アホウドリ科

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アホウドリ科
生息年代: 漸新世現世
ワタリアホウドリ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ミズナギドリ目 Procellariiformes
: アホウドリ科 Diomedeidae
学名
Diomedeidae Gray1840
タイプ属
Diomedea Linnaeus1758
英名
Albatrosses
生息域

アホウドリ科(あほうどりか、学名 Diomedeidae)は、鳥類ミズナギドリ目の科である。

アホウドリ(信天翁)と総称される[1]。ただし狭義にはこの1種をアホウドリと呼ぶ。

特徴[編集]

分布[編集]

インド洋南部、南大西洋太平洋[2]

寒帯から亜熱帯までに生息するが、北大西洋には棲息しない。北半球には北太平洋にキタアホウドリ属 Phoebastria のみが生息する。

原則として赤道直下には棲息しないが、例外的に、東太平洋のガラパゴス海域から南米西岸にかけてのフンボルト海流による寒流域にガラパゴスアホウドリ Phoebastria irrorata が棲息する。

形態[編集]

他のミズナギドリ目と異なり、アホウドリ科の鳥は、地面にしっかりと立つことが出来る。写真はクロアシアホウドリ

最大種はワタリアホウドリで全長107–135cm[3]。翼開張300cm[4][5]

アスペクト比(旅客機並み)の(細長い)翼は揚力に比べて相対的に誘導抵抗を減少させ、海上で発生する気流に乗るのに適している[6]

多くの種では全身が白い羽毛で覆われる。翼や尾羽が暗色の種もいる[2]

は太く長く、先端はやや下方へ湾曲する[4]。嘴の両脇に外鼻孔がある[2]

卵殻は白い[2]

生態[編集]

海洋に生息する。風の強い高所から風の弱い低所に急降下し、急降下の勢いと風力の差を利用して再び高所へ上がる「ダイナミック・ソアリング」を繰り返し、長時間羽ばたかずに飛翔する[2][4][5]

食性は動物食で、魚類甲殻類軟体動物などを食べる[2][3][4][7]。泳ぐことは出来るが潜水が出来ないため、主に水面付近にいる獲物を咥えて捕食するが、空中から急降下して獲物を捕食することもある[2]。まれに、胃の中から深海魚が発見されることもある。

ペアは通常は一方が死ぬまで一生解消されないが、繁殖が失敗しつづけると解消されることもある[2]。多くの種で集団繁殖地(コロニー)を形成する[2]。1回に1個の卵を産み[2][4]、雌雄交代で抱卵する[2]

生後3–4年で性成熟するが、実際にはさらに数年経過してから繁殖を行うことが多い[2]。平均寿命は30年[2]

系統と分類[編集]

系統樹の科間は Hackett et al. (2008)[8]、科内は Nunn & Stanley (1998)[9]; Penhallurick & Wink (2004)[10]より。

ミズナギドリ目
アホウドリ科

キタアホウドリ属 Phoebastria

ワタリアホウドリ属 Diomedea

ハイイロアホウドリ属 Phoebetria

モリモーク属 Thalassarche

ミズナギドリ科 Procellariidae

モグリウミツバメ科 Pelecanoididae

ウミツバメ亜科 Hydrobatinae

アシナガウミツバメ亜科 Oceanitinae

アホウドリ科はミズナギドリ目の1科で、目の基底付近(おそらくアシナガウミツバメ亜科の次)に分岐した。古くから科とされてきたが、Coues (1864, 1866)[11]Sibley & Ahlquist (1990) はミズナギドリ科を広くとり(現在のミズナギドリ目に当たる)、ミズナギドリ科アホウドリ亜科 Diomedeinae とした。

以前はアホウドリ属Diomedeaハイイロアホウドリ属の2属で本科が構成されていた[2]。しかしミトコンドリアDNAシトクロムb分子系統学的解析から本科内に4つの単系統群が認められるとして、アホウドリ属をオオアホウドリ属キタアホウドリ属モリモーク属に分割する説が有力とされる[12]

