射影多様体

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楕円曲線は種数 1 の滑らかな代数曲線である。

代数幾何学では、代数的閉体 k 上の射影多様体(projective variety)とは、k 上の射影 n-空間 Pn の部分集合で、k に係数を持つ n + 1 変数の斉次多項式の族の零点の軌跡となっていて、多様体の定義イデアルの素イデアルを生成するものを言う。素イデアルを生成するという条件の付いていない場合は、そのような集合を射影代数的集合(projective algebraic set)と呼ぶ。同じことであるが、代数多様体(algebraic variety)が射影的とは、ザリスキー位相が閉である Pn部分多様体として埋め込むことができる。射影多様体のザリスキー位相が開である部分多様体を準射影多様体英語版(quasi-projective variety)という。

X が斉次素イデアル I により定義された射影多様体であれば、商環

k[x_0, \ldots, x_n]/I

は X の斉次座標環英語版(homogeneous coordinate ring)と呼ばれる。環は X の(埋め込みに依存する)重要な不変量であるヒルベルト多項式 P から来る。P の次数は、X の位相次元 r であり、主要項の係数に r! をかけると多様体 X の次数英語版(degree)である。X が滑らかであれば、X の算術種数は、(−1)r (P(0) − 1) である。例えば、 Pn の同時座標環は、k[x_0, \ldots, x_n] であり、ヒルベルト多項式は P(z) = \binom{z+n}{n} であり、算術種数は 0 である。

射影多様体 X のもうひとつの重要な不変量として、ピカール群 \operatorname{Pic}(X) があり、X のラインバンドルの同型類である。ピカール群は H^1(X, {\mathcal{O}_X}^*) に同型であり、埋め込みに対して独立な本質的な考え方である。例えば、Pn のピカール群は次数写像を通し Z と同型である。\operatorname{deg}: \operatorname{Pic}(X) \to \mathbf{Z} の核は X のヤコビ多様体と呼ばれる。(滑らかな)曲線のヤコビ多様体は、曲線の研究で重要な役目を果たす。

古典と現代の分類プログラムは、自然に射影多様体のモジュライの構成を導く。[1] ヒルベルトスキーム(Hilbert scheme)は射影スキームであり、ヒルベルト多項式により記述された Pn の部分スキームをパラメトライズすることに使われる。例えば、グラスマン多様体英語版(Grassmannian) \mathbb{G}(k, n) は特別なヒルベルト多項式を持つヒルベルトスキームである。幾何学的不変式論(geometric invariant theory)は別のアプローチをもたらす。古典的アプローチは、タイヒミューラー空間英語版(Teichmüller space)と周多様体英語版(Chow varieties)の方法を意味する。

複素射影多様体に対しては、代数幾何学と複素解析幾何学のアプローチが合体する。周の定理は、射影多様体の部分集合が正則函数の零点の軌跡であることと、斉次多項式の零点であることとは同値であることを言っている。(この定理の系として、「コンパクト」な複素空間にはただ一つの多様体の構造が入ることが分かる。)GAGA は、正則ベクトルバンドル英語版(holomorphic vector bundle)(さらに一般的には、解析的連接層)が X 上に入り、代数的ベクトルバンドルと一致する。

[編集]

