垂直離着陸機

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AV-8B

垂直離着陸機VTOL機、Vertical Take-Off and Landing、ブイトールき、ヴィトールき)はヘリコプターのように垂直に離着陸できる飛行機である。

回転翼機であるヘリコプターは慣例的に垂直離着陸機(VTOL機)には含めない。

特徴と分類

XFY-1

ヘリコプターは離着陸場所を比較的自由に選べるが、回転翼端の速度に起因する速度の上限が370km/h前後に存在し固定翼機ほどの高速性はない。固定翼機は高速ではあっても適切な滑走路が必要である。充分な滑走路がない場所への高速飛行という要求を満たすために、固定翼機の高速性とヘリコプターの場所を選ばない離着陸性を兼ね備えた、垂直離着陸機(VTOL機)が開発された。

垂直離着陸機(VTOL機)の離陸時には、通常の固定翼機の特徴である主翼によって生み出される揚力に頼ることなく、強力に下方へ空気を押し出す力の反作用で浮力を得ているために、ヘリコプター同様の相応に強力な動力が必要である。ヘリコプターと異なるのは、離陸後に水平飛行する時には、主翼によって生み出される揚力を利用することで、余力が生じた動力を前進力へと振り向けられるためや、回転翼端の速度に起因する速度の上限という制約がないために、ヘリコプターよりも高速度が得られる点である。

垂直離着陸機(VTOL機)に類似するものとして、STOVL機(Short take-off and Vertical Landing aircraft、短距離離陸垂直着陸機)が存在する。これは離陸時に短距離を滑走し、着陸時に垂直着陸するものである。しかしながら、垂直離着陸機(VTOL機)であっても滑走による揚力を得て離陸した方が搭載重量が稼げて燃料消費も有利であるため、可能な限り離陸時には滑走を行なうのが普通である。よって垂直離着陸機(VTOL機)を名乗りながらも実際には短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)として運用されている例が多く、垂直離着陸機(VTOL機)とは別個の機体として短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)が存在するわけではない。ただし稀に短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)としての使用が不可能、つまり垂直離陸しか不可能な垂直離着陸機(VTOL機)も存在する。

一方で垂直離着陸機(VTOL機)は、滑走しての離陸は可能であっても、滑走しての着陸は不可能なケースがほとんどであり(降着装置が着陸時の衝撃に耐えられないため)、垂直離着陸機(VTOL機)を短距離離着陸機(STOL機)として運用するケースは皆無である。

プロペラまたはローターの角度を飛行中に変えられるようになっているものを特にティルトローターと言い、ティルトローターを備えた航空機をティルトローター機と呼ぶ。

長所と短所

長所

  • 他の固定翼機と違って滑走路を必要としないため、狭い場所にも離着陸できる
  • ヘリコプターと比べて高速度飛行が可能
  • ヘリコプターと比べて航続距離が長い

短所

  • 積載能力・航続距離・最高速度については、同等の固定翼機に劣る。
  • ヘリコプターに比べ構造的に複雑になる。
  • ヘリコプターよりも運用コストがかなり割高。

歴史

ショート SC.1
初の実用ティルトローター機 V-22。
VJ 101。翼端についているエンジンが特徴
F-35Bの垂直離着陸システム解説図

1928年にはニコラ・テスラがフリーバー(Flivver)と言う名前の空中輸送装置の特許を得たが、それが垂直離着陸の最初期に当たる。なお、これは現代のティルトローターに近いものであった。第2次世界大戦後期、連合軍からの爆撃に常にさらされることになったドイツは、滑走路なしで運用できる迎撃機の開発を急いだ。ドイツの各航空機企業はハインケル ヴェスペハインケル ラーハフォッケウルフ トリープフリューゲルなどを提案したが、いずれも実用化されずに終戦を迎えている。

これら航空機は、いずれも「機体を立てて」の垂直離着陸方式を取っており、戦後に連合国も、近いシステムでの実用化を目指し、アメリカはXFYXFV-1を製作し、フランスはC450コレオプテールを開発した。しかしXFY以外は垂直離着陸に成功せず、XFVは一応は飛行にも成功したものの、性能と実用性に問題があり(超音速戦闘機の時代において、いまだ亜音速未満であった)実用化には至っていない。これら、機体を立てて垂直離着陸を実現しようという方式は、テイル・シッター方式とよばれる。一番の問題とされたのは垂直着陸時にパイロットが地面を見る事ができないため、垂直着陸が非常に困難なことであり、この方式での垂直離着陸機の実用化は無理であるという結論に至った。

