北朝鮮による韓国人拉致問題

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北朝鮮による韓国人拉致問題(きたちょうせんによるかんこくじんらちもんだい)は、韓国人朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)特殊機関の工作員などにより極秘裏に拉致誘拐、監禁された問題。韓国政府の公式認定で拉致された人数は486人で日本人拉致被害者の数十倍である。日本人の間で最も知られているのは1977年1978年に韓国の海岸から5人の高校生が拉致された事件で、ちょうど日本で横田めぐみをはじめ主な拉致事件が多発した時期と重なる。横田めぐみを含め、この事件から共通点として浮上するのは、拉致の対象者が未成年者を中心にした年代層にもみられる点である。

韓国では北朝鮮による拉致の事を拉北납북)と言い、北朝鮮による拉致被害者の事を拉北者납북자)と呼ぶ。

拉致の背景

北朝鮮が拉致を実行した背景には、北朝鮮の対南工作がある。北朝鮮の対南工作の一環として、韓国国内に北朝鮮のシンパによる人脈を築いて工作活動に利用するというものがあるが、この工作活動を円滑に進めるために韓国人の拉致被害者が利用される。

  • 韓国人拉致被害者に成り代わる事で、韓国当局から隠れやすくなる(実際に戸籍が存在するため)。
  • 韓国と北朝鮮では長い間分断が続いたこともあり、同じ言語を扱う同一の民族と言っても細かい箇所ではがある。北部と南部では、分断以前からも方言が存在した。これらの差を埋めるために、実際の韓国人を拉致して工作員の教育に利用し、その工作員が韓国国内に潜伏しやすくするのを目的とする。

以上のような観点から、北朝鮮による韓国人拉致が起こったという説が有力である。

韓国の反応

拉致被害者の数は公式認定された数だけでも486人と日本の数十倍にのぼる。南北軍事境界線近海で操業していた漁民が、北朝鮮が自国の領海と主張する海域に入ったり、韓国側海域に侵入して来た北朝鮮の工作船に遭遇するなどして船ごと拉致されたケースが最も多いとされている。拉致被害者家族も推定される拉致の経緯などから3つの団体に分かれて活動している。韓国世論はこの問題を重要視しておらず拉致自体が存在しないと考えている人も少なくない。朴正煕政権時代には拉北者家族に対して連座制をしいて、中央情報部による監視を行った[1]。実際に過去には共産主義思想の影響と独裁政権に対する反感で北朝鮮に憧れて, 自ら北朝鮮へ行く北朝鮮入国者も存在していた。本当に拉致されたか否かは情況から判断するしかなく、国家安全保障上の不安があった朴正煕政権時代には「まずスパイだと思うのが安全だ」と判断していた。

2002年小泉純一郎首相(当時)と金正日の間で行われた日朝首脳会談で、金正日が日本人を拉致した事実を認め、謝罪した事によって日本世論の関心が一気に高まり、外交における最重要の懸案項目になったのとは対照的である。

元々韓国人の間では、北朝鮮なら拉致しても不思議ではないという見方があったのも一因である。韓国人拉致自体が、北朝鮮との数々の懸案の中ではさほど重要とも考えられていなかった。また、1953年7月27日に朝鮮戦争が休戦となってからも、韓国と北朝鮮は殉職者が出るほど軍事的衝突を繰り返していた。実際に朝鮮戦争がいつ再開されてもおかしくない状態であったため、そのような重要問題から見れば拉致問題は取るに足らないことであり、それらの問題が解決してからの事だと認識されていた。

長年に渡り強力な反共政策が取られていた韓国が民主化や南北和解ムードの到来により親北感情が増し、近年では太陽政策によって北朝鮮を出来る限り刺激しないよう韓国政府が動いていることもあり、国民の間にも朝鮮戦争の記憶が薄れ北朝鮮を脅威と感じず、むしろ同胞だと認識する人間も増えてきた。

そのため、取り上げれば北朝鮮を非難するしかない拉致問題は、北朝鮮にシンパシーを感じる者や太陽政策を支持する者によって煙たがれる傾向にさえある。むしろ、在韓米軍問題等により関係をこじらせつつあるアメリカや竹島・歴史認識問題で対立する日本への敵対心が強くなり、日米が繰り返し主張する拉致問題解決に韓国政府が乗り気でなくなりつつある。

現状

韓国政府は、この問題で北朝鮮に何度か抗議をしたことがある。北朝鮮側の回答は、「そのような人物は存在しない」もしくは存在を認めても、「自らの意志で北朝鮮に入国した」と説明し、拉致を認めることはない。

韓国の政府関係者が「日本人拉致被害者の問題は日本だけの問題である」として、韓国政府が日本政府と協力することはないと発言したとメディアで伝えられる通り、韓国政府はこの問題に消極的であるとされる。そのため、根本的な解決の糸口は見えていない。

2006年に新しく統一部長官に指名された李在禎は「北による外国人拉致など事実かどうかは判断できない」と発言している。野党陣営はこのような発言から、統一部長官には相応しくないと反発している。

拉致被害者とその家族の面会は、離散家族の再会事業において何度か実現されているが、それで解決したとは到底言えない。韓国人拉致被害者の家族にとっては、日本人拉致被害者の家族会や日本国内の対北朝鮮強硬派から見れば決して積極的とはいえない日本政府の姿勢が、とても積極的に思えるのである。

解決に向けた取り組み

韓国内では、拉致被害者の家族が結成した団体が問題解決に向けて、政府へ要望書を送ったり講演会などを開いているが政府・世論の反応は鈍い。2006年に生じた北朝鮮の核問題で一旦は和解ムードが凍結し、韓国政府の認識が変化することも期待されたが、一つ間違えば戦争に突入する危険性のある強硬姿勢に関しては政府も及び腰であり、反共感情が根強い保守層以外の拉致問題に対する認識は薄い。

韓国政府の消極姿勢もあり、解決には日本人拉致問題以上に困難が予想される。

2007年4月2日には、北朝鮮に拉致された被害者や家族に支援金を支給し、現在も帰還していない被害者の生死確認や送還、再会実現を国家の責務と定めた「拉北被害者支援法」が成立した。

2008年9月17日には、拉致被害者家族の会代表崔成竜が刑務所に収監された。崔は2007年6月に、南北閣僚級会談が開催されたホテルの前で拉北者と韓国軍捕虜の送還を要求する抗議行動を行い、公務執行妨害で罰金刑を受けていた[2]

脚注

  1. ^ donga.com[뉴스-“납북자문제 해결 소홀, 가족들 인권유린 고통”](朝鮮語)
  2. ^ 政府がすべきことをして受刑した拉北者家族会代表(朝鮮日報2008年9月19日)

関連項目