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「イベリア半島」の版間の差分

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<!--This is a BC article-->{{Infobox peninsulas
[[ファイル:Iberian peninsula.jpg|thumb|300px|right|イベリア半島の衛星写真]]
|name = イベリア半島
|local name = {{Collapsible list|framestyle=border:none; padding:0 |liststyle=text-align:center; |titlestyle=background:transparent; font-size:9pt;
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|image caption = イベリア半島の衛星写真
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<!--|ethnic groups = [[アンドラ人]]、[[フランス人]]、[[ジブラルタル人]]、[[ポルトガル人]]および[[スペイン人]] <small>([[アンダルシア人]]、[[アラゴン人]]、[[アストゥリアス人]]、[[バスク人]]、[[カンタブリア人]]、[[カスティーリャ人]]、[[カタラン人]]、{{仮リンク|エストレマドゥーラ人|en|Extremaduran people}}、[[ガリシア人]]、{{仮リンク|レオン人|en|Leonese people}}、{{仮リンク|バレンシア人|en|Valencian people}}など)</small>-->
}}

'''イベリア半島'''([[スペイン語]]・[[ポルトガル語]]・[[ガリシア語]]:Península Ibérica、[[カタルーニャ語]]:Península Ibèrica、[[バスク語]]:Iberiar penintsula)は、[[ヨーロッパ]]の南西に位置する[[半島]]である。
'''イベリア半島'''([[スペイン語]]・[[ポルトガル語]]・[[ガリシア語]]:Península Ibérica、[[カタルーニャ語]]:Península Ibèrica、[[バスク語]]:Iberiar penintsula)は、[[ヨーロッパ]]の南西に位置する[[半島]]である。


== 名称 ==
イベリアの名は、[[古代ギリシア]]人が半島先住民をイベレスと呼んだことに由来する。しかし、もともとは漠然と[[ピレネー山脈]]の南側に広がる地域を指した言葉である。一方、イベリア半島を[[属州]]とした[[ローマ人]]たちは、この地を[[ヒスパニア]]と呼称したが、この[[ラテン語]]に由来して現在の「スペイン」(英語名)は「イスパニア」とも「エスパーニャ」とも呼ばれるようになった。
[[古代ギリシア]]人が半島の先住民をイベレスと呼んだことがイベリア半島の名称の由来である{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}。しかし、もともとは漠然と[[ピレネー山脈]]の南側に広がる地域をイベリアと呼んだ。一方、イベリア半島を[[属州]]とした[[ローマ人]]はこの地を[[ヒスパニア]]と呼称したが、この[[ラテン語]]に由来して現在の「スペイン」は「イスパニア」とも「エスパーニャ」とも呼ばれるようになった。


== 概要 ==
== 地理 ==
{{Location map+|Spain|width=250|float=left|relief=yes|caption=イベリア半島の極地|places=
面積は約59万平方km、形状は東西約1100km、南北約1000kmのほぼ方形をなす。北緯44度と北緯36度、西経9度と東経3度の間に広がっている。半島の付け根にあたる北東部は、幅約30キロにわたり[[ピレネー山脈]]<ref>中央部には約3000メートル級の峰々が続く</ref>によって[[フランス]]と画されている。一方、南西端は最も狭いところが約14キロの[[ジブラルタル海峡]]を挟んで[[アフリカ大陸]]と向かい合っている。半島の周囲8分の7にあたる4000キロを上回る海岸線は、地中海と大西洋に大きく開かれている。
{{Location map~|Spain|lat_deg=36|lat_min=00|lat_sec=15|lat_dir=N|lon_deg=05|lon_min=36|lon_sec=37|lon_dir=W|mark=Montanya.svg|label=タリファ岬|position=right}}
*[[北]]には[[ピレネー山脈]]、[[ビスケー湾]]([[ビスカヤ湾]])、[[カンタブリア海]]
{{Location map~|Spain|lat_deg=43|lat_min=47|lat_sec=25|lat_dir=N|lon_deg=07|lon_min=41|lon_sec=16|lon_dir=W|mark=Montanya.svg|label=エスターカ・デ・バレス岬}}
*[[南]]には[[ジブラルタル海峡]]、[[アフリカ]]
{{Location map~|Spain|lat_deg=42|lat_min=19|lat_sec=09|lat_dir=N|lon_deg=03|lon_min=19|lon_sec=19|lon_dir=E|mark=Montanya.svg |label=クレウス岬}}
*[[東]]には[[地中海]]、[[バレアレス諸島]]
{{Location map~|Spain|lat_deg=38|lat_min=46|lat_sec=49|lat_dir=N|lon_deg=09|lon_min=29|lon_sec=56|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=ロカ岬}}}}
*[[西]]には[[大西洋]]


== 存在する国家 ==
=== 範囲 ===
[[南ヨーロッパ]]にはイベリア半島、[[イタリア半島]]、[[バルカン半島]]という3つの大きな半島があるが、この中でもっとも西にあるのがイベリア半島である。イベリア半島はヨーロッパ大陸の南西端にあり、西側は[[大西洋]]に、東側は[[地中海]]に面している{{sfn|立石|2000|p=3}}{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}。さらに細かく見ると、北部は大西洋の一部である[[ビスケー湾]]に、東部は地中海の一部である[[バレアレス海]]に面している。
*[[スペイン]]
*[[ポルトガル]]
*[[アンドラ]]
*[[イギリス]]([[ジブラルタル]])


