セイウチ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Moss (会話 | 投稿記録) による 2020年7月29日 (水) 14:11個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (天然ガス (会話) による ID:78718775 の版を取り消し(会話ページにて再三警告を受けているリンク過剰)。小修正。)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

セイウチ
セイウチ
タイヘイヨウセイウチ
Odobenus rosmarus divergens
保全状況評価[1][2][3]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ型亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
: セイウチ科
Odobenidae Allen, 1880[4]
: セイウチ属
Odobenus Brisson, 1762[4][5]
: セイウチ O. rosmarus
学名
Odobenus rosmarus
(Linnaeus, 1758)[3][4]
シノニム

Phoca rosmarus Linnaeus, 1758[3][4][5]

和名
セイウチ[6][7]
英名
Walrus[3][4][5][6]

セイウチ (海象、海馬、Odobenus rosmarus) は、哺乳綱食肉目セイウチ科セイウチ属に分類される鰭脚類。本種のみでセイウチ科セイウチ属を構成する。

分布

ユーラシア大陸北部・カナダ東部・アラスカ西部・グリーンランド北極海[6]

北極圏の沿岸地帯および氷縁部に生息する。冬季でもポリニヤで生息し、特に南に移動しないが、三重県沖で捕獲されたことがある。かつてはカナダのセントローレンス湾、サーベル島近海、ノバスコティア海岸にも生息していたが、18-19世紀における肉と皮を目当てとした乱獲で、この地域の個体群は絶滅している。

形態

体長オス200 - 350センチメートル[5]体重オス800 - 1,700キログラム[5]チュクチ海ベーリング海の個体群は大型だが、ハドソン湾の個体群は小型[6]。皮膚は分厚く2 - 4センチメートルに達する箇所もあり[5]、オスでは5センチメートルに達することもある[6]。体色は明黄褐色で、胸部や腹部は濃色[6]

吻端の上部の皮膚は角質化し、硬くなっている[6]。鼻面は皮膚が薄く、髭が密に生える[6]。この髭は濁っていたり光が届かない海中で触覚により獲物を探す、感覚器官としての役割があると考えられている[6]。牙は優位・性差・年齢の誇示、海から上がる際に支えにする、氷に呼吸用の穴をあけるなどの用途がある[6]。属名Odobenusは、古代ギリシャ語で「歯で歩くもの(odontos + baenos)」の意がある言葉に由来する[6]。老齢個体では牙が摩耗するが、後述するように牙で海底は掘りおこさず採食の際に海底で擦れてしまうためだと考えられている[6]

出産直後の幼獣は体長1.1メートル[6]。体重60 - 65キログラム[5][6]。オスの成獣は、全身の体毛がまばらで皮膚が裸出する[6]。オスは喉に気嚢があり求愛のために鳴き声をあげたり、海面で浮遊する支えの役割があると考えられている[6]。メスやオスの幼獣は、四肢を除く全身が粗い体毛で被われる[6]

体長270 - 360センチメートル。体重500 - 1,200キログラム。皮膚には体毛が無いものの、厚い脂肪で覆われ寒冷地での生活に適応している。口の周りには堅い髭が密集する。この髭は海底で獲物を探す際に役立つ。雌雄共に上顎の犬歯(牙)が発達し、オスは100センチメートルにも達する。この牙には、オス同士の闘争、外敵に対する武器、海底で獲物を掘り起こす、陸に上がる際に支えにする等の用途がある。またこの牙は生涯を通じて伸び続ける。

分類

以下の亜種の分類は、Wozencraft(2005)に従う[4]。和名・英名は、Fay・新妻訳(1986)に従う[6]

Odobenus rosmarus rosmarus (Linnaeus, 1758) タイセイヨウセイウチ Atlantic walrus
ハドソン湾・バフィン湾バレンツ海カラ海にかけて[6]
牙の長さは体長の約12 %[6]
Odobenus rosmarus divergens (Illiger, 1815) タイヘイヨウセイウチ Pacific walrus
チュクチ海、ベーリング海[6]
牙の長さは体長の約17 %[6]。種小名divergensの由来は左右の牙の基部が離れているとされていたためだが、実際にはそのような特徴はない[6]
Odobenus rosmarus laptevi Chapski, 1940
ラプテフ海[6]
大きさは基亜種と亜種タイヘイヨウセイウチの中間的[6]
形態やミトコンドリアDNAの分子系統解析から、亜種タイヘイヨウセイウチのシノニムとする説もある[3]

生態

セイウチのハーレム
セイウチの骨格

主に大陸棚の上にある、流氷域に生息する[6]。太平洋の個体群はオスは多くの個体が周年ベーリング海で生息するが、メスや若獣は夏季はチュクチ海へ回遊する[7]。後肢(後鰭)を動かして海中を進み、前肢(前鰭)は舵の役割を果たしている[6]。主に氷上で休むが、流氷がない場合はラウンド島などのような島嶼の岩場で休むこともある[6]。休息中には、大規模な集団になることもある[6]。雌雄共に牙を誇示したり牙を突き刺して争うことがあり、特に繁殖期のオス同士ではよく争う[6]。一方でオスでも、繁殖期以外では争うことは少ない[6]

