ウ科

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ウ科
カワウ Phalacrocorax carbo
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
階級なし : Neoaves
: カツオドリ目 Suliformes
: ウ科 Phalacrocoracidae
学名
Phalacrocoracidae Reichenbach1849
和名
ウ(鵜)
英名
Cormorant

ウ科(ウか、Phalacrocoracidae)は、鳥類カツオドリ目に属する科である。(鵜、鷠)と総称される。

ウ属 Phalacrocorax のみを置くこともあるが、複数属に分割することも多い。

名称

鵜を意味する英語の cormorant は、ラテン語の corvus marinus(「海のカラス」の意)に由来する。英語の別名のシャグ(: shag)は鶏冠に由来する。

漢字の「鵜」(テイ)は元々中国ではペリカンを意味し、「う」は国訓である。ウを意味する本来の漢字は「鸕」(ロ)である。

分布

アフリカ大陸オーストラリア大陸北アメリカ大陸南アメリカ大陸ユーラシア大陸インドネシア日本ニュージーランド

主に温帯域や熱帯域の河川湖沼海岸などに生息するが、ヒメウのような寒帯にも分布する種もいる[1]

特徴

形態

シロハラコビトウ

大形の水鳥で、全長48-100 cm [1]。上面は黒や暗緑色などの暗色の羽毛で覆われる。多くの種においては全身黒いが、南半球には下面が白色の種もいる[2]。羽毛は浸水しやすい構造になっており、素早く潜水することができる。は小型で幅が広い。水中では翼が小型のため、水の抵抗が少なく泳ぐのに適している。ほとんどの種は飛翔できるが、ガラパゴスコバネウは翼が退化しており飛ぶことはできない。

は長くて上嘴の先が鉤状に尖り、側面に鋸状の突起がある。これにより咥えた獲物が逃げにくくなっている。また嘴の基部に独特な形状の骨があり、これにより上下の嘴を別々に動かすことができる。喉の皮膚は袋状に伸びるが、あまり発達はしない。

喉の袋には毛細血管が集まっており、膨らませて震わせることで外気に冷やされ、体温を下げることができる。また、獲物を飲みこむ際に向きを変えて飲みやすくするのに役立つと考えられている。

全身の筋肉には多くの血管があり、大量の血液が流れる。そのため酸素を大量に摂り入れることができ、長時間の潜水に適応している。反面、脂肪は少ない。足は胴体後方にあり、近接する。そのため陸上では上手く歩行できないが、水中では蹼(みずかき)のついた足(全蹼足)を動かして大きな推進力を得ることができる。

卵は細長いセイヨウナシ型で、色彩は青みがかった灰色。

生態

泳ぐ際には翼を胴体に密着させ、足を使って泳ぐ。上記のように羽毛は浸水しやすいため、潜水したあとは翼を広げて羽毛を乾かすことが多い。

食性は動物食で、水中に潜って魚類甲殻類軟体動物貝類などを捕食する。

飛翔時は、頸を伸ばして主に水面低くを直線的に飛ぶが、長距離を移動する時には隊列を作って高く飛ぶ[1][2]

多くは集団繁殖地(コロニー)を形成し、沿岸や島の断崖、また種によっては内陸の樹の上に営巣する[2]。2-5個の卵を産み、雌雄で抱卵し、また晩生性である雛を育雛する[1]

系統と分類

位置づけ

伝統的なペリカン目においては種数の半数以上を占める最大の科である。

ただしヘビウ科カツオドリ科グンカンドリ科とともにウ目 Phalacrocoraciformes に分離する説もある[3][4]

姉妹群はヘビウ科であり[5]、カツオドリ科を加えた3科をカツオドリ亜目に分類する説もある。

Sibley分類では、コウノトリ目コウノトリ下目カツオドリ小目(カツオドリ亜目に相当)ウ上科 Phalacrocoracoidea の唯一の科であり、カツオドリ上科(カツオドリ科+ヘビウ科)の姉妹群と考えられていた。

ペリカン目
ウ目
カツオドリ亜目

ヘビウ科 Anhingidae

ウ科 Phalacrocoracidae

カツオドリ科 Sulidae

グンカンドリ科 Fregatidae

その他のペリカン目

国際鳥類学会 (IOC) では Phalacrocorax, Leucocarbo, Microcarbo の3属を置いている[6]

しかし、ウ科内部の系統に未解明な箇所が多いことから、すべてを1属ウ属 Phalacrocorax にまとめるべきだとする説もある[7]