南端は[[タリファ岬]]({{Coord|36|00|15|N|5|36|37|W|display=inline}})、北端は{{仮リンク|エスターカ・デ・バレス岬|en|Estaca de Bares Point}}({{Coord|43|47|38|N|7|41|17|W|display=inline}})、西端は[[ロカ岬]] ({{Coord|38|46|51|N|9|29|54|W|display=inline}})、東端は{{仮リンク|クレウス岬|en|Cap de Creus}}である。北緯44度線と北緯36度線、西経9度線と東経3度線の間に位置し、日本でいえば北端は[[札幌市]]、南端は[[東京都]]とほぼ同緯度である{{sfn|立石|2000|p=3}}。東西は約1,100km、南北は約1,000kmである{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}。ざっくりと言えばイベリア半島は[[八角形]]の形状を持ち、その形状は「雄牛の皮」に例えられる{{sfn|立石|2000|p=3}}。これは古代ギリシアの地理学者である[[ストラボン]]が半島の形状を「球状の四角形」であるとして牛皮と比較したことに遡る。
== 歴史 ==
=== 旧石器時代 ===
イベリア半島に人類が居住していた形跡は約50~40万年前に溯る。これら最古の住人は[[原人]]類で、火を使い、[[石斧]]・[[石刃]]をはじめとする[[石器]]をつくり、洞窟に住んでいた。


半島の付け根には長さ435kmの[[ピレネー山脈]]が広がり{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}、3,000m級の峰々がイベリア半島と[[フランス]]を分けている{{sfn|立石|2000|p=3}}。南西端は[[ジブラルタル海峡]]がイベリア半島と[[アフリカ大陸]]を隔てており、海峡のもっとも狭い部分はわずか14kmである{{sfn|立石|2000|p=3}}{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}。17世紀にはフランス王[[ルイ14世 (フランス王)|ルイ14世]]が「ヨーロッパはピレネーで終わる」という言葉を残した{{sfn|木内|1979|p=212}}。類似する表現に「ピレネーの向こうはアフリカである」「アフリカはピレネーに始まる」などがあり、いずれもヨーロッパ人がイベリア半島に対して抱いてきた異国趣味や優越感を表しているが、これらの言葉を初めて残したのが誰かは定かでない{{sfn|立石|2000|p=4}}。スペインの歴史学者ペドロ・ラインはイベリア半島を「辺縁ヨーロッパ」であるとした{{sfn|木内|1979|p=212}}。
[[1848年]]、半島南端の[[ジブラルタル]]付近で化石人類の人骨が発見された。その後も数カ所で発見された化石人骨は、いずれも[[ネアンデルタール人]]に属する。約20万年前頃には活動しており、[[氷河期]]最後のビュルム氷河期までその活動は続いた。現生人類の[[ホモ・サピエンス]]の活動は、この[[氷河期|ビュルム氷河期]]に始まった。[[クロマニョン人]]がピレネー山脈を越えてフランス方面からやって来たと見られている。彼らが残した文化は、[[マドレーヌ文化]]と呼ばれる。日常の道具は、狩猟漁労の石刃・鑿・鏃・弓矢・石の銛・石槍などと釣り針などの骨角器が発明された。洞窟に住み、壁面や岩に牛や山羊などの動物を描いた。これらの遺跡はピレネー山脈を間に挟んで、南フランス・ドルドーニュ地方と、北スペイン・カンタブリア地方に分布する。これらは紀元前2万5000年から紀元前1万年までの間に描かれたと見られている。このうち代表的なものは[[アルタミラ洞窟]]で、約1万5000年前ごろのもので、[[1879年]]に発見された。壁画を描いた目的は、狩りの成果を祈る呪術的なものであったとされている。


イベリア半島の面積は58万1,353km<sup>2</sup>であり{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}、うち約21万km<sup>2</sup>は{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}標高610-760mに広がる[[メセタ]]と呼ばれる広大な台地である<ref>{{Cite book|last=Fischer|first=T|year=1920|contribution=The Iberian Peninsula: Spain|editor-last=Mill|editor-first=Hugh Robert|title=The International Geography|publication-place=New York and London|publisher=D. Appleton and Company|pages=368–377|url=https://books.google.com/books?id=wyUbAAAAYAAJ&pg=PA368}}</ref>。メセタは[[セントラル山系]]によって北メセタと南メセタに分けられており、北メセタは平均標高700-800m、南メセタは平均標高600-700mである{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。 [[スペイン]]がイベリア半島の総面積の84.7%を、[[ポルトガル]]が総面積の15.2%を占めており、残りのごくわずかな比率を[[アンドラ|アンドラ公国]]とイギリス領[[ジブラルタル]]が占めている{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=41}}。メセタは東から西に向かうにつれて緩やかに標高が低下し、ポルトガルのアレンテージョ地方では標高約200mである{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。周囲を標高2,000-3,000mの山脈に囲まれたメセタの存在によって、イベリア半島はイタリア半島やバルカン半島とは異なる大陸的特徴を有する{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。従来から半島の中心はマドリード都市圏南部の[[ヘタフェ]]であるとされている。半島の主要河川の大半はメセタに水源があり、山地にある標高の低い部分を突いて大西洋や地中海に向かって流れている。
=== 新石器時代 ===
約1万年前に[[氷河時代]]が終わり、気候は温暖化した。地質年代では、完新世に入った。この頃のイベリア半島では、人類の活動は低調であった。アジル文化<ref>北部のピレネー山中で絵を描いた石を特徴とする文化。</ref>、アストゥリアス文化<ref>カンタブリアから大西洋岸に貝塚を残した文化</ref>、洞窟壁画などの遺跡が残っている。ちょうどその時期には、地中海東端[[メソポタミア]]で[[農耕]]は始まっており、紀元前5000年紀か前4000年紀にイベリア半島を伝播した。当時の農耕は素朴なものであったが、まもなく大規模な農耕文化が伝わり、イベリア半島は[[新石器時代]]に入っていった。この時期の文化は半島の東南部の地中海沿岸地方に多く見られる。とりわけ半島南部の[[アルメリア]]が農耕文化受容の拠点の一つと考えられている。代表的な遺物に籠目(かごめ)模様の[[土器]]<ref>アルメリア近辺、セビーリャからコルドバ付近、東部地中海沿岸から出土。西はポルトガルのテージョ(タホ)川周辺、北は[[バスク国 (歴史的な領域)|バスク地方]]にまで分布。</ref>と[[ドルメン]](支石墓)<ref>この巨石文化は、今もなお謎に包まれている。一般に、太陽崇拝や死者崇拝などの宗教的な遺物であると考えられている。半島では、南部のアンダルシーア、北部のガリシア、ピレネー地方、南部のポルトガルに広がる。</ref>がある。


