ソーラー・インパルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

ソーラー・インパルス
Solar Impulse

HB-SIA

HB-SIA

ソーラー・インパルス(Solar Impulse)は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校で進行中の有人ソーラープレーンプロジェクト。世界初の気球による無着陸地球一周を成功させたベルトラン・ピカール[1]がプロジェクトを主催している。このプロジェクトでも太陽エネルギーを動力源とする有人固定翼機で世界一周することを最終目標としている。最初の単座航空機はスイスの機体番号コードで HB-SIA とされ、自力で離陸でき、最長36時間連続航行可能とすることを目標として製作された[2]。2010年7月7日から8日にかけて、9時間の夜間飛行を挟んで連続26時間の飛行を成功させた[3]。このプロトタイプ機の経験に基づいてやや大きめの2号機 (HP-SIB) が製作されており、20日から25日をかけて世界一周する計画である[4]

設計と開発[編集]

ピカールがソーラー・インパルスのプロジェクトを開始したのは2003年のことである。その後様々な分野の専門家50人が6カ国から集まり、約100人がアドバイザーとして関与している[5]

プロジェクトの資金は私企業が出資している。主要スポンサーはドイツ銀行オメガソルベーSchindler Groupの4社。他にバイエル・マテリアルサイエンス、AltranSwisscom がスポンサーとなっている。サポーターとしては、Clarins、Semper、トヨタ自動車、BKW、STG がある。スイス連邦工科大学ローザンヌ校欧州宇宙機関ダッソーが技術的支援をしている[6]

これまでの経緯
  • 2003年: スイス連邦工科大学ローザンヌ校にて実現可能性を研究
  • 2004–05年: 概念開発
  • 2006年: 長距離航行シミュレーション
  • 2006–09年: プロトタイプ機製作
  • 2009年: プロトタイプ機初飛行
  • 2009–10年: プロトタイプ機の有人テスト飛行
  • 2012年: 初の大陸間飛行
今後の計画
  • 2011年: HB-SIB の製作
  • 2011–12年: テスト飛行
  • 2012年: 地球一周飛行[5]

プロトタイプ (HB-SIA)[編集]

コックピットが与圧されていないため上昇限界があり、あくまでも実証用の設計である。

HB-SIAの機体とエンジン部
HB-SIAの翼

翼幅はエアバスA340に匹敵する63.4m。翼の下に4つのナセルがあり、それぞれにリチウムイオンポリマー二次電池と10 hp (7.5 kW)の電動機、2枚羽根のプロペラがある。翼をなるべく軽くするため、炭素繊維のハニカム・サンドイッチ構造を採用している[7]

主翼と水平安定版の上面には12,000個の厚さ150μmの単結晶シリコン太陽電池があり、日中はこれで発電する。その電力で推進力を得ると同時に電池を充電して夜間飛行に備える。理論上は乗員1名で無制限の航行が可能である[8]。2010年7月、夜間飛行を含む26時間以上の連続有人飛行に成功した。

設計上の主な制限は搭載できる電池の容量である。条件がよければ24時間以上の間、平均で8 hp (6 kW)を供給でき、これは1903年のライト兄弟のライトフライヤー号の出力にほぼ匹敵する[7]。昼間は電池を充電すると同時に位置エネルギーを利用して電力消費を抑え、夜間に備えることができる[9]

初飛行[編集]

2009年6月26日、ソーラー・インパルスはスイスのデューベンドルフで初めて一般公開された。走行試験の後、2009年12月3日に初の短距離飛行を行った[10]。操縦士は Markus Scherdel[11]。プロジェクトの副リーダー André Borschberg は「信じられない1日だった。飛行機は約350m、地上1mほどの高度で飛行した…今回の試験は高く飛ぶことが目的ではなく、飛行中の操作性や飛行特性を確認することが目的だった」と述べ、さらに「結果は技術者が望んだとおりだった。これでエンジニアリング・フェーズが終り、飛行試験フェーズが始まる」と述べた[11]

その後の飛行[編集]

2010年4月7日、Markus Scherdel の操縦で87分以上の試験飛行を行った。この4月の試験飛行では高度1200mにまで達した[12]

2010年5月28日には、太陽エネルギーだけによる飛行を初めて成功させ、電池を飛行中に充電した[13]

初の夜間飛行[編集]

2010年7月8日、HB-SIAは26時間の有人飛行を達成した[14][15][16]André Borschberg が搭乗し、中央ヨーロッパ時間 (UTC+2) の7月7日午前6:51にスイスのパイエルヌの飛行場を離陸、翌朝9:00に着陸した[17]。この飛行で最高 8,700 m (28,500 ft) の高度に達した[18]。有人のソーラープレーンとしては航行距離でも高度でも世界最高を記録し、2010年10月に国際航空連盟 (FAI) が正式に記録を認めた[19][20]

初の大陸間飛行[編集]

2012年6月5日、スペインマドリードを離陸。19時間掛けてジブラルタル海峡を越え、モロッコラバト・サレ国際空港に着陸。飛行距離は830kmだった[21]

計画されている2機目の飛行機 (HB-SIB)[編集]

HB-SIB はソーラー・インパルス2号機のスイスの機体番号コードである。2011年に完成予定で、与圧されたコックピットと最新のアビオニクスを備え、大陸横断飛行や大洋横断飛行が可能である[5]

