ツクバトリカブト

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ツクバトリカブト
福島県阿武隈山地 2018年9月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum
: ヤマトリカブト
A. japonicum
亜種 : ツクバトリカブト
A. j subsp. subcuneatum
学名
Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Nakai ex Tamura et Namba) Kadota (1983)[1][2]
シノニム
  • Aconitum momosei Nakai (1953)[3][2]
  • Aconitum rectissimum Nakai (1953)[4][2]
  • Aconitum tsukubense Nakai (1953)[5]
和名
ツクバトリカブト(筑波鳥兜)[6]

ツクバトリカブト(筑波鳥兜、学名Aconitum japonicum subsp. maritimum)は、キンポウゲ科トリカブト属疑似一年草有毒植物ヤマトリカブト A. japonicum subsp. japonicum を分類上の基本種とする亜種群の一つ[2][6]

ヤマトリカブトを基本種とする亜種群は、北海道の道南地方から本州、四国、九州まで、国外では朝鮮半島中国大陸東北部に分布するが、本亜種は東北地方南部から関東地方の太平洋側沿岸山地、群馬県長野県に分布し、低地から山地帯の林縁、草原などに生育する。花柄と上萼片に屈毛が生え、葉身が五角形から五角形状円形で3全裂-深裂するのが特徴[2][6][7]

特徴[編集]

形態的変異が著しく、は草原に生えるときは直立し、林内や林縁に生えるときは斜上し先端は垂れて、高さ・長さは60-150cmになる。中部の茎の葉身は五角形から五角形状円形で、長さ4-14cm、幅4.5-16cmになり、3全裂から3深裂し、側裂片はさらに2深裂する。裂片には粗い大きな鋸歯があり、長楕円状卵形になり、鋭頭またはやや鈍頭になる。葉質はやや厚く、葉の両面に屈毛が生え、葉柄にも屈毛が生える[2][6][8]

花期は8-10月。花序は長さ5-10cmで、散房状または小型の円錐花序になり、2-6個ほどのがつき、上部から下部に向かって開花する。花柄は長さ3-10cmになり、全体に下向きの屈毛が密生する。花は長さ35-40mm。花弁にみえるのは萼片で、上萼片1個、側萼片2個、下萼片2個の5個で構成される。かぶと状になる上萼片は僧帽形になり、前方の嘴は長い、または円錐形となり、前方の嘴は短い。萼片の外面に屈毛が生える。花弁は上萼片の中にかくれて見えないが、柄、舷部、を分泌する距、唇部で構成される。1対あり、ときに有毛、距は太く長く180度以上に屈曲するか[2]、または太く短い[6]雄蕊には多少とも開出毛が生え、雌蕊は3-5個あり、ふつう無毛でときに屈毛が生える。果実は長さ16-20mmの袋果になり、直立する。染色体数2n=32の4倍体種である[2][6][8]

分布と生育環境[編集]

日本固有種[7]。東北地方南部から関東地方までの太平洋側沿岸山地、群馬県、長野県に分布し、低地から山地帯の林縁、草原などに生育する[2][6]

東北地方南部から茨城県北部・中部までは、葉身が三全裂するものが普通であるが、茨城県南部からそれより南西部の分布地では三深裂するものが混生するようになる[9]

名前の由来[編集]

和名ツクバトリカブトは、「筑波鳥兜」の意[6]シノニムA. tsukubense Nakai (1953) のタイプ標本茨城県筑波山で見いだされた[5]中井猛之進 (1950) は、A. tsukubense の学名が正式に記載される1953年より前に、日本植物学会第14回大会講演要旨において、中井による「滿洲,朝鮮,日本,臺灣,樺太,千島産のトリカブト類の分類について」の中で、「筑波トリカブト」を使用している[10]。また、門田裕一 (1983)は、ツクバトリカブトの学名を整理するにあたって、千葉県鹿野山で採集されたタイプ標本をもとに発表された「ハマトリカブト(テリハトリカブト)」A. japonicum Thunb. var. maritimum Nakai ex Tamura et Namba (1953) が A. japonicum の種以下の分類上の区分において最初に使用されたこの植物の学名であることから(ただし、それは記載文を伴わない裸名であった)、 var. maritimum を採用し、それを亜種のランクに階級移動させて、A. japonicum Thunb. subsp. maritimum (Nakai ex Tamura et Namba) Kadota (1983) とした。さらに門田は、和名については、「ハマトリカブト(テリハトリカブト)」よりも「ツクバトリカブト」が最も普通に使用されているのでそれを使用することが妥当であるとした[9]

亜種名 maritimum は、「海の」「海浜生の」の意味[11]

分類[編集]

ツクバトリカブトおよび分類上の基本種ヤマトリカブト A. japonicum とその亜種群は、トリカブト属トリカブト亜属 Subgenus Aconitum のうち、花弁の舷部が距に向かって膨大するキヨミトリカブト節 Section Euchylodea に属し、同節のうち、花はふつう花序の上から下に向かって開花するヤマトリカブト列 Series Japonica に分類される。ヤマトリカブト列に属する日本に分布するの種のうち、温帯に生育する種(高山植物でない種)としては、ヤマトリカブトの他、ヤサカブシ A. nikaiiコウライブシ A. jaluense亜種センウズモドキ subsp. iwatekense がある)、ウゼントリカブト A. okuyamaeオンタケブシ Aconitum metajaponicumカワチブシ A. grossedentatum が属する。ヤマトリカブトとその亜種群、ヤサカブシは、花柄と上萼片に屈毛が生えること。ウゼントリカブトとオンタケブシは、葉が腎円形で3浅裂-中裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は短いこと。コウライブシは、葉が五角形で3全裂-深裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は長いこと。カワチブシの花柄と上萼片は無毛であることが異なる。なお、オンタケブシは分布が限られ極まれな種であり、ヤサカブシは山口県にのみ分布する種である[12]