{{Quotation|イベリア半島は、アフリカとヨーロッパの、大西洋と地中海のあいだに位置する四つ辻、出会いの場である。たしかに、へんに起伏のある四つ辻であり、ほとんど障壁ともいえるものだ。だが、出会いの場であることには変わりはなかった。そこには、はるか昔から、さまざまな人間と文明が入りこみ、対立し合い、その痕跡を残している。|[[ピエール・ヴィラール]]{{sfn|立石|2000|pp=5-6}}}}
=== 青銅器時代 ===
新石器時代と明確な区分はないが、紀元前2500年頃に'''青銅器時代'''に入る。はじめに銅器が、次いで青銅器が用いられるようになった。これらの金属器は、地中海を渡って伝播してきたが、鉱山資源が豊富な半島なのでそのうちに自作するようになった。農耕文化受容の拠点であったアルメリアでは、早くから銅器が用いられ、紀元前2000年頃に最盛期を迎えた。[[アルメリア文化]]と呼ぶ。集団埋葬の墳墓から推定して、[[氏族|氏族社会]]であったと考えられている。紀元前1500年頃には青銅器の使用が始まり、紀元前100年頃まで繁栄した。代表的な遺跡名から[[エル・アルガール文化]]([[青銅器文化]])と呼ぶ。この頃から籠や壺形の[[甕棺]]を用い、個人別に家屋の地下に埋葬された。この文化は半島全域に広がり、錫を産出する西部のガリシア地方と並んで二大中心地と成り、東部地中海地方や南部都市との交易も盛んになった。さらに大西洋を越えたブルターニュやアイルランドなどとの交易も盛んに行われた。紀元前1000年頃を境に、半島の青銅器文化は沈滞していった。しかし、青銅器時代に培った地中海文化圏やヨーロッパ先史文化圏との強い結びつきが、これ以後も引き続き諸民族と交流していく。


=== ローマ帝国による統治 ===
=== 海岸線 ===
イベリア半島の周囲全体の7/8は大西洋か地中海に面しており、海岸線長は4,000kmを上回る{{sfn|立石|2000|p=4}}。海岸線は3,313kmであるとされることもあり、この場合は[[地中海]]に面した海岸線が1,660km、[[大西洋]]に面した海岸線が1,653kmである。[[最終氷期]]の{{仮リンク|最終氷期最寒冷期|label=最寒冷期|en|Last Glacial Maximum}}(最盛期、LGM)には現在よりも115-120m水位が低く、この時期を最低値として現在まで約4,000年かけて徐々に水位を上昇させた<ref>{{cite book|page=305|contribution=Evolution of groundwater systems at the European coastline|first=WM|last=Edmunds|author2=K Hinsby |author3=C Marlin |author4=MT Condesso de Melo |author5=M Manyano |author6=R Vaikmae |author7= Y Travi |title=Palaeowaters in Coastal Europe: Evolution of Groundwater Since the Late Pleistocene|editor1-first=W. M.|editor1-last=Edmunds|editor2-first=C. J.|editor2-last=Milne|publisher=Geological Society|year=2001|location=London|isbn=1-86239-086-X}}</ref>。その際に沈降によって形成された[[大陸棚]]は今日でも海面下に残っている。大西洋側の大陸棚は決して広大ではなく、海底は大陸棚から急激に深度を深める。南北長が700kmに及ぶ大西洋の大陸棚は、沖合からわずか10-65kmまでの範囲と推定されている。500mの等深線が大陸棚の縁であり、大陸棚から離れると水深1,000mに落ち込む<ref>{{Cite book| contribution=Iberian Peninsula – Atlantic Coast|title=An Atlas of Oceanic Internal Solitary Waves| date=February 2004|publisher=Global Ocean Associates|url=http://www.internalwaveatlas.com/Atlas2_PDF/IWAtlas2_Pg087_IberianPeninsula.pdf|format=pdf|accessdate=9 December 2008}}</ref>。イベリア半島の沿岸海域の海底地形は、石油掘削の過程で広く研究されている。ビスケー湾やイベリア半島西側の沖合には、水深4,800mのイベリア深海平原がある。
古くは[[ローマ帝国]]の支配にまで遡る。


長い海岸線や地中海と大西洋の海流によって、外部から他者を受け入れることが容易であり、またイベリア半島から他地域に移民するのにも都合がよかった{{sfn|立石|2000|p=4}}。さらには、イベリア半島の沖合に存在する[[バレアレス諸島]]と[[カナリア諸島]]は、半島と他地域を繋ぐ中継地となった{{sfn|立石|2000|p=4}}。
=== イスラムによる統治 ===
ローマ帝国滅亡後は[[ゲルマン]]系の[[西ゴート王国]]の支配下に置かれるが[[711年]][[ウマイヤ朝]]の[[ターリク・イブン=ズィヤード]]により西ゴート王国は滅亡、[[イスラム教|イスラム]]史上最初の世襲[[イスラム王朝]]であるウマイヤ朝が代わって支配することになる。ウマイヤ朝が滅亡するとその子孫がイベリア半島へ逃亡、[[後ウマイヤ朝]]を建てる。