彼らはさらに、従来は13–14種に分類されていた種も分割した。最大で24種とする説が現れたが、ただしそのうちいくつかの種は再統合することが主流で、国際鳥類学会議 (IOC)[13]は21種を認める。たとえば、ハジロアホウドリはタスマニアアホウドリ・オークランドワタリアホウドリ・サルビンアホウドリ・チャタムアホウドリの4種に分割されたが、Burg & Croxall (2004)[14]は大枠ではそれを認めつつもタスマニアアホウドリとオークランドワタリアホウドリの間に遺伝的差異はないとした。

属と種[編集]

国際鳥類学会議 (IOC)[13]より。和名は厚生労働省[15]; 小城ほか[16]などより。

種分類対照表[編集]

以下に分類対照表を示す。アムステルワタリアホウドリはIOCに従いワタリアホウドリに含まれていたとした。BirdLife International (2006)[16]による個体数(多くは不確実だが幅があるものは平均とした)とその増減傾向、IUCNレッドリストによる評価(右図を参照)を付記する。

旧分類 新分類 IOC 推定個体数 増減 IUCN
コアホウドリ D. immutabilis コアホウドリ Phoebastria immutabilis 0874000 VU
クロアシアホウドリ D. nigripes クロアシアホウドリ Phoebastria nigripes 0109000 EN
ガラパゴスアホウドリ D. irrorata ガラパゴスアホウドリ Phoebastria irrorata 0034694 CR
アホウドリ D. albatrus アホウドリ Phoebastria albatrus 0002100 VU
ワタリアホウドリ D. exulans ワタリアホウドリ D. exulans 0028000 VU
アンティポデスアホウドリ D. antipodensis アンティポデスアホウドリ
D. antipodensis
0016192 ? VU
オークランドワタリアホウドリ D. gibsoni
アムステルダムアホウドリ D. amsterdamensis 0000080 CR
ゴウワタリアホウドリ D. dabbenena 0012000 EN
シロアホウドリ D. epomophora ミナミシロアホウドリ D. epomophora 0016800 VU
キタシロアホウドリ D. sanfordi 0013500 EN
ススイロアホウドリ Phoebetria fusca 0042000 EN
ハイイロアホウドリ Phoebetria palpebrata 0058000 ? NT
マユグロアホウドリ D. melanophris マユグロアホウドリ T. melanophris 1750000 EN
キャンベルアホウドリ T. impavida 0047000 VU
ハジロアホウドリ D. cauta タスマニアアホウドリ T. cauta ハジロアホウドリ
T. cauta
000000? NT
オークランドワアホウドリ T. steadi 0362500 NT
チャタムアホウドリ T. eremita 0011000 CR
サルビンアホウドリ T. salvini 0061500 VU
ハイガシラアホウドリ D. chrysostoma ハイガシラアホウドリ T. chrysostoma 0184730 VU
キバナアホウドリ D. chlororhynchos ニシキバナアホウドリ T. chlororhynchos 0075000 EN
ヒガシキバナアホウドリ T. carteri 0073000 EN
ニュージーランドアホウドリ D. bulleri ミナミニュージーランドアホウドリ T. bulleri ニュージーランドアホウドリ
T. bulleri
0054000 VU
キタニュージーランドアホウドリ T. platei

人間との関係[編集]

ミッドウェー島の旗には、コアホウドリが描かれている。

英語名の albatross は、スペイン語で大型の海鳥を指す alcatraz に由来し、それはさらにアラビア語でのペリカン al-qadus に由来する[2]

溺死した船乗りの魂が宿った鳥として不吉の象徴とされることもあった[2]

卵も含めて食用とされることもある。また羽毛が利用されることもあった[2]

開発による繁殖地の破壊、水質汚染、漁業による混獲、食用や羽毛目的の乱獲、人為的に移入された動物による捕食などにより生息数が減少している種もいる[3][7]