1953年、イギリスのロールス・ロイスは、スラスト・メジャリング・リグ(en)とよばれる物を開発した。「空飛ぶベッドの骨組み(flying bedstead)」とよばれたこの代物は、まさにベッドの骨組みのような風貌であり、外見的にも航空機とは言いがたい代物であったが、これに使用されたエンジンの思想は、ショート SC.1(en)に使われたエンジンに引き継がれている。さらにこのシステムは、画期的な推力偏向式のジェットエンジンであるロールス・ロイス ペガサス・エンジンの開発へつながった。

イギリスはこのペガサスエンジンを装備するホーカー P.1127の開発を進め、1960年にはホバリング飛行に成功している。さらにその発展型であるホーカー・シドレー P.1154を計画したが、これは試作直前にキャンセルされた。しかし、ホーカー P.1127の開発は続けられ、改良型であるケストレル、そして、それの実用型であり、世界初の実用垂直離着陸機であるハリアーを生み出した。ハリアーは多くの国に採用され、開発国のイギリスを含め、正規空母が導入できない海軍において、軽空母をもって代替する際の搭載機として用いられた。

アメリカはイギリスが開発したハリアーにいち早く関心を示し、強襲揚陸艦の搭載機として海兵隊が採用した。さらには発展型のハリアー II を開発し、元の開発国であるイギリスに逆輸出されるに至っている。1960年代から1970年代にかけて、大型空母の代替として制海艦構想が生まれ、搭載機としてマッハ2級の超音速戦闘機XFV-12を開発したが、結局実用化には至らず、制海艦構想も実現しなかった。ただしその構想は、強襲揚陸艦を必要時に空母の代替として運用するという形で活かされ、また他国の海軍の軽空母に影響を与えた。

NASAは1977年にXV-15(en)というティルトローター機を開発した。ニコラ・テスラのフリーバーから始まり、1950年代にはXV-3やXV-15といった実験機で実験が続いていたこの方式は、JVX計画により本格的な実現に向けた開発が始まった。これには以前から同システムの実験機を開発していたベルなどが開発に携わっている(V-22の原型ともいえるX-22もベルが製作)。この計画はV-22として結実し、同機体は現在配備が進められている。また民間機としては、この方式のノウハウを多く保有するベルがBA609を開発、初飛行に成功している。アメリカではほかに、シコルスキーがS-72という機体を開発している。Xウイングともよばれるこの機体はヘリコプターと固定翼機のあいのこといった機体であり、ヘリコプターとほぼ同様の形で垂直離着陸を行った。また、ボーイングが開発したX-50もこれに近い形を取った航空機であるが、カナード・ローター/ウィング(CRW) という形式を取っている。

1960年代には、フランスがミラージュIIIを基にして、ミラージュIII Vバルザック Vという機体を開発した。この機体は音速飛行が可能であり、水平飛行でマッハ1.3という速度を出すことができた。同機体は1966年3月に垂直離陸から水平飛行への移行に成功したが、あくまで試験機であり、実用化はされていない。 同じ頃、アメリカではXC-142という機体も開発されているが、試作された5機は全て事故を起こしている。 1号機はテイルローター関係の事故で3人死亡などである。 この機体の事故原因は致命的な欠陥ではなく充分に改良が可能だった。だが、ベトナム戦争が緊迫していたために、実用化には至らなかった。

1960年代から1970年代初頭にかけて、ドイツはF-104を基にして、実験機であるVJ 101を開発し、X-1、X-2という2機の試作機が作られた。この機体は音速飛行が可能であったが、コスト高と政治的な都合から実用化されなかった。ドイツは同時期にVAK 191B軽戦闘機、ドルニエ Do 31輸送機といった、VTOL機を開発しているが、いずれも生産には至ってはいない。

東側では、ソ連がYak-38を実戦配備した。これは実験機であるYak-36を実用化したものであり、ソ連のキエフ級航空巡洋艦などの艦載機として設計生産された。この機体は、ハリアーのような推力を偏向しての垂直上昇ではなく、別にリフトエンジンを2基装備していたほか、STOVL機能を有していないという珍しい機体でもある。この方式は水平飛行時にはデッドウェイトを生み出すという欠点があり、またVTOL性能自体が安定性が悪く、生産された200機中20機以上がVTOL時の事故で失われたとされる。また、ソ連は後継としてYak-141を開発したが、ソ連崩壊によって予算がなくなったこと、試作機が事故で喪失したことなどを理由として生産されずに終わり、今後も生産される見込みは薄い。ただし、この機体に使用された方向可変ノズルの技術は、アメリカに売却されてF-35の開発に使用されている。

