三の兆候

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三の兆候
The Sign of Three
SHERLOCK』のエピソード
話数シーズン3
第2話
監督コーム・マッカーシー英語版
脚本スティーヴ・トンプソン英語版
スティーヴン・モファット
マーク・ゲイティス
制作スージー・リガト英語版
スー・ヴァーチュー(シリーズ・プロデューサー)
音楽デヴィッド・アーノルド
マイケル・プライス英語版
撮影監督スティーヴ・ローズ
編集マーク・デイヴィス
初放送日イギリスの旗2014年1月5日 (2014-01-05)
日本の旗2014年5月31日 (2014-05-31)
ゲスト出演者
エピソード前次回
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空の霊柩車
次回 →
最後の誓い
SHERLOCKのエピソード一覧

三の兆候』(さんのちょうこう、: The Sign of Three)は、BBC2014年に制作したドラマ『SHERLOCK』のシーズン3・エピソード2である。

原案は『四つの署名』"The Sign of Four"(1890年)である。

あらすじ[編集]

5月、ジョンメアリーは結婚式を挙げる。ベストマンを務めたシャーロックは、メアリーの付添人代表として、ジャニーンに出会う。

宴たけなわとなり、シャーロックによるベストマン・スピーチが始まる。最初の祝電紹介で、メアリーは「CAM」という人物[注 1]からの祝電に狼狽する。続いて彼は、ジョンとの思い出を振り返りつつスピーチをする。「2人の結婚を祝えない」と話し始める不穏なスピーチだったが、結局はジョンを褒め称える感動的なものになる。

シャーロックは続いてジョンのブログを振り返り、「血まみれの衛兵」事件を語り出す。

結婚式の準備でナーバスになるシャーロックは、メアリーの計らいで、宮殿衛兵のベインブリッジの依頼を受ける。彼は、毎日自分を見張り、写真を撮るストーカーがいると訴えていた。調査に向かったシャーロックは、衛兵の交代を待つ間に、ジョンから元上官のショルトー少佐と疎遠になった理由を聞き出す。ショルトー少佐は、新兵たちを率いている最中に激戦に巻き込まれ、1人だけ生き残った人物だった。そのため、勲章まで貰った英雄でありながら、新兵たちの遺族に恨まれていた。2人が勤務後のベインブリッジに会いに行くと、彼は刺されて血を流しながら、シャワールームで倒れていた。ジョンの応急処置でベインブリッジは助かるが、肝心の凶器が見つからず、事件は未解決になる。

更に彼は、ジョンのスタグ・ナイト[注 2]と、「カゲロウ男」の事件を語る。

事件現場近くのパブを回るスタグ・ナイトで酔っ払い過ぎたシャーロックとジョンに、「カゲロウ男」事件が持ち込まれる。依頼人のテッサは、デートした男性が忽然と消えてしまい、彼の家の大家に、住人ならつい最近死んだと聞かされたことを訴える。2人はテッサと調査に向かうが、酔いのため全く頭が働かない。翌朝、シャーロックは、テッサに教えられたチャットルームから、実際に「カゲロウ男」とデートした女性をピックアップする。彼は女性たちの証言から、「カゲロウ男」が新聞の訃報欄から、独身男性の名前を盗み、彼らの部屋を勝手に使ってデートしていたと推理する。

シャーロックはスピーチ中、テッサが、彼にさえなかなか教えようとしなかった、ジョンのミドルネームを知っていたことを思い出す。この事実からシャーロックは、「カゲロウ男」とデートした女性たちと、結婚式の招待客の誰かに関係があると推理する。更に状況から、彼は「カゲロウ男」の狙いが社交嫌いのショルトー少佐殺人にあると気付く。「カゲロウ男」は、きついベルト越しに細い刃物で刺すと気付かれないことを利用し、予め彼を刺しておいてから、彼がベルトを外したところで失血死するように仕向けていた。また、犯人は、ベインブリッジを使って殺人リハーサルを行っていた。シャーロックは自室に籠もった少佐へこの推理を聞かせ、出て来た少佐をジョンが手当てして、事なきを得る。

