「こめ油」の版間の差分

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==原材料と副産物==
==原材料と副産物==
原材料は[[玄米]]を搗精した際の副産物である[[米糠]]である<ref name="HP">{{Cite web|title=こめ油のはなし|米油から健康的に【三和油脂株式会社】|url=https://sanwa-yushi.co.jp/riceoil/|website=sanwa-yushi.co.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。日本では主食である[[米]]を原料にしているため、原料をほぼ国産で賄える唯一の植物油である。また、抽出工程のみを行う工場を含めれば、こめ油製造工場は[[北海道]]から[[沖縄県]]まで存在する。近年は[[東南アジア]]や[[アメリカ合衆国|米国]]からの輸入も行われているようだが、その量はごくわずかである。日本においては、国産原料を使用していることから[[学校給食]]関係者には好評であるが<ref name="HP"></ref>、[[大豆油]]などに比べると価格が高いので、使用は一部に留まっている。
こめ油の原材料は[[玄米]]を搗精した際の副産物である[[米糠]]である<ref name="HP">{{Cite web|title=こめ油のはなし|米油から健康的に【三和油脂株式会社】|url=https://sanwa-yushi.co.jp/riceoil/|website=sanwa-yushi.co.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。日本では主食である[[米]]を原料にしているため、原料をほぼ国産で賄える唯一の植物油である。また、抽出工程のみを行う工場を含めれば、こめ油製造工場は[[北海道]]から[[沖縄県]]まで存在する。近年は[[東南アジア]]や[[アメリカ合衆国|米国]]からの輸入も行われているようだが、その量はごくわずかである。


日本においては、国産原料を使用していることから[[学校給食]]関係者には好評であるが<ref name="HP"></ref>、[[大豆油]]などに比べると価格が高いので、使用は一部に留まっている。
また、米の消費量が年々減少しているため、こめ油は安定した出荷がありながら、製造会社は原料の手当てに苦慮している。1990年代には[[エノキタケ]]の培養床に米糠が使われたため、栽培業者と製油業者の間で原料の奪い合いが起きた。エノキダケの方が収益性が良く、栽培業者が米糠を高く買い取ったため、一時、こめ油業界は深刻な事態に陥った。その後、エノキダケの培養床は米糠から[[トウモロコシ]]の芯(コーンコブ)に移行したため、危機を乗り越えることができた。しかし、長期的に見て原料供給が増える見込みが立たないことに変わりはない。
また、米の消費量が年々減少しているため、こめ油は安定した出荷がありながら、製造会社は原料の手当てに苦慮している。1990年代には[[エノキタケ]]の培養床に米糠が使われたため、栽培業者と製油業者の間で原料の奪い合いが起きた。エノキダケの方が収益性が良く、栽培業者が米糠を高く買い取ったため、一時、こめ油業界は深刻な事態に陥った。その後、エノキダケの培養床は米糠から[[トウモロコシ]]の芯(コーンコブ)に移行したため、危機を乗り越えることができた。しかし、長期的に見て原料供給が増える見込みが立たないことに変わりはない。


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==特徴==
==特徴==
脂肪酸組成に占める[[オレイン酸]]の比率が高いことと、α-[[トコフェロール]]に加え[[γ-オリザノール]]、[[フェルラ酸]]、[[トコトリエノール]]などの抗酸化作用を有する成分を多く含み、加熱による酸化が起きにくいことが挙げられる。トコフェロール含量の変化に着目し、active oxygen methodにより植物油脂の安定性を評価したところ、こめ油、[[綿実油]]、[[なたね油]]、[[コーン油]]の順に安定性が高かった。こめ油の高い安定性は、α-トコフェロールだけでなく、トコトリエノールやγ-オリザノールなども含有し安定性に寄与するためである<ref name=ko>谷口久次, 橋本博之, 細田朝夫 ほか、「[https://doi.org/10.3136/nskkk.59.301 米糠含有成分の機能性とその向上]」『日本食品科学工学会誌』 59巻 7号 2012年 p.301-318, {{doi|10.3136/nskkk.59.301}}</ref>。特に酸化されにくさについては、こめ油が製菓業界で歓迎される理由となっており、現在、日本で製造される[[ポテトチップス]]のほぼ全量が、こめ油かこめ油を配合した油で揚げられている。
脂肪酸組成に占める[[オレイン酸]]の比率が高いことと、α-[[トコフェロール]]に加え[[γ-オリザノール]]、[[フェルラ酸]]、[[トコトリエノール]]などの抗酸化作用を有する成分を多く含み、加熱による酸化が起きにくいことが挙げられる。


