深名線 (ジェイ・アール北海道バス)
深名線(しんめいせん)は、ジェイ・アール北海道バスが運行している路線バスである。
1995年、鉄道路線の深名線廃止にあたって運行を開始した鉄道転換路線である。当初は北海道旅客鉄道(JR北海道)の直営路線であったが、2000年4月の分社化によってジェイ・アール北海道バスによる運行となったのち、2002年からは実際の運行および管理業務を道北バスに委託している[1]。
歴史
[編集]運行開始までの経緯
[編集]日本国有鉄道(国鉄)が運営する鉄道路線の深名線は、利用客が少なく、豪雪地帯であるが故に除雪費用が嵩んでいた。国鉄は経営悪化により赤字路線の廃止など合理化を推し進め、深名線は1968年(昭和43年)に廃止勧告を受けた経緯がある(赤字83線)[2]。1980年(昭和55年)に制定された日本国有鉄道経営再建促進特別措置法では、深名線は第2次廃止対象路線相当であったが、国鉄が並行道路でバスによる試走などを行った結果、「代替道路が未整備である」として除外、存続となった[3]。
鉄道に並行する道路は1992年(平成4年)までに整備が完了し、北海道旅客鉄道(JR北海道)は同年12月に「代替道路は整備された」と判断。1994年(平成6年)12月10日に深名線を廃止しバスに転換する意向である旨を発表した。この時点では深名線の窮状、バス転換した場合もバスの運行はJR北海道が行うことを示したのみで、廃止日などの具体的な説明はなく、深川市・幌加内町・風連町・名寄市の沿線首長も今日は説明を聞くだけといったスタンスであったが、同年12月28日に4市町で構成する「JR深名線問題対策協議会」を設け、今後の対応にあたることとした[4]。
1995年(平成7年)1月7日、JR北海道はバス転換に際して運行ダイヤは鉄道の運行時間・本数を基本とするなど具体的な内容を示した。これを受けた協議会ではこの内容を受け入れず、鉄道を廃止するのだからそれに見合ったサービス向上をと、仮にバス転換となった場合は鉄道より便利にするよう要望した[5]。
以降は事務レベルのやり取りが繰り返され、同年5月8日にJR北海道から、
- 運行ダイヤは当初予定の2倍とし、快速便を大幅に増やす[6]。
- 車両はリクライニング座席、冷暖房完備、乗降口昇降機能、無線機、後方監視カメラなどを設けたものとする。トイレは冬期に汚物凍結するため設置しないが、主要停留所でトイレ利用希望者に配慮した停車時間を措置する[6]。
- 料金は鉄道運賃と同じではなく、一部区間で運行している北空知バス(現・空知中央バス)と同水準とする。定期乗車券は鉄道とバスの差額を一定期間補填する[7]。
- 運行条件の一方的な改変は行わず、沿線自治体と必ず協議する[8]。
などといった最終案が示された。これを受けた沿線首長はJR北海道も歩み寄りを見せたとして、苦渋の選択ではあるが5月15日までにバス転換受け入れを表明。5月16日に開催されたJR深名線問題対策協議会でJR北海道社長に同意書が手渡された。JR北海道は5月26日に深名線の9月4日付での廃止を申請し、6月16日に申請通り許可された[8]。
運行開始後
[編集]1995年(平成7年)9月4日、雨模様の中で出発式が挙行された。ほとんどの区間において、路線バスが走るのは初めての区間であった[9]。
運行開始時の便数は以下の通りである[10]。鉄道の2倍の本数が設定されたほか、同じ町内でありながら鉄道での日帰りの往復が不可能であった母子里から幌加内への日帰りが可能なダイヤとなった[11]。
- 深川 - 幌加内:10往復(下幌加内経由・新成生経由が5往復ずつ。うち快速は幌加内行5本、深川行7本。)
- 上多度志→深川:1本
- 幌加内 - 名寄:6往復
- 幌加内 - 朱鞠内:2往復
深名線バスは鉄道時代よりも運行本数や停留所を増やして沿線住民の利便性を確保し、バス輸送になって赤字額は大幅に圧縮されたものの、収益が好転することはなかった。また、鉄道時代の1994年(平成6年)度の1日平均利用者329人に対し、バス通年運行初年度となる1996年(平成8年)度は302人、2018年(平成30年)度は67人まで減少している[12] [13]これは、沿線地域の過疎化が進行したことに加え、少子化の進行により通学利用者が減少したことが要因とみられた[14]。幌加内町では町民の定期乗車券・回数乗車券購入者に助成を行い乗客数向上に努めるなど、鉄道から転換されたバスもまた乗客数の維持が課題となった[15]。
1998年4月には細分化されていた系統の統合を行ったが、2000年度の利用者は1日250人程度しかおらず、営業赤字は年間2億円を超える状況となった[14]ことから、沿線3市町の同意を得た上で、2002年2月に初の減便を実施した[14]。さらに、同年12月より深名線ならびに運行を担当していた深川営業所を管理委託することによって経費の削減をはかっている[14]。当初は北空知バスとの交渉をしたがまとまらず[14]、道北バスを委託先とすることで2002年12月から管理委託が開始された[1][16]。道北バス委託後の収支は収入1500万円に対し、経費が1億2300万円となっている(2018年現在)[17]