=== 河川 ===
=== レコンキスタから現代まで ===
[[Image:Rios peninsula Iberica-es.png|thumb|right|250px|イベリア半島の主要河川]]
イベリア半島北部においては、[[アラゴン王国]]や[[レオン王国]]、[[カスティーリャ王国]]、[[ポルトガル王国]]などのキリスト教国が建国され、[[レコンキスタ]]を推し進めていった。一方、南部においては、[[1031年]]に後ウマイヤ朝が自滅し、多数のイスラム系小王国([[タイファ]])が割拠する状態となった。後に、アフリカ大陸のイスラム王朝である[[ムラービト朝]]、その後[[ムワッヒド朝]]の支配下に置かれた。


イベリア半島を流れる主要河川には、[[ミーニョ川]]、[[ドウロ川|ドゥエロ川/ドウロ川]]、[[タホ川|タホ川/テージョ川]]、[[グアディアナ川]]、[[グアダルキビール川]]、[[セグラ川]]、[[フカル川]]、[[エブロ川]]などがある。ドゥエロ川/ドウロ川、タホ川/テージョ川、グアディアナ川、グアダルキビール川、エブロ川はイベリア半島の5大河川と呼ばれる{{sfn|立石|2000|p=6}}。
次第に力をつけていったキリスト教国は、イスラム王朝を南へ南へと圧迫し、その支配領域を広げていく。[[1479年]]には[[アラゴン王国|アラゴン]]王[[フェルナンド2世 (アラゴン王)|フェルナンド2世]]と[[カスティーリャ王国|カスティーリャ]]女王[[イサベル1世 (カスティーリャ女王)|イサベル1世]]の結婚により[[スペイン|スペイン王国]]が成立、レコンキスタに拍車がかかり、[[1492年]]にはイベリア半島最後のイスラム王朝である[[ナスル朝]]が滅ぼされ、イベリア半島からイスラム王朝は完全に駆逐された。

イベリア半島でもっとも長い河川はタホ川/テージョ川である。大西洋に注ぐミーニョ川、ドゥエロ川/ドウロ川、タホ川/テージョ川、グアディアナ川などは一部でスペインとポルトガルの自然的国境となっている。ビスケー湾に注ぐ[[ビダソア川]]は下流部でスペインとフランスの自然的国境となっている。ピレネー山中のフランス領土である{{仮リンク|セルダーニュ・フランセーズ|en|French Cerdagne}}を流れるセグラ川は、アンドラ公国の大部分を流域とする{{仮リンク|バリラ川|en|Gran Valira}}を集めた後にスペインでエブロ川に合流する、イベリア半島で唯一3か国を流れる河川である。イベリア半島を流れる河川の多くは季節によって流量が大きく変動する。

降水量の少なさに起因して、イベリア半島を流れる河川の流量は乏しく{{sfn|碇|2008|p=14}}、内陸部のメセタと海岸部を結ぶ航行可能な河川は存在しない{{sfn|立石|2000|p=6}}。イギリスやフランスのように運河を建設して物資を輸送することもできず{{sfn|碇|2008|p=14}}、モータリゼーションが進行した現代まで海岸部と内陸部の交流は乏しかった{{sfn|立石|2000|p=6}}。近世まで、マドリードから北東岸のバルセロナまで約2週間、マドリードから南部の[[セビリア]]まで約10日間を要した{{sfn|立石|2000|p=7}}。イベリア半島の主要河川に橋を架けることは困難であり、歴史的に諸地域の自然境界となった{{sfn|立石|2000|p=6}}。タホ川/テージョ川の[[トレド]]からスペイン=ポルトガル国境まで(中下流域)の範囲には、近代まで4つの橋しか架けられなかった{{sfn|立石|2000|p=6}}。グアダルキビール川のみは早くから河口から約85km地点に位置するセビリアまでの航行が可能であり、スペイン帝国はセビリアを大西洋貿易の独占港とした{{sfn|立石|2000|p=6}}。[[コルドバ]]も河川交通の要所として機能し、近代以前にはセビリアからコルドバまでの間に1つの橋も存在しなかった{{sfn|立石|2000|p=6}}。1717年に新大陸との交易拠点が大西洋岸の[[カディス]]に移されると、グアダルキビール川沿岸都市の重要性は低下した{{sfn|木内|1979|pp=214-216}}。

メセタは西部を除いて高い山脈に囲まれており、北はカンタブリア山脈、南はシエラ・モレナ山脈に阻まれている{{sfn|立石|2000|p=7}}。メセタ中央部にはセントラル山系があり、メセタ北部(旧カスティーリャ)とメセタ南部(新カスティーリャ)を隔てている{{sfn|立石|2000|p=7}}。ポルトガルを除けば小規模な海岸平野しかないが、エブロ川流域とグアダルキビール川流域には内陸にむかって長く海岸平野が伸びている{{sfn|立石|2000|p=7}}。

{| class="wikitable" style="font-size:smaller"
|-
! colspan=4| イベリア半島の主要河川
|-
! 河川名 !! 全長<br>(km) !! 流域面積<br>(km<sup>2</sup>) !! 国
|-
| [[エブロ川]] || align="right"|910 || align="right"|86,100 || スペイン、フランス(支流)、アンドラ(支流)
|-
| [[タホ川|タホ川/テージョ川]] || align="right"|1,007 || align="right"|80,600 || スペイン、ポルトガル
|-
| [[ドウロ川|ドゥエロ川/ドウロ川]] || align="right"|895 || align="right"|78,952 || スペイン、ポルトガル
|-
| [[グアディアナ川]] || align="right"|818 || align="right"|67,733 || スペイン、ポルトガル
|-
| [[グアダルキビール川]] || align="right"|657 || align="right"|57,101 || スペイン
|-
| [[フカル川]] || align="right"|498 || align="right"|21,578 || スペイン
|-
| [[セグラ川]] || align="right"|325 || align="right"|18,870 || スペイン
|-
| [[ミーニョ川]] || align="right"|315 || align="right"|16,275 || スペイン、ポルトガル
|-
|}