ゴルフで3打少なく打つことをアルバトロスというが、アホウドリが羽ばたくことなく何時間も海の上を飛ぶことを由来とする。

飛行機に衝突することもあった。船乗りが陸が近くなったことを認識する目印にしたこともあった。漁場探索の手がかりとされることもある。

参考文献[編集]

  1. ^ 長谷川博, “アホウドリ”, 日本大百科全書, Yahoo!百科事典, 小学館, http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%82%A6%E3%83%89%E3%83%AA/ 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 黒田長久 監修、C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥I』、平凡社1986年、52–53頁
  3. ^ a b c 小原秀雄浦本昌紀太田英利松井正文 編著 『レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』、講談社2001年、64–66, 176頁
  4. ^ a b c d e 高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会2007年、66–67頁
  5. ^ a b 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館2002年、13、16-17、118頁
  6. ^ 中山直樹, 佐藤晃[要曖昧さ回避]『図解入門 よくわかる最新飛行機の基本と仕組み―飛行機のメカニズムを基礎から学ぶ飛行機の常識』、秀和システム、64頁
  7. ^ a b 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社2000年、60–63, 178頁。
  8. ^ Hackett, S.J.; Kimball, R.T.; Reddy, S.; Bowie, R.C.K.; Braun, E.L.; Braun, M.J.; Chojnowski, J.L.; Cox, W.A. et al. (2008), “A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History”, Science 320 (5884): 1763–1768 
  9. ^ Nunn, G.B.; Stanley, S.E. (1998), “Body size effects and rates of cytochrome b evolution in tube-nosed seabirds”, Mol. Biol. Evol. 15: 1360–1371, http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/reprint/15/10/1360.pdf 
  10. ^ J., Penhallurick; Wink, M. (2004), “Analysis of the taxonomy and nomenclature of the Procellariiformes based on complete nucleotide sequences of the mitochondrial cytochrom b gene”, Emu 104: 125–147, http://shearwater.nl/seabird-osteology/REFERENCES/Penhallurick_Wink_2004_procellariiform_taxonomy2.pdf 
  11. ^ Sibley, C.G.; Ahlquist, J.E. (1972), Order Procellariiformes, “A Comparative Study of the Egg White Proteins of Non-Passerine Birds”, Peabody Museum of Natural History and Department of Biology, Yale University, Bulletin 39 (New Heaven, CT) 
  12. ^ 小城春雄、清田雅史、南浩史、中野秀樹 「アホウドリ類の和名に関する試案」『山階鳥類学雑誌』Vol.35 No.2、財団法人山階鳥類研究所2004年、220-224頁。
  13. ^ a b Gill, F.; Donsker, D., eds. (2010), “Loons, penguins, & petrels”, IOC World Bird Names, version 2.6, http://www.worldbirdnames.org/n-penguins.html 
  14. ^ Burg, T.M.; Croxall, J.P. (2004), “Global population structure and taxonomy of the wandering albatross species complex”, Mol. Ecol. 13: 2345–2355, http://people.uleth.ca/~theresa.burg/pdf/Burg&Croxall2004.pdf 
  15. ^ 厚生労働省 動物の輸入届出制度 届出対象動物の種類名リスト 鳥類一覧
  16. ^ a b 清田雅史 (2008), 海鳥類(アホウドリ類)の偶発的捕獲とその管理(総説), http://kokushi.job.affrc.go.jp/H19/H19/H19_43.pdf 
  • 富永盛治朗 著、渋沢敬三 監修 『五百種魚体解剖図説 第一巻』、日本常民文化研究所、267頁
  • 大疑問研究会編 『大人の新常識520』 、291頁
  • 唐沢孝一 著 『校庭の野鳥―野外観察ハンドブック (野外観察ハンドブック)』 18頁。
  • 三谷和夫 著 『自然と共に生きる: ある化学教師の“人生の自由研究”』 81頁
  • 安川いわお 著 『元・アナログ機長の四方山話』
  • 黒田長久著 者 『カラー歳時記〈鳥〉』101頁
  • 太佐順 『鄭和: 中国の大航海時代を築いた伝説の英雄』163頁