平田盛胤
平田 盛胤 | |
|---|---|
 | |
| 肩書き | 東京府神職会 会長 |
| 個人情報 | |
| 生誕 |
戸沢盛定 1863年9月26日 |
| 死没 |
1945年2月28日（81歳没）[注釈 1] |
| 墓所 | 染井霊園 |
| 宗教 | 神道 |
| 国籍 |
 日本 |
| 両親 |
戸沢盛恭（実父） 平田延胤（養父） |
| 出身校 | 東京帝国大学文学部古典講習科 |
| 寺院 | 神田神社 |
| 聖職 | 社司 |
| 地位 | |
| 任期 | 1933年 - 1936年 |
| 就任日 | 1933年 |
| 過去の地位 |
東京府神職管理所 所長 東京府皇典講究分所 所長 全国神職会 顧問 |
| 学問 | |
|---|---|
| 研究分野 | 国学 |
| 研究機関 |
国語伝習所 国文国語専門学校 大成中学校、他 |
| 影響を受けた人物 | 本居豊穎[1] |
| 影響を与えた人物 | 宮地厳夫 |
平田 盛胤（ひらた もりたね、文久3年8月14日（1863年9月26日） - 1945年（昭和20年）[注釈 1]2月28日[2][3]）は、日本の神職、国学者、神田神社社司。美濃国（後の岐阜県南部）出身、東京帝国大学（後の東京大学）文学部古典講習科卒業。首府神社界の1人とされる[2]。
経歴
[編集]父は美濃郡代（美濃国代官）を勤めた旗本戸沢盛恭で、旧名を戸沢盛定と称した[4]。美濃国羽栗郡笠松町生まれ[5]。1886年（明治19年）頃に平田銕胤の長男平田延胤の養子となり、盛胤と改名した[4]。
岐阜県師範学校（後の岐阜大学）卒業後、1880年（明治13年）に上京[2]。1882年（明治15年）9月に創設された帝国大学古典講習科（乙部・国語課）に入学。第一期の同期生に松本愛重、小中村（池辺）義象、萩野由之、関根正直、落合直文らがいる[6][7][8]。同科を1886年（明治19年）7月に卒業[2]後、1894年（明治27年）5月9日[9]に東京の神田神社の社司を拝命した[2][4]。帝大在学中あるいはそれ以前の著作として『文稿』があり、これは「戸沢盛定」名で著されている[10]。
1898年（明治31年）に東京府神職管理所の所長に就任。この頃、神祇官興復運動に関わる[11]、1899年（明治32年）に東京府皇典講究分所の所長、1903年（明治36年）に全国神職会の顧問を歴任した。1904年（明治37年）5月に開催された大日本宗教家大会では冒頭に演説し、宗教の別なく懇親する必要を説いた[12](宗教家懇談会も参照)。1917年（大正6年）には神田神社の社司として奏任官待遇を受け、1933年（昭和8年）から1936年（昭和11年）までの3年間、東京府神職会の会長を務めた[2]。
その間、1913年（大正2年）の江戸幕府最後の将軍となった徳川慶喜の死去に際しては、本人の希望により、父徳川斉昭同様神葬が執り行われ、盛胤が祭主を勤めた[13][14]。これをはじめ数々の祭祀や葬儀を執り行い、特に1922年（大正11年）2月には副斎主として山県有朋の国葬を執り行い[15]、同年6月には力士常陸山の通夜にも関わっている[16]。神田神社では関東大震災後の復興に尽力した[1]のち、1928年（昭和3年）に平将門の首塚が復元された際には、社司として慰霊祭を執り行っている[17]。将門の没後千年にあたる1940年（昭和15年）にも将門千年祭を執り行った[17]。1942年（昭和17年）の真珠湾戦没英霊の国葬では、斎主として奉仕した[2][18]。
神職の他に、岐阜県師範学校卒業後に訓導、敬恪小学校[5]校長、上京後に東京府北豊島郡豊川小学校校長や湯島小学校訓導[9]、帝国大学卒業後に（官立）東京高等女学校教諭（1887年（明治20年）10月[19]から1889年（明治23年）まで）、東京府尋常師範学校教授、帝国大学農科大学嘱託講師、京華中学校講師、浄土宗大学林等の講師[2]などを歴任した。平田鐵胤の門人である歌人・国学者の林甕臣[注釈 2]が1891年（明治24年）に神田に設立した国文国語専門学校では、林と共に国文国語和歌や速記術を教授した[21]。1889年（明治22年）に杉浦鋼太郎が開設した国語伝習所には、1891年（明治24年）8月から[9]講師を勤め[22]、おなじく杉浦が創立した神田三崎町の大成中学校には、1897年（明治30年）4月から1937年（昭和12年）3月まで実に40年間教員として勤めた[9][22]。盛胤に国学を学んだ教え子の1人に、国学者・神職の宮地厳夫がいる[23]。
関東大震災後に再建された神田司町の町名の命名者でもあり、「司」の名には「者の頭領なれば未来永劫栄ゆること疑いなし」の意味が込められている[4]。
戦争中の1944年（昭和19年）12月に娘の嫁ぎ先である諏訪富多[24]をたよって秋田県大湯町へ疎開[9]し、疎開先で死亡[1][注釈 1]。1946年（昭和21年）2月27日、叙従六位[25][注釈 3]。
人物評
[編集]1925年（大正14年）の新聞記事で「神道の才子 平田盛胤[注釈 4]」と題し、「風采ははなはだ立派で押し出しがよい[注釈 4]」「国学に篤く、漢文口調の文章もお得意で、祭文は臨機応変のものをよみ、なるほどとうなづかしめるところは手なれたもので、この点は他に見ない巧妙さをもっている[注釈 4]」「才子肌の切れ者[注釈 4]」「神道界の一人格者[注釈 4]」と評されている[27]。
