「染色体異常」の版間の差分

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'''染色体異常'''(せんしょくたいいじょう)とは、[[染色体]]の構造異常こと。またそれに伴う障い。この記事は<!--今のとろ-->主に[[医学]]的観点から[[ヒト]]の染色体異常について解説する
'''染色体異常'''(せんしょくたいいじょう)とは、染色体の、欠失・逆位・転座・重複などによる構造の変化や、染色体数の増減などの変異。またそれが原因るダウン症候群病気。染色体突然変異<ref>デジタル大辞泉Ver.201904「染色体異常」</ref>

元々は突然変異を起こした細胞を顕微鏡で調べた際、染色体が変化しているもの(数が違っていたり形態が違うなど)と変化が発見できないものがあり、前者を「染色体突然変異」、後者は(当時は確認できなかったが)染色体上の遺伝子だけが変化したと考えられ「遺伝子突然変異」または「点突然変異」と呼ばれ区別されたものである<ref>[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.180「突然変異の種類」]]</ref>。

この記事では染色体の数・形態の異常を伴う染色体異常について述べており、染色体の数や形態の異常を伴わない遺伝子の異常による病気は[[遺伝子疾患]]に、原因の明らかでない先天奇形症候群は[[奇形症候群]]に詳述されている。また、主に[[医学]]的な観点から[[ヒト]]の染色体異常を中心に解説する。


== 概要 ==
== 概要 ==
ヒトは22対の常染色体と一対の[[性染色体]]を持つが、染色体の量的変化や形の変化があると染色体異常になる。一例としてダウン症でよく見られる「染色体が47本(通常は46本)で21番目の染色体が3本(正常より1本多い)」というケースはこの1本の差で知的障害や内臓奇形などが引き起こされる<ref>[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.182-183「染色体異常による突然変異」]]</ref>。また、これ以外にも染色体数は正常と同じ46本だが実際は21番染色体が他の染色体にくっついて(転座)結局3本分ある場合もダウン症になる<ref name="染色体の不分離現象">[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.144-146「染色体の不分離現象」]]</ref>。
染色体の分離や交叉の機能不全は、疾患を引き起こしうる。これらは大きく二つに分類される。


== 染色体異常の種類 ==
# 染色体の部分的な異常。通常、交叉の失敗によって引き起こされることが多い。部分'''トリソミー'''(重複)、部分モノソミー(欠失)、転座など。
;細胞分裂時の染色体不分離現象によるもの
# '''[[異数体]]'''(数的異常)と呼ばれる、染色体の不足あるいは過剰による異常。不完全な染色体の分離によって引き起こされることが多い。通常、染色体は2本で対をなしている(ダイソミー)が、これが1本になるのが「'''モノソミー'''」、3本になるのが「'''トリソミー'''」、4本になるのが「'''テトラソミー'''」、5本になるのが「'''ペンタソミー'''」である。まれに3倍体や4倍体などの倍数体がある。
:減数分裂する際に染色体が均等に別れず、本来別々の細胞に入る対の2本が同じ細胞に入り、もう一つの細胞では欠落する。この細胞が受精するとその染色体の本数が通常と異なる細胞になる<ref name="染色体の不分離現象"/>。
:通常、染色体は2本で対をなしている(ダイソミー)が、これが1本になるのが「'''モノソミー'''」、3本になるのが「'''トリソミー'''」、4本になるのが「'''テトラソミー'''」、5本になるのが「'''ペンタソミー'''」という。
:上述の「染色体が47本あるダウン症」は21番染色体のトリソミー。不分離現象は必ずしも遺伝的ではなく、むしろ高齢の女性から生まれた子供に比較的多い<ref name="染色体の不分離現象"/>。


;染色体の数が1対が2本以外の組み合わせで全部そろったセットであるもの(倍数体)。例として全部3本づつの69本(三倍体 triploidy)など。
染色体には、短腕(p)と長腕(q)があり、例えば[[5番染色体]]の片方の短腕が欠失することを5pモノソミーといい、5p-(ごピーマイナス)と表記する。ヒトは22対の常染色体と一対の[[性染色体]]を持つ。
:三倍体単独は人間では通常流産するが、二倍体とのモザイクでは生存出生する場合がある<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02. 染色体数の異常 e 、伊藤白斑 p.2」]]</ref>。
:人間を含む哺乳類では倍数体は致死もしくは出生直後に死亡することが多いが、カエルは半数体から3・4・5・6倍体でも普通に生存する<ref>[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.52「受精の意義」]]</ref>など生物によって違いが多い。


[[ファイル:Translocation-4-20.png|thumb|第4[[染色体]]と第20染色体の転座]]
ここでは染色体の数・形態の異常を伴う'''染色体異常'''について述べており、染色体の数や形態の異常を伴わない遺伝子の異常による病気は[[遺伝子疾患]]に、原因の明らかでない先天奇形症候群は[[奇形症候群]]に詳述されている。
;ある染色体の一部もしくは全部が別の染色体にくっついているもの(転座)
:均衡型転座と不均衡転座があり、均衡型では染色体の過不足はない(足りない分が他の染色体に同じだけある)ので正常だが、その人の生殖細胞からは転座した染色体が減数分裂でちゃんと1本分の遺伝子が渡されなくなるので不均衡転座の子供が生まれる確率がある<ref group="注釈">不均衡転座の子供ができる確率は転座場所で異なり通常は5~10%前後が多いが、1%以下から50%の例もある。セントロメア付近で別々の染色体が合体している全腕転座の場合はその染色体が通常の2倍入るか全く入らないかの二択なので不均衡転座100%になる。</ref>、習慣性流産の原因となる場合がある。不均衡型では過不足(部分モノソミーや部分トリソミーなど、場合によっては完全トリソミーの場合も)が生じるので何らかの問題(場合によっては流産)が起きる。なお、親に転座がなくても最初から不均衡転座が生まれるケースもあり「de novo(新生)相互転座」という<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常  aa、相互転座カウンセリング p.1・b 、全腕転座 p.2・ cb 不均衡型転座の子の生まれる確率 p.1-4」]]</ref>。
:染色体単位で転座しているロバートソン(Robertson )型転座というものもあり、こちらはDグループ(13~15番)かGグループ(21~22)の染色体の短腕が取れて(ここは遺伝子がないのでこれ自体は異常を起こさない)お互い長腕同士がくっついており、これによってDグループやGグループの染色体がトリソミーやモノソミー(部分型だが実質は1本丸ごとと変わらない変化になる)を起こす<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常 e 、Robertson型転座 p.1-4」]]</ref>。
:ダウン症のこのタイプの転座の例をあげると21番染色体が21番同士でくっついているG21/G21転座型やDグループ染色体とくっついているD/G21転座型などがあり<ref group="注釈">G21/G21転座型とD/G21転座型はダウン症の症状そのものは同じだが子供に不均衡転座の起きる確率が異なり、G21/G21転座型ではトリソミーかモノソミーの不均衡転座100%になるが、D/G21転座型は正常や均衡型転座のケースもある([[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常 e 、Robertson型転座 p.2-3」]])。</ref>、染色体数は正常同様46本だが実際には21番染色体が3つ分あるのでトリソミーと同じような症状が出る。なお、転座している染色体の形状が通常と異なる(21番染色体の分だけ大きくなっている)他、親を調べると染色体数が45本しかない事で見当がつく<ref name="染色体の不分離現象"/>。

;ある染色体の形が変わっているもの(欠失・重複)
:転座と違いある染色体の一部が取れてたり(欠失)、逆に一部が二重に存在する(重複)もの。染色体量に変化が起きるので異常が起きる。また欠失の一種で染色体の末端部分が切れてそこがつながり輪のようになっているものもある(環状染色体)。
:例として第5番染色体の短腕(V字状突出部の短い方)が欠損する(後述の[[#常染色体部分モノソミー|5p-症候群]])とネコなき症(猫鳴き症候群、仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)という丸顔で両眼隔離・発育障害・知能障害・子ネコ様の鳴き声などの異常が起きる。また第18番染色体が環状染色体に変形している(E-18リング)と知能や発育に障害が出るほか中耳閉塞・内蔵手足奇形などが起きる<ref name="染色体の不分離現象"/>。
:なお、染色体には、短腕(p)と長腕(q)があり、例えば前述の5番染色体の片方の短腕が欠失することを5pモノソミー(「5番染色体短腕が1本分しかない」という意味)といい、5p-(ごピーマイナス)と表記する。
; 同腕染色体
: 長腕と短腕のどちらかが欠失し、もう一方が取って代わる。部分トリソミーと部分モノソミーが同時に発生することになる。

