タンナトリカブト

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タンナトリカブト
広島県中国山地 2023年9月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum
: ヤマトリカブト
A. japonicum
亜種 : タンナトリカブト
A. j subsp. napiforme
学名
Aconitum japonicum Thunb. subsp. napiforme (H.Lév. et Vaniot) Kadota (1987)[1]
シノニム
  • Aconitum napiforme H.Lév. et Vaniot (1908)[2]
  • Aconitum kiusianum Nakai (1929)[3]
  • Aconitum saninense Nakai (1950)[4]
  • Aconitum napiforme H.Lév. et Vaniot var. saninense (Nakai) Tamura et Namba (1960)[4]
  • Aconitum napiforme H.Lév. et Vaniot var. latifolium Nakai ex Tamura et Namba (1960)[3]
  • Aconitum japonicum Thunb. var. napiforme (H.Lév. et Vaniot) Saiki (1966)[5]
和名
タンナトリカブト(耽羅鳥兜)[6]

タンナトリカブト(耽羅鳥兜、学名Aconitum japonicum subsp. napiforme)は、キンポウゲ科トリカブト属疑似一年草有毒植物ヤマトリカブト A. japonicum subsp. japonicum を分類上の基本種とする亜種群の一つ。別名、サンインヤマトリカブト[6][7][8]

ヤマトリカブトを基本種とする亜種群は、北海道の道南地方から本州、四国、九州まで、国外では朝鮮半島中国大陸東北部に分布するが[7]、本亜種は本州の近畿地方西部以西[9]中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸東北部に分布し、低地や山地の林縁、林内などに生育する。花柄と上萼片に屈毛が生え、葉身が五角形から五角形状円形で3全裂、まれに3深裂し、花序がふつう散房状になるのが特徴[6][7][8]

特徴[編集]

地下の塊茎は径1-2cmになる。はやや直立するか斜上し、高さは15-150cmになり、変異の幅が広く、茎の上部には屈毛が生える。茎の中部につくの葉身は五角形から五角形状円形で、長さ4-14cm、幅4.5-16cmになり、3全裂からまれに3深裂し、裂片はさらに羽裂し、終裂片は披針形になるか、卵形の粗い鋸歯縁になる[6][7]

花期は9-11月。花序は長さ4.5-9cmの散房状、総状または円錐状になり、2-8個ほどのがつく。 花柄は長さ3-7cmになり、全体に屈毛が密生する。花は長さ30-45mmになり、濃青紫色から菫色、ときに白花もある。花弁にみえるのは萼片で、外面に屈毛が生え、上萼片1個、側萼片2個、下萼片2個の5個で構成される。かぶと状になる上萼片は僧帽形で前方の嘴は長くとがるか、または背の高い円錐形となり前方の嘴は短い。花弁は上萼片の中にかくれて見えないが、柄、舷部、を分泌する距、唇部で構成される。1対あり、距は細く長く180度以下に屈曲する。雄蕊は無毛、雌蕊は3-5個あり、ふつう無毛でときに屈毛が生える。果実は長さ8-13mmの袋果になり、直立する。染色体数2n=32の4倍体種である[6][7][8]

分布と生育環境[編集]

本州の近畿地方西部以西[9]、中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸東北部に分布し、低地や山地の林縁、林内などに生育する。中国地方、四国、九州では最もふつうに見られるトリカブト属であるが、ヤマトリカブトの5つの亜種群の中では少ない亜種である[6][7]

名前の由来[編集]

和名タンナトリカブトは、「耽羅鳥兜」の意。タイプ標本は韓国の済州島で採集された[1][6]。「耽羅(たんな)」は済州島の古い呼び名である[6]

シノニムにあげた学名では、サンインヤマトリカブト、ヒロハノタンナトリカブト、ウンゼントリカブトの名称がある[4][3]

亜種名 napiforme は、「カブラ形の」「扁球の」の意味[10]

分類[編集]

タンナトリカブトおよび分類上の基本種ヤマトリカブト A. japonicum とその亜種群は、トリカブト属トリカブト亜属 Subgenus Aconitum のうち、花弁の舷部が距に向かって膨大するキヨミトリカブト節 Section Euchylodea に属し、同節のうち、花はふつう花序の上から下に向かって開花するヤマトリカブト列 Series Japonica に分類される。ヤマトリカブト列に属する日本に分布するの種のうち、温帯に生育する種(高山植物でない種)としては、ヤマトリカブトの他、ヤサカブシ A. nikaiiコウライブシ A. jaluense亜種センウズモドキ subsp. iwatekense がある)、ウゼントリカブト A. okuyamaeオンタケブシ Aconitum metajaponicumカワチブシ A. grossedentatum が属する。ヤマトリカブトとその亜種群、ヤサカブシは、花柄と上萼片に屈毛が生えること。ウゼントリカブトとオンタケブシは、葉が腎円形で3浅裂-中裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は短いこと。コウライブシは、葉が五角形で3全裂-深裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は長いこと。カワチブシの花柄と上萼片は無毛であることが異なる。なお、オンタケブシは分布が限られ極まれな種であり、ヤサカブシは山口県にのみ分布する種である[11]