個人向けのVTOL機としては、モーラーがスカイカー(en)というものを開発している。skycar(空飛ぶ車)は現状浮かぶことはできているが、水平飛行への移行試験が完了していない上、有人での飛行も行っていない。ほかには、地球外での使用を想定したものの中にもVTOL機が存在する。LLRV(Lunar Landing Research Vehicle)というもので、滑走路や平面が存在しない地形での、VTOLによる運用を想定している。

実用機

開発中


コレオプター

コレオプター(Coleopter)は垂直離着陸機の一形式で胴体の尾部にダクテッドファンを備える。全体的に見て尾部に樽の様な外観のファンを備え、小型の操縦席が先端部にある。大半のダクテッドファンの設計と同様にコレオプターは離着陸時に尾部から接地する。代表的な機種は1950年代にフランスのスネクマが開発したC450やアメリカのHiller VXT-8である。

最初のコレオプターの概念は第二次世界大戦中にドイツで考案された。大戦末期の1944年、飛行場が破壊されて使用不能になってもどこからでも離着陸の可能なVTOL迎撃機の開発が検討された。ハインケル社ではWespeとLercheを提案した。Wespeはベンツの2,000 hpターボプロップエンジンを使用する案だったが実現せず、Lercheは2基のDB 605をピストンエンジン動力とした。両方とも実現しなかった。

第二次世界大戦後、大半のVTOLの研究はヘリコプターを中心として行われたがその一方で単純な回転翼の限界が明らかになりジェットエンジンの噴射を直接利用する方法等、他の方法の開発へ開発方針が転換された。スネクマは1950年代にアターVolantシリーズの一環として開発を進めた。最終的に環状翼を持つC450が開発され1959年5月6日に初飛行したが、7月25日に不安定な特性により、大破して開発は打ち切られた。

アメリカでも同様にヒラーヘリコプター社がCharles Zimmermanによって独自に設計された複数のダクテッドファン式のVTOLの開発を進めていた。いくつかの初期の成功の後、陸軍は大きさと重量を増やすように要求を転換したことにより新しい安定性の問題が生じた。これらは全体的に大きさと出力が必要だったが満足のゆく結果は得られなかった。その一方でヒラー社は海軍にコレオプターの設計の概念を提案した。この結果Hiller VXT-8が提案されたがこれはスネクマの設計に似ていたがジェットエンジンではなくプロペラを使用していた。しかしながら、導入されたタービン式のUH-1のようなヘリコプターと比較してピストンエンジン式のVXT-8は著しく性能が劣っていたため、海軍は興味を失った。モックアップのみが完成した。

テイルシッター

テイルシッターは垂直離着陸機の一形態でマクドネルダグラスDC-Xデルタクリッパーのように尾部を下にして離着陸する。この種の航空機として最も有名なのがライアン・X-13である。プロペラ式ではロッキードXFV-1とコンベアXFY-1がある。艦載機としてF-16のテイルシッターが調査され風洞実験用模型が作られた。それは機首が折れ曲がる構造だった。

ナチスドイツの空軍でも同様にテイルシッター計画としてフォッケウルフ トリープフリューゲル(回転翼)戦闘機があった。この計画は翼端の小型ジェットエンジンを噴射することにより主翼を回転させる構造でいわば主翼そのものがプロペラになっていた。完成はしなかったが構造上、通常の着陸は不可能で困難が伴ったと考えられる。

テイルシッターの飛行において離陸時に垂直から水平、着陸時に水平から垂直への遷移飛行では操縦が困難であった。これらの解決の困難な問題を抱えていた為に実用化しなかった。

構造上、回転翼にサイクリックピッチ機構がなければ垂直時の機体制御は困難で、回転翼の反動を打ち消すために同軸反転プロペラが必要とされこれらが構造の複雑化を招く。近年は単段式宇宙輸送機惑星探査機UAVなどで試みられている。

主なテイルシッター

個人用垂直離着陸機

フライングプラットフォーム
ウィリアムズ X-ジェット

1970年代初頭のアメリカ海兵隊のSTAMP (Small Tactical Aerial Mobility Platform)計画で開発が行われていた物で、兵士一名が搭乗して低空を飛行する超小型の飛行機であるが航空機のような翼やへりのような回転翼を持たない特異な姿をしている。 何種類かの試作機が作成されたが量産された物は無く、開発計画は終了しており、一部の試作機が博物館に展示されている。

ギャラリー

関連項目

外部リンク