2003年度の年間輸送人員は7万8千人程度で、1日平均にすると194人となり、これは有識者に「あまり乗車率のよくないコミュニティバス程度」と評される輸送人員であった[18]。しかし、深名線バスの路線長は140kmもあるほか、利用者の大半が比較的長距離を乗車しているため、代替交通が考えにくい状況であるとされる[14]。
沿革
[編集]JR北海道
[編集]ジェイ・アール北海道バス
[編集]- 1999年
- 11月1日 - ジェイ・アール北海道バスが設立される。
- 2000年
- 4月1日 - ジェイ・アール北海道バスが営業開始。北海道旅客鉄道自動車事業部・深川自動車営業所をジェイ・アール北海道バス深川営業所に改組。
- 7月1日 - 深川営業所-母子里間にて荷物営業開始。
- 2001年
- 2002年
- 2003年
- 4月1日 - 丸山公園経由を新設。
- 12月1日 - 「大師」停留所を新設。
- 2004年
- 4月1日 - 「一已7丁目」停留所を新設。
- 12月1日 - 深川営業所前-幌加内間にて荷物営業を再開。
- 2010年
- 12月13日 - ダイヤ改正、幌加内トンネル開通に伴い、鷹泊自然公園入口-幌加内峠下で経路変更。
- 2020年
- 11月1日- ダイヤ改正、多度志→深川駅間の区間便を減便、今年度より夏期ダイヤ→冬期ダイヤの切り替えを12月1日から11月1日に変更
- 2024年
- 1月1日-本年より元日は全便運休となる
- 4月1日-ダイヤ改正、幌加内-朱鞠内系統廃止、幌加内→深川と幌加内-名寄間の最終便繰り上げ。
路線
[編集]全便が幌加内で系統分割している。深川 - 幌加内は7往復、幌加内-名寄は平日4往復・土日祝日は3往復。
運行系統
[編集]特記を除き2024年4月1日現在。詳細な停留所は公式サイトの時刻表を参照。
快速便
普通便
- 深川 - 五番通 - 上多度志 - 多度志 - 鷹泊 - 幌加内
- 深川 - 丸山公園前 - 上多度志 - 多度志 - 鷹泊 - 幌加内
- 幌加内 - 政和 - 朱鞠内 - 三股 - 母子里 - 名寄
- 夏期(6月 - 8月)の一部の便は三股から湖畔に乗り入れる。
冬期スクールバス
所要時間
[編集]- 深川 - 幌加内 … 快速便:約1時間10分、普通便:約1時間17分
- 幌加内-朱鞠内 … 約50分
- 朱鞠内-名寄 … 約1時間10分
- ※冬季のダイヤでは上記3区間とも所要時間が5分程度長めに設定される。
乗車券
[編集]JR北海道との連絡運輸指定、普通乗車券発売は2014年(平成26年)4月1日廃止。JR鉄道会社が発行し深名線を利用可能範囲に含む特別企画乗車券は、通年発売のものでは北海道フリーパスのみ利用可能。訪日外国人向けではジャパン・レール・パス、北海道レールパスのみ利用可能。
乗車券類はジェイ・アール北海道バス(またはJR北海道)発行のもののみ有効。競合する空知中央バスや委託先の道北バス発行のものは使用できない。乗車カードは深名線では導入されないため、紙の回数乗車券、定期乗車券を発売する。ただし、定期券についてはスマートフォンアプリ「バスもり!」によるものも利用できる[23]。
幌加内・朱鞠内で乗り継ぐ場合、運賃は当日に限り通算する。この場合、精算後乗務員より乗継券の発行を受ける。
交通系ICカードは利用不可。
担当営業所
[編集]深名線のバス運行にあたり、JR北海道では深川駅構内に深川自動車営業所を新設した[9]。開設当初は所長以下20名(うち運転士16名)という人員配置で、運転士は札幌中央や厚別などの各営業所から選抜した[9]。また、車両についてはJR北海道バスの一般路線では初めてとなる、前扉のみでリクライニングシートを装備した車両が運用されることになった[24]。運行開始当初は45人乗りの大型バス4台と、29人乗りの中型バス3台であった[9]。
その後、減便と同時に車両数は7台から5台に減車された[14]。また、2002年10月からの道北バスへの管理委託に伴い、深川営業所にはジェイ・アール北海道バスの社員はいなくなった[18]。
車両の老朽取り換えにともない、現在は中型高速バスタイプのトイレ付き車両や、通常の路線バスタイプの車両が使用されている。
輸送人員
[編集]年度 | 輸送人員(人) | 特記事項 | 出典 |
---|---|---|---|
1995年(平成7年) | 65,176 | 9月4日から | [25] |
1996年(平成8年) | 110,169 | 通年運行初年度 | |
1997年(平成9年) | 107,383 | ||
1998年(平成10年) | 99,932 | ||
1999年(平成11年) | 93,599 | ||
2000年(平成12年) | 90,587 | ||
2001年(平成13年) | 87,237 | ||
2002年(平成14年) | 72,837 | ||
2003年(平成15年) | 70,826 | ||
2004年(平成16年) | 60,895 | ||
2005年(平成17年) | 58,868 | ||
2006年(平成18年) | 53,000 | [26] | |
2007年(平成19年) | 51,000 | ||
2008年(平成20年) | 46,000 | ||