=== 山地 ===
{{Location map+|Spain|width=250|float=left|relief=yes|caption=イベリア半島の山|places=
{{Location map~|Spain|lat_deg=42|lat_min=37|lat_sec=56|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=39|lon_sec=28|lon_dir=E|mark=Montanya.svg|label=アネト|position=right}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=42|lat_min=40|lat_sec=26|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=02|lon_sec=00|lon_dir=E|mark=Montanya.svg|label=モン・ペルデュ|position=top}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=43|lat_min=11|lat_sec=53|lat_dir=N|lon_deg=04|lon_min=51|lon_sec=04|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=セレード|position=top}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=37|lat_min=03|lat_sec=12|lat_dir=N|lon_deg=03|lon_min=18|lon_sec=41|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=ムラセン}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=40|lat_min=14|lat_sec=48|lat_dir=N|lon_deg=05|lon_min=17|lon_sec=52|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=アルマンソール}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=35|lat_sec=30|lat_dir=N|lon_deg=01|lon_min=50|lon_sec=16|lon_dir=E|mark=Montanya.svg |label=ムンサラット|position=bottom}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=47|lat_sec=17|lat_dir=N|lon_deg=01|lon_min=50|lon_sec=18|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=モンカヨ|position=left}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=40|lat_min=19|lat_sec=19|lat_dir=N|lon_deg=07|lon_min=36|lon_sec=46|lon_dir=W|mark=Montanya.svg |label=トーレ|position=bottom}}}}

イベリア半島はとても山がちな地形であり、数多くの山系、山脈、山地、山塊、ピークが存在する。[[ピレネー山脈]]はヨーロッパ大陸とイベリア半島を隔てている。ピレネー山脈は西側より東側のほうが標高が高く、最高峰は[[アネト山]](3404m)である。ピレネー山脈中にはアンドラ公国やフランス領の{{仮リンク|セルダーニュ・フランセーズ|en|French Cerdagne}}などがあり、これらの地域は学術的にイベリア半島に分類される。3,000m級の山々を擁するピレネー山脈は険しい山地であるものの、その両端部は歴史を通じて数多くの民族が行き来しており、山脈の西端にある[[バスク地方]]と東端にある[[カタルーニャ地方]]は山脈を挟んで広がりを見せている{{sfn|立石|2000|p=4}}。中世にはカタルーニャ伯領が山脈の北側まで広がり、また近世には[[ナポレオン・ボナパルト]]などが山脈の南側まで領土を拡大することを目指した{{sfn|立石|2000|p=4}}。このため、古くからピレネー山脈がスペインとフランスの自然国境として認知されていたわけではなかった{{sfn|立石|2000|p=4}}。

イベリア半島北部のビスケー湾岸には東西に[[カンタブリア山脈]]が連なり、[[ピコス・デ・エウロパ]]山塊の[[トーレ・セレード]](2648m)を最高峰とする。カンタブリア山脈の北側と南側では気候が大きく異なり、ガリシア地方からバスク地方にかけての湿潤な北側は[[エスパーニャ・ベルデ]]と呼ばれる。半島北西部には{{仮リンク|ガリシア山塊|en|Galician Massif}}があり、とても古い上に侵食の激しい岩石からなる<ref>{{cite web |url=http://digital.csic.es/handle/10261/30737 |title=Silurian graptolite biostratigraphy of the Galicia - Tras-os-Montes Zone (Spain and Portugal) |publisher=CSIC |accessdate=2016-01-12}}</ref>。ガリシア山塊の最高峰は2127mのペナ・トレビンカである。

半島の中央部から東部には[[イベリコ山系]]が伸びており、[[メセタ]]とエブロ川流域の平原を隔てている。イベリコ山系はモンカヨ山地やアルバラシン山地など多くの山脈で構成されており、標高2313mの{{仮リンク|モンカヨ|en|Moncayo}}が最高峰である。大西洋に向かって流れるタホ川/テージョ川やドゥエロ川/ドウロ川、地中海に向かって流れるエブロ川の源流はイベリコ山系にある。半島の中央部から西部には、東西に長く伸びる[[セントラル山系]]がある。[[グアダラマ山脈]]や[[グレドス山脈]]など数多くの山脈で構成されるセントラル山系はメセタの北部と南部を隔てており、西端部はスペイン=ポルトガル国境を超えてポルトガルに至っている。ポルトガルの最高峰は[[アゾレス諸島]]の[[ピコ山]]だが、ポルトガルのイベリア半島部分の最高峰であるトーレ(1993m)はセントラル山系のエストレーラ山地に所在する。セントラル山系の最高峰はグレドス山脈にある標高2592mのアルマンソール峰である。

{{仮リンク|トレド山地|en|Montes de Toledo}}は半島中央部から中西部にかけて国境を超えて伸びており、1603mのラ・ビリュエルカが山地の最高峰である。半島南西部にある[[シエラ・モレナ山脈]]はグアディアナ川とグアダルキビール川の流域を隔てている。シエラ・モレナ山脈の最高峰は1332mのバニュエラである。[[ベティコ山系]]はイベリア半島の最南端部を西端とし、地中海岸のアリカンテ県まで東西に長く伸びている。ベティコ山系はプレベティコ山系、スブベィコ山系、ペニベティコ山系という3つの支山系に区分される。ペニベティコ山系は[[シエラネバダ山脈 (スペイン)|シエラネバダ山脈]]などを内包しており、シエラネバダ山脈にはイベリア半島最高峰、スペインのイベリア半島部分最高峰の[[ムラセン山]](3478m)がある<ref>{{cite web |url=http://www.spanishnature.com/birds/63-general-information/12-introduction-to-the-birds-of-spain.html?ml=5&mlt=system&tmpl=component |title=Introduction to the Birds of Spain |publisher=Spanish Culture |accessdate=2016-01-12}}</ref>。