小金井喜美子は、東京高等女学校在学中の国語教師だったことを回想して、「お家におりおり発作をお起しになる御病気のお母様があったそうで、時間中にお迎いが来ることなどがありましたが、やがてお出いでにならなくなりました。[28]」と書いている。
小石川区第六天町の自宅は徳川家の近くで、週に1回ぐらいは和歌を教えに行かれた[9]という。
大成中学校では、卒業生たちの誰もが教員の筆頭として挙げる存在であった[22]。威風堂々とした美男子で、常に和服で通し、学生たちから「あそん（朝臣）」の仇名で呼ばれた[22]。生徒のひとりで後年校長となる岩下富蔵によると、盛胤は祝詞（のりと）の第一人者であり、その名文はこの後書ける人はあるまいと言われるほどで、また読むことも上手で、堂々たる体格による発声がすみずみまで響き渡ったという[9]。祝詞をあげる朝は、生卵三つと黒豆のしるを飲んで、声に力を入れたという[9]。
脚注
[編集]- 注釈
- ^ a b c 没年は神道人名辞典 1986, p. 253の記載（「～昭和二十年（一九四五）二月二十八日。」）による。他に、岸川 2003や、平田家系図（歴博） 2004も1945年没としている。米田 2000, p. 163も「亡くなったのが昭和二十年二月二十八日で、幸か不幸か日本の敗戦を知りませんでした。」と終戦前に没したとしている。葦津 1966の「昭和二十二年」は誤記と思われるが、千代田区観光協会 2019をはじめ、1946年としている資料もある。神田明神史考 1992, p. 166は「昭和二十一年（一九四六）二月二十八日、疎開先の秋田で客死。」とし、岩下（大成七十年史） 1967も「昭和二十一年二月二十八日」とし「先生がなくなられたあとの祭りは（中略）第六天のバラック建てのお宅でとり行われたそうである。」と戦後であったかのような回想を書いている。
- ^ 林 甕臣（はやし みかおみ、1845年（弘化2年）2月3日 - 1922年（大正11年）1月8日）。明治・大正期の歌人・国学者。江戸出身[20]。
- ^ 叙位裁可書[26]には昭和21年2月2日職制廃止にともなう神官の廃職による叙位。
- ^ a b c d e 読売新聞 1925より引用。
- 出典
- ^ a b c 神田明神史考 1992, p. 166
- ^ a b c d e f g h 神道人名辞典 1986, p. 253
- ^ “平田盛胤”. NACSIS-CAT. 国立情報学研究所. 2018年11月21日閲覧。
- ^ a b c d “平田盛胤”. 千代田区観光協会 (2019年). 2022年5月13日閲覧。 “平田盛胤”. 千代田区観光協会 (2015年). 2018年10月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月21日閲覧。
- ^ a b 成瀬麟、土屋周太郎『大日本人物誌 一名・現代人名辞書』八紘社、1913年5月、ひ之部19-20頁。NDLJP:933863/937
- ^ 谷 1966
- ^ 東京大学法理文三学部 編『東京大学法・理・文三学部一覧』 従明治15年至明治16年、東京大学、1882年、226頁。NDLJP:1087038/118全国書誌番号:42020479。
- ^ “古典講習科国書課及別課医学卒業生徒ヘ卒業証書ヲ授与セシ届（明治19年7月14日）”. 東京大学文書館デジタル・アーカイブ (1886年7月14日). 2022年5月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 岩下（大成七十年史） 1967
- ^ 國學院大學研究開発推進機構 「日本文化研究所年報」第9号（2016） (PDF) p.29
- ^ 葦津 1966
- ^ “神、仏、基の各派宗教家会同して時局に対する態度を表明す”. 東京朝日新聞. (1905年5月18日)。新聞集成明治編年史編纂会 編『新聞集成明治編年史』 第12巻、林泉社、1936年、248頁。 NCID BN03645788。NDLJP:1920426/150。所収。
- ^ 木村幸比古『吉田松陰の実学 世界を見据えた大和魂』PHP研究所〈PHP新書〉、2005年6月1日、32頁。ISBN 978-4-569-63991-8。
- ^ “徳川慶喜逝去”. 茨城県立歴史館 (2006年). 2018年11月21日閲覧。
- ^ 大正11年2月7日付『官報』第2853号「叙任及辞令」NDLJP:2954969/2、「故山縣樞密院議長葬儀」NDLJP:2954969/3
- ^ 大の里万助『相撲の話』誠文堂、1932年、201頁。NDLJP:1111292/111。
- ^ a b 河合 2015, pp. 306–307
- ^ 英文大阪毎日学習号編輯局 編『大東亜戦争記録画報』 前編、大阪出版社、1943年、26頁。NDLJP:1906752/17。
- ^ 『東京女子高等師範学校沿革略志』東京女子高等師範学校、1915年、34頁。 NCID BA35978836。NDLJP:939534/50。
- ^ 日外アソシエーツ 2004, p. 2045.