\mathbf{P}^n \times \mathbf{P}^m \to \mathbf{P}^{(n+1)(m+1)-1}, (x_i, y_j) \mapsto x_iy_j  (辞書式順序).
このことから射影多様体のファイバー積は射影的であることが従う。
  • 余次元 1 の Pn のすべての既約閉部分集合は、超平面である。すなわち、いくつかの既約な斉次多項式の零点の集合である。[2]
  • 次数 d の超曲線の算術種数は \mathbf{P}^n 内で \binom{d-1}{n} である。特に、 P2 の次数 d の滑らかな曲線は、算術種数 (d-1)(d-2)/2 である(種数公式)。
  • 滑らかな曲線英語版(smooth curve)が射影的であることと、曲線が完備英語版(complete)であることとは同値である。これは次のように考えることで分かる。F が滑らかな射影曲線 C の函数体(代数函数体と呼ばれる)であれば、C は k 上の F の離散的付値環の集合と同一視でき、この集合は自然にザリスキー・リーマン空間英語版(Zariski–Riemann space)と呼ばれるザリスキー位相を持つ。曲線のさらに特別な例については、代数曲線を参照。
  • 種数 1 の滑らかな完備曲線は、楕円曲線と呼ばれる。リーマン・ロッホの定理により、そのような曲線は P2 の閉部分多様体として埋め込むことができる。(一般に、(滑らかな完全)曲線は、P3 へ埋め込むことができる。)逆に、P2 の中の次数 3 の滑らかな閉曲線は、種数公式により種数が 1 であり、楕円曲線となる。楕円曲線は、そのヤコビ多様体と同型となるので、アーベル多様体である。
  • 種数が 2 より大きな滑らかな完備曲線は、次数 2 の有限射 C \to \mathbf{P}^1 を持つときに、超楕円曲線と呼ばれる。[3]
  • アーベル多様体(つまり、完備群多様体)が豊富なラインバンドルを持ち、射影的である。他方、アーべルスキームは射影的ではないかもしれない。アーベル多様体の例として、楕円曲線やヤコビ多様体、K3曲面がある。
  • ある複素トーラス英語版(complex tori)は射影的であるが、そうでないものもある。複素トーラスは、L を格子とし、g をトーラスの複素次元としたとき、複素リー群英語版(complex Lie group)として、\mathbb{C}^g/L の形をしている(周期格子英語版(period lattice)の構成)。g=1 として、\wpヴァイエルシュトラスの楕円函数(Weierstrass's elliptic function)とする。函数は、ある微分方程式を満たし、結果として閉じた埋め込みを定義する。ある格子 L に対しては、
    \mathbb{C}/L \to \mathbf{P}^2, L \mapsto (0:0:1), z \mapsto (1 : \wp(z) : \wp'(z))
を定義する。[4] このように \mathbb{C}/L は楕円曲線である。規格化定理は、すべての複素楕円曲線がこの方法で作成されることを意味している。g > 1 の場合はより複雑で、偏極英語版(polarization)の問題である(レフシェッツの埋め込み定理英語版(Lefschetz's embedding theorem)を参照)。p-進統一化英語版(p-adic uniformization)により、g = 1 の場合は p-進的な類似がある。

多様体構造とスキーム構造[編集]

多様体構造[編集]

射影スキームを定義する前に、アフィンスキーム(affine scheme)を定義する。アフィンスキームは、環付き空間のスペクトルと解釈される。

k を代数的閉体とする。k[x_0, ..., x_n] の斉次素イデアル P が与えられ、X を P の多項式の全ての根からなる Pn(k) の部分集合とする。[6] ここに X は、局所的にはアフィン多様体であることを示すことにより、多様体の構造を持つことが分かる。[7]

R = k[x_0, ..., x_n]/P

すなわち、R を X の斉次座標環英語版(homogeneous coordinate ring)とする。非零な斉次である元(nonzero homogeneous elements)の観点より、R の局所化(localization)は、次数付き英語版(graded)である。k(X) により 0 次の部分をあらわすとすると、これは X の函数体である。明らかに、k(X)は R の分数の体の中で、 0 と f と g を同じ次数の斉次多項式としたときの f/g から構成される。X の中の各々の x に対し、\mathcal{O}_x \subset k(X) を 0 と g(x) ≠ 0 となる f/g より構成される部分環とすると、この部分環は局所環である。

さて、X 上の層 \mathcal{O}_X を次のように定義する。各々のザリスキー開集合 U に対し、

\mathcal{O}_X(U) = \bigcap_{x \in U} \mathcal{O}_x

とする。X の中の x での \mathcal{O}_X の茎は、\mathcal{O}_x となる。[8] このようにして、局所環付き空間(locally ringed space) (X, \mathcal{O}_X) を構成することができる。これが局所的にアフィン多様体となることを示そう。このためには、次を示すことで充分である。

(U_i, \mathcal{O}_X|{U_i}), \quad U_i=\{ (x_0:x_1:\cdots:x_n) \in X | x_i \ne 0 \}

はアフィン多様体である。簡単のため、i = 0 の場合のみを考える。P' を

k[y_1, \dots, y_n] \to k(X), \quad y_i \mapsto x_i/x_0

の核(kernel)とし、X' を P' の零点の軌跡とする。X' はアフィン多様体である。従って、

\phi: U_0 \to X', \quad (1:x_1:...:x_n) \mapsto (x_1, \dots, x_n)