トコフェロール含量の変化に着目し、AOM法(active oxygen method)により植物油脂の安定性を評価したところ、こめ油、[[綿実油]]、[[なたね油]]、[[コーン油]]の順に安定性が高かった。こめ油の高い安定性は、α-トコフェロールだけでなく、トコトリエノールやγ-オリザノールなども含有し安定性に寄与するためである<ref name=ko>谷口久次, 橋本博之, 細田朝夫 ほか、「[https://doi.org/10.3136/nskkk.59.301 米糠含有成分の機能性とその向上]」『日本食品科学工学会誌』 59巻 7号 2012年 p.301-318, {{doi|10.3136/nskkk.59.301}}</ref>。
揚げ物をしている人が気分を悪くする現象を「油酔い」と呼ぶ。これは油脂を過熱する際に発生する[[アクロレイン]]という物質の作用であるといわれている。こめ油はこの油酔い現象が起きにくい油とされている<ref name="tuno">{{Cite web|title=こめ油のヒミツ – 築野食品工業株式会社 {{!}} 商品情報サイト|url=https://www.tsuno.jp/enjoy/secret|website=www.tsuno.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。また、揚げる作業が終わったあとに、油を鍋から他の容器に移す際などの油のキレが良いともいわれる<ref name="tuno"></ref>。これらの現象もこめ油が加熱による酸化が起こりにくいことと関連があると考えられているが、両現象とも科学的には原因が解明されていない

特に酸化されにくさについては、こめ油が製菓業界で歓迎される理由となっており、現在、日本で製造される[[ポテトチップス]]のほぼ全量が、こめ油かこめ油を配合した油で揚げられている。


また、こめ油は血中[[コレステロール]]分を下げる効果が植物油で最も高く<ref name=ko/>、[[紅花油]]と混合するとその効果がさらに高くなる。
また、こめ油は血中[[コレステロール]]分を下げる効果が植物油で最も高く<ref name=ko/>、[[紅花油]]と混合するとその効果がさらに高くなる。



==JAS規格==
== 油酔い ==
揚げ物をしている人が気分を悪くする現象を「油酔い」と呼ぶ。これは油脂を過熱する際に発生する[[アクロレイン]]という物質の作用であるといわれている。

こめ油はこの油酔い現象が起きにくい油とされている<ref name="tuno">{{Cite web|title=こめ油のヒミツ – 築野食品工業株式会社 {{!}} 商品情報サイト|url=https://www.tsuno.jp/enjoy/secret|website=www.tsuno.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。また、揚げる作業が終わったあとに、油を鍋から他の容器に移す際などの油のキレが良いともいわれる<ref name="tuno"></ref>。

これらの現象も、こめ油が加熱による酸化が起こりにくいことと関連があると考えられているが、両現象とも科学的には原因が解明されていない。


== JAS規格 ==
[[日本農林規格]] (JAS) には「精製こめ油」と「こめサラダ油」がある<ref>{{Cite web|title=JAS規格/JASについて|url=http://www.oil-kensa.or.jp/jas/jas-kikaku.html|website=www.oil-kensa.or.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。以前は「こめ油」というものも存在したが、流通実体が無いため廃止されている。
[[日本農林規格]] (JAS) には「精製こめ油」と「こめサラダ油」がある<ref>{{Cite web|title=JAS規格/JASについて|url=http://www.oil-kensa.or.jp/jas/jas-kikaku.html|website=www.oil-kensa.or.jp|accessdate=2020-03-19}}</ref>。以前は「こめ油」というものも存在したが、流通実体が無いため廃止されている。



2021年6月16日 (水) 01:01時点における版

こめ油(Oil, rice bran)
100 gあたりの栄養価
エネルギー 3,699 kJ (884 kcal)
0 g
糖類 0 g
食物繊維 0 g
100 g
飽和脂肪酸 19.7 g
一価不飽和 39.3 g
多価不飽和 35 g
0 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
0 µg
(0%)
0 µg
0 µg
チアミン (B1)
(0%)
0 mg
リボフラビン (B2)
(0%)
0 mg
ナイアシン (B3)
(0%)
0 mg
パントテン酸 (B5)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸 (B9)
(0%)
0 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンE
(215%)
32.3 mg
ビタミンK
(24%)
24.7 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
0 mg
カリウム
(0%)
0 mg
カルシウム
(0%)
0 mg
マグネシウム
(0%)
0 mg
リン
(0%)
0 mg
鉄分
(1%)
0.07 mg
亜鉛
(0%)
0 mg
セレン
(0%)
0 µg
他の成分
水分 0 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)
こめ油(100g中)の主な脂肪酸の種類[1]
項目 分量(g)
脂肪 100
飽和脂肪酸 19.7
14:0(ミリスチン酸 0.7
16:0(パルミチン酸 16.9
18:0(ステアリン酸 1.6
一価不飽和脂肪酸 39.3
18:1(オレイン酸 39.1
多価不飽和脂肪酸 35
18:2(リノール酸 33.4
18:3(α-リノレン酸 1.6