ヤマトリカブト類の分類[編集]

広義ヤマトリカブト Aconitum japonicum の分類[7]
和名 亜種名 subsp. 変種名 var. 分布地 茎の長さ 葉身 花序、長さ、花数 上萼片、嘴
ヤマトリカブト japonicum 栃木県-愛知県の太平洋側 60-200cm 五角形-五角形状円形、3深裂-中裂 散房状-総状、5-8cm、1-5個 円頭の円錐形-僧帽形、長い、短い
オクトリカブト subcuneatum 道南、東北地方の日本海側、新潟県 60-200cm 腎円形、5-7浅裂-中裂 棒状の円錐状、8-20cm、3-10個 背の高い円錐形-僧帽形、長い
ツクバトリカブト maritimum 東北地方-関東地方の太平洋側、長野県 60-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 小型の円錐状、5-10cm、2-6個 僧帽形、短い
イヤリトリカブト maritimum iyariense 長野県北部特産 300cm、上部はつる状
イブキトリカブト ibukiense 福井県-兵庫県の日本海側 25-180cm 腎円形-五角形状円形、3中裂-3深裂 散房状-総状、4-14cm、2-7個 円頭の円錐形-僧帽形、短い
タンナトリカブト napiforme 中国地方、四国、九州 15-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 散房状、4.5-16cm、2-8個 僧帽形、長い

共通することは、花柄と上萼片に屈毛が生えること[11]

  • ヤマトリカブト(山鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. (1784) subsp. japonicum[12])- 分類上の基本種。茎は高さ60-200cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3深裂-中裂し、花序は散房状から総状になる。本州の栃木県から愛知県にかけて分布する[7]
  • オクトリカブト(奥鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. subsp. subcuneatum (Nakai) Kadota (1987)[13])- 茎は高さ60-200cmになり、葉身は腎円形で、5-7浅裂-中裂し、花序は棒状の円錐状になる。北海道道南地方、本州の新潟県群馬県以北の日本海側に分布する[7]
  • ツクバトリカブト(筑波鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura et Namba) Kadota var. maritimum (Tamura et Namba) Kadota (1983)[14])- 長野県の高原地帯には本亜種の直立型があり、「ハチブセウズ」または「タチトリカブト」と言われる[7]
    • イヤリトリカブト(居谷里鳥兜、Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura et Namba) Kadota var. iyariense Kadota (1987)[15])- ツクバトリカブトの変種。茎は高さ300cmに達し、茎の上部がつる状になり、花序が大型になって花が多数つく。長野県北部の特産で、湿地や渓流の流れに沿って生育する[7]。環境省の絶滅危惧IA類、長野県の絶滅危惧IA類(CR)に選定されている[16]
  • イブキトリカブト(伊吹鳥兜[8]、別名、キタヤマブシ、Aconitum japonicum Thunb. subsp. ibukiense (Nakai) Kadota (1987)[17])- 茎は高さ25-180cmになり、葉身は腎円形-五角形状円形で、3中裂-深裂し、花序は散房状から総状になる。福井県から兵庫県山口県の日本海側に分布する[7]
  • タンナトリカブト(耽羅鳥兜、別名、サンインヤマトリカブト、Aconitum japonicum Thunb. subsp. napiforme (H.Lév. et Vaniot) Kadota (1987)[1])- 本亜種。茎は高さ15-150cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3全裂-深裂し、花序は散房状になる[7]近畿地方西部以西[9]中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸東北部に分布する[7]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c タンナトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ タンナトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ a b c タンナトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b c タンナトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  5. ^ タンナトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  6. ^ a b c d e f g h 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.492
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.128-129
  8. ^ a b c d e f g 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』pp.212-213
  9. ^ a b c 田村道夫 (1982)「キンポウゲ科トリカブト属」『日本の野生植物 草本II 合弁花類』p.64
  10. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1504
  11. ^ a b 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.120-122
  12. ^ ヤマトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  13. ^ オクトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  14. ^ ツクバトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  15. ^ イヤリトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  16. ^ イヤリトリカブト、日本のレッドデータ検索システム、-2023年12月29日閲覧
  17. ^ イブキトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

参考文献[編集]

外部リンク[編集]