式の終了後、舞踏会の前に、シャーロックは結婚式のカメラマンだったジョナサン・スモールを呼び出す。彼は新兵だった弟を件の戦闘で失っており、ショルトー少佐に恨みを持っていた。「カゲロウ男」の正体は彼で、少佐の情報を得るため使用人に近付いていた。スモールを逮捕させたシャーロックは、舞踏会でワトスン夫妻にヴァイオリンによるワルツを贈る。その後メアリーが妊娠していると推理したシャーロックは、2人ならよい両親になると声を掛け、1人会場を後にする。

キャスト[編集]

シャーロック・ホームズ
演 - ベネディクト・カンバーバッチ - 三上哲
ジョン・ヘイミッシュ・ワトスン
演 - マーティン・フリーマン、声 - 森川智之
ハドソン夫人
演 - ユーナ・スタッブス、声 - 谷育子
レストレード警部補[注 3]
演 - ルパート・グレイヴス、声 - 原康義
マイクロフト・ホームズ
演 - マーク・ゲイティス、声 - 木村靖司
モリー・フーパー
演 - ルイーズ・ブリーリー、声 - 片岡身江
メアリー・エリザベス・モースタン→メアリー・エリザベス・ワトスン[注 4]
演 - アマンダ・アビントン、声 - 石塚理恵
サリー・ドノヴァン巡査部長
演 - ヴィネット・ロビンソン、声 - 三鴨絵里子
アイリーン・アドラー
演 - ララ・パルヴァー(姿のみの出演)
ジェームズ・ショルトー少佐
演 - アリステア・ピートリー英語版、声 - 佐々木梅治
テッサ
演 - アリス・ロウ英語版、声 - 北西純子
ジャニーン
演 - ヤスミン・アクラム英語版、声 - 樋口あかり[2][3]
トム(モリーのボーイフレンド)
演 - エド・バーチ、声 - 山野井仁
カメラマン / カゲロウ男 / ジョナサン・スモール
演 - ジャラール・ハートレイ英語版、声 - 小森創介
ページボーイ (en(アーチー)
演 - アダム・グレーヴス=ニール、声 - 不明
スティーヴン・ベインブリッジ
演 - アルフレッド・イーノック、(声 - なし / 代読するジョンとして:森川智之)[注 5]

スタッフ[編集]

原作との対比[編集]

原案は『四つの署名』"The Sign of Four"(1890年)である。

ドノヴァンは221Bに向かおうとするレストレードへ、ウォーターズ一味の強盗事件で「ジョーンズに手柄を取られる」と言う。一方原典には『四つの署名』のアセルニー・ジョーンズ、『赤髪連盟』のピーター・ジョーンズと、2人のジョーンズ刑事が登場する。

シャーロックが自分のヴァイオリン演奏を録音して流しているのは、『マザリンの宝石』に由来する。

シャーロックはスピーチの中で、ジョンには、シャーロックを褒めるために自分でも気付いていない美点があることと、ジョンとのコントラストで自分の知性が目立つことを語る。前者は『白面の兵士』冒頭での、ホームズのワトスン評からの引用である。後者は、身長の話ではあったものの、同じような台詞が『ベルグレービアの醜聞』でも使われている。その後続けられる、「花嫁はブライズメイドをぱっとしない人にしたがる」との言葉は、ドイルによる外典『競技場バザー』からの引用である。また、シャーロックがワトスン夫妻の結婚を祝福しないのは、『四つの署名』最終シーンからの引用である。