こめ油米油、こめゆ、こめあぶら、べいゆ) は、米糠から抽出される植物油である。米糠油(こめぬかゆ、こめぬかあぶら)。英語では rice bran oil という。様々な呼び名や書き方があるが、日本農林規格 (JAS) では「こめ油」を使用している。

原材料と副産物

こめ油の原材料は、玄米を搗精した際の副産物である米糠である[2]。日本では主食であるを原料にしているため、原料をほぼ国産で賄える唯一の植物油である。また、抽出工程のみを行う工場を含めれば、こめ油製造工場は北海道から沖縄県まで存在する。近年は東南アジア米国からの輸入も行われているようだが、その量はごくわずかである。

日本においては、国産原料を使用していることから学校給食関係者には好評であるが[2]大豆油などに比べると価格が高いので、使用は一部に留まっている。 また、米の消費量が年々減少しているため、こめ油は安定した出荷がありながら、製造会社は原料の手当てに苦慮している。1990年代にはエノキタケの培養床に米糠が使われたため、栽培業者と製油業者の間で原料の奪い合いが起きた。エノキダケの方が収益性が良く、栽培業者が米糠を高く買い取ったため、一時、こめ油業界は深刻な事態に陥った。その後、エノキダケの培養床は米糠からトウモロコシの芯(コーンコブ)に移行したため、危機を乗り越えることができた。しかし、長期的に見て原料供給が増える見込みが立たないことに変わりはない。

他の植物油原料と異なり、米糠には油脂分解酵素リパーゼが多量に含まれている。そのため、原油中の遊離脂肪酸量が多く、酸価 (acid value, AV) が極めて高い[3]菜種油原油やトウモロコシ原油のAVが一桁であるのに対し、米原油は20以上になることは普通である。また、原油は多量のワックス分を含んでいるため、他の植物油よりも強力な脱蝋装置が必要である。このように、こめ油の精製工程は菜種油や大豆油の精製に比べ手間がかかるうえ、独自の技術や装置が必要である。そのため、バブル崩壊後、食用植物油会社の再編が進む中でも、こめ油製造各社は独自の地位を保っている。

精製の際に除去された脂肪酸ワックス分、抽出かすである脱脂糠等の副産物は石鹸や樹脂、蝋の原材料や肥料などとして使用されている[3]

特徴

脂肪酸組成に占めるオレイン酸の比率が高いことと、α-トコフェロールに加えγ-オリザノールフェルラ酸トコトリエノールなどの抗酸化作用を有する成分を多く含み、加熱による酸化が起きにくいことが挙げられる。

トコフェロール含量の変化に着目し、AOM法(active oxygen method)により植物油脂の安定性を評価したところ、こめ油、綿実油なたね油コーン油の順に安定性が高かった。こめ油の高い安定性は、α-トコフェロールだけでなく、トコトリエノールやγ-オリザノールなども含有し安定性に寄与するためである[4]

特に酸化されにくさについては、こめ油が製菓業界で歓迎される理由となっており、現在、日本で製造されるポテトチップスのほぼ全量が、こめ油かこめ油を配合した油で揚げられている。

また、こめ油は血中コレステロール分を下げる効果が植物油で最も高く[4]紅花油と混合するとその効果がさらに高くなる。


油酔い

揚げ物をしている人が気分を悪くする現象を「油酔い」と呼ぶ。これは油脂を過熱する際に発生するアクロレインという物質の作用であるといわれている。

こめ油はこの油酔い現象が起きにくい油とされている[5]。また、揚げる作業が終わったあとに、油を鍋から他の容器に移す際などの油のキレが良いともいわれる[5]

これらの現象も、こめ油が加熱による酸化が起こりにくいことと関連があると考えられているが、両現象とも科学的には原因が解明されていない。


JAS規格

日本農林規格 (JAS) には「精製こめ油」と「こめサラダ油」がある[6]。以前は「こめ油」というものも存在したが、流通実体が無いため廃止されている。

関連項目

脚注

  1. ^ http://ndb.nal.usda.gov/
  2. ^ a b こめ油のはなし|米油から健康的に【三和油脂株式会社】”. sanwa-yushi.co.jp. 2020年3月19日閲覧。
  3. ^ a b 益山新六「コメ油について」『生活衛生』第13巻第1号、大阪生活衛生協会、1969年、24–27頁、doi:10.11468/seikatsueisei1957.13.24 
  4. ^ a b 谷口久次, 橋本博之, 細田朝夫 ほか、「米糠含有成分の機能性とその向上」『日本食品科学工学会誌』 59巻 7号 2012年 p.301-318, doi:10.3136/nskkk.59.301
  5. ^ a b こめ油のヒミツ – 築野食品工業株式会社 | 商品情報サイト”. www.tsuno.jp. 2020年3月19日閲覧。
  6. ^ JAS規格/JASについて”. www.oil-kensa.or.jp. 2020年3月19日閲覧。

外部リンク