ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理

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数学では、ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理(Hirzebruch–Riemann–Roch theorem)は、フリードリッヒ・ヒルツェブルフ英語版(Friedrich Hirzebruch)、ベルンハルト・リーマン(Bernhard Riemann)、グスタフ・ロッホ(Gustav Roch)の名前にちなんだ、ヒルツェブルフの1954年の結果で、すべての次元の複素代数多様体リーマン・ロッホの定理を拡張した定理のことを言う。この定理は、リーマン面上の古典的リーマン・ロッホの定理の最初のすべての次元への一般化であり、約 3年後には、グロタンディ-ク・ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理英語版への道を開いた。

ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理の内容[編集]

ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理は、コンパクト複素多様体 X 上の任意の正則ベクトルバンドル E に対し、層コホモロジー英語版の中で E の正則オイラー特性数英語版 を計算することへ応用される。すなわち、複素ベクトル空間の次元の交代和である次の式である。

 \chi(X,E) = \sum_{i=0}^{\dim_{\mathbb{C}} X} (-1)^{i} \dim_{\mathbb{C}} H^{i}(X,E)

ヒルツェブルフの定理は、正則オイラー特性数 χ(X, E) は E のチャーン類 Cj(E) と X の正則接バンドルのチャーン類の中のトッド多項式英語版 Tj から計算できることを言っている。これらはすべて、X のコホモロジー環の中にあり、基本類英語版を使い(もしくは、言い換えると、X 上で積分して)、H2n(X) の中から数値を得ることができる。ヒルツェブルフの公式は、すべての適当な j (0 ≤ j ≤ n) をとり、コホモロジーの中のチャーン類 ch(E) を使うと、

 \chi(X,E) = \sum \operatorname{ch}_{n-j}(E) \frac{T_{j}}{j!}

を得る。言い換えると、クロス積は 2n の差異を無視して(upto)次数と「一致」するすべての次数のコホモロジー環の中で形成される。そこで Cj(E) の一つ一つを「解きほぐして」計算すると、チャーン指標は、

\operatorname{ch}(E) = \sum \exp(x_{i})

であり、全チャーン類は、

 C(E) = \sum C_{j}(E) = \prod (1 + x_{i}).

を得る。別な定式化をすると、定理は等式

 \chi(X,E) = \int_X \operatorname{ch}(E) \operatorname{td}(X)

となり、ここに td(X) は X の接バンドルのトッド類英語版である。 重要なケースは、E が複素ラインバンドルで、X が代数曲面(algebraic surface)のときである(ネターの公式(Noether's formula))。曲線上のベクトルバンドルのヴェィユのリーマン・ロッホの定理や代数曲面のリーマン・ロッホの定理は(以下で見るように)、これのスコープの中に入っている。公式もトッド類英語版特性類と相反性にあるという意味で、上記の曖昧な記法を正確に表わしている。

曲線のリーマン・ロッホの定理[編集]

曲線に対して、ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理は、本質的に古典的なリーマン・ロッホの定理である。曲線上の各々の因子 (代数幾何学) D に対し、(ラインバンドルに対応する)可逆層 O(D) が存在し、D の一次系英語版 は多かれ少なかれ O(D) の切断の空間になる。曲線に対して、トッド類は、 1 + c1(T(X))/2 であり、層 O(D) のチャーン指標はちょうど 1+c1(O(D)) に一致するので、ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理は、(X 上で積分して)

h^0(\mathcal{O}(D)) - h^1(\mathcal{O}(D)) = c_1(\mathcal{O}(D)) +c_1(T(X))/2

となる.

しかし、h0(O(D)) は l(D) に一致するので、D の一次系の次元は、セール双対性により h1(O(D)) = h0(O(K − D)) = l(K − D) である。ここに、K は標準因子である。さらに、X 上で積分された c1(O(D)) は、D の次数であり、X 上で積分された c1(T(X)) は、曲線 X のオイラー類 2 − 2g である。ここに g は種数である。従って、古典的なリーマン・ロッホの定理は、

\ell(D)-\ell(K-D) = \text{deg}(D)+1-g

である。

ベクトルバンドル V に対し、チャーン指標は rank(V) + c1(V) であるので、曲線のベクトルバンドルのヴェイユのリーマン・ロッホの定理

h^0(V) - h^1(V) = c_1(V) + \text{rank}(V)(1-g)

を得る。

曲面のリーマン・ロッホの定理[編集]

曲面に対して、ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理は、本質的にネターの公式とを組み合わせた曲面のリーマン・ロッホの定理

\chi(D) = \chi(\mathcal{O}) + ((D.D)-(D.K))/2

である。

セールの双対性を使い、h2(O(D)) を h0(O(K − D)) として表すが、曲線の場合と異なり、一般に h1(O(D)) の項を(一般には、実践的にはゼロとなるケースが多いが)層コホモロジーの項を含まない形で書くことは難しい。

参考文献[編集]