シャーロックはスピーチ中に、ジョンのブログを振り返る形で、過去の事件を紹介する。「毒の巨人」は『四つの署名』のトリックを使ったものである。また1812個のマッチ箱に囲まれていた男の話は、『ソア橋』冒頭の「語られざる事件」である。一方で、マッチ箱の個数でもある1812年は、ナポレオンがロシア遠征を行った年でもあり、原典には『六つのナポレオン』という作品が存在する。呼び鈴を鳴らすか鳴らすまいか逡巡する依頼人の女性は、『花婿失踪事件』に登場する。

ベインブリッジの調査に向かったジョンが言う軍歴は、『緋色の研究』冒頭で示されるワトスンのものと等しい。

酔っ払ったシャーロックは「灰なら詳しい」と叫ぶが、ホームズは『緋色の研究』で、煙草の種類について論文を書いたと述べている[4]。その後221Bにやってきた依頼人のテッサは、シャーロックとジョンを見て、どちらがシャーロックか尋ねるが、同様のシーンは『まだらの紐』や『三破風館』などに存在する。

シャーロックがペルシャスリッパに煙草を詰め込んでいるのは、『マスグレーヴ家の儀式』からである。前作に引き続きマイクロフトが言う「確率の問題だよ」(: "Balance of probability.")との言葉は、『四つの署名』からの引用である[5]

今回、シャーロックとジョンの間で使われる死人が出る警告に、「バチカンカメオ」が再使用されている。これは元々『バスカヴィル家の犬』で言及される「語られざる事件」で、ジョン・ホームズ・マイクロフト間の符牒としてシーズン2『ベルグレービアの醜聞』、シーズン4『最後の問題』でも使われている[6][7]

ショルトー少佐と、彼を狙うジョナサン・スモールの名前は、いずれも『四つの署名』から取られている。原典でのショルトーは、現地民の宝物をくすねる意地汚い人物であり、原典のスモールは、宝物の正当な所有者として、ショルトーを狙いに来る人物である。

設定・制作秘話[編集]

ワトスン夫妻の結婚式会場となったゴールドニー・ホール英語版中の建物。

当初衣装チームは、結婚式でジョンに軍服を着せる予定だったが、除隊後の彼が結婚式で軍服を着ることは無いと分かり、衣装をモーニングコートに変更したという[8]。そのためか、ショルトー少佐は劇中で、除隊後も特別に軍服を手元に置いていると語っている。

メアリー用のウェディングドレスは、撮影が行われた9日間、型崩れを直すために毎日縫い直されていたことが明かされている[8]

ジョンとメアリーの結婚式では、シャーロックがベストマン(花婿側の付添人代表)、ジャニーンがメイド・オブ・オナー(花嫁側の付添人、ブライズメイドの代表)を務めている[9]。ベストマンは、結婚式の手配をする上で重要な役割を果たす[1]。結婚式のシーンで、シャーロックとジョンを引き合わせたスタンフォードの欠席が伝えられるが、彼を演じたデイヴィッド・ネリストは、『戦火の馬』に出演するため参加できなかったと語っている[注 6]

マイクロフトが自宅のトレッドミルでトレーニングをしているシーンは、元々前話『空の霊柩車』にあったものだが、このエピソードの脚本へ移稿された[12]。またこのシーン後のホームズ兄弟の通話で、2人の間の符牒「赤ひげ」(: Redbeard)が初登場する。

ベインブリッジの依頼を受けたシャーロックが言う「女の子は水兵好き」との曲は、1909年に作られた英国の曲である[13][14]。またベインブリッジの職場は、ロンドン中心部・ウェストミンスター寺院に隣接する、ウェリントン兵舎で行われた[15]

作中、ジョンとシャーロックがメスシリンダーを使ってはしご酒をするシーンに因み、早川書房併設のカフェ・クリスティでは、メスシリンダー入りのビールが提供されたことがある[16]。このメニューは、特別企画「パブ・シャーロック・ホームズの帰還」の一環で提供された[17]

