に付ける機会を与えられて、教育係のナシーム夫人からあらゆることを吸収する。マテウスが驚くほどの成長を遂げ、自分を助けてくれたマテウスに仄かな想いを抱いていたが、彼が実はオスマン皇帝の小姓頭イブラヒムであり、全ては主人(皇帝)に彼女を献上するためのものだと知り、強いショックを受けつつ皇帝のハレム(後宮)へ入る。出立前に「自由とは心のありよう」という言葉と扉のない黄金の鳥籠とヒュッレム("朗らかな声"の意)という新しい名を与えられた。詩の朗詠が上手く、ハーフィズのような美しい詩を詠む。
通常、後宮に入った女は大部屋で生活を始め、皇帝と1度以上寝所を共にし側室(イクバル)に召し上げられ個室を与えられるが、イブラヒムという有力な後ろ盾を持ち初日から個室を与えられたため、すぐにほかの妾(ジャリエ)たちの妬みを買う。入宮してわずか10日という短期間で皇帝の伽を務め、その褒美に後宮を自由に出入りし内廷(エンデルン)の皇帝専用図書館へ通う許可をもらい、皇帝の師傳(ララ)であったコジャ・カシム・パシャからも学問を学ぶ。皇帝から深い寵愛を受けるが、ヌール・ジャハーンの死の現場を目撃してしまい、一歩間違えれば死が待ち受ける深い闇を抱える後宮での生き方に迷いを感じながらも「見ざる・言わざる・聞かざる」という慣習や自分の置かれている立場を理解してゆく。しかし、イブラヒムとの関係に気づいたギュルバハルの命令で黒人宦官により海に沈められかけイブラヒムに救われたことを機に遂に一線を越えてしまう。そのため、妊娠がわかっても父親は皇帝スレイマンか恋しいイブラヒムかは自身でもわからずに悩む。直接的なギュルバハルとの対立は避けてきたが、6人の黒人宦官に殺されかけ正体不明の何者かに救われた際、刺客の亡骸をギュルバハルの部屋に運ぶことで宣戦布告した。
第二皇子を出産し、70年前ビザンツを滅してイスタンブルをオスマンの帝都としたスレイマンの曾祖父メフメトの御名を息子に授けられ、自身は第二夫人(イキンジ・カドゥン)として認められた。イブラヒムと結ばれる日を夢見ていたが、スレイマンによるイブラヒムとハディージェの婚姻の発表により永遠に叶わぬことを知る。
イブラヒム(マテウス・ラスカリス)
スレイマン1世に使える小姓頭(ハス・オダ・バシュ)兼鷹匠頭(バシュ・シャーとリンジルリ・アー[1])。ギリシャのパルガ出身。黒髪、黒い瞳の青年。奴隷商人の元から逃げ、襲われそうになったアレクサンドラを助けた。アレクサンドラに学問と教養を身に付ける機会を与え、美しく賢く成長した彼女を皇帝に献上する。出立の前に「自由とは心のありよう」と黄金の鳥籠と"ヒュッレム"という新しい名を与える。
少年の頃に宮廷奴隷として売られ、当時は地方知事だったスレイマンとの出会いをきっかけに、彼に仕える決心をし、自身の才覚で小姓頭の地位まで上り詰めた。帝国の将来のためにも皇帝にはより多くの子をもうけてほしいと思っており、第一夫人と正面から渡り合える美しく賢い女性を育てるためにヒュッレムを買った。スレイマンの好みそうな女性を捜したつもりで自身の嗜好が主君と同じであるため、ヒュッレム献上した後で彼女に対する自身の想いに気づいた。スレイマンにヒュッレムを下賜して貰い、彼女と正式に結ばれるために戦場で手柄を立てたいと望み、ロードス島攻略戦でトルコ軍の勝利のために多大なる功績を立てた。ヒュッレム下賜を実現させ宮廷を下がろうと考えていたが、スレイマンにより大宰相(ヴェジラザム)に任命される。ヒュッレムと第二皇子たる御子をも下賜を願い出ようと大宰相として皇帝と国家の役に立つことを考えたが、皇妹ハディージェの下賜を告げられる。
スレイマン1世
オスマン帝国第10代皇帝(スルタン)。波打つ金の髪と琥珀色の瞳の美丈夫。即位して2ヵ月、まだ25歳という若さのため、先代から仕えている宰相らからはその手腕をまだ疑問視されている。イブラヒムを最も信頼しており、彼が献上したヒュッレムも気に入る。何を考えているのかわからず、ヒュッレムとイブラヒムの禁断の恋に気づいているかのようにも見えるも真意は不明。イブラヒムをそばに置いて自身を助けよと命じ、妹の下賜を公表した。駆け落ちを決行した妹とアルヴィーゼに止めはしないが、今までの恩恵は無いものと覚悟するようにと酷薄に宣言した。
ヌール・ジャハーン
本名は「エリザヴェータ」で、愛称は「ヴェータ」。皇帝の側室。容貌に自信を持つ金髪碧眼の美しい少女。気が強く高慢で、ほかの妾たちから嫌われている。
故郷のチュルケスから奴隷商人に売られてきた時にアレクサンドラ(後のヒュッレム)と知り合う。後宮の宦官に買われていき、皇帝に献上される。後に後宮でヒュッレムと再会した時は皇帝の寵愛を受けて自身の天下だと思い込んでいたが、妊娠を公表した直後にギュルバハルに買収された宦官らによって生きたまま袋に詰められボスフォラス海峡へ沈められてしまう。
マヒデブラン (en)
皇帝の第一夫人(バシュ・カドゥン)。皇帝から「ギュルバハル(春の薔薇)」という愛称を賜っている。第一皇子ムスタファの生母。他の妾が如何に寵愛されようとも気に留めず仮に妊娠しても処分して対処してきたが、ヒュッレムに対するスレイマンの寵愛が増してゆき罠と刺客の刃を回避する彼女が妊娠したことで徐々に追いつめられてゆく。母后に懇願しても不干渉を理由に断られて思いつめるようになり、側近や自身に味方する者を"何者か(実はシャフィーク)"に殺されてゆく。
自身が何処で生を受けたのか両親の顔すら知らずに育ち、教育を施され皇子領の宮殿に売られた12歳の時から漸く第一夫人の座を手に入れた。
ファフラ
ギュルバハルの侍女。次々と味方する側近や宦官が殺害され、ギュルバハルの味方と呼べる最後の人間だった。占い師マリヘフと偽り皇子誕生前にヒュッレムを殺そうとするが、問題のギュルバハルの味方を殺していた犯人であるシャフィークに瞬殺されてしまう。
