紅麹サプリ事件

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紅麹サプリ事件(べにこうじサプリじけん)は、2024年令和6年)3月22日に発覚した、日本製薬会社である小林製薬の製造した紅麹原料とするサプリメントが原因と疑われる死者5名を含む健康被害を多数出した事件である。

概要[編集]

悪玉コレステロールを下げる効果をうたった[1]紅麹コレステヘルプ」など、機能性表示食品として国に届け出た3商品を摂取した消費者ら5人が死亡、入院者数は240人以上、相談件数延べ94,000万件(4月18日現在)となった[2]有毒有害物質が含まれている疑いがあるとして食品衛生法に基づき回収が命じられた[3][4]。同社の紅麹原料は他社にも供給され、菓子パン味噌などに使われており、問題が拡大した[4]。さらに、被害は紅麹原料を使った製品が販売されていた台湾に拡大し、3月31日に衛生福利部食品薬物管理署から得た情報として6件の急性腎不全などの健康被害が報告された。食品薬物管理署は、約100の業者が原料や、これを使った製品の自主回収などを行ったとされる[5]

小林製薬によれば、サプリに使われた紅麹原料の一部から想定外の物質が見つかった。2023年9月以降に生産された製品を摂取した消費者に健康被害が多いとされるが、特定時期だけの問題なのかどうかは不明[4]

3月29日、厚生労働省は小林製薬より、健康被害が確認された人が摂取していた製品を製造したロットで有害な物質と考えられる「未知の物質」がプベルル酸である可能性の報告を受けたと発表した[6]が、29日現在、腎疾患との関係と混入源は確認が取れていない[7]

3月29日になり、「未知の物質」がプベルル酸である可能性が浮上

の製造に使われるカビを総称して「麹菌」と称されるが、麹菌は分類上いくつかの菌種に分かれており、日本で多く使用されるのは、「アスペルギルス属」に分類される「アスペルギルスオリゼー」という種類で、日本酒醤油味噌味醂甘酒などに使われてており、健康被害の報告はない。対して、紅麹菌が属するのは「モナスカス属」に分類される菌種で、中国や台湾の腐乳や、を紅麹で発酵させてつくる紅老酒紅露酒などに使用される。紅麹菌の中には「シトリニン」というカビ毒を作るものもあり、腎臓の病気を引き起こすおそれがあることが判明しているが、同製品はシトリニンを合成する遺伝子がない紅麹菌を使用しており、事実、「シトリニン」は検出されなかった[8]。3月29日になり、「未知の物質」がプベルル酸である可能性が浮上した[8]

NHKが当該商品を摂取し体調不良を訴えて受診した女性患者の治療にあたった医師を取材したところ、患者に腎臓機能が低下し、筋力低下や倦怠感などを引き起こすファンコニー症候群と見られる症状が確認されたという。女性は腎臓の病気も含めて持病はなく、コレステロールの値を低下させたいと、2023年9月から当該商品の摂取を始めており、翌年1月中旬までほぼ毎日摂取していたところ、倦怠感や筋肉痛などの症状が出たとして医療機関を受診、摂取を止め入院治療を受けて機能は回復傾向にあるものの、4月の段階でも通院治療が必要となっている[9]。また、日本腎臓学会が医師に対する調査の結果、4月4日時点で「紅麹コレステヘルプ」などを摂取した95人の健康被害が報告され、大半の患者がファンコニー症候群とみられる症状であり、4分の3ほどの患者がサプリの服用の中止のみで症状が改善したと公表している[10]

紅麹は元々腎機能障害を起こすリスクがあることが海外では常識で、2010年代から販売禁止措置や安全性の注意喚起が実施されており、スイスでは販売が違法、ドイツでは摂取しないよう注意喚起が出され、フランスEUは安全性の懸念を表明し、台湾では「慢性疾患がある場合は服用前に医療機関に相談するよう」勧告されている。谷口恭医師は紅麹の主成分はモナコリンKと呼ばれる物質で、これはコレステロールを下げる薬「ロバスタチン」と同成分で日本では承認されていないが、海外ではコレステロール降下薬として処方されており、他のスタチン製剤と同様、腎機能障害をはじめ副作用が時々起こることがあり、重症化することもある。妊婦は絶対に内服してはならない薬である。効果及び安全性は医薬品と同等であり、スタチンの内服が必要なら、安全性が確立されていて値段も安く保険も使える医薬品のスタチンを使うべきと説明している[11]