;染色体上の遺伝子が同一染色体内部で並びの向きや位置が変化したもの
:向きが変わったものを「逆位」、位置が変化したものを「転位」という<ref name="染色体の不分離現象"/>。
:理論上は遺伝子量の違いはなく表現型は正常のはずで、実際に9番染色体中央部の逆位(inv(9)(p12q13))などは多くの健常者に見られるが、場所によっては何らかの障害や表現型異常を伴う場合もある<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「01. 正常変異 b、inv(9)(p12q13) p.1」・「03. 染色体の構造異常 d 、de novo均衡型構造異常と表現型異常 p.1」]]</ref>。

; [[モザイク (遺伝学)|モザイク]]
: 染色体異常に限らないが正常の細胞と異常の細胞が混ざっていること。症状は軽度になる。

; 片親性ダイソミー
: 普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。染色体の数は正常だが、障害が現れる。[[アンジェルマン症候群]]と[[プラダー・ウィリー症候群]]は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状が異なる。

;[[胞状奇胎]]
:全胞状奇胎と部分胞状奇胎でやや経緯は異なる(片親性ダイソミーと三倍体)が、両者とも正常の受精が起きなかったことによる染色体異常発生が原因とされる<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「06. リプロダクションの異常 g、 全奇胎と部分奇胎  p.1-4」]]</ref>。
:全胞状奇胎は無核卵子と精子が受精した場合で、大半が染色体23Xの精子の遺伝子を倍加させた46XX<ref group="注釈">23Y精子受精の場合はX染色体がないため受精後まもなく致死となる。ただし5%ほど46XYの染色体をもつ胞状奇胎もある。</ref>と一見正常に見えるが、哺乳類の場合は胎児と胎盤の発達に使う遺伝子がそれぞれ母親と父親由来の物なので、この場合(母親由来の遺伝子がない)胎児はごく小さいうちに致死となり、父親由来の遺伝子が多すぎるため胎盤の絨毛組織が異常発達する<ref>「[https://www.nig.ac.jp/museum/genetic/04_b.html 父親母親由来ゲノムの役割分担] 」 国立遺伝学研究所 遺伝学電子博物館 </ref>。
:部分胞状奇胎は1つの卵子に2つの精子が受精することで発生し、精子2つ分の遺伝子があるため他に問題が無ければ69XXX、69XXY、69XYYのいずれかの三倍体になり、上記と同様に父親由来の遺伝子が多すぎるため、やはり胎盤の絨毛組織が異常発達する(胎児は生存する場合もある)。


== 常染色体トリソミー ==
== 常染色体トリソミー ==
ある[[常染色体]]にトリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1.5倍になって様々な影響を及ぼす。常染色体の完全なトリソミーは[[13番染色体]]、[[18番染色体]]、[[21番染色体]]の3種類以外はごくまれにしか存在しないの理由、他染色体には、より重要な遺伝情報多いため、トリソミーによる変化が致死とり早期に流産ためであ
ある[[常染色体]]にトリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1.5倍になって様々な影響を及ぼす。常染色体の完全なトリソミーの誕生例は13番18番[[21番染色体]]の3種類以外はごくまれにしか存在しないが、これらの染色体がトリソミーを起こしやすいわけではく、流産児の染色体を調べと一番多いのは16番染色体トリソミー<ref group="注釈">13,15,18,21,22 番のトリソミーも比較的頻度が高い。</ref>であった<ref>[[#日本産婦人科医会|(日本産婦人科医会)「2)配偶子・受精卵の染色体異常」]]</ref>

(英語版の[[:en:Warkany syndrome 2]](8)、[[:en:Trisomy 9]]、[[:en:Trisomy 16]]、[[:en:Trisomy 22]]も参照。)

この3種類の症候群が多い理由は、他の常染色体には、より重要な遺伝情報が多いため、トリソミーによる変化が致死となり早期に流産するためで、常染色体で一番遺伝子の数が少ないのは一番小さい21番染色体の337個だが、次に少ないのはサイズの近い22番(701個)や20番(710個)ではなく18番の400個、その次が13番の496個となっている<ref>水谷仁 編集主任『Newton別冊 男性か女性かを決めるXY染色体の科学』株式会社ニュートンプレス、2013年、ISBN 978-4-315-51973-0、p.38-39。 </ref>。このため上記の3種類の染色体は完全なトリソミーでも生存への悪影響が比較的小さく、出生時まで生存できる可能性がそれなりにあるが、これ以外の出生例が稀なのは生存への悪影響が大きすぎて<ref group="注釈" > 大きい染色体について言えば、6番染色体以上のサイズの染色体のトリソミーはモザイクも含めて致死であり(部分トリソミー除く)、1トリソミーに至っては着床前に死亡してしまう。</ref>胎児でも生存が困難なのだろうと考えられている。もっとも出生可能なものでも、流産・死産で出生前に死亡する例の方が多く、一番軽い21トリソミーでも8割は流産になるうえ、流産例と出生に至った例を調べても本質的な違いは見つかっていない<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 a、トリソミー21 p.2」]]</ref>。


; 21トリソミー('''いわゆるダウン症候群''')(ICD-10 Q90.9)
; 21トリソミー('''いわゆるダウン症候群''')(ICD-10 Q90.9)
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: 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。18番染色体が過剰であるために引き起こされる[[先天性障害]]。
: 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。18番染色体が過剰であるために引き起こされる[[先天性障害]]。
: [[口唇裂]]、[[口蓋裂]]、握ったままの手、耳介低位付着などの奇形があり、また[[先天性心疾患]]になる可能性もある。先天性心疾患は[[心室中隔欠損症]]、[[心内膜床欠損症]]など。発見者の名前を取り[[エドワーズ症候群]]と呼ばれることもある。
: [[口唇裂]]、[[口蓋裂]]、握ったままの手、耳介低位付着などの奇形があり、また[[先天性心疾患]]になる可能性もある。先天性心疾患は[[心室中隔欠損症]]、[[心内膜床欠損症]]など。発見者の名前を取り[[エドワーズ症候群]]と呼ばれることもある。
: 予後は悪く、1967年の報告(Weber)では生存率は生後2か月で50%、2歳で5%(ただし18トリソミー判定以前に死亡した子供の例が抜けている可能性がある)。1979~1988年の64例では生存期間中央値が4日、1週間生存が64%、1歳まで生存が5%。2006年の時点で24例に手段を講じたうえで平均余命152.5日、最高1786日だったという報告がある<ref name="トリソミー18と13">[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 b、トリソミー18と13 p.3」]]</ref>。


; 13トリソミー
; 13トリソミー
: 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。13番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害。発見者の名前を取り[[パトウ症候群|パトー(パトウ、プット、ペイトー)症候群]]とも呼ばれる。
: 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。13番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害。発見者の名前を取り[[パトウ症候群|パトー(パトウ、プット、ペイトー)症候群]]とも呼ばれる。
: こちらも予後が悪い<ref group="注釈">胎児期の時点で死亡が18トリソミーより圧倒的に多く、全妊娠期間中の流・死産率が18トリソミーが95%なのに対し13トリソミーは99%。([[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 b、トリソミー18と13 p.2」]])</ref>が、出生数自体が少ないので出生後の生存率でよいデータがない<ref name="トリソミー18と13"/>。


正常細胞とのモザイクではこれら3種以外のトリソミーも出生することがあり、このため染色体分析を行った場合に8・9・13・18・21・22番染色体いずれかの組が3本ある場合は他細胞の染色体混入混入ではなく実際にトリソミー細胞がある可能性を考慮すべきとされる<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 c 、常染色体モザイク p.2」]]</ref>。
; 常染色体のトリソミーの一覧
: (この一覧では部分トリソミーは扱わない)
: 常染色体のトリソミーは染色体に含まれる遺伝子が多いほど・重要なほど重症になる傾向にある。染色体番号は基本的に染色体のサイズが大きい方から振られているが(正確には21番と22番は大きさと番号が逆転している)、染色体のサイズと遺伝子の量・重要性は正確には連動せず、常染色体で一番遺伝子の数が少ないのは一番小さい21番染色体の337個だが、次に少ないのはサイズの近い22番(701個)や20番(710個)ではなく18番の400個、その次が13番の496個となっている。このため上記の3種類の染色体は完全なトリソミーでも生存への悪影響が比較的小さく、出生時まで生存できる可能性がそれなりにあるが、これ以外の出生例が稀なのは生存への悪影響が大きすぎて胎児でも生存が困難なのだろうと考えられている。
: 大きい染色体について言えば、6番染色体以上のサイズの染色体のトリソミーはモザイクも含めて致死であり(部分トリソミー除く)、1トリソミーに至っては着床前に死亡してしまう。もっとも出生可能なものでも、流産・死産で出生前に淘汰されることもかなり多く、一番軽い21トリソミーでも7~8割は出生前に淘汰される。