ヤマトリカブト類の分類[編集]

広義ヤマトリカブト Aconitum japonicum の分類[2]
和名 亜種名 subsp. 変種名 var. 分布地 茎の長さ 葉身 花序、長さ、花数 上萼片、嘴
ヤマトリカブト japonicum 栃木県-愛知県の太平洋側 60-200cm 五角形-五角形状円形、3深裂-中裂 散房状-総状、5-8cm、1-5個 円頭の円錐形-僧帽形、長い、短い
オクトリカブト subcuneatum 道南、東北地方の日本海側、新潟県 60-200cm 腎円形、5-7浅裂-中裂 棒状の円錐状、8-20cm、3-10個 背の高い円錐形-僧帽形、長い
ツクバトリカブト maritimum 東北地方-関東地方の太平洋側、長野県 60-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 小型の円錐状、5-10cm、2-6個 僧帽形、短い
イヤリトリカブト maritimum iyariense 長野県北部特産 300cm、上部はつる状
イブキトリカブト ibukiense 福井県-兵庫県の日本海側 25-180cm 腎円形-五角形状円形、3中裂-3深裂 散房状-総状、4-14cm、2-7個 円頭の円錐形-僧帽形、短い
タンナトリカブト napiforme 中国地方、四国、九州 15-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 散房状、4.5-16cm、2-8個 僧帽形、長い

共通することは、花柄と上萼片に屈毛が生えること[12]

  • ヤマトリカブト(山鳥兜[6]Aconitum japonicum Thunb. (1784) subsp. japonicum[13])- 分類上の基本種。茎は高さ60-200cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3深裂-中裂し、花序は散房状から総状になる。本州の栃木県から愛知県にかけて分布する[2]
  • オクトリカブト(奥鳥兜[6]Aconitum japonicum Thunb. subsp. subcuneatum (Nakai) Kadota (1987)[14])- 茎は高さ60-200cmになり、葉身は腎円形で、5-7浅裂-中裂し、花序は棒状の円錐状になる。北海道道南地方、本州の新潟県群馬県以北の日本海側に分布する[2]
  • ツクバトリカブト(筑波鳥兜[6]Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Nakai ex Tamura et Namba) Kadota (1983)[1])- 本亜種。長野県の高原地帯には本亜種の直立型があり、「ハチブセウズ」または「タチトリカブト」と言われる[2]。分類表内のシノニム A. momosei Nakai; A. rectissimum Nakai は、中井猛之進 (1953) によって「ハチブセウズ」、「タチトリカブト」とされ、独立種とされた経緯がある[9]
    • イヤリトリカブト(居谷里鳥兜、Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura et Namba) Kadota var. iyariense Kadota (1987)[15])- ツクバトリカブトの変種。茎は高さ300cmに達し、茎の上部がつる状になり、花序が大型になって花が多数つく。長野県北部の特産で、湿地や渓流の流れに沿って生育する[2]。環境省(2020年)の絶滅危惧IA類、長野県(2014年)の絶滅危惧IA類に選定されている[16]

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト

(2020年、環境省)
長野県(2014年)絶滅危惧IA類(CR)

  • イブキトリカブト(伊吹鳥兜[6]、別名、キタヤマブシ、Aconitum japonicum Thunb. subsp. ibukiense (Nakai) Kadota (1987)[17])- 茎は高さ25-180cmになり、葉身は腎円形-五角形状円形で、3中裂-深裂し、花序は散房状から総状になる。福井県から兵庫県山口県の日本海側に分布する[2]
  • タンナトリカブト(丹那鳥兜[6]、耽羅鳥兜、別名、サンインヤマトリカブト、Aconitum japonicum Thunb. subsp. napiforme (H.Lév. et Vaniot) Kadota (1987)[18])- 茎は高さ15-150cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3全裂-深裂し、花序は散房状になる。中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸東北部に分布する[2]

ギャラリー[編集]

ツクバトリカブト[編集]

イヤリトリカブト[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b Aconitum japonicum subsp. maritimum (Nakai ex Tamura & Namba) Kadota, International Plant Names Index
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.128-129
  3. ^ Aconitum momosei Nakai, International Plant Names Index
  4. ^ Aconitum rectissimum Nakai, International Plant Names Index
  5. ^ a b ツクバトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』pp.212-213
  7. ^ a b 『日本の固有植物』p.57
  8. ^ a b 田村道夫 (1982)「キンポウゲ科トリカブト属」『日本の野生植物 草本II 合弁花類』p.66
  9. ^ a b c 門田裕一、「茨城県植物ノート(1)」、筑波実験植物園研報 No.2: 93-107, (1983).
  10. ^ (89) 中井猛之進、「滿洲,朝鮮,日本,臺灣,樺太,千島産のトリカブト類の分類について」、「日本植物学会第14回大会講演要旨」、The botanical magazine, Tokyo, 『植物学雑誌』、Vol.63, Issue 741-742, pp.53-57, (1950).
  11. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1501
  12. ^ a b 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.120-122
  13. ^ ヤマトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  14. ^ オクトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  15. ^ イヤリトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  16. ^ イヤリトリカブト、日本のレッドデータ検索システム、-2022年2月19日閲覧
  17. ^ イブキトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  18. ^ タンナトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

参考文献[編集]

外部リンク[編集]