が環付き空間に同型であることが分かる。さらに詳しく、以下の 2点を確認する。

(i) \phi は(閉部分多様体と見ることにより)同相写像である。
(ii) \phi^{\#}: \mathcal{O}_{\phi(x)} \overset{\sim}\to \mathcal{O}_x, \, s \mapsto s \circ \phi\phi^{\#}: k(X') \overset{\sim}\to k(X) であることに注意する)

射影スキーム[編集]

前のセクションの議論を、特に射影空間 Pn(k) に対して適用すると、射影空間はアフィン n-空間 kn の (n + 1) 個のコピーの合併であるので、そのような方法で環付き空間の構造と射影空間の構造は整合性を持っている。これを動機として、次の定義が従う。[9] 任意の環 A に対し、\mathbf{P}^n_A をそのような方法で変数を期待通りに合わせた

U_i = \operatorname{Spec} A[x_1/x_i, \dots, x_n/x_i], \quad 0 \le i \le n,

の合併となるスキームとすると、\mathbf{P}^n_k の閉点の集合は、普通の意味での射影空間 Pn(k) となる。

同値ではあるが直接的な構成は、Proj構成英語版(Proj construction)により与えられる。この構成は、アフィンスキームの構成のとき、"Spec"と書き、環のスペクトル(spectrum of a ring)で定義した方法と似た方法で定義する。例えば、環 A に対し

\mathbf{P}^n_A = \operatorname{Proj}A[x_0, \ldots, x_n]

とする。R が k[x_0, \ldots, x_n] の斉次イデアルによるとすると、標準的全射は閉埋め込み英語版(closed immersion)

\operatorname{Proj} R \to \mathbf{P}^n_k

を導く。実際、次のようにする。\mathbf{P}^n_k の全ての閉部分スキームは、飽和した英語版(saturated)、つまり I : (x_0, \dots, x_n) = I となるような k[x_0, \ldots, x_n] の斉次イデアル I に全射的に対応する。[10] この事実は、射影的零点定理(projective Nullstellensatz)の精密なバージョンと考えることができる。

上記の座標なしの類似を与えることができる。つまり、k 上の有限次元ベクトル空間 V が与えられたとき、

\mathbf{P}(V) = \operatorname{Proj} k[V]

とする。ここに k[V] = \operatorname{Sym}(V^*)V^*対称代数である。[11] これは V の射影化英語版(projectivization)であり、V の中でのパラメータ化である。上に記述したチャートを使い、定義される標準的全射 \pi: V - 0 \to \mathbf{P}(V) が存在する。[12] この構成の重要性は、射影多様体 X の因子 D とラインバンドル L が対応することにある。従って、

|D| = \mathbf{P}(\Gamma(X, L))

と置いたものを D の完備一次系英語版(complete linear system)と言う。

ネータースキーム[編集]

任意のネータースキーム英語版(noetherian scheme) S に対し、

\mathbf{P}^n_S = \mathbf{P}_\mathbf{Z}^n \times_{\operatorname{Spec}\mathbf{Z}} S

とする。\mathcal{O}(1)\mathbf{P}_\mathbf{Z}^n 上のセールのツイストした層英語版(twisting sheaf of Serre)として、\mathcal{O}(1)\mathcal{O}(1)\mathbf{P}^n_S への引き戻し英語版(pullback)、すなわち、標準写像 g: \mathbf{P}^n_{S} \to \mathbf{P}^n_{\mathbf{Z}} に対して \mathcal{O}(1) = g^*(\mathcal{O}(1)) とする。

スキーム X → S が S 上で射影的(projective)であるとは、S への射影に従い、スキームが閉埋め込み

X \to \mathbf{P}^n_S

へ分解するときを言う。

一般に、S 上のスキーム X のラインバンドル(もしくは、可逆層) \mathcal{L} が S への豊富なラインバンドルとは、ある n に対しはめ込み英語版(immersion)

i: X \to \mathbf{P}^n_S

存在し、\mathcal{O}(1)\mathcal{L} への引き戻し(はめ込み(immersion)は閉じたはめ込みにより開はめ込みである。)であれば、S-スキーム X が射影的であることと、固有英語版(proper)であり、かつ、S に対し X 上に非常に豊富な層が存在することとは同値である。実際、X が固有であれば、非常に豊富なラインバンドルに対応するはめ込みは必然的に閉となる。逆に、X が射影的であれば、X の射影空間への閉はめ込みの下の \mathcal{O}(1) の引き戻しは非常に豊富である。「射影的」が「固有」を含んでいることはさらに難しい。省略理論英語版(elimination theory)の主定理を参照。