<!--ほとんどのトリソミーが致死例ですし、2列程度ならこういう表をでかでか作るより生存例あげた方が見やすいと思うので隠させていただきます。
*○:出生可能
*○:出生可能
*△:ごく稀に出生例あり
*△:ごく稀に出生例あり
82行目: 121行目:
| 22トリソミー||△[[:en:Trisomy 22]]
| 22トリソミー||△[[:en:Trisomy 22]]
|-
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|}
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常染色体のその他の数の異常については次の通り。
常染色体のその他の数の異常については次の通り。
* 常染色体の完全なモノソミーは細胞レベルでも生存が困難なため、常染色体モノソミーだけは妊娠の自覚もないまま流産する<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「06. リプロダクションの異常 c 、 反復流産と染色体異常 p.1」]]</ref>。正常細胞とのモザイクでも出生後ではまず見られず(自然流産の胎児ではまれにある)、もし染色体標本でモノソミーの細胞が混じっていた場合は標本制作時に本来あった染色体が無くなった可能性をまず疑うべきとされるほどである<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「02.染色体数の異常 c 、常染色体モザイク p.1-2」]]</ref>。後述の部分モノソミーはモザイクでなくても状況に応じて生存できる場合もある。
* 常染色体の完全なモノソミーは例外なく致死であり、流産でさえ21番のモノソミーがかろうじてわずかに見られる程度で、その他のモノソミーは着床前に死亡する(部分モノソミーは後述)。
* 相同染色体が1本もないのをナリソミーと呼ぶが、これも全て着床前に死亡する。
* 相同染色体が1本もないのをナリソミーと呼ぶが、これも全て着床前に死亡する。
* 常染色体のテトラソミーについては、ほとんどが流産(もしくは着床前死亡)に終わり、出生例は18テトラソミーなどわずかに報告されているのみである。
* 常染色体のテトラソミーについては、ほとんどが流産(もしくは着床前死亡)に終わり、出生例は18テトラソミーなどわずかに報告されているのみである。

== 常染色体部分モノソミー ==
; 5pモノソミー(5p-症候群)
: 5番染色体短腕の一部が[[欠失]]することによって起こる。出生時に猫のようなかん高い鳴き声があることから、'''猫鳴き症候群'''(仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)とも呼ばれる。特有の鳴き声は成長すると消失するが、重度の知的障害がある。生後すぐは丸顔であるが、成長すると細顔になる。便秘になる[[ヒルシュスプルング病]]も併発する。ダウン症の原因を発見したルジュンによって1963年に発見された。
; 4pモノソミー ウォルフ・ヒルシュホーン(Wolf-Hirschhorn)症候群
;[[22q11.2欠失症候群]]
:22番染色体の長腕q11.2領域の微細欠失を原因とする、臓器の奇形などを有する。
<!--5qモノソミーは健常者の細胞の一部が染色体抜け落ちでがん化したものなので少々違う。-->


== 性染色体異常 ==
== 性染色体異常 ==
=== 性染色体の過剰 ===
=== 性染色体の過剰 ===
[[性染色体]]は元々男女で本数が異なり、正常女性でも1本以外は不活性化と言って活動を抑えるため、トリソミーやテトラソミーになっても過剰な染色体は不活性化して物質の生産の変動は小さく、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もある。ただし性別に影響を与える染色体であるため不妊や生殖器の奇形が起きることはある。
[[性染色体]]は元々男女で本数が異なり、正常女性でも1本以外は不活性化と言って活動を抑えるため、トリソミーやテトラソミーになっても過剰な染色体は不活性化して物質の生産の変動は小さく、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もある。ただし性別に影響を与える染色体であるため不妊や生殖器の奇形が起きることはある<ref name="羊水細胞の性染色体異常">[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「07. 出生前診断 e 、羊水細胞の性染色体異常 p.1-2」]]</ref>


; [[クラインフェルター症候群]](Klinefelter)
; [[クラインフェルター症候群]](Klinefelter)
: 男性のみに発生。正常男性核型がXYであるのに対し、[[X染色体]]が過剰である(XXY、XXXYなど)。
: 正常男性核型がXYであるのに対し、[[X染色体]]が過剰である(XXY、XXXYなど)事で発生し、仮に{{XXYY|en|XXYY_syndrome}}など、Y染色体も複数あってもX染色体が多い場合はクラインフェルター症候群になる<ref name="表2 ヒトの性染色体の異常">[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.142「表2 染色体の不分離現象によるヒトの性染色体の異常」]]</ref>
: 外見も外性器も男性型であるが精巣の発達が悪く、この為男性ホルモン不足になりやすい他、高確率で[[不妊]]になる。女性化乳房が半数に見られる。
: 発生率は500〜1000人に1人、一生気づかれない場合も多い。性器は[[第一次性徴]]の時点で通常の男児と同じく[[男性器]]である。主な症状は、[[女性化乳房]](現れない事も多い)または[[第二次性徴]]の欠如、長い手足、[[体毛]]の発生が少ないまたは無い、骨の発育不全や骨粗鬆症、心臓の疾患、運動能力の低下などが現れる場合もある。ほとんどの症例で[[精子]]の数が少ないため、自然的生殖では[[不妊]]であり、不妊治療に訪れた時点で発見される場合も多い。精巣内に精子がある場合は人工授精を使っての受精は可能である。過剰なX染色体が多いほど障害の傾向も強く、また心臓の疾患にかかりやすい。X染色体の数の異常があれば症状が高確率で出るわけではなく、この組み合わせの染色体を持ちながら症状が全くでないケースの方が多い。成人以降、突如第二次性徴的変化が始まることもある。オスの[[三毛猫]]もこの症候群である。[[アンドロゲン不応症]]と混同されるが、アンドロゲン不応症は染色体異常ではなく外見的特徴は女性的であり別の症状である。
: 知能・精神面では平均すると知能がやや低下する(IQが平均より10~15低くなる)が、大人しい性格(引っ込み思案・恥ずかしがり・未熟・慎重など)とみられることが多い<ref name="羊水細胞の性染色体異常"/>。
: 治療面ではテストステロン補充、女性化乳房が見られる場合は一過性の場合はそのままでもよいが持続するときは手術。


; スーパー女性(超雌<ref name="p.143「図1」">[[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.143「図1 染色体不分離現象とその結果生じる性染色体異常」]]</ref>)
; スーパー女性
: 女性のみに発生。正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体が過剰である(XXX、XXXX、XXXXXなど)。XXXの場合は「[[トリプルX症候群|XXX症候群]]」や「Xトリソミー」や「トリプルX」と呼ばれXXXXの場合は「XXXX症候群」や「Xテトラソミー」と呼ばれ、XXXXXの場合は「XXXXX症候群」や「Xペンタソミー」と呼ばれる生殖能力は普通の女性と変わらない
: 女性のみに発生。正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体が過剰である(XXX、XXXX、XXXXXなど)。XXXの場合は「[[トリプルX症候群|XXX症候群]]」や「Xトリソミー」や「トリプルX」と呼ばれる<ref group="注釈">XXXXの場合は「XXXX症候群」や「Xテトラソミー」と呼ばれ、XXXXXの場合は「XXXXX症候群」や「Xペンタソミー」。</ref>
: 身長は高い傾向にあるが、肉体的には特に目立った点はない。生殖能力も普通の女性と変わらない。
: 知能・精神面では平均すると言語IQが20ほど低下し、半数に言語理解や会話能力低下が見られたが、学習障害の範疇で特殊教育を必要とするものは少数であったと報告されている<ref name="羊水細胞の性染色体異常"/>。


; スーパー男性(超雄<ref name="p.143「図1」"/>)
; [[XYY症候群]]
: 男性のみに発生。正常男性核型がXYであるのに対し、Y染色体が過剰である(XYY、XYYYなど)。染色体数に応じて[[XYY症候群]]などとも呼ばれる。
: 正常男性核型がXYであるのに対し、Y染色体が過剰である(XYY、XYYYなど)。染色体数に応じて[[XYY症候群]]などとも呼ばれる。
: 大多数は高身長で生殖能力は普通の男性と変わらない。
: 一生を通じて気づかれない場合が多く、最近は個性の範疇とする見方が一般的。高身長、多動、知能の低下などが現れるという報告もあるが逆に知能が高いとする報告もある。性器異常や腎臓異常の報告もあるが、XYY症候群との関係は証明されていない。過剰なY染色体が多いほど障害の傾向は強い。生殖能力は普通の男性と変わらない。
: 知能・精神面では平均すると正常の範囲だが兄弟より低めで、忍耐力が低い傾向がある<ref name="羊水細胞の性染色体異常"/>。(この為古い本などでは「凶暴性」と書かれていたこともあった<ref name="表2 ヒトの性染色体の異常"/>)

<!--; [[モザイク染色体]]
; {{仮リンク|XXYY症候群|en|XXYY_syndrome}}
: 男女ともに発生する。さまざまな形状があり、[[発生]]率は、10~100億人に一人と言われる。XX,XYのほかXO,XXY,Yなどが混在するケースがあり、障害をともなう場合もあるが、まったく問題のない例も多い。モザイク染色体は血液検査では発見されず、体細胞検査が必要。←おそらく半陰陽について言いたい(XXとXYの混在で男女の中間とか)のだろうが、モザイクは性染色体異常に限ったことではない、あとアンドロゲン不応症は完全に関係ない(X染色体上の遺伝子の異常で本数も形状も正常)ので削除。-->
: クラインフェルターの一種とも、スーパー男性の一種とも言われる。報告例は少ない。