主に二枚貝を食べるが、巻貝タコなどの軟体動物、エビ・カニなどの甲殻類、ナマコ類などの底棲の無脊椎動物も食べる[6]。魚類や、鰭脚類などを食べることもある[6]。砂泥中にいる獲物は牙ではなく角質化した吻端上部で掘り起こして捕食し、より深いところに潜っている獲物は飼育下の観察から水を口から噴出して掘り起こすと考えられている[6]。幼獣の捕食者は、シャチホッキョクグマが挙げられる[5][7]。本種自身の他個体によって、偶発的に潰され殺されることもある[5]

繁殖期になると、メスと幼獣は10 - 15頭ほどの群れを形成する[6]。オスは海中で「ベル音」「ノック音」・海面で「ホイッスル音」などの様々な音を交互に繰り返したり組み合わせて、繁殖行動(ディスプレイ)を行う[6]。このディスプレイはメスを誘ったり、他のオスに存在を誇示する役割があると考えられている[6][7]。水中で交尾を行うと考えられている[6][7]。妊娠期間は15 - 16か月だが、受精卵の着床が遅延する期間も含まれる[6]。4 - 6月の回遊の最中に、1回に1頭の幼獣を産む[7]。早くても隔年で出産し[6]、老齢個体であれば出産間隔がより長くなる[7]

氷山海岸にオスとメス、幼体からなる大規模な群れを形成し生活する。オス同士の間でメスをめぐる戦いに勝ち抜いた個体が、多くのメスを所有するハーレムを形成する。群れに向かってきたホッキョクグマに対しパニックを起こし、逃げようとした他の個体の下敷きで轢死し、捕食された例も報告されている(特に子供の個体は危険)。しかし成獣の個体が逆にホッキョクグマを追い返す姿も確認されている[8]。なお、セイウチの牙は急所を突けばホッキョクグマの四肢や内臓に大損傷を与え得る威力とサイズを持つが、ホッキョクグマの爪や牙では成体セイウチの分厚い脂肪に阻まれ致命傷を与える事は難しいとされる。これらのリスクによりホッキョクグマがセイウチを襲うことは稀である[9]セイウチの皮膚と脂肪の厚さは10センチメートル[要出典]。なお、海中でシャチに襲われる例は確認されている。またワモンアザラシの幼獣を捕食する場合もある[10][要検証]

人間との関係

トロール漁による底棲の獲物への影響、低空飛行の飛行機や船舶による攪乱、獲物への汚染物質の蓄積、油による海洋汚染、温暖化による影響が懸念されている[3]。1975年のワシントン条約発効時から、カナダの個体群がワシントン条約附属書IIIに掲載されている[2]

O. r. rosmarus タイセイヨウセイウチ
NEAR THREATENED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]
O. r. divergens タイヘイヨウセイウチ
DATA DEFICIENT (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]

日本では伊豆・三津シーパラダイス1977年昭和52年)に、日本で初めてセイウチの飼育を開始したのをはじまりに、幾つかの施設で飼育され、また、1994年(平成6年)には、鴨川シーワールドがはじめて繁殖に成功している。

出典

  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> (downroad 07/29/2020)
  2. ^ a b UNEP (2020). Odobenus rosmarus. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 07/29/2020)
  3. ^ a b c d e f g h Lowry, L. 2016. Odobenus rosmarus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T15106A45228501. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T15106A45228501.en. Downloaded on 29 July 2020.
    Lowry, L. 2015. Odobenus rosmarus divergens. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T61963499A45228901. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2015-4.RLTS.T61963499A45228901.en. Downloaded on 29 July 2020.
    Kovacs, K.M. 2016. Odobenus rosmarus rosmarus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T15108A66992323. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T15108A66992323.en. Downloaded on 29 July 2020.
  4. ^ a b c d e f W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
  5. ^ a b c d e f g h i Francis H. Fay, Odobenus rosmarus," Mammalian Species, No. 238, American Society of Mammalogists, 1985, Pages 1-7.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an Francis H. Fay 「セイウチ」新妻昭夫訳『動物大百科 2 海生哺乳類』大隅清治監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、112-117頁。
  7. ^ a b c d e f g 長田英己 「『移動レック』と丁寧な育児 セイウチ」『動物たちの地球 哺乳類II 3 アザラシ・アシカ・オットセイほか』第9巻 51号、朝日新聞社、1992年、298-301頁。
  8. ^ ホッキョクグマとセイウチが主役のドキュメンタリー映画『北極のナヌー』より。[要文献特定詳細情報][出典無効]
  9. ^ ディスカバリーチャンネル『ホッキョクグマ対セイウチ』より。[要文献特定詳細情報]
  10. ^ ナショナルジオグラフィック「ワモンアザラシ」解説より。[要文献特定詳細情報]

注釈

参考文献

  • 高山宏之『ビートルズの詩の世界- おれはタマゴだ,セイウチだ』実業之日本社, 1981年(昭和56年), 47p

関連項目