ナシーム
先代皇帝(セリム1世)の後宮にいた女性。ウクライナ出身。マテウスの屋敷で暮らしており、アレクサンドラの教育係として言葉や礼儀作法、美しい立ち居振る舞い・歌や楽器・裁縫・詩を詠むことなどを教える。
ザヒード
後宮監督官(クズラル・アー)。黒人宦官。イブラヒムがスレイマン1世の信頼を得ていることを快く思っていない。そのため、ギュルバハル側につきヒュッレムから部屋も黄金の鳥籠も取り上げるが、その直後にシャフィークにより殺されてしまう。
シャフィーク
ヒュッレム付きの白人宦官。耳が聞こえず喋れないが、それゆえに勘が鋭い少年。夢見るような場所ではない後宮でヒュッレムが生きていけるようイブラヒムが用意した。ヒュッレムの食事の毒見係をしている。実は、スレイマンらが出征中に起こった謎の殺人事件の犯人であり、裏の仕事(=暗殺)によりヒュッレムの気鬱となる事柄を排除する任務を遂行していたのだった。
ナイマ、ジャミーラ
ヒュッレムの妾時代からの女官。
ハフサ・ハトゥン (en)
母后(ヴァリデ・スルタン)。スレイマン1世の生母。後宮の300人の女の頂点。誇り高き騎馬民族タタールの末裔、クリミア・ハン国の君主(ハン)であるメンギル・ギライの姫君であるため、奴隷市場で買われたり献上された他の妾とは別格であることを矜持とする。スレイマンの子は孫であるから愛しく思うが、その母親だからと妾を特別扱いするつもりは毛頭なく誰であろうと厚遇も冷遇もしない。意図的に無関心を貫き、後宮に干渉しない。そのため、如何に懇願されようともギュルバハルにすら素っ気ない。皇帝の側室となっても産んだ皇子が新たな帝位に就き皇帝の母とならねば権力は掴めぬため、後宮で真に畏怖すべき存在である。後宮での事件をヒュッレムが命じたことだと誤解し、呼び出して騒がしくするなと言い渡す。誰が犯人かは知らないとヒュッレムは事実を口にしても信じた様子はなかった。
アイーシャ
母后付き女官長。初めてヒュッレムが母后に目通りが叶った際、スレイマンの周囲の人々について簡単に説明した。
サハル
ヒュッレムが側室に昇格した後に付けられた女官長。
ピリー・メフメット
大宰相(ヴェジラザム)。第二宰相(ヴェジール・サーニ)ムスタファや第三宰相(ヴェジーラ・サーニス)フェルハトと共に即位して間もないスレイマンの統治に危惧を抱き、ベオグラード遠征に反対する。
コジャ・カシム[2]パシャ
第四宰相(ヴェジール・ラービー)。後に引退した。スレイマンが幼い頃から師傳(ララ)を務めている老人。ヒュッレムに学問を教える。
アルヴィーゼ・グリッティ (it)
イブラヒムの友人。父はベネチアの元首(ドージェ)にもなったアンドレア・グリッティ。名門出身だが、イスタンブル出まれの妾腹のためベネチアでの栄達は望めない身の上。ベネチア共和国の公式の通商だが、個人的にイブラヒムに対する友情から各種の情報や武器を友人を介して帝国に提供する。スレイマンの妹皇女ハディージェとは恋仲であり、スレイマンに皇妹との婚姻の許可を貰うべく奔走する。応援してはいるのだが、次代の皇帝候補たる第二皇子を産んだことで第二夫人に昇格したヒュッレムを皇子と共に賜りたいと考えるイブラヒムに驚愕する。スレイマンの下で高い地位を得てハディージェを賜ろうと考えていたが、イブラヒムとハディージェの婚姻をスレイマンが公表したことで叶わぬ夢となる。
ハディージェ (en)
スレイマン1世の妹。髪質は微妙に異なるも兄と色彩は共通しており、金の巻き毛と琥珀色の瞳。兄に似て無言の圧力で自身に都合の良い流れを作るのが得意。恋人のアルヴィーゼと共にヒュッレムらの恋を応援しているが、ヒュッレムの無邪気な振る舞いにより秘密が漏れる可能性が大きいと危惧を抱く。母后とは異なり、後宮から側室が"消える(殺される)"ことに心を痛めている。後宮の異変を凱旋した兄スレイマンに告げる。アルヴィーゼからの贈り物の絹で仕立てた衣装をヒュッレムに見せて2人の幸福な未来を夢見ていたが、イブラヒムへの降嫁を皇帝たる兄に命じられ愕然とする。思いつめてアルヴィーゼと駆け落ちをしようとするが、スレイマンに見つかった直後に倒れ、アルヴィーゼの子を妊娠していることが発覚する。
ラヨシュ2世
ハンガリー王国の国王。主従揃ってオスマン帝国に対する反感は強く先々帝バヤジット2世が締結した約定による従属から抜け出そうとしたが、新帝スレイマンの性情を見誤って徴税吏を処刑してしまう。そのため、故国の危機を招いてしまう。正妃はオーストリア・ハプスブルク家の大公女マリア
フェルディナント1世
オーストリア・ハプスブルク家の大公。ラヨシュの姉であるハンガリー王女アンナを正妃に迎え、妹のマリアをラヨシュに嫁がせ二重婚姻を結んだ。
メフメト
小姓(ハスオダ)を務める。ベオグラード遠征ではイブラヒムと共に従軍したが、ロードス島遠征の留守中、ヒュッレムに仕えるようイブラヒムより命じられた。顔のソバカスが特徴。ヒュッレムに母后の出自を説明したり、ギュルバハルの茶会に出席すると母后に一緒くたに嫌われると忠告したりした。自身はヒュッレムの望む物は何でも持参し、シャフィークは彼女の気鬱になる事柄は排除せよイブラヒムより極秘命令を受けていた。
ジャン・パリゾ・ド・ヴァレッテ
聖ヨハネ騎士団のオーヴェルニュ軍団を指揮する軍団長。西城壁の守備の担当。フィリップ・ヴィリエ・ド・リラダン総団長の指揮下、オスマン軍と戦うもイブラヒムの工作により一枚岩ではない弱点を突かれてロードス島を後にする。42年後の1565年、マルタ島におけるマルタ大包囲戦で総団長となってスレイマン1世と再び戦うことになる。

