カイマク
カイマク | |
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トルコのカイマク | |
発祥地 | 中央アジア |
地域 | |
主な材料 | 乳 |
Cookbook ウィキメディア・コモンズ |
カイマク(英: kaymak)とは、クロテッドクリームに似た、バルカン半島から中央アジアにかけて食されるクリーム状の乳製品である。バルカン半島諸国、アナトリア半島、中央アジア、中東、モンゴル及び中国西部、インドなどでも食される。ウシ、スイギュウ、ヒツジ、ヤギなどの乳汁から作る。
伝統的な作り方は、生乳をゆっくりと温め、その後極低温で2時間煮込む。火を止めた後、クリームの上澄みをすくい、数日間から数日の間、自然に冷やして凝固させる。カイマクは乳脂肪分が高く、約60%にもなる。濃厚な風味と豊かな味わいを持つ。
語源
[編集]カイマクという言葉は中央アジアに由来し、恐らくモンゴル語で金属を溶かして型に入れる事を意味するkayl-makという動詞に由来する[1]。kaymakという用語が初めて文献に登場するのは、マフムト・アル=カシュガルの有名な著書『クタドゥグ・ビリグ』である[1]。この言葉はモンゴル語にkaylgmakとして残り、テュルク諸語においては、アゼルバイジャン語ではQaymaq、ウズベク語ではqaymoq[2]、カザフ語及びショル語ではқаймақ、キルギス語ではкаймак[3]、トルコ語ではkaymak[1]、トルクメン語ではGaýmakのように、わずかな変化で呼ばれ、ジョージア語ではკაიმაღი、ギリシャ語ではκαϊμάκι、そしてセルビア・クロアチア語ではкајмак、ルーマニア語ではcaimacと呼ばれている[4]。 イランではسرشیر(Saršir)と呼ばれる。この言葉は「乳の上」を意味する。
中央アジア
[編集]テュルク、モンゴル、イラン系など、中央アジアの遊牧や畜産を営む牧畜民において、乳製品は重要な食料源であったが、その乳加工技術において作られる乳製品の一つがカイマクである[5][6][7]。
伝統的な牧畜民においては、ヒツジやヤギなどから搾乳し、加熱、非加熱にかかわらず静置法により分離、浮いてきた乳脂をすくい取ったものがカイマクであったが、ソビエト連邦を形成していた国々においては、より乳量の多いウシからの搾乳、セパレーターによる遠心分離なども普及した[6]。
中国西部における各牧畜民においてもカイマクは作られている。カザフ族においては、ウシの乳を材料として作られ、キルギス族においては、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ヤクなどの乳で、ウイグル族においてはウシやヒツジなどの乳から、それぞれセパレーターによる分離、非加熱による静置、加熱による静置など、様々な方法によって、カイマクは作られている[8][9]。
こうして作られたカイマクは牧畜民の重要なエネルギー源として、朝夕の食事の際にナンや揚げパンなどに付けて食べられたり、乳茶の中に入れて飲まれ、消費される。 余剰分のカイマクは更なる乳脂の分離、加熱、加塩などを行い、より日持ちするサルマイと呼ばれるバター状のものや、バターオイルへと加工される[8]。
中央アジアにおける遊牧民の定住化が進んだ現在においても[6]カイマクは広く食べられ、市場やスーパーなどで、牧畜民の作ったカイマクの量り売りや、パッケージングされたカイマクなどが販売されている[10] 。
バルカン半島
[編集]カイマクは、ほとんどが伝統的な方法で家庭内で作られる。購入する時は、店舗やスーパーマーケットではなく公開市場で買うことができるが、市販品は品質が良くない[11]。最も上質なものは、山牛の農場のものである。カイマクは、乾燥した動物の皮で作った袋で熟成させることもでき、このようなものはskorupと呼ばれる。
通常はオードブルとして食べられるが、調味料としても用いられる。最も簡単なレシピはlepinja sa kajmakomで、カイマクを詰めたピタであり、朝食やファストフードとして食べられる。セルビア人、ボスニア人、マケドニア人は、これを国民食と考えている。カイマクを使った他の料理には、pljeskavica sa kajmakom(溶けたカイマクをトッピングしたハンバーガー)やribić u kajmaku(牛脚肉のカイマク煮込み)等がある。これは、バーベキューの付け合わせとして食べられる。
トルコと中東
[編集]トルコではカイマクに非常に人気があり、少なくともカイマク店への女性の立入りが禁止された証拠がある1573年以降、数世紀に渡って店舗でのカイマクの製造と消費が行われてきた。今日では、カイマクは伝統的なトルコ料理の朝食と一緒に食べられる。かつてと比べるとカイマクの人気は落ちてきたが、水牛にケシ種の製油かすを給餌しているアフィヨンカラヒサール地方では、上質のカイマクが作られている。カイマクは、砂糖を加えないでいれたトルコの伝統的なコーヒーにクリームの代わりに加えられることもあり、また、ジャムや蜂蜜のようにペストリーやパンケーキと一緒に食べられる。アフガニスタンのカイマクは、ナンの付け合わせや炭酸水素ナトリウムを加えた緑茶qymak chaiのトッピングとして食べられる。イラクではGaimarまたはQaimarと呼び、パン、蜂蜜またはジャム、熱い茶とともに朝食として食べられる。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ a b c http://www.nisanyansozluk.com/?k=kaymak
- ^ https://pauctle.com/uztr/soz/qaymoq/
- ^ http://www.sozduk.kg/index.asp?gorev=sozluk
- ^ “kaymak in Romanian - English-Romanian Dictionary | Glosbe”. glosbe.com. 2022年2月2日閲覧。
- ^ 平田昌弘「ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品 : 第1回 人類が出会った乳利用」『New Food Industry』第53巻第1号、食品資材研究会、2011年、89-95頁、CRID 1050564287537294720、ISSN 05470277、NAID 120006390536。
- ^ a b c 平田昌弘「ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品 : 第9回 中央アジア-カザフスタンの事例」『New Food Industry』第53巻第9号、食品資材研究会、2011年、71-82頁、CRID 1050845762514008448、ISSN 05470277、NAID 120006390546。
- ^ 平田昌弘, 山田勇, 内田健治, 元島英雅「キルギス共和国の乳加工体系の特徴とその発達史」『ミルクサイエンス』第65巻第1号、日本酪農科学会、2016年、11-23頁、CRID 1390282680487033472、doi:10.11465/milk.65.11、ISSN 1343-0289、NAID 130005145807。
- ^ a b 平田昌弘, アイビブラ・イマム「中国新疆ウイグル自治区中央部における乳加工体系」『北海道民族学』第3巻、北海道民族学会、2007年、1-9頁、CRID 1050845762512855168、ISSN 18810047。
- ^ 平田昌弘, アイビブラ・イマム「中国新疆ウイグル自治区南西部における乳加工体系」『北海道民族学』第4巻、北海道民族学会、2008年、31-43頁、CRID 1050564287536171776、ISSN 18810047。
- ^ スズマ、スメタナ、カイマック(ウズベキスタンの乳製品) A Dog's World
- ^ Nikola Vrzić (December 28, 2000). “Sve srpske kašike” (Serbian). NIN 13 June 2012閲覧。
- The Poppy Growers of İsmailköy (2002) アクセスしようとしているサイトを見つけられません [リンク切れ]
- Davidson, Alan. Oxford Companion to Food (1999). "Kaymak", pp. 428–429. ISBN 0-19-211579-0