=== 地質 ===
[[File:Geological units of the Iberian Peninsula EN.svg|thumb|250px|イベリア半島の主要な地質]]

イベリア半島は[[エディアカラン]]から[[完新世]]まであらゆる地質時代の岩石を含み、ほぼすべての種類の岩石が存在する。きわめて重要な鉱床も見つけられる。半島のコア部分は{{仮リンク|イベリア山塊|en|Iberian Massif}}として知られる{{仮リンク|ヘルシニア造山期|en|Hercynian}}の[[クラトン]]岩石からなる。北東部はピレネー山脈の褶曲帯と結合しており、南東部では[[ベティコ山系]]と結合している。これらふたつのチェーンはいずれも{{仮リンク|アルプス・ベルト|en|Geology of the Alps}}の一部である。半島の西側はマグマに乏しい大西洋の開口部によって形成された大陸境界によって区切られている。ヘルシニア造山期の褶曲帯はほとんど中生代と第三期の岩石に埋もれているものの、東部の[[イベリコ山系]]と{{仮リンク|カタルーニャ海岸山脈|en|Catalan Coastal Ranges}}を通じて露頭している。

地質は土層、石灰層、粘土層という三層からなる。珪土層は主に半島西部に広がり、ガリシア地方、ポルトガル北部、メセタなどに分布している{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。石灰層は主に半島東部に広がり、ピレネー山脈、カンタブリア山脈東部([[バスク山脈]])、イベリア山系、ベティコ山系などに分布している{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。粘土層は北メセタや南メセタの一部、エブロ川・グアダルキビール川・タホ川の各河川流域に分布している{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。

=== 気候 ===
イベリア半島の気候は地域によって大きく変化するが{{sfn|立石|2000|p=8}}、[[カンタブリア山脈]]を境にして乾燥イベリアと湿潤イベリアの二つの地域にわけることができる{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。カンタブリア山脈以北の北西岸は[[エスパーニャ・ベルデ]]と呼ばれる、年降水量は800-1,500mmの[[西岸海洋性気候]]であり、夏季は涼しく冬季は穏やかである{{sfn|立石|2000|p=8}}。エスパーニャ・ベルデでもっとも降水量が多い季節は秋季であり、山岳地帯では年降水量が3,000mmに達する場所もある{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。

カンタブリア山脈以南の地域は乾燥イベリアと呼ばれ、年降水量は800mmに満たない[[地中海性気候]]である{{sfn|立石|2000|p=8}}。夏季は乾燥し、特に内陸部では冬季は寒さが厳しい{{sfn|立石|2000|p=8}}。乾燥イベリアで降水量が多い季節は春季と秋季であるが、山間部を除けば300-600mmの場所が多い{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。ラ・マンチャ(La Mancha)地方はアラビア語の「乾いた土地」(al mancha)に由来する{{sfn|木内|1979|pp=214-216}}。乾燥イベリアでは短期間に豪雨となって降ることが多く、河川の流量に大きな影響を与えることなく蒸発するため、南メセタには砂漠状の地形景観が見られる{{sfn|木内|1979|pp=214-216}}。乾燥イベリアの中でも地中海岸や大西洋沿岸では海洋の影響を受け、夏季の暑さは比較的酷くなく冬季は暖かい{{sfn|立石|2000|p=8}}。しかし、ポルトガルの内陸部やスペインのメセタは大陸性の気候であり、夏季は暑く冬季は厳しい寒さとなる{{sfn|立石|2000|p=8}}。ポルトガル南部やスペイン南部は極度に乾燥する{{sfn|立石|2000|p=8}}。年降水量約200mmのアルメリア地方はイベリア半島でもっとも乾燥した場所であり、極度に乾燥するのはアフリカ大陸の[[サハラ砂漠]]からの季節風の影響を受けるためである{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。

スペインの内陸部にはヨーロッパでもっとも気温が高い場所があり、[[コルドバ]]では7月の日中の平均気温が摂氏約37度となる<ref>{{cite web |url=http://www.aemet.es/en/serviciosclimaticos/datosclimatologicos/valoresclimatologicos?l=5402&k=and |title=Standard climate values for Córdoba |publisher=スペイン気象庁(Aemet) |accessdate=7 March 2015}}</ref>。スペインの地中海岸では夏季の日中の平均気温が摂氏約30度となるのが一般的である。これらの地域とは対照的に、半島北西部にあるガリシア地方の[[ア・コルーニャ]]では、夏季の日中の平均気温は摂氏23度をわずかに下回る<ref>{{cite web |url=http://www.aemet.es/en/serviciosclimaticos/datosclimatologicos/valoresclimatologicos?l=1387&k=gal |title=Standard climate values for A Coruña |publisher=スペイン気象庁(Aemet) |accessdate=7 March 2015}}</ref>。涼しく湿度の高い夏季の気候は、半島北岸の大部分の地域に共通している。冬季の気温は夏季の気温より場所による差異が少ない。スペイン内陸部では冬季の降霜が一般的であるものの、日中の最高気温は摂氏0度を上回ることが多い。イベリア半島の最低気温記録はメセタ西部で記録した摂氏マイナス24度、最高気温記録はアンダルシア地方のセビリア県北東部で記録した摂氏45度である{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。