; [[モザイク染色体]]
: 男女ともに発生する。さまざまな形状があり、[[発生]]率は、10〜100億人に一人と言われる。XX,XYのほかXO,XXY,Yなどが混在するケースがあり、障害をともなう場合もあるが、まったく問題のない例も多い。{{要出典範囲|PAIS、CAISなどのアンドロゲン不応症の場合の一部に、[[モザイク染色体]]を持つ場合があるが、頻度は不明である|date=2013-06-17}}。モザイク染色体は血液検査では発見されず、体細胞検査が必要。


=== 性染色体モノソミー ===
=== 性染色体モノソミー ===
性染色体モノソミーについては、常染色体と異なり、生存に欠かせない遺伝子を持つX染色体のモノソミー(XO、ターナー症候群)は生存可能であるが、Y染色体のモノソミー(YO)は致死であり、受精後まもなく死ぬ(同じ理由でYYやOO(性染色体なし)なども致死)。また、XOも過剰な性染色体異常が500~600回の出産に1回くらいの割合みられるのに対し、こみ3000回に1回ほどでみるの、胎児の死ぬ率多い考えられている<ref>『原色現代科大事典7 生命』昭和44年  P142</ref>。
性染色体モノソミーについては、常染色体と異なり、生存に欠かせない遺伝子を持つX染色体のモノソミー(XO、ターナー症候群)は生存可能であるが、Y染色体のモノソミー(YO)は致死であり、受精後まもなく死ぬ(同じ理由でYYやOO(性染色体なし)なども致死)。また、XOも流産した胎児を調べると自然流産の10%ほどを占めることや、出生に至るのが2010年の調査で新生女児2500人に1人とXXYなど過剰な性染色体異常(500~600回の出産に1回くらい<ref name="染色体不分離現象"/>)に比べて極端に低いうえ、同じ45,Xの染色体も流産すとそうでないものがあり、この違いは分かっていない。流産の比率か逆残すると受精から誕生に至るのが0.5%程度という説もありあまりに低いことから「45,Xは本来致死で生期に正常細胞のモザイク型だったものが成長中正常細胞失われ45,Xに見かけ上なっのではないか」という説もある<ref name="Turner症候群">[[#日本人類遺伝会|(日本人類遺伝会)「05. 性染色体異常 a、Turner症候群 p.1-4」]]</ref>。

; [[ターナー症候群]]
; [[ターナー症候群]]
: 女性のみに発生。正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体のうち一本が完全または部分的に欠失している(X、XO)。
: 正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体のうち一本が完全または部分(短腕側)的に欠失している(X、XO)。
: 正常ではX染色体2本の対合による第一次減数分裂が起きずうまく卵子が作られないことによる卵巣の発育不全と、リンパ管の低形成が原因で体に浮腫が起きることで著しい[[低身長]]、不妊(モザイクでないターナー症候群の妊娠例は28例のみ報告されている<ref name="Turner症候群"/>)、第二次性徴の欠如、新生児期の足の浮腫、首周りの襞(翼状頸)が見られ、45,Xでは17%に心臓や大血管の奇形、20%に腎臓の奇形も見られる(短腕欠落などの型はこれより少ない)。これ自体が原因の知的障害はないので、低身長に小頭を伴う場合はターナー症候群ではない<ref name="Turner症候群"/>。
: 新生児期の足の浮腫、著しい[[低身長]]、首周りの襞(翼状頸)、先天性心疾患、不妊、第二次性徴の欠如などがある。知的障害は一切ない<!--「とされるが、一種の[[学習障害]]が現れる場合もある」もちろん合併例は御座いますが、この疾患に特記すべき事ではありません-->。
: XXもしくはXYとモザイクを起こしていることがあり、前者は正常細胞との比率にもよるが普通の女性に近くなり月経も1/3程見られるようになる(なお45,X細胞が全身の20%以下の場合はターナー症候群の表現型がほぼみられなくなる<ref name="Turner症候群"/>)が、後者(XYYやXXYなどとのモザイクの場合もある)のX/XY混合性性腺異形成 (mixed gonadal dysgenesis)は細胞の比率によって典型的なターナー症候群から正常男性まで様々な表現型になる<ref>[[#日本人類遺伝学会|(日本人類遺伝学会)「05. 性染色体異常 i、X/XY混合性性腺異形成  p.1」]]</ref>。
: 10%に大動脈縮窄症を合併する事が知られている。
: 精神・知能面に関してはIQが同胞よりやや低いことがあるが正常の範囲<ref name="羊水細胞の性染色体異常"/>。
: 子宮の未発達などの性未熟症に対しては[[ホルモン療法#カウフマン療法(エストロゲン・ゲスターゲン周期療法)|カウフマン療法]]を行う。
: 子宮の未発達などの性未熟症に対しては、[[ホルモン療法#カウフマン療法(エストロゲン・ゲスターゲン周期療法)|カウフマン療法]]を行う。
<!--「米国では、遺伝カウンセラーになっている人もいる。」この疾患に特記すべき事ではありません-->
: 低身長に対しては、[[成長ホルモン]]補充療法の適応となる。
: 低身長に対しては、[[成長ホルモン]]補充療法の適応となる。


=== 性染色体の組み合わせ一覧 ===
=== 性染色体の組み合わせ一覧 ===


古いデータ(1969年)だが、学研の原色現代科学大事典 7-生命』にヒトの性染色体の異常をまとめた表があったので、これを掲載する<ref name="表2 ヒトの性染色体の異常"/>。
この一覧には、致死となるもの以外にも、理論上は考えられるが、実際には報告例がないものも含まれている。

*'''太字'''は正常な性染色体の組み合わせ
*○:女性、正常表現型
*□:男性、正常表現型
*●:女性、異常表現型
*■:男性、異常表現型
*×:致死(着床前に死亡)

{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|-
|-
! 性染色体の構成 !! 性染色質<ref group="注釈">活動していない不活性なX染色体。フォルゲイン反応で染まる。([[#吉川・西沢1969|(吉川・西沢1969)p.146「性染色質とライオニゼーション」]])</ref> !! 染色体数(2n) !! 性型
!
! O
! X
! XX
! XXX
! XXXX
! XXXXX
|-
|-
| XY || 0 || 46 || 正常男子
! O
| ×OO
| ●[[ターナー症候群|XO]]
| ○[[女性|'''XX''']]
| ○[[トリプルX症候群|XXX]]
| ●[[:en:48, XXXX|XXXX]]
| ●[[:en:49, XXXXX|XXXXX]]
|-
|-
| XYY || 0 || 47 || 男子 背が高く兇暴性がある
! Y
(編注:現在ではXYYと攻撃性や犯罪行動との関係は否定されている<ref>{{Cite web|title=XYY症候群 - 23. 小児の健康上の問題|url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%A8%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%95%B0%E5%B8%B8/xyy%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4|website=MSDマニュアル家庭版|accessdate=2019-06-07|language=ja-JP}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Witkin|first=H. A.|last2=Mednick|first2=S. A.|last3=Schulsinger|first3=F.|last4=Bakkestrom|first4=E.|last5=Christiansen|first5=K. O.|last6=Goodenough|first6=D. R.|last7=Hirschhorn|first7=K.|last8=Lundsteen|first8=C.|last9=Owen|first9=D. R.|date=1976-08-13|title=Criminality in XYY and XXY men|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/959813|journal=Science (New York, N.Y.)|volume=193|issue=4253|pages=547–555|issn=0036-8075|pmid=959813}}</ref>)
| ×YO
| □[[男性|'''XY''']]
| ■[[クラインフェルター症候群|XXY]]
| ■[[クラインフェルター症候群|XXXY]]
| ■[[クラインフェルター症候群|XXXXY]]
| ■XXXXXY
|-
|-
| XXY || 1 || 47 || 男子間性(クラインフェルター症候群)<ref group="注釈">[[#吉川・西沢1969|同書p.143の写真1]]説明ではクラインフェルター症候群について「睾丸の発育不全・無精子症・乳房の女性化・下肢や指が異常に長くなる」としている。</ref>
! YY
| ×YY
| □[[XYY症候群|XYY]]
| ■[[:en:XXYY syndrome|XXYY]]
| ■XXXYY
| ■XXXXYY
| ■XXXXXYY
|-
|-
| XXXY || 2 || 48 || 〃
! YYY
| ×YYY
| ■XYYY
| ■XXYYY
| ■XXXYYY
| ■XXXXYYY
| ■XXXXXYYY
|-
|-
| XXXXY || 3 || 49 || 〃
! YYYY
| ×YYYY
| ■XYYYY
| ■XXYYYY
| ■XXXYYYY
| ■XXXXYYYY
| ■XXXXXYYYY
|-
|-
| XXXYY || 2 || 49 || 〃
! YYYYY
|-
| ×YYYYY
| XXYY || 1 || 48 || 〃
| ■XYYYYY
|-
| ■XXYYYYY
| XX || 1 || 46 || 正常女子
| ■XXXYYYYY
|-
| ■XXXXYYYYY
| XO || 0 || 45 || 女子間性(ターナー症候群)<ref group="注釈">[[#吉川・西沢1969|同書p.143の写真2]]ではターナー症候群について「卵巣と子宮の発育不全・侏儒症・二次性徴欠如などが起こりときには写真のような翼状頸や外反肘などの奇形を伴う」とある。</ref>
| ■XXXXXYYYYY
|-
| XXX || 2 || 47 || 一見正常の女子ただし精神的に欠陥<ref group="注釈">[[#吉川・西沢1969|同書p.143の写真3]]説明ではトリプルXについて「体型は普通の女性と変わらず、二次性徴も見られる、一般的に知的障害をともなう。」とある。</ref>
|-
| XXXX || 3 || 48 || 〃
|-
| XXXXX || 4 || 49 || 〃
|}
|}