シトリニンやプベルル酸原因とする、検証が容易でない陰謀論的な説に関わらず、一方でTBSの報道特集の取材では、問題を起こしたロットを昭和大学薬学部・佐藤均教授の研究室で製造番号H306を分析したところ、モナコリンKが、2mg(1日量)の設定に対して、製造番号A201に対して5倍量を検出した[12]

一方、海外向けでは厳しい品質管理を行っていた[13]

医薬品としてモナコリンK同等のロバスタチンは、通常一日中量2.5mgの設定がなされているが、健康補助食品であるのにもかかわらず、殆ど医薬品と変わらない濃度の設定がなされており、それに対して問題のロットでは5倍の濃度が検出したことにより、もし、一日用量等を十分理解せずに間違えて三粒を3回飲んだりするなどすれば容易に30mg/日の摂取量となり、オーバードーズでファンコニー症候群等を起こしうる容量20mg/日[14] を大幅に越えうるロットがありうることが判明した。また、大阪市の立ち入り検査では濃度を高めるために通常の3倍の50日間の培養期間を採用していたことも判明。また、他の報道では蓋を閉め忘れて飛び出した原料を掬って戻していたこともあったことが報じられた[15]

主な回収商品一覧[編集]

小林製薬紅麹に関する主な回収商品 一覧
企業 商品 対応開始日
小林製薬 「紅麹コレステヘルプ」

「ナイシヘルプ+コレステロール」

「ナットウキナーゼさらさら粒GOLD」

2024年03月22日
ZERO PLUS 「悪玉コレステロールを下げるのに役立つ 濃厚チーズせんべい」 2024年03月22日
海洋食品 「豆腐よう」 2024年03月22日
パンのカワバタ 「いのちのパン(紅麹パン)」 2024年03月22日
金谷ホテルベーカリー 「金谷ホテルベーカリーブランド」

「いちごブレッド」

「いちごロール」

「春のあんぱん」

2024年03月22日
戸倉商事 「紅麹粉末 1P-D・K」

「紅麹粉末 3P-D1」

2024年03月22日
宝酒造 「松竹梅白壁蔵「澪」PREMIUM〈ROSE〉750ml」

「松竹梅白壁蔵「澪」PREMIUM〈ROSE〉300ml」

2024年03月23日
最新の主な回収報告
企業 商品 対応開始日
ミニストップ 「直火焼辛口牛ホルモン」 2024年04月02日
QVCジャパン 「レビジューさくら柳田酵母プラス」             2024年04月04日
社会福祉法人京都育成の会 「焼き菓子:Four Seasons」 2024年04月04日
トムズ 「スーパーミネコ」 2024年04月10日
日新薬品工業 「トリプルメガサポートPREMIUM」 2024年04月15日
フレンド 「紅麹」 2024年04月16日

詳しくは消費者庁「リコール情報サイト」を[16]

症例[編集]

入院患者を診察した市立東大阪医療センター腎臓内科 藤村龍太医師によると、被害者に共通する症状は、尿細管に障害が強く残り、かさぶた状になり、慢性疲労食欲不振嘔吐頻尿などの自覚症状があり、腎臓に関する検査数値が極端に悪化するなどファンコニー症候群が見られた[2]

プベルル酸[編集]