イベリア半島北部の山間部にはブナ、オーク、クリなどの森林が広がり、また草原や牧場が多く、トウモロコシやリンゴが栽培される{{sfn|立石|2000|p=8}}。散居集落と零細土地所有制度が一般的である{{sfn|立石|2000|p=8}}。地中海岸では斜面を開墾して段々畑が築かれることが多く、灌漑農業によって柑橘類が生産されている{{sfn|立石|2000|p=8}}。柑橘類やオリーブ栽培の北限は地中海性気候の影響する北限と重なる{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。内陸部のメセタには小麦やブドウが生産されるものの生産性は低く、半島南部はオリーブや穀物が生産される{{sfn|立石|2000|p=8}}。南部は大土地所有制度による粗放的農業が卓越しており、大半は集住集落となる{{sfn|立石|2000|p=9}}。アンダルシア地方東部の沿岸部は亜熱帯性気候であり、サトウキビやバナナも栽培される{{sfn|池上|牛島|神吉|金七|2001|p=42}}。

{| class="wikitable" style="font-size:smaller"
! colspan=7| イベリア半島主要地域の平均気温<ref name="Spanish Climate Normals or Averages">{{cite web |url=http://www.aemet.es/en/serviciosclimaticos/datosclimatologicos/valoresclimatologicos |title=Standard Climate Values, Spain |publisher=スペイン気象庁(Aemet) |accessdate=7 March 2015}}</ref><ref name="Portuguese Climate Averages">{{cite web |url=http://www.ipma.pt/en/oclima/normais.clima/ |title=IPMA Climate Normals |publisher=ポルトガル気象庁(IPMA) |accessdate=7 March 2015}}</ref>
|-
! 都市 !! 分類 !! width=50| 最冷月 !! width=50| 4月 !! width=50| 最暖月 !! width=50| 10月 !! 気候帯
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|ESP}} [[ア・コルーニャ]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|13.5 || align="right"|16.2 || align="right"|22.8 || align="right"|19.1 || rowspan=2| [[海洋性気候]](Cfb)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|8.0 || align="right"|9.9 || align="right"|16.4 || align="right"|13.0
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|ESP}} [[ビルバオ]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|13.2 || align="right"|16.8 || align="right"|25.5 || align="right"|20.8 || rowspan=2| [[海洋性気候]](Cfb)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|4.7 || align="right"|7.1 || align="right"|15.2 || align="right"|10.8
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|POR}} [[ポルト]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|13.8 || align="right"|18.1 || align="right"|25.7 || align="right"|20.7 || rowspan=2| [[地中海性気候]](Csb)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|5.2 || align="right"|9.1 || align="right"|15.9 || align="right"|12.2
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|ESP}} [[バルセロナ]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|13.6 || align="right"|18.0 ||align="right"| 28.5 || align="right"|22.1 || rowspan=2| [[地中海性気候]](Csa)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|4.7 || align="right"|9.4 || align="right"|20.2 || align="right"|13.5
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|ESP}} [[マドリード]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|9.8 || align="right"|18.2 || align="right"|32.1 || align="right"|19.4 || rowspan=2| [[地中海性気候]](Csa)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|2.7 || align="right"|7.7 || align="right"|19.0 || align="right"|10.7
|-
| rowspan=2| {{Flagicon|POR}} [[リスボン]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|14.8 || align="right"|19.8 || align="right"|28.3 || align="right"|22.5 || rowspan=2| [[地中海性気候]](Csa)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|8.3 || align="right"|11.9 || align="right"|18.6 || align="right"|15.1
|-
|rowspan=2| {{Flagicon|ESP}} [[セビリア]] || style="background-color:#FCC" | 最高気温 || align="right"|16.0 || align="right"|23.4 ||align="right"| 36.0 || align="right"|26.0 || rowspan=2| [[地中海性気候]](Csa)
|-
| style="background-color:#CFF" | 最低気温 || align="right"|5.7 || align="right"|11.1 || align="right"|20.3 || align="right"|14.4
|}

== 国・領域 ==
{{Location map many | Spain
| width = 250
| caption = イベリア半島における国・領域の位置
| lat1_deg = 40.40 | lon1_deg = -3.68
| label1 = スペイン
| lat2_deg = 38.71 | lon2_deg = -9.14
| label2 = ポルトガル
| lat3_deg = 42.50 | lon3_deg = 1.97
| label3 = フランス | pos3 = right
| lat4_deg = 42.50 | lon4_deg = 1.52
| label4 = アンドラ公国
| lat5_deg = 36.14 | lon5_deg = -5.35
| label5 = ジブラルタル
}}

現代のイベリア半島は政治的に以下の地域に区分される。スペインとポルトガルの国境が自然地理学的に大きな意味を持つことはなく、スペイン語ガリシア方言はスペイン語カスティーリャ方言よりもはるかにポルトガル語に近いなどといったことが起こる{{sfn|木内|1979|p=212}}。

{| class="wikitable" style="font-size:smaller"
|-
! colspan=4| イベリア半島の国・領域
|-
! 国(領域) !! 人口(人) !! 面積(km<sup>2</sup>) !! 面積比率
|-
| {{Flagicon|ESP}} [[スペイン]]<ref>[[カナリア諸島]]や[[バレアレス諸島]]などの島嶼部を除外したスペインの人口。[http://www.ine.es/prensa/np884.pdf Census data] スペイン国立統計局(INE)。</ref> || align="right"|約4300万 || align="right"|493,519 || align="right"|85%
|-
| {{Flagicon|POR}} [[ポルトガル]]<ref>[[マデイラ諸島]]や[[アゾレス諸島]]などの島嶼部を除外したポルトガルの人口。[http://www.ine.pt/xportal/xmain?xpid=INE&xpgid=ine_destaques&DESTAQUESdest_boui=211394338&DESTAQUESmodo=2 Census data] スペイン国立統計局(INE)。</ref> || align="right"|約1000万 || align="right"|89,261 || align="right"|15%
|-
| {{Flagicon|FRA}} [[フランス]]<ref>ピレネー山中にある{{仮リンク|セルダーニュ・フランセーズ|en|French Cerdagne}}の人口。この地域は学術的にイベリア半島に含まれる。</ref> || align="right"|12,035 || align="right"|540 || align="right"|約0.1%
|-
| {{Flagicon|AND}} [[アンドラ|アンドラ公国]]<ref>ピレネー山中にあるアンドラ公国は学術的にイベリア半島に含まれる。</ref> || align="right"|84,082 || align="right"|468 || align="right"|約0.1%
|-
| {{Flagicon|Gibraltar}} 英領[[ジブラルタル]]<ref>イベリア半島最南端部にあるイギリス領土。</ref> || align="right"|29,431 || align="right"|7 || align="right"|約0.001%
|}