<!--出典もない上「理論上」の組み合わせが多すぎる(独自研究)ので、ちゃんと本(原色現代科学大事典 7-生命)にあったものに差し替えさせていただきます。-->
== 常染色体部分モノソミー ==
; 5pモノソミー(5p-症候群)
: 5番染色体短腕の一部が[[欠失]]することによって起こる。出生時に猫のようなかん高い鳴き声があることから、'''猫鳴き症候群'''(仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)とも呼ばれる。特有の鳴き声は成長すると消失するが、重度の知的障害がある。生後すぐは丸顔であるが、成長すると細顔になる。便秘になる[[ヒルシュスプルング病]]も併発する。ダウン症の原因を発見したルジュンによって1963年に発見された。
; 5qモノソミー(5q-症候群)
: 5番染色体長腕の一部が欠失することによって起こる[[血液学#白血球・リンパ球系|骨髄異形成症候群]]の一種。
; 4pモノソミー ウォルフ・ヒルシュホーン(Wolf-Hirschhorn)症候群

== 染色体部分異常の種類 ==
[[ファイル:Translocation-4-20.png|thumb|第4[[染色体]]と第20染色体の転座]]
; 相互転座
: 遺伝子の情報量に変化はないが、染色体の位置が変わるため、一般的には本人に症状は現れないが、本人の子供に症状が現れる場合もある。[[習慣性流産]]の原因ともなる。
;; 均衡型
;; 不均衡型

; ロバートソン転座
: 2種類の染色体の短腕が脱落し、長腕同士が接合する。ロバートソン転座が起きた場合は、両方の染色体の短腕は失われるが、障害が起きる場合は少ないようである。

; 同腕染色体
: 長腕と短腕のどちらかが欠失し、もう一方が取って代わる。部分トリソミーと部分モノソミーが同時に発生することになる。

; 重複
: トリソミー、部分トリソミー

; 逆位
: 遺伝子の情報量、染色体の位置に変化はないため、本人に症状は現れず、子供にも症状は現れない。

; 欠失
: モノソミー、部分モノソミー

; 片親性ダイソミー
: 普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。染色体の数は正常だが、障害が現れる。[[アンジェルマン症候群]]と[[プラダー・ウィリー症候群]]は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状が異なる。

;[[胞状奇胎]]
:全胞状奇胎と部分胞状奇胎でやや経緯は異なるが、両者とも正常の受精が起きなかったことによる染色体異常発生が原因とされる。
:全胞状奇胎は無核卵子と精子が受精した場合で、大半が染色体23Xの精子の遺伝子を倍加させた46XX<ref>23Y精子受精の場合はX染色体がないため受精後まもなく致死となる。ただし5%ほど46XYの染色体をもつ胞状奇胎もある。</ref>と一見正常に見えるが、哺乳類の場合は胎児と胎盤の発達に使う遺伝子がそれぞれ母親と父親由来の物なので、この場合(母親由来の遺伝子がない)胎児はごく小さいうちに致死となり、父親由来の遺伝子が多すぎるため胎盤の絨毛組織が異常発達する<ref>「[https://www.nig.ac.jp/museum/genetic/04_b.html 父親母親由来ゲノムの役割分担] 」 国立遺伝学研究所 遺伝学電子博物館 </ref>。
:部分胞状奇胎は1つの卵子に2つの精子が受精することで発生し、精子2つ分の遺伝子があるため他に問題が無ければ69XXX、69XXY、69XYYのいずれかの三倍体になり、上記と同様に父親由来の遺伝子が多すぎるため、やはり胎盤の絨毛組織が異常発達する(胎児は生存する場合もある)。

; [[モザイク (遺伝学)|モザイク]]
: 正常の細胞と異常の細胞が混ざっていること。症状は軽度になる。

; [[隣接遺伝子症候群]]
: 完全な染色体異常ではないが、微細な遺伝子の異常によって起きる疾患。[[遺伝子疾患]]の項で詳述されている。


== 血液疾患における代表的染色体異常 ==
== 血液疾患における代表的染色体異常 ==
[[白血病]]をはじめとする多くの[[血液疾患]]において染色体異常を認める。これらは後天的な変化であり、[[遺伝]]はしない。あくまで[[悪性腫瘍|がん]]細胞(すなわち異常[[血球|血液細胞]])に限局して生じた染色体異常であり、患者の[[生殖細胞]]はもちろんのこと、患者の血液に含まれる正常な血液細胞や、他の[[組織 (生物学)|組織]]の[[体細胞]]にも、これらの異常はみられない。
[[白血病]]をはじめとする多くの[[血液疾患]]において染色体異常を認める。これらは後天的な変化であり、[[遺伝]]はしない。あくまで[[悪性腫瘍|がん]]細胞(すなわち異常[[血球|血液細胞]])に限局して生じた染色体異常であり、患者の[[生殖細胞]]はもちろんのこと、患者の血液に含まれる正常な血液細胞や、他の[[組織 (生物学)|組織]]の[[体細胞]]にも、これらの異常はみられない。

代表的転座・逆位・欠失・増幅・数の異常については[[#日本人類遺伝学会|『日本人類遺伝学会』の「09. 白血病・固形腫瘍 a,白血病の間期核FISH分析 p.4」]]を参照。


有名な染色体異常(p:短腕、q:長腕、数字:バンド)
有名な染色体異常(p:短腕、q:長腕、数字:バンド)
#5qモノソミー([[5q-症候群]]) 5番染色体長腕の一部が欠失することによって起こる[[血液学#白血球・リンパ球系|骨髄異形成症候群]]の一種。

#t(8;21)(q22;q22) AML1/ETO融合遺伝子 [[急性骨髄性白血病]]M2型(分化傾向を持つ急性骨髄芽球性白血病)
#t(8;21)(q22;q22) AML1/ETO融合遺伝子 [[急性骨髄性白血病]]M2型(分化傾向を持つ急性骨髄芽球性白血病)、AML(M2)の 18~40%に見られる。
#t(9;22)(q34;q11.2) BCR/ABL融合遺伝子 [[慢性骨髄性白血病]] 別名:[[フィラデルフィア染色体]]
#t(9;22)(q34;q11.2) BCR/ABL融合遺伝子 [[慢性骨髄性白血病]] 別名:[[フィラデルフィア染色体]]、CMLの90%以上、ALLの20%に見られる。
#t(15;17)(q22;q12) PML/RARα融合遺伝子 急性骨髄性白血病M3型(急性前骨髄性白血病)
#t(14;18)(q32;q21) BCL2遺伝子 [[濾胞性リンパ腫]]
#t(11;14)(q21;q32) BCL1遺伝子 [[マントル細胞リンパ腫]]
#t(11;14)(q21;q32) BCL1遺伝子 [[マントル細胞リンパ腫]]
#t(14;18)(q32;q21) BCL2遺伝子 [[濾胞性リンパ腫]]、B細胞系のリンパ腫に見られる。
#t(15;17)(q22;q12) PML/RARα融合遺伝子 急性骨髄性白血病M3型(急性前骨髄性白血病)、APLの70%に見られる。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
249行目: 219行目:
* [[突然変異]]
* [[突然変異]]
* [[染色体]]
* [[染色体]]
<!--クラインフェルター・ターナーは本文中に項目単位でリンク先があること。アンドロゲン不応症はX染色体上の遺伝子の異常であり染色体異常ではない(仮にモザイクの例があっても正常と異常の細胞の混在などで「モザイクだから不応症が起こる」わけではない)こと。アロマターゼ過剰症はリンク先がなく関連項目にのせる意味がないといった理由で関連項目から削除。-->
* [[クラインフェルター症候群]]
* [[ターナー症候群]]
* [[アンドロゲン不応症]]
* [[アロマターゼ過剰症]]
* [[養護学校]] - [[特殊学級]] - [[発達支援教育]]
* [[養護学校]] - [[特殊学級]] - [[発達支援教育]]
* [[出産]] - [[高齢出産]]
* [[出産]] - [[高齢出産]]