完備多様体英語版(complete variety)(つまり、k 上に固有)は閉多様体であり、射影多様体である。周の補題英語版(Chow's lemma)は、X が完備多様体であれば、射影多様体 Z と双有理写像 Z → X が存在することを言っている。(さらに、正規化英語版(normalization)を通して、射影多様体は正規であることを前提とすることができる。)射影多様体の性質は、完備性から導けるものもある。例えば、X を k 上の射影多様体とすると、\Gamma(X, \mathcal{O}_X) = k である。[13]

一般に、ラインバンドルは、非常に豊富となるべきが存在するとき、豊富であるという。このようにして、多様体が射影的であることと、完備で豊富なバンドルを持つこととは同値である。多様体の射影空間への埋め込みの結果は、次のセクションで非常に詳細に議論する。

ラインバンドルと因子[編集]

射影空間への射についての予備的考察より始める。[14] X を環 A 上のスキームとし、射

\phi: X \to \mathbf{P}^n_A = \operatorname{Proj} A[x_1, \dots, x_n]

が存在すると仮定すると、この写像に沿って、\mathcal{O}(1) は、X 上のラインバンドル L へ引き戻しである。従って、L は大域切断 \phi^*(x_i) により生成される。逆に、L が大域切断 s_0, ..., s_n により生成されるとすると、それらは射 \phi: X \to \mathbf{P}^n_A を次のように定義する。X_iU_i をそれぞれ X の中の s_i = 0 の補集合、 \mathbf{P}^n_A では x_i = 0 (つまり、U_i は上に述べた標準的な開アフィンチャート)とする。\phi: X_i \to U_ix_i/x_j \mapsto s_i/s_j により与えられるとすると、直ちに、L は \phi^*(\mathcal{O}(1)) に同型であり、s_i = \phi^*(x_i) か成り立つ。さらに、\phi が閉はめ込みであることと、X_i がアフィンで、かつ、\Gamma(U_i, \mathcal{O}_{\mathbf{P}^n_A}) \to \Gamma(X_i, \mathcal{O}_{X_i}) が全射出ることと同値である。[15]

\mathcal{M}_X\Gamma(U, \mathcal{O}_X) の分数の全体の環の U \mapsto に付随する X 上の層とする。\mathcal{M}_X^*/\mathcal{O}_X^* (* は乗法群を意味する)の大域切断は X 上のカルティエ因子と呼ばれる。この考えは、新しいことをもたらすわけでなく、X 上の全てのカルティエ因子の集合から X 上の全てのラインバンドルの集合への標準的な全単射

D \mapsto \mathcal{L}(D)

が存在することを意味している。

連接層[編集]

X を非常に豊富なラインバンドル \mathcal{O}(1) を持つ k 上の(有限標数でも可)射影的スキームとする。\mathcal{F} をその上の連接層とする。i: X \to \mathbf{P}^r_A を閉はめ込みとすると、X のコホモロジーは射影空間のコホモロジーから計算することができる。

H^p(X, \mathcal{F}) = H^p(\mathbf{P}^r_A, \mathcal{F}), p \ge 0

ここに、右辺の \mathcal{F} は、0 により拡大された射影空間上の層と見なすことができる。[16] 従って、セール(Serre)による結果 \mathcal{F}(n) = \mathcal{F} \otimes \mathcal{O}(n) を導くことができる。

  • (a) H^p(X, \mathcal{F}) は全ての p に対して有限次元 k-ベクトル空間である。
  • (b) n_0 (\mathcal{F} に依存する) が存在して、次を満たす。
全ての n \ge n_0 と p に対して、
  • H^p(X, \mathcal{F}(n)) = 0

実際、X を前に気論した射影空間とすると、任意の整数 n に対して \mathcal{F} = \mathcal{O}_{\mathbf{P}^r}(n) を直接計算することで理解することができ、一般の場合から容易にこの場合を導くことができる。[17]