本作では、シャーロックのマインドパレス中のシーンで、アイリーン・アドラー役のララ・パルヴァーが再登場する。

結婚式後の舞踏会では『美しく青きドナウ』が使われている。また、シャーロックがワトスン夫妻に贈ったワルツは、『忌まわしき花嫁』でも再使用されている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ シーズン3の黒幕であるチャールズ・アウグストゥス・マグヌッセン(Charles Augustus Magnussen)のイニシャル。
  2. ^ 結婚する男性の独身最後の日を祝い、近しい友人たちで行うパーティ[1]
  3. ^ 字幕などでは「警部」とされているが、台詞やコメンタリーでは"Detective Inspector"と述べられており、これを英国の警察制度 (Police ranks of the United Kingdomにあてはめると「刑事課警部補」となる。
  4. ^ 結婚式の招待状のシーンでミドルネームが判明する。
  5. ^ オリジナル版では、ベインブリッジの依頼がイーノック自身の声で読み上げられるが、吹替版ではジョン(声 - 森川智之)が代読している。
  6. ^ 『SHERLOCK』シーズン3の撮影は、2013年3月18日〜5月23日、同7月29日〜9月1日[10]であるため、ネリストの言う『戦火の馬』[11]とは、映画版ではなく、舞台版と考えられる。

出典[編集]

  1. ^ a b ベストマンの仕事”. WEDDABROAD 海外式ウェディングのススメ. 2016年4月3日閲覧。
  2. ^ AkariHiguchiのツイート(726204348468879360)
  3. ^ AkariHiguchiのツイート(723735711115935744)
  4. ^ ホームズとたばこ 3.ヘビー・スモーカーならではの逸話”. たばこワールド. JT (2005年4月20日). 2016年4月3日閲覧。
  5. ^ ウィキソース出典 Arthur Conan Doyle, “Chapter 10” (英語), The Sign of the Four, ウィキソースより閲覧, "That was the balance of probability, at any rate." 
  6. ^ Mellor, Louisa (2017年1月17日). “Sherlock: 38 Things You Might Have Missed in The Final Problem”. Den of Geek!. 2017年3月30日閲覧。
  7. ^ 10. Vatican Cameos”. Sherlock Season 4: 20 Easter Eggs & References In "The Final Problem". whatculture.com (2017年1月17日). 2017年7月31日閲覧。
  8. ^ a b スティーヴ・トライブ (2014, p. 264)
  9. ^ ブライズメイドとは”. ウエディング用語辞典. 2016年4月2日閲覧。
  10. ^ スティーヴ・トライブ (2014, p. 315)
  11. ^ BakerStBabesのツイート(716296679901814784)
  12. ^ スティーヴ・トライブ (2014, p. 240)
  13. ^ Ship Ahoy! (All The Nice Girls Love A Sailor) by Hetty King Songfacts”. 2016年4月3日閲覧。
  14. ^ ALL THE NICE GIRLS LOVE A SAILOR, TRADITIONAL BRITISH SONGS, POPULAR SONGS OF ENGLAND SCOTLAND AND WALES”. 2016年4月3日閲覧。
  15. ^ スティーヴ・トライブ (2014, p. 255)
  16. ^ ゆでがえる (2016年3月11日). “神田の老舗出版社で、ホームズだったりアルジャーノンを”. 毎日ゆでゆで、ゆでがえる. 楽天ブログ. 2016年4月3日閲覧。
  17. ^ 「パブ・シャーロック・ホームズの帰還」、7月31日開店!”. 早川書房 (2015年7月24日). 2016年4月3日閲覧。

参考文献[編集]

  • スティーヴ・トライブ 著、日暮雅通 訳『シャーロック・クロニクル』早川書房、2014年12月25日。ASIN 4152095121ISBN 978-4-15-209512-1OCLC 899971154全国書誌番号:22518008ASIN B00SXTKUVYKindle版)。 

外部リンク[編集]

ジョンのブログ記事[編集]

作中言及されるジョンのブログ。以下にシャーロックのスピーチで言及される記事を示した(全て英語)。