== 注 ==
== 注 ==
{{Reflist}}
{{脚注ヘルプ}}
<references group="注釈" />
== 出典 ==
<references />
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書
| author = 吉川秀男・西沢一俊(編集責任者・代表)
| year =1969
| title = 原色現代科学大事典 7-生命
| publisher = 株式会社学習研究社
| pages=p.135-152「細胞の分裂」・p.180-183「情報の混乱-突然変異」他
| isbn=
| ref =吉川・西沢1969
}}
* {{Cite web |url=http://www.cytogen.jp/index/download.html#02 |title=「染色体異常をみつけたら」 目次 |publisher=日本人類遺伝学会 |accessdate=2019年5月26日 |ref=日本人類遺伝学会}}



== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
263行目: 245行目:
* [http://www003.upp.so-net.ne.jp/Williams/ ウィリアムズ ノート 9]
* [http://www003.upp.so-net.ne.jp/Williams/ ウィリアムズ ノート 9]
* [http://www.ksfjapan.net/about.html クラインフェルター症候群とは]
* [http://www.ksfjapan.net/about.html クラインフェルター症候群とは]
<!--* [http://book.geocities.jp/yumika525/ 極稀少症例14トリソミーで生まれた弓華ちゃんのページ]--><!--[[Wikipedia:外部リンクの選び方]] に照らしてコメントアウト。k患者さんのお写真はあるものの、トリソノミーそのものの解説が見つからなかったため。解説のページがあればそちらへの直接リンクをお願いします。-->
* [http://www.will-synd.net ひあたり良好+ 【ウィリアムズ症候群とともに生きる】]
* [http://www.will-synd.net ひあたり良好+ 【ウィリアムズ症候群とともに生きる】]
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[[Category:遺伝子疾患]]
[[Category:遺伝子疾患]]

2019年6月18日 (火) 09:17時点における版

染色体異常(せんしょくたいいじょう)とは、染色体の、欠失・逆位・転座・重複などによる構造の変化や、染色体数の増減などの変異。また、それが原因で起こるダウン症候群などの病気。染色体突然変異[1]

元々は突然変異を起こした細胞を顕微鏡で調べた際、染色体が変化しているもの(数が違っていたり形態が違うなど)と変化が発見できないものがあり、前者を「染色体突然変異」、後者は(当時は確認できなかったが)染色体上の遺伝子だけが変化したと考えられ「遺伝子突然変異」または「点突然変異」と呼ばれ区別されたものである[2]

この記事では染色体の数・形態の異常を伴う染色体異常について述べており、染色体の数や形態の異常を伴わない遺伝子の異常による病気は遺伝子疾患に、原因の明らかでない先天奇形症候群は奇形症候群に詳述されている。また、主に医学的な観点からヒトの染色体異常を中心に解説する。

概要

ヒトは22対の常染色体と一対の性染色体を持つが、染色体の量的変化や形の変化があると染色体異常になる。一例としてダウン症でよく見られる「染色体が47本(通常は46本)で21番目の染色体が3本(正常より1本多い)」というケースはこの1本の差で知的障害や内臓奇形などが引き起こされる[3]。また、これ以外にも染色体数は正常と同じ46本だが実際は21番染色体が他の染色体にくっついて(転座)結局3本分ある場合もダウン症になる[4]

染色体異常の種類

細胞分裂時の染色体不分離現象によるもの
減数分裂する際に染色体が均等に別れず、本来別々の細胞に入る対の2本が同じ細胞に入り、もう一つの細胞では欠落する。この細胞が受精するとその染色体の本数が通常と異なる細胞になる[4]
通常、染色体は2本で対をなしている(ダイソミー)が、これが1本になるのが「モノソミー」、3本になるのが「トリソミー」、4本になるのが「テトラソミー」、5本になるのが「ペンタソミー」という。
上述の「染色体が47本あるダウン症」は21番染色体のトリソミー。不分離現象は必ずしも遺伝的ではなく、むしろ高齢の女性から生まれた子供に比較的多い[4]
染色体の数が1対が2本以外の組み合わせで全部そろったセットであるもの(倍数体)。例として全部3本づつの69本(三倍体 triploidy)など。
三倍体単独は人間では通常流産するが、二倍体とのモザイクでは生存出生する場合がある[5]
人間を含む哺乳類では倍数体は致死もしくは出生直後に死亡することが多いが、カエルは半数体から3・4・5・6倍体でも普通に生存する[6]など生物によって違いが多い。
第4染色体と第20染色体の転座
ある染色体の一部もしくは全部が別の染色体にくっついているもの(転座)
均衡型転座と不均衡転座があり、均衡型では染色体の過不足はない(足りない分が他の染色体に同じだけある)ので正常だが、その人の生殖細胞からは転座した染色体が減数分裂でちゃんと1本分の遺伝子が渡されなくなるので不均衡転座の子供が生まれる確率がある[注釈 1]、習慣性流産の原因となる場合がある。不均衡型では過不足(部分モノソミーや部分トリソミーなど、場合によっては完全トリソミーの場合も)が生じるので何らかの問題(場合によっては流産)が起きる。なお、親に転座がなくても最初から不均衡転座が生まれるケースもあり「de novo(新生)相互転座」という[7]
染色体単位で転座しているロバートソン(Robertson )型転座というものもあり、こちらはDグループ(13~15番)かGグループ(21~22)の染色体の短腕が取れて(ここは遺伝子がないのでこれ自体は異常を起こさない)お互い長腕同士がくっついており、これによってDグループやGグループの染色体がトリソミーやモノソミー(部分型だが実質は1本丸ごとと変わらない変化になる)を起こす[8]
ダウン症のこのタイプの転座の例をあげると21番染色体が21番同士でくっついているG21/G21転座型やDグループ染色体とくっついているD/G21転座型などがあり[注釈 2]、染色体数は正常同様46本だが実際には21番染色体が3つ分あるのでトリソミーと同じような症状が出る。なお、転座している染色体の形状が通常と異なる(21番染色体の分だけ大きくなっている)他、親を調べると染色体数が45本しかない事で見当がつく[4]
ある染色体の形が変わっているもの(欠失・重複)
転座と違いある染色体の一部が取れてたり(欠失)、逆に一部が二重に存在する(重複)もの。染色体量に変化が起きるので異常が起きる。また欠失の一種で染色体の末端部分が切れてそこがつながり輪のようになっているものもある(環状染色体)。
例として第5番染色体の短腕(V字状突出部の短い方)が欠損する(後述の5p-症候群)とネコなき症(猫鳴き症候群、仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)という丸顔で両眼隔離・発育障害・知能障害・子ネコ様の鳴き声などの異常が起きる。また第18番染色体が環状染色体に変形している(E-18リング)と知能や発育に障害が出るほか中耳閉塞・内蔵手足奇形などが起きる[4]
なお、染色体には、短腕(p)と長腕(q)があり、例えば前述の5番染色体の片方の短腕が欠失することを5pモノソミー(「5番染色体短腕が1本分しかない」という意味)といい、5p-(ごピーマイナス)と表記する。
同腕染色体
長腕と短腕のどちらかが欠失し、もう一方が取って代わる。部分トリソミーと部分モノソミーが同時に発生することになる。
染色体上の遺伝子が同一染色体内部で並びの向きや位置が変化したもの
向きが変わったものを「逆位」、位置が変化したものを「転位」という[4]
理論上は遺伝子量の違いはなく表現型は正常のはずで、実際に9番染色体中央部の逆位(inv(9)(p12q13))などは多くの健常者に見られるが、場所によっては何らかの障害や表現型異常を伴う場合もある[9]
モザイク
染色体異常に限らないが正常の細胞と異常の細胞が混ざっていること。症状は軽度になる。
片親性ダイソミー
普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。染色体の数は正常だが、障害が現れる。アンジェルマン症候群プラダー・ウィリー症候群は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状が異なる。
胞状奇胎
全胞状奇胎と部分胞状奇胎でやや経緯は異なる(片親性ダイソミーと三倍体)が、両者とも正常の受精が起きなかったことによる染色体異常発生が原因とされる[10]
全胞状奇胎は無核卵子と精子が受精した場合で、大半が染色体23Xの精子の遺伝子を倍加させた46XX[注釈 3]と一見正常に見えるが、哺乳類の場合は胎児と胎盤の発達に使う遺伝子がそれぞれ母親と父親由来の物なので、この場合(母親由来の遺伝子がない)胎児はごく小さいうちに致死となり、父親由来の遺伝子が多すぎるため胎盤の絨毛組織が異常発達する[11]
部分胞状奇胎は1つの卵子に2つの精子が受精することで発生し、精子2つ分の遺伝子があるため他に問題が無ければ69XXX、69XXY、69XYYのいずれかの三倍体になり、上記と同様に父親由来の遺伝子が多すぎるため、やはり胎盤の絨毛組織が異常発達する(胎児は生存する場合もある)。