同じ議論により、ネーター環上の X に対し、類似するステートメントが成立する。(a) の系として、f がネータースキームからネータースキームへの射影射であれば、高次の順像(higher direct image) R^p f_* \mathcal{F} は連接層となる。これはより一般的な場合、つまり f が固有という場合の特殊ケースである。しかし、一般の場合は周の補題英語版(Chow's lemma)の目的のである射影的な場合から導ける。

ネーター的な位相空間上の層コホモロジーの特徴は、空間の次元よりも厳密に大きな i に対し、Hi = 0 となることである。このように、上の議論の観点より、

\chi(\mathcal{F}) = \sum_{i=0}^\infty (-1)^i \operatorname{dim} H^i(X, \mathcal{F})

が well-defined な整数となる。この整数を \mathcal{F}オイラー標数と呼ぶ。従って H^i(X, \mathcal{F}(n)) は充分大きな n に対してはみな 0 となる。有理数の係数の多項式 P が存在し、\chi(\mathcal{F}(n)) = P(n) となることを示すことができる。[18] この過程を構造層 \mathcal{O}_X へ適用すると、X のヒルベルト多項式を再現する。特に、X が既約で次元 r であれば、X の算術種数は

(-1)^r (\chi(\mathcal{O}_X) - 1)

により与えられる。これは明らかに埋め込みには依存しないことが分かる。

滑らかな多様体[編集]

X を滑らかな射影多様体で、全ての既約成分が次元 n を持つとすると、セール双対性の次のようなバージョンを得る。X 上の任意の局所自由層 \mathcal{F} に対し、

H^i(X, \mathcal{F}) \simeq H^{n-i}(X, \mathcal{F}^\vee \otimes \omega_X)'

が成り立つ。ここにプライム「'」の意味は双対空間の意味であり、ωX標準層であり、\mathcal{F}^\vee\mathcal{F} に双対な層である。

ここで、X を曲線(射影的で非特異)とすると、H2 とそれ以上の高次のコホモロジーは次元により 0 となり、構造層の大域切断の空間の次元は 1 である。このように X の算術種数は H^1(X, \mathcal{O}_X) の次元である。定義により、X の幾何種数は、H0(X, ωX) の次元である。このようにセールの双対性から算術種数と幾何種数は一致する。それらを単純に X の種数と呼んでもよい。

セールの双対性はリーマン・ロッホの定理の証明にも重要である。X が滑らかであれば、主因子をmoduloとしたヴェイユ因子とラインバンドルの同型類の群の間の同型

\operatorname{Cl}(X) \to \operatorname{Pic}(X), D \mapsto \mathcal{O}(D)

が存在する。ωX に対応する因子を標準因子といい、K と書く。l(D) で H^0(X, \mathcal{O}(D)) の次元を表すと、リーマン・ロッホの定理は、g が X の種数であれば、X の任意の因子 D に対し、

l(D) -l(K - D) = \operatorname{deg} D + 1 - g

である。セールの双対性により、これは

\chi(\mathcal{O}(D)) = \operatorname{deg} D + 1 - g

と同じであり、このことは証明されている。[19]

滑らかな複素射影多様体に対し、基本的な結果の一つに小平消滅定理があり、この定理は次のことを言っている。[20]

X を C 上の次元 n の非特異射影代数多様体とし、\mathcal{L} を豊富なラインバンドルとすると、
  1. i > 0 に対し、H^i(X, \mathcal{L}\otimes \omega_X) = 0,
  2. i < n に対し、H^i(X, \mathcal{L}^{-1}) = 0

が成り立つ。

小平消滅定理は一般に正標数の滑らかな射影多様体に対しては成立しない。

ヒルベルトスキーム[編集]

(このセクションでは、スキームは局所的にネーター的であるとする。)

射影スキーム X の全ての閉部分多様体をパラメトライズしたい。アイデアは、スキーム H を構成し、H の各々の「点」で(函手性の意味で) X の閉部分スキームを対応させる。(求める構成を作成するには、非多様体も取り込む必要がある。)そのようなスキームをヒルベルトスキーム(Hilbert scheme)という。グロタンディエクの深い定理にヒルベルトスキームは存在するという定理がある。S をスキームとしたとき、この定理のひとつのバージョンは[21]、S 上に与えられた射影スキーム X と多項式 P が与えられると、S 上の射影スキーム H_X^P が存在し、任意の S-スキーム T に対し、