2009年(平成21年) | 42,000 | ||
2010年(平成22年) | 39,000 | ||
2011年(平成23年) | 39,000 | ||
2012年(平成24年) | 37,000 | ||
2013年(平成25年) | 35,000 | ||
2014年 (平成26年) | 32,120 | [27] | |
2015年 (平成27年) | 30,660 | ||
2016年 (平成28年) | 31,755 | ||
2017年 (平成29年) | 25,550 | ||
2018年 (平成30年) | 24,455[要出典] | ||
2019年 (令和1年) | 19,345 | ||
2020年 (令和2年) | 16,425 | ||
2021年 (令和3年) | 13,505 | ||
2022年 (令和4年) | 14,600 |
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '03年版』ジェー・アール・アール、2003年7月1日、193頁。ISBN 4-88283-124-4。
- ^ 『新幌加内町史』 p. 595
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 598 - 599
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 600 - 601
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 601 - 602
- ^ a b 『新幌加内町史』 p. 602
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 602 - 603
- ^ a b 『新幌加内町史』 p. 603
- ^ a b c d 鉄道ジャーナル 通巻350号 鈴木文彦『深名線転換バス 発進!』 (1995) p.87
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 624 - 625
- ^ 鉄道ジャーナル 通巻350号 鈴木文彦『深名線転換バス 発進!』 (1995) p.89
- ^ 『バスジャパン・ハンドブックシリーズR78 ジェイ・アール北海道バス』 (2012) p.27
- ^ “教えてほろみん先生ジェイアール北海道バス深名線”. 幌加内町. 2020年3月18日閲覧。
- ^ a b c d e f g 鉄道ジャーナル 通巻458号 鈴木文彦『バス転換10年目の深名線を見る』 (2004) p.76
- ^ 『新幌加内町史』 pp. 626 - 627
- ^ 『バスジャパン・ハンドブックシリーズR78 ジェイ・アール北海道バス』 (2012) p.28
- ^ “教えて!ほろみん先生”. 幌加内町. 20241001閲覧。
- ^ a b 鉄道ジャーナル 通巻458号 鈴木文彦『バス転換10年目の深名線を見る』 (2004) p.77
- ^ 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '96年版』ジェー・アール・アール、1996年7月1日、181頁。ISBN 4-88283-117-1。
- ^ “深名線 もう乗れない… 54年間の歴史に幕”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (1995年9月4日)
- ^ “深名線代替バス同乗ルポ 乗客の評価まちまち 思ったほど揺れず「鉄道より座席が狭い」”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (1995年9月5日)
- ^ “ジェイ・アール北海道バス 深名線時刻表 2018(平成30)年12月1日改正” (PDF). ジェイ・アール北海道バス. 2019年8月15日閲覧。
- ^ “バスもり!”. ウェルネット株式会社. 2022年1月14日閲覧。
- ^ 『バスジャパン・ハンドブックシリーズ8 北海道旅客鉄道』 (1996) p.32
- ^ 『新幌加内町史』 p. 626
- ^ “平成26年度 深川市地域公共交通のあり方 検討結果報告書” (PDF). 深川市. 2017年1月19日閲覧。
- ^ “深名線の現状について”. マイ広報誌(スパイラル株式会社). 20240825閲覧。
参考文献
[編集]- 『新幌加内町史』新幌加内町史編纂委員会、2008年。
- 『バスジャパン・ハンドブックシリーズ8 北海道旅客鉄道』BJエディターズ、1996年12月。ISBN 9784434169861。
- 『バスジャパン・ハンドブックシリーズR 78 ジェイ・アール北海道バス』BJエディターズ、2012年9月。ISBN 9784434169861。
- 鈴木文彦「深名線転換バス 発進!」『鉄道ジャーナル』第350号、鉄道ジャーナル社、1995年12月、87-89頁。
- 鈴木文彦「バス転換10年目の深名線を見る」『鉄道ジャーナル』第458号、鉄道ジャーナル社、2004年12月、76-77頁。