常染色体トリソミー

ある常染色体にトリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1.5倍になって様々な影響を及ぼす。常染色体の完全なトリソミーの誕生例は13番・18番・21番染色体の3種類以外はごくまれにしか存在しないが、これはこれらの染色体がトリソミーを起こしやすいわけではなく、流産児の染色体を調べると一番多いのは16番染色体トリソミー[注釈 4]であった[12]

(英語版のen:Warkany syndrome 2(8)、en:Trisomy 9en:Trisomy 16en:Trisomy 22も参照。)

この3種類の症候群が多い理由は、他の常染色体には、より重要な遺伝情報が多いため、トリソミーによる変化が致死となり早期に流産するためで、常染色体で一番遺伝子の数が少ないのは一番小さい21番染色体の337個だが、次に少ないのはサイズの近い22番(701個)や20番(710個)ではなく18番の400個、その次が13番の496個となっている[13]。このため上記の3種類の染色体は完全なトリソミーでも生存への悪影響が比較的小さく、出生時まで生存できる可能性がそれなりにあるが、これ以外の出生例が稀なのは生存への悪影響が大きすぎて[注釈 5]胎児でも生存が困難なのだろうと考えられている。もっとも出生可能なものでも、流産・死産で出生前に死亡する例の方が多く、一番軽い21トリソミーでも8割は流産になるうえ、流産例と出生に至った例を調べても本質的な違いは見つかっていない[14]

21トリソミー(いわゆるダウン症候群)(ICD-10 Q90.9)
ダウン症候群の項目を参照。
18トリソミー
女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。18番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害
口唇裂口蓋裂、握ったままの手、耳介低位付着などの奇形があり、また先天性心疾患になる可能性もある。先天性心疾患は心室中隔欠損症心内膜床欠損症など。発見者の名前を取りエドワーズ症候群と呼ばれることもある。
予後は悪く、1967年の報告(Weber)では生存率は生後2か月で50%、2歳で5%(ただし18トリソミー判定以前に死亡した子供の例が抜けている可能性がある)。1979~1988年の64例では生存期間中央値が4日、1週間生存が64%、1歳まで生存が5%。2006年の時点で24例に手段を講じたうえで平均余命152.5日、最高1786日だったという報告がある[15]
13トリソミー
女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。13番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害。発見者の名前を取りパトー(パトウ、プット、ペイトー)症候群とも呼ばれる。
こちらも予後が悪い[注釈 6]が、出生数自体が少ないので出生後の生存率でよいデータがない[15]

正常細胞とのモザイクではこれら3種以外のトリソミーも出生することがあり、このため染色体分析を行った場合に8・9・13・18・21・22番染色体いずれかの組が3本ある場合は他細胞の染色体混入混入ではなく実際にトリソミー細胞がある可能性を考慮すべきとされる[16]

常染色体のその他の数の異常については次の通り。

  • 常染色体の完全なモノソミーは細胞レベルでも生存が困難なため、常染色体モノソミーだけは妊娠の自覚もないまま流産する[17]。正常細胞とのモザイクでも出生後ではまず見られず(自然流産の胎児ではまれにある)、もし染色体標本でモノソミーの細胞が混じっていた場合は標本制作時に本来あった染色体が無くなった可能性をまず疑うべきとされるほどである[18]。後述の部分モノソミーはモザイクでなくても状況に応じて生存できる場合もある。
  • 相同染色体が1本もないのをナリソミーと呼ぶが、これも全て着床前に死亡する。
  • 常染色体のテトラソミーについては、ほとんどが流産(もしくは着床前死亡)に終わり、出生例は18テトラソミーなどわずかに報告されているのみである。

常染色体部分モノソミー

5pモノソミー(5p-症候群)
5番染色体短腕の一部が欠失することによって起こる。出生時に猫のようなかん高い鳴き声があることから、猫鳴き症候群(仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)とも呼ばれる。特有の鳴き声は成長すると消失するが、重度の知的障害がある。生後すぐは丸顔であるが、成長すると細顔になる。便秘になるヒルシュスプルング病も併発する。ダウン症の原因を発見したルジュンによって1963年に発見された。
4pモノソミー ウォルフ・ヒルシュホーン(Wolf-Hirschhorn)症候群
22q11.2欠失症候群
22番染色体の長腕q11.2領域の微細欠失を原因とする、臓器の奇形などを有する。

性染色体異常

性染色体の過剰

性染色体は元々男女で本数が異なり、正常女性でも1本以外は不活性化と言って活動を抑えるため、トリソミーやテトラソミーになっても過剰な染色体は不活性化して物質の生産の変動は小さく、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もある。ただし性別に影響を与える染色体であるため不妊や生殖器の奇形が起きることはある[19]

クラインフェルター症候群(Klinefelter)
正常男性核型がXYであるのに対し、X染色体が過剰である(XXY、XXXYなど)事で発生し、仮にTemplate:XXYYなど、Y染色体も複数あってもX染色体が多い場合はクラインフェルター症候群になる[20]
外見も外性器も男性型であるが精巣の発達が悪く、この為男性ホルモン不足になりやすい他、高確率で不妊になる。女性化乳房が半数に見られる。
知能・精神面では平均すると知能がやや低下する(IQが平均より10~15低くなる)が、大人しい性格(引っ込み思案・恥ずかしがり・未熟・慎重など)とみられることが多い[19]
治療面ではテストステロン補充、女性化乳房が見られる場合は一過性の場合はそのままでもよいが持続するときは手術。
スーパー女性(超雌[21]
女性のみに発生。正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体が過剰である(XXX、XXXX、XXXXXなど)。XXXの場合は「XXX症候群」や「Xトリソミー」や「トリプルX」と呼ばれる[注釈 7]
身長は高い傾向にあるが、肉体的には特に目立った点はない。生殖能力も普通の女性と変わらない。
知能・精神面では平均すると言語IQが20ほど低下し、半数に言語理解や会話能力低下が見られたが、学習障害の範疇で特殊教育を必要とするものは少数であったと報告されている[19]
スーパー男性(超雄[21]
正常男性核型がXYであるのに対し、Y染色体が過剰である(XYY、XYYYなど)。染色体数に応じてXYY症候群などとも呼ばれる。
大多数は高身長で生殖能力は普通の男性と変わらない。
知能・精神面では平均すると正常の範囲だが兄弟より低めで、忍耐力が低い傾向がある[19]。(この為古い本などでは「凶暴性」と書かれていたこともあった[20]

性染色体モノソミー

性染色体モノソミーについては、常染色体と異なり、生存に欠かせない遺伝子を持つX染色体のモノソミー(XO、ターナー症候群)は生存可能であるが、Y染色体のモノソミー(YO)は致死であり、受精後まもなく死ぬ(同じ理由でYYやOO(性染色体なし)なども致死)。また、XOも流産した胎児を調べると自然流産の10%ほどを占めることや、出生に至るのが2010年の調査で新生女児2500人に1人とXXYなど過剰な性染色体異常(500~600回の出産に1回くらい[4])に比べて極端に低いうえ、同じ45,Xの染色体でも流産するものとそうでないものがあり、この違いは分かっていない。流産の比率から逆残すると受精から誕生に至るのが0.5%程度という説もあり、あまりに低いことから「45,Xは本来致死で胎生期に正常細胞とのモザイク型だったものが成長中に正常細胞が失われ45,Xに見かけ上なったのではないか」という説もある[22]

ターナー症候群
正常女性核型がXXであるのに対し、X染色体のうち一本が完全または部分(短腕側)的に欠失している(X、XO)。
正常ではX染色体2本の対合による第一次減数分裂が起きずうまく卵子が作られないことによる卵巣の発育不全と、リンパ管の低形成が原因で体に浮腫が起きることで著しい低身長、不妊(モザイクでないターナー症候群の妊娠例は28例のみ報告されている[22])、第二次性徴の欠如、新生児期の足の浮腫、首周りの襞(翼状頸)が見られ、45,Xでは17%に心臓や大血管の奇形、20%に腎臓の奇形も見られる(短腕欠落などの型はこれより少ない)。これ自体が原因の知的障害はないので、低身長に小頭を伴う場合はターナー症候群ではない[22]
XXもしくはXYとモザイクを起こしていることがあり、前者は正常細胞との比率にもよるが普通の女性に近くなり月経も1/3程見られるようになる(なお45,X細胞が全身の20%以下の場合はターナー症候群の表現型がほぼみられなくなる[22])が、後者(XYYやXXYなどとのモザイクの場合もある)のX/XY混合性性腺異形成 (mixed gonadal dysgenesis)は細胞の比率によって典型的なターナー症候群から正常男性まで様々な表現型になる[23]
精神・知能面に関してはIQが同胞よりやや低いことがあるが正常の範囲[19]
子宮の未発達などの性未熟症に対しては、カウフマン療法を行う。
低身長に対しては、成長ホルモン補充療法の適応となる。