健康被害のあった紅麹は大阪工場で作られた。商品から検出された未知の物質は青カビ由来の「プベルル酸」であることが判明したが、プベルル酸に関する研究論文は6件しかないほどで研究がほとんど進んでいなかった。紅麹を製造する企業の話では、紅麹菌は他の菌と比較して非常にデリケートで雑菌が入りやすく、衛生管理の徹底が重要であると証言するほか、小林製薬は成分濃度を高めるために通常の3倍以上の培養期間を設けるなど独自の製造法をとっていたことが判明。琉球大学立花信二郎教授は、長く培養すると水分を足すなど手を加えるため、温度・水分管理が難しくなる。手入れが増えることで汚染リスクが増えると指摘。園田学園女子大学 渡辺敏郎教授は、老朽化した工場特有のタンクの亀裂などにより水が入るなどの危険性がある。青カビの混入は、赤い色をしていない初期では気付くが、紅麹が発生した後では、気付かない可能性が高いと指摘。4月19日にはプベルル酸以外に通常は入っていない複数の物質も確認された[2]

安全管理[編集]

厚生労働省は、全工場で全工程を点検・記録するGMP認証を推奨していたが、医薬品では義務付けがあるものの、健康食品での義務付けはなく、「企業努力」のレベルである。GMP認証を取得した場合、毎年外部のチェックを受けなければならず、GMP認証がない小林製薬が第三者がチェックする機会はなかった。自主回収のガイドラインでは、小林製薬では因果関係がある程度見えるまでは、回収はしない方針をとっていた[2]

経緯[編集]

  • 2024年
    • 1月15日、最初の症例が報告される[8]
    • 3月22日、問題が発覚[8]。利用者13人に腎疾患浮腫、倦怠感などの健康被害を確認。紅麹のサプリメントの使用中止を呼び掛け、関連5製品の自主回収を開始。6人が入院[17]
    • 3月25日、別に2人が入院していたことが判明[17]
    • 3月26日、小林製薬は、約3年間継続して紅麹の成分を含む健康食品を摂取していたとみられる1人が、腎疾患で2月に死亡していたと発表。さらに厚生労働省は同日、同社へのヒアリングの結果、別の1人の死亡事例を明らかにした[8]
    • 3月28日、さらに2人の死亡が明らかになり、死者は4人となる[8]
    • 3月29日、「未知の物質」がプベルル酸である可能性が浮上[8]
    • 4月3日、大阪市が本事件の対策本部を設置、また調査チームを発足させることを発表。[18]
    • 4月9日、日本腎臓学会の調査で、これまでに報告された大半の患者で腎臓の尿細管機能に障害が出る、ファンコニー症候群がみられたことが分かった。また同学会の調査により4日時点で「紅麹コレステヘルプ」による健康被害は95人と発覚した。[19]

背景[編集]

機能性表示食品は、国が審査をするのではなく、企業に安全の責任が任され機能性を表示する制度であり、2013年に当時の首相であった安倍晋三規制改革の一環として導入され、2015年から始まった。当初より安全性や機能性の根拠の貧弱さが指摘されたが、今回の事件はこれが表面化したとみる向きが多い。内閣府食品安全委員会なども、乾燥抽出・濃縮して毎日摂取できるサプリメントは容易に多量を摂ってしまいがちなため注意喚起を行っていた。特定保健用食品(トクホ)であれば、安全性は食品安全委員会の厳しい審査があり、食品健康影響評価も行われる[17]

一方で機能性表示食品は、国はただガイドラインを示すだけであり、企業はそれに従い検証し消費者庁に届け出る。この制度での「安全性確認」はかなり低レベルで、ガイドラインでは「まず食経験の評価を行い、食経験に関する情報が不十分である場合には既存情報により安全性の評価を行う。食経験及び既存情報による安全性の評価でも不十分な場合には、安全性試験を実施し、安全性の評価を行う」となっている。食経験は、日本人のこれまでの食生活で食べられてきた実績を問うものだが、小林製薬が消費者庁に届け出た「安全評価シート」にはサプリメントの販売歴のみが記載されていた。この間に健康被害はなかったとされているが、健康被害の情報などはまず当該企業に入るため客観性がない。他にはマウスによる急性経口毒試験やラット90日間反復投与毒性試験、遺伝子毒性試験、ヒトでの臨床試験が記載されていたが、それらはOECDが定めたテストガイドラインから大きく逸脱したもので、信頼性の低いものに過ぎなかった[17]

謝罪[編集]