用語

新宮殿(イェニ・サライ)
岬の先端にある宮殿。ヒュッレムが後宮(ハレム)に入った時期、政治の中心である外廷(ビルン)と50名の白人宦官と100名余の小姓が仕える皇帝の私生活の場である内廷(エンデルン)がここに移った。
旧宮殿(エスキ・サライ)
金角港(ハリーチ)を望む場所に建つ宮殿。外廷と内廷が新宮殿に移った後、後宮としてのみ使われている。
後宮(ハレム)
皇帝に使える300人の妾が居住する場所。通常、後宮に入った女は大部屋で生活を始め、皇帝と1度以上寝所を共にし側室(イクバル)に召し上げられ個室を与えられる。
皇帝親衛歩兵隊(イェニ・チェリ
オスマン帝国が誇る皇帝直属の精鋭歩兵部隊。キリスト教徒の子弟を徴用して鋭才教育を施し結成された。有事においては最前線を、平時は帝国内の警察権を担い内外に恐れられる存在。
聖ヨハネ騎士団
11世紀に起源を持つ宗教騎士団。テンプル騎士団、ドイツ騎士団と共に、中世ヨーロッパの三大騎士修道会の1つ。拠点を移すごとにロードス騎士団、マルタ騎士団と呼ばれる。

書籍情報

脚注

  1. ^ 第4巻では「シャーとリンジリル・アー」になっている。
  2. ^ 第4巻では「ララ・ゴジャ・カシム」になっている。

出典

  • 篠原千絵 「夢の雫、黄金の鳥籠」 小学館 『姉系プチコミック』創刊号(2010年5月) - 第4号(2011年6月)