性染色体の組み合わせ一覧

古いデータ(1969年)だが、学研の原色現代科学大事典 7-生命』にヒトの性染色体の異常をまとめた表があったので、これを掲載する[20]

性染色体の構成 性染色質[注釈 8] 染色体数(2n) 性型
XY 0 46 正常男子
XYY 0 47 男子 背が高く兇暴性がある

(編注:現在ではXYYと攻撃性や犯罪行動との関係は否定されている[24][25]

XXY 1 47 男子間性(クラインフェルター症候群)[注釈 9]
XXXY 2 48
XXXXY 3 49
XXXYY 2 49
XXYY 1 48
XX 1 46 正常女子
XO 0 45 女子間性(ターナー症候群)[注釈 10]
XXX 2 47 一見正常の女子ただし精神的に欠陥[注釈 11]
XXXX 3 48
XXXXX 4 49


血液疾患における代表的染色体異常

白血病をはじめとする多くの血液疾患において染色体異常を認める。これらは後天的な変化であり、遺伝はしない。あくまでがん細胞(すなわち異常血液細胞)に限局して生じた染色体異常であり、患者の生殖細胞はもちろんのこと、患者の血液に含まれる正常な血液細胞や、他の組織体細胞にも、これらの異常はみられない。

代表的転座・逆位・欠失・増幅・数の異常については『日本人類遺伝学会』の「09. 白血病・固形腫瘍 a,白血病の間期核FISH分析 p.4」を参照。

有名な染色体異常(p:短腕、q:長腕、数字:バンド)

  1. 5qモノソミー(5q-症候群) 5番染色体長腕の一部が欠失することによって起こる骨髄異形成症候群の一種。
  2. t(8;21)(q22;q22) AML1/ETO融合遺伝子 急性骨髄性白血病M2型(分化傾向を持つ急性骨髄芽球性白血病)、AML(M2)の 18~40%に見られる。
  3. t(9;22)(q34;q11.2) BCR/ABL融合遺伝子 慢性骨髄性白血病 別名:フィラデルフィア染色体、CMLの90%以上、ALLの20%に見られる。
  4. t(11;14)(q21;q32) BCL1遺伝子 マントル細胞リンパ腫
  5. t(14;18)(q32;q21) BCL2遺伝子 濾胞性リンパ腫、B細胞系のリンパ腫に見られる。
  6. t(15;17)(q22;q12) PML/RARα融合遺伝子 急性骨髄性白血病M3型(急性前骨髄性白血病)、APLの70%に見られる。

関連項目

注釈

  1. ^ 不均衡転座の子供ができる確率は転座場所で異なり通常は5~10%前後が多いが、1%以下から50%の例もある。セントロメア付近で別々の染色体が合体している全腕転座の場合はその染色体が通常の2倍入るか全く入らないかの二択なので不均衡転座100%になる。
  2. ^ G21/G21転座型とD/G21転座型はダウン症の症状そのものは同じだが子供に不均衡転座の起きる確率が異なり、G21/G21転座型ではトリソミーかモノソミーの不均衡転座100%になるが、D/G21転座型は正常や均衡型転座のケースもある((日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常 e 、Robertson型転座 p.2-3」)。
  3. ^ 23Y精子受精の場合はX染色体がないため受精後まもなく致死となる。ただし5%ほど46XYの染色体をもつ胞状奇胎もある。
  4. ^ 13,15,18,21,22 番のトリソミーも比較的頻度が高い。
  5. ^ 大きい染色体について言えば、6番染色体以上のサイズの染色体のトリソミーはモザイクも含めて致死であり(部分トリソミー除く)、1トリソミーに至っては着床前に死亡してしまう。
  6. ^ 胎児期の時点で死亡が18トリソミーより圧倒的に多く、全妊娠期間中の流・死産率が18トリソミーが95%なのに対し13トリソミーは99%。((日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 b、トリソミー18と13 p.2」
  7. ^ XXXXの場合は「XXXX症候群」や「Xテトラソミー」と呼ばれ、XXXXXの場合は「XXXXX症候群」や「Xペンタソミー」。
  8. ^ 活動していない不活性なX染色体。フォルゲイン反応で染まる。((吉川・西沢1969)p.146「性染色質とライオニゼーション」
  9. ^ 同書p.143の写真1説明ではクラインフェルター症候群について「睾丸の発育不全・無精子症・乳房の女性化・下肢や指が異常に長くなる」としている。
  10. ^ 同書p.143の写真2ではターナー症候群について「卵巣と子宮の発育不全・侏儒症・二次性徴欠如などが起こりときには写真のような翼状頸や外反肘などの奇形を伴う」とある。
  11. ^ 同書p.143の写真3説明ではトリプルXについて「体型は普通の女性と変わらず、二次性徴も見られる、一般的に知的障害をともなう。」とある。

出典

  1. ^ デジタル大辞泉Ver.201904「染色体異常」
  2. ^ (吉川・西沢1969)p.180「突然変異の種類」
  3. ^ (吉川・西沢1969)p.182-183「染色体異常による突然変異」
  4. ^ a b c d e f g (吉川・西沢1969)p.144-146「染色体の不分離現象」
  5. ^ (日本人類遺伝学会)「02. 染色体数の異常 e 、伊藤白斑 p.2」
  6. ^ (吉川・西沢1969)p.52「受精の意義」
  7. ^ (日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常  aa、相互転座カウンセリング p.1・b 、全腕転座 p.2・ cb 不均衡型転座の子の生まれる確率 p.1-4」
  8. ^ (日本人類遺伝学会)「03. 染色体の構造異常 e 、Robertson型転座 p.1-4」
  9. ^ (日本人類遺伝学会)「01. 正常変異 b、inv(9)(p12q13) p.1」・「03. 染色体の構造異常 d 、de novo均衡型構造異常と表現型異常 p.1」
  10. ^ (日本人類遺伝学会)「06. リプロダクションの異常 g、 全奇胎と部分奇胎  p.1-4」
  11. ^ 父親母親由来ゲノムの役割分担 」 国立遺伝学研究所 遺伝学電子博物館
  12. ^ (日本産婦人科医会)「2)配偶子・受精卵の染色体異常」
  13. ^ 水谷仁 編集主任『Newton別冊 男性か女性かを決めるXY染色体の科学』株式会社ニュートンプレス、2013年、ISBN 978-4-315-51973-0、p.38-39。
  14. ^ (日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 a、トリソミー21 p.2」
  15. ^ a b (日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 b、トリソミー18と13 p.3」
  16. ^ (日本人類遺伝学会)「02、染色体数の異常 c 、常染色体モザイク p.2」
  17. ^ (日本人類遺伝学会)「06. リプロダクションの異常 c 、 反復流産と染色体異常 p.1」
  18. ^ (日本人類遺伝学会)「02.染色体数の異常 c 、常染色体モザイク p.1-2」
  19. ^ a b c d e (日本人類遺伝学会)「07. 出生前診断 e 、羊水細胞の性染色体異常 p.1-2」
  20. ^ a b c (吉川・西沢1969)p.142「表2 染色体の不分離現象によるヒトの性染色体の異常」
  21. ^ a b (吉川・西沢1969)p.143「図1 染色体不分離現象とその結果生じる性染色体異常」
  22. ^ a b c d (日本人類遺伝学会)「05. 性染色体異常 a、Turner症候群 p.1-4」
  23. ^ (日本人類遺伝学会)「05. 性染色体異常 i、X/XY混合性性腺異形成  p.1」
  24. ^ XYY症候群 - 23. 小児の健康上の問題”. MSDマニュアル家庭版. 2019年6月7日閲覧。
  25. ^ Witkin, H. A.; Mednick, S. A.; Schulsinger, F.; Bakkestrom, E.; Christiansen, K. O.; Goodenough, D. R.; Hirschhorn, K.; Lundsteen, C. et al. (1976-08-13). “Criminality in XYY and XXY men”. Science (New York, N.Y.) 193 (4253): 547–555. ISSN 0036-8075. PMID 959813. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/959813. 

参考文献

  • 吉川秀男・西沢一俊(編集責任者・代表)『原色現代科学大事典 7-生命』株式会社学習研究社、1969年、p.135-152「細胞の分裂」・p.180-183「情報の混乱-突然変異」他頁。 
  • 「染色体異常をみつけたら」 目次”. 日本人類遺伝学会. 2019年5月26日閲覧。


外部リンク