Microcarbo はおそらく、ウ科の中で最初に分岐した単系統である。しかし PhalacrocoraxLeucocarbo を内包する側系統であり、PhalacrocoraxLeucocarbo を統合する説もある。

ガラパゴスコバネウだけを Nannopterum として分ける説もあったが、分子系統からは否定された[7]

HypoleucosStictocarboCompsohalieus などを分ける説もある。

国際鳥類学会 (IOC) によると3属36種が属する[6]

日本産の種

長良川鵜飼の鵜
鵜匠杉山秀二宅(マルヨ)にて

日本ではウミウ、カワウ、ヒメウ、チシマウガラスの4種が繁殖する[8]。いずれも体色は黒褐色から黒色で、緑色あるいは藍色の光沢がある。

ウミウ(海鵜)
全長約84cm[8]。海岸に生息し、水面近くを飛行する。
くちばしは鋭く、先が鉤状に曲がっており、魚を捕らえるのに適している。
小枝や枯れ草を集めて岩場や断崖にコロニーをつくり営巣する。
日本では捕獲・飼育されたものを鵜飼いに用いる。
カワウ(川鵜)
全長約82cm[8]。ウミウに似るがやや小形。河川部や湖沼に生息。
数十から数百羽単位で行動し、小枝や羽毛などを集めて樹上に営巣する。
中国での鵜飼いに使われる。
ヒメウ(姫鵜)
全長約73cm[8]。ウミウやカワウより小型。
数羽単位で行動し、ウミウのコロニーに営巣することもある。
チシマウガラス(千島鵜鴉)
全長約84cm[8]。主にアリューシャン列島などで繁殖するが、冬鳥として北海道・東北地方に飛来することがある。日本でもごく少数が北海道東部の島で繁殖する[8]

人間との関係

熊斐『鸕鷀捉魚図』(ろじそくぎょず)、18世紀。鸕鷀は大型の鵜の意味という[9]

漁業に用いられることもあったが、現在は一般的ではない。日本や中華人民共和国では観光や伝統漁法として、本科の構成種を用いた漁法を行うこともある。逆に魚類を捕食するため、漁獲物を食害する害鳥とみなされることもある。

一部の地域ではコロニーに堆積した糞が肥料(グアノ)として利用される。

開発および人為的に移入された動物によるコロニーの破壊、漁業による混獲および漁業の害鳥としての駆除などにより生息数は減少している種もいる。

鵜飼

鵜が口にした魚は噛まずに丸呑みにするため、人の言葉の真偽などをよく考えずそのまま相手の言葉を信じ込んでしまうという意の「鵜呑みにする」という言葉の起源ともなった。

また、この習性を利用した漁もインド以東のアジアで行われている[1]。この淡水魚の漁法は網や釣竿などで獲るのとは違い、魚の体を傷つけずに漁が出来るだけでなく、鵜ののどの中で魚に強い圧力をかけて魚を一瞬で失神させるために、魚が疲れることによって(特に一本釣り)魚の旨みが落ちないことに加え、魚の骨が柔らかくなることなどの利点が挙げられる。

脚注

  1. ^ a b c d e 三省堂編修所・吉井正 『三省堂 世界鳥名事典』、三省堂、2005年、61頁。ISBN 4-385-15378-7
  2. ^ a b c 高野伸二 『カラー写真による 日本産鳥類図鑑』、東海大学出版会、1981年、201頁。
  3. ^ Lista ptaków świata - ヤギェウォ大学環境科学校
  4. ^ Christidis, Les; Boles, Walter E. (2008), Systematics and Taxonomy of Australian Birds, CSIRO Publishing, ISBN 9780643096028 
  5. ^ Hackett, S. J.; et al. (2008), “A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History”, Science 320: 1763–1768 
  6. ^ a b IOC World Bird List 2.4: Ibises Frank Gill, David Donsker and the IOC team
  7. ^ a b Kennedy, Martyn; Valle, Carlos A.; Spencer, Hamish G. (2009), “The phylogenetic position of the Galápagos Cormorant”, Mol. Phylogenet. Evol. 53 (1): 94–98, doi:10.1016/j.ympev.2009.06.002 
  8. ^ a b c d e f 高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会2007年、28頁。ISBN 978-4-931150-41-6
  9. ^ 『広辞苑 第5版』 岩波書店

参考文献

  • 『原色ワイド図鑑4 鳥』、学習研究社1984年、134頁。
  • 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社1986年、62–63、68、70–72、178頁。
  • 小原秀雄浦本昌紀太田英利松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ3 中央・南アメリカ』、講談社2001年、56–57、182頁。
  • 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』、講談社、2001年、60–62、181-183頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館2002年、21、157頁。