H_X^P の T-点を与える。すなわち、射 T \to H^P_X は、ヒルベルト多項式 P を持つ T 上で平坦な X \times_S T の閉部分スキームを与えることと同じである。同一視写像 H_X^P \to H_X^P に対応する X \times_S H_X^P の閉部分スキームは、普遍な族と呼ばれる。

例:

複素射影多様体[編集]

本セクションでは、全ての代数多様体は複素代数多様体である。

ここでの基本的結果の一つに、周の定理があり、この定理は、複素射影空間の全ての解析的部分多様体は代数多様体であるという定理である。この定理は、ある増加条件を満たす正則函数(holomorphic function)は必然的に代数的であると言っているとも解釈できる。「射影的」はこの増加条件をもたらす。この定理から次のことを導くことができる。

  • 複素射影空間上の有理型函数は有理函数である。
  • 代数多様体の間の代数的写像は、解析的同型であれば、代数的にも同型である。(このことは複素解析の基本的事実である。)特に、周の定理は、射影多様体の間の正則写像は代数的であることを意味している。(そのような写像のグラフを考える。)
  • 射影多様体上の全ての正則ベクトルバンドル英語版(holomorphic vector bundle)は、唯一の代数的ベクトルバンドルより導かれる。[23]
  • 射影多様体の上の全てのラインバンドルは、因子のラインバンドルである。[24]

周の定理は、GAGAの例であり、セール(Serre)による主要な定理は次のとおりである。

X を C 上の射影スキームとすると、X 上の連接層を対応する複素解析空間 Xan 上の連接層に関連付ける函手は、カテゴリ同値である。さらに、自然な写像
H^i(X, \mathcal{F}) \to H^i(X^\text{an}, \mathcal{F})
は全ての i と、X 上の全ての連接層 \mathcal{F} 対して、同型である。[25]

特に、この定理は周の定理の証明を与える。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Kollár Moduli, Ch I.
  2. ^ Hartshorne 1977, Ch I, Exercise 2.8これは、Pn の斉次座標環は一意分解整域であり、一意分解整域内の高さ 1 の素イデアルは主イデアルであるからである。
  3. ^ Hartshorne & 1977 Ch IV, Exercise 1.7.
  4. ^ Mumford 1970, pg. 36
  5. ^ Hartshorne, Appendix B. Theorem 3.4.
  6. ^ f(x_0, ..., x_n) = 0 であることと、k の中の全ての 0 でない λ に対して f(\lambda x_0, ..., \lambda x_n) = 0 であることは同値であるので、定義は意味を持っている。
  7. ^ 構成はマンフォードの red book に従っている。
  8. ^ This follows from: for the complement Xf of homogeneous f = 0, \mathcal{O}_X(X_f) is the zeroth piece of the localization Rf. The proof uses the projective Nullstellensatz; cf. (Mumford 1999, pg. 20)
  9. ^ Mumford 1999, pg. 82
  10. ^ Mumford 1999, pg. 111
  11. ^ この定義は、Eisenbud–Harris 2000, III.2.3 での定義と異なっているが、他のWikipediaの解説とは整合性を持っている。
  12. ^ cf. the proof of Hartshorne 1977, Ch II, Theorem 7.1
  13. ^ Hartshorne 1977, Ch II. Exercise 4.5
  14. ^ Hartshorne 1977, Ch II, Theorem 7.1
  15. ^ Hartshorne 1977, Ch II, Proposition 7.2
  16. ^ これは難しくない。(Hartshorne 1977, Ch III. Lemma 2.10) consider a flasque resolution of \mathcal{F} and its zero-extension to the whole projective space.
  17. ^ Hartshorne 1977, Ch III. Theorem 5.2
  18. ^ Hartshorne 1977, Ch III. Exercise 5.2
  19. ^ Hartshorne 1977, Ch IV. Theorem 1.3
  20. ^ Hartshorne, Ch III. Remark 7.5.
  21. ^ Kollár 1996, Ch I 1.4
  22. ^ Eisenbud–Harris 2000, VI 2.2
  23. ^ Griffiths-Adams, IV. 1. 10. Corollary H
  24. ^ Griffiths-Adams, IV. 1. 10. Corollary I
  25. ^ Hartshorne, Appendix B. Theorem 2.1

参考文献[編集]

外部リンク[編集]