翼幅は 80.0 m (262.5 ft) でエアバスA380の翼幅 79.75 m (261.6 ft) より若干広く、旅客機としては世界最大である[22]

コックピットは与圧されていて酸素マスクなども備え、高度 12,000メートル (39,000 ft) で巡航可能となっている[22]

チームは世界一周飛行を2012年に実施したいとしている。北半球の赤道付近を一周する予定である。操縦士の交代のため5カ所で一旦着陸する予定となっている。操縦士の生理学上の制限により、1回の飛行は3日から4日までとしている[5]

電池が改良されれば重量を減らすことができ、複座式にして途中で止まらずに世界一周できるようになると期待されている[5]

仕様 (HB-SIA)[編集]

出典: Solar Impulse Project[7]and Diaz[22]

諸元

  • 乗員: 1
  • ペイロード: リチウムイオン電池: 450 kg、容量は 200 Wh/kg = 90 kWh
  • 全長: 21.85 m (71.7 ft)
  • 全高: 6.40 m (21.0 ft)
  • 翼幅: 63.4 m(208 ft)
  • 翼面積: 11,628 個の太陽電池: 200 m2 (2,200 sq ft)
  • 運用時重量: 1600 kg (3,500 lb)
  • 最大離陸重量: 2000 kg (4,400 lb)
  • 動力: 電動機、7.5 kW (10 HP) × 4
  • 離陸速度 35キロメートル毎時 (22 mph)

性能

  • 巡航速度: 70キロメートル毎時 (43 mph)
  • 航行時間 36時間 (projected)
  • 巡航高度 8,500m (27,900 ft)
  • 最大高度 12,000メートル (39,000 ft)


お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

関連項目[編集]

脚注・出典[編集]

  1. ^ FAI entry of the 1999 record
  2. ^ Solar Impulse Project. “HB-SIA Mission”. 2009年12月5日閲覧。
  3. ^ Swiss solar plane makes history with night flight”. Swisster (2010年7月8日). 2010年7月13日閲覧。
  4. ^ “Round-the-world solar plane debut”. BBC News. (2009年6月26日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8120026.stm 2009年11月19日閲覧。 
  5. ^ a b c d e Solar Impulse Project. “Solar Impluse The main stages of the project”. 2009年12月5日閲覧。
  6. ^ Solar Impulse Project. “Partners,Financing Structure”. 2010年2月25日閲覧。
  7. ^ a b c Solar Impulse Project. “HB-SIA file”. 2009年12月5日閲覧。
  8. ^ Engeler, Eliane (2010年7月8日). “Solar plane lands after completing 24-hour flight”. Associated Press. http://abcnews.go.com/Technology/wireStory?id=11113458 2010年7月8日閲覧。 
  9. ^ Description of HB-SIA at Solarimpulse.com”. Solarimpulse.com (2010年6月22日). 2010年7月9日閲覧。
  10. ^ “Record solar plane's first 'hop'”. BBC News. (2009年12月3日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/8393688.stm 2009年12月4日閲覧。 
  11. ^ a b Tom Simonite (2009年12月3日). “Solar-powered piloted plane makes its first 'flea hop'”. Web Edition. New Scientist. 2009年12月5日閲覧。
  12. ^ Solar Airplane Completes Maiden Voyage”. Wired.com. 2010年7月9日閲覧。
  13. ^ Grady, Mary (2010年5月). “Solar Impulse Flies On Pure Sunlight”. 2010年6月3日閲覧。
  14. ^ Maron, Dina Fine (2010年7月6日). “Swiss Team to Launch Solar Night Flight”. The New York Times. ClimateWire. http://www.nytimes.com/cwire/2010/07/06/06climatewire-swiss-team-to-launch-solar-night-flight-9738.html 2010年7月8日閲覧。 
  15. ^ “Solar Impulse completes record-breaking flight”. The Daily Telegraph (London). (2010年7月8日). http://www.telegraph.co.uk/earth/energy/solarpower/7878526/Solar-Impulse-completes-record-breaking-flight.html 2010年7月8日閲覧。 
  16. ^ Paur, Jason (2010年7月7日). “Solar Airplane to Fly Through the Night (Tonight!)”. Wired News. http://www.wired.com/autopia/2010/07/solar-airplane-to-fly-through-the-night-tonight 2010年7月8日閲覧。 
  17. ^ van Loon, Jeremy (2010年7月8日). “Solar-Powered Plane Lands Safely After First Flight at Night”. BusinessWeek. http://www.businessweek.com/news/2010-07-08/solar-powered-plane-lands-safely-after-first-flight-at-night.html 2010年7月8日閲覧。 
  18. ^ “Solar-powered plane lands safely after 26-hour flight”. BBC News. (2010年7月8日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/world/europe/10550430.stm 2010年7月8日閲覧。 
  19. ^ Alan Cowell (2010年7月8日). “Solar-Powered Plane Flies for 26 Hours”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2010/07/09/world/europe/09plane.html 2010年7月8日閲覧。 
  20. ^ The FAI ratifies Solar Impulse's World Records”. 2010年10月22日閲覧。
  21. ^ 世界初の成功、大陸間ソーラー飛行”. 2012年6月9日閲覧。
  22. ^ a b c Diaz, Jesus (2007年5月23日). “Solar Impulse: Around the World in a 100% Sun-powered Airplane”. Gixmodo. 2010年2月25日閲覧。

外部リンク[編集]