- ^ 林甕臣 著、林武臣 編『日本語原学』建設社、1932年12月20日、593頁。 NCID BN09660762。NDLJP:1836174/314。
- ^ a b c d 波田野 2013, pp. 153–154
- ^ 日外アソシエーツ 2004, p. 2464.
- ^ 桐原善雄「平田篤胤と四方山譚 －彌高神社の草創は平田神社－」（pdf）『研究所報』、平田篤胤佐藤信淵研究所、1984年10月17日、15頁。
- ^ 昭和21年3月16日付『官報』第5750号「叙任及辞令」NDLJP:2962259/4
- ^ 「元神宮禰宜在間美郎外百八十七名特旨叙位の件」『叙位裁可書・昭和二十一年・臨時叙位巻七』、国立公文書館、10画像目/22画像中、JACAR:A20040372700。
- ^ 読売新聞 1925.
- ^ 『鴎外の思い出』：新字新仮名 - 青空文庫
関連項目
[編集]- 明治十六年事件 寄宿舎在舎全員が退学処分の対象となったため、戸沢盛定も対象となった。
参考文献
[編集]- 『神道人名辞典』神社新報社、1986年7月8日。 NCID BN00379429。
- 神田明神史考刊行会編纂 編『神田明神史考』1992年5月15日。 NCID BN08764106。全国書誌番号:92050179。
- 荒俣宏、米田勝安『よみがえるカリスマ平田篤胤』論創社、2000年12月。ISBN 4-8460-0181-4。
- 岸川雅範「神田神社（神田明神）神職について」『神道研究集録』第17巻、國學院大學大学院文学研究科神道学専攻、2003年3月、51-65頁、ISSN 1347-0019、CRID 1573950404276780416。
- 国立歴史民俗博物館編「平田家系図」『明治維新と平田国学』国立歴史民俗博物館、2004年9月25日、10頁。CRID 1130282271369913856。
- 波田野節子『韓国近代作家たちの日本留学』（PDF）白帝社、2013年3月30日。ISBN 978-4-86398-077-8。オリジナルの2018年11月20日時点におけるアーカイブ。2018年11月21日閲覧。
- 岩下富蔵「平田盛胤先生」『大成七十年史』大成学園、1967年10月30日、123-128頁。 NCID BA56289566。
- 「年表」『大成七十年史』大成学園、1967年10月30日、321-337頁。 NCID BA56289566。
- 葦津大成「神祇官興復運動における神職の活動」『明治維新神道百年史』 第五巻、神道文化会、1966年、（2018復刻版）351-355頁。 NCID BB26542087。
- 谷 省吾「明治初期の国学者」『明治維新神道百年史』 第五巻、神道文化会、1966年、（2018復刻版）176-178頁。 NCID BB26542087。
- “神道の才子平田盛胤”. 読売新聞. (1925年12月21日)。明治大正昭和新聞研究会 編『新聞集成大正編年史』 大正14年度版 下、大正昭和新聞研究会、1987年11月28日、808頁。 NCID BN12012319。所収。
- 河合敦『「神社」で読み解く日本史の謎』PHP研究所〈PHP文庫〉、2015年6月17日。ISBN 978-4-569-76329-3。
- 日外アソシエーツ 編『20世紀日本人名事典』 下、日外アソシエーツ、2004年7月26日。ISBN 978-4-8169-1853-7。2018年11月21日閲覧。
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