小林製薬は2024年4月6日頃からお詫びCMの放送を開始した。白バックに黒の文字テロップで謝罪文を載せたもの[20]。また、公式サイトにて返金に関する旨の謝罪文を掲載した。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ 紅麹コレステヘルプ”. 小林製薬. 2024年4月1日閲覧。
  2. ^ a b c d 『独自の製造工程』に潜むリスク】小林製薬「紅麹」サプリ 3倍の培養期間で異物の混入・発生のリスク高 タンクが老朽化していた可能性も”. カンテレNEWS (2024年4月22日). 2024年4月23日閲覧。
  3. ^ 小林製薬の紅麹サプリ、入院114人 通院は希望含め680人 死者5人”. 毎日新聞 (2024/3/29 20:12). 2024年4月1日閲覧。
  4. ^ a b c (社説)紅麹サプリ責任の重大さ自覚せよ”. 朝日新聞 (2024年3月29日 5時00分). 2024年4月1日閲覧。
  5. ^ “小林製薬の紅麹製品摂取後に体調不良6人に” 台湾メディア”. 日本放送協会 (2024年3月31日 20時36分). 2024年4月1日閲覧。
  6. ^ 青カビからできるプベルル酸、「毒性非常に高い」 腎臓への影響調査へ:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年3月29日). 2024年4月1日閲覧。
  7. ^ 日本放送協会 (2024年3月29日). “小林製薬 紅麹問題「プベルル酸」健康被害の製品ロットで確認 | NHK”. NHKニュース. 2024年3月29日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g 専門家が指摘「紅麹問題」で表出する"重要な視点"松岡 かすみ 2014年には欧州でサプリによる健康被害の報告”. 東洋経済. 2024年4月1日閲覧。
  9. ^ 紅麹問題 診察した医師 “患者はファンコニー症候群” - NHK 2024年4月3日
  10. ^ 紅麹成分含むサプリ 大半が「ファンコニー症候群」日本腎臓学会調査 4分の3ほどはサプリの服用の中止で症状が改善 - TBS NEWS DIG 2024年4月9日
  11. ^ 「紅麹」小林製薬だけが悪いのか 本当に「罪」を問われるべき存在は”. 谷口恭・谷口医院院長 毎日新聞 (2024年4月8日). 2024年4月8日閲覧。
  12. ^ 「一生治療が必要かも…」小林製薬・紅麹サプリ 問題の物質に迫る、トクホの7倍…国の審査なし「機能性表示食品」安全性は【報道特集】”. 昭和大学薬学部・佐藤均教授 TBS (2024年4月14日). 2024年4月14日閲覧。
  13. ^ 小林製薬「紅麹」問題、機能性表示食品制度の怪 海外向けでは厳しい品質管理 - 日経バイオテク 2024年4月03日
  14. ^ 医療用医薬品 : ロスバスタチン - 高田製薬 2024年4月23日
  15. ^ 床に溢れた原料を掬って使用 - 朝日新聞 2024年4月20日
  16. ^ リコール情報サイトトップページ|消費者庁”. www.recall.caa.go.jp. 2024年4月30日閲覧。
  17. ^ a b c d なぜ「紅麹サプリ」で死亡例が起きたのか? 健康に良いとされる「機能性表示食品」の制度的な欠陥”. 文春オンライン. 2024年4月2日閲覧。
  18. ^ 日本放送協会 (2024年4月1日). “小林製薬 紅麹問題 大阪市長 対策本部と調査チーム設置へ | NHK”. NHKニュース. 2024年4月30日閲覧。
  19. ^ (日本語) 紅麹成分含むサプリ 大半が「ファンコニー症候群」日本腎臓学会調査 4分の3ほどはサプリの服用の中止で症状が改善|TBS NEWS DIG, https://www.youtube.com/watch?v=aeRM910fiNg 2024年4月30日閲覧。 
  20. ^ 小林製薬「紅麹」お詫びCM開始 「あっ」なく深刻ナレーションに反響【4・3までの公表事例数】”. ORICON NEWS (2024年4月7日). 2024年4月21日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]