=== 主要都市圏 ===
{{Location map+|Spain|width=250|float=right|caption=イベリア半島の主要都市圏|places=
{{Location map~|Spain|lat_deg=40|lat_min=25|lat_sec=08|lat_dir=N|lon_deg=03|lon_min=41|lon_sec=31|lon_dir=W|label=マドリード(1)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=22|lat_sec=57|lat_dir=N|lon_deg=02|lon_min=10|lon_sec=37|lon_dir=E|label=バルセロナ(2)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=38|lat_min=42|lat_sec=50|lat_dir=N|lon_deg=09|lon_min=08|lon_sec=22|lon_dir=W|label=リスボン(3)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=39|lat_min=28|lat_sec=12|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=22|lon_sec=36|lon_dir=W|label=バレンシア(4)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=09|lat_sec=44|lat_dir=N|lon_deg=08|lon_min=37|lon_sec=19|lon_dir=W|label=ポルト(5)}}}}

{| class="wikitable" style="font-size:smaller"
|-
! colspan=5| イベリア半島の都市圏人口(2015年)<ref>[http://www.demographia.com/db-worldua.pdf Demographia World Urban Areas & Population Projections] 第11版(2015年版)</ref>
|-
! colspan=2| 順位 !! rowspan=2| 都市圏 !! rowspan=2| 地域 !! rowspan=2| 都市圏人口
|-
! width=30| 半島 !! width=30| 世界
|-
| align="center"|1 || align="center"|56 || {{Flagicon|ESP}} [[マドリード]]首都圏 || [[マドリード州]] || align="right"|6,171,000
|-
| align="center"|2 || align="center"|83 || {{Flagicon|ESP}} [[バルセロナ]]都市圏 || [[カタルーニャ州]] || align="right"|4,693,000
|-
| align="center"|3 || align="center"|166 || {{Flagicon|POR}} [[リスボン]]首都圏 || [[リスボン|リスボン地方]] || align="right"|2,666,000
|-
| align="center"|4 || align="center"|315 || {{Flagicon|ESP}} [[バレンシア (スペイン)|バレンシア]]都市圏 || [[バレンシア州]] || align="right"|1,561,000
|-
| align="center"|5 || align="center"|333 || {{Flagicon|POR}} [[ポルト]]都市圏 || [[ノルテ (ポルトガル)|ノルテ地方]] || align="right"|1,474,000
|-
| align="center"|6 || align="center"|444 || {{Flagicon|ESP}} [[セビリア]]都市圏 || [[アンダルシア州]] || align="right"|1,107,000
|-
| align="center"|7 || align="center"|648 || {{Flagicon|ESP}} [[ビルバオ都市圏]] || [[バスク州]] || align="right"|756,000
|-
| align="center"|8 || align="center"|679 || {{Flagicon|ESP}} [[サラゴサ]]都市圏 || [[アラゴン州]] || align="right"|723,000
|-
| align="center"|9 || align="center"|685 || {{Flagicon|ESP}} [[マラガ]]都市圏 || [[アンダルシア州]] || align="right"|716,000
|}

=== 主要都市 ===
{{Location map+|Spain|width=250|float=right|caption=イベリア半島の主要都市|places=
{{Location map~|Spain|lat_deg=40|lat_min=25|lat_sec=08|lat_dir=N|lon_deg=03|lon_min=41|lon_sec=31|lon_dir=W|label=マドリード(1)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=22|lat_sec=57|lat_dir=N|lon_deg=02|lon_min=10|lon_sec=37|lon_dir=E|label=バルセロナ(2)|position=top}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=39|lat_min=28|lat_sec=12|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=22|lon_sec=36|lon_dir=W|label=バレンシア(3)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=41|lat_min=39|lat_sec=00|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=53|lon_sec=00|lon_dir=W|label=サラゴサ(4)|position=left}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=37|lat_min=22|lat_sec=38|lat_dir=N|lon_deg=05|lon_min=59|lon_sec=13|lon_dir=W|label=セビリア(5)|position=left}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=36|lat_min=43|lat_sec=10|lat_dir=N|lon_deg=04|lon_min=25|lon_sec=12|lon_dir=W|label=マラガ(6)|position=bottom}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=38|lat_min=42|lat_sec=50|lat_dir=N|lon_deg=09|lon_min=08|lon_sec=22|lon_dir=W|label=リスボン(7)}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=37|lat_min=59|lat_sec=10|lat_dir=N|lon_deg=01|lon_min=07|lon_sec=49|lon_dir=W|label=ムルシア(8)|position=bottom}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=43|lat_min=15|lat_sec=25|lat_dir=N|lon_deg=02|lon_min=55|lon_sec=25|lon_dir=W|label=ビルバオ(9)|position=top}}
{{Location map~|Spain|lat_deg=38|lat_min=20|lat_sec=43|lat_dir=N|lon_deg=00|lon_min=28|lon_sec=59|lon_dir=W|label=アリカンテ(10)}}}}

{| class="wikitable" style="font-size:smaller"
|-
! colspan=4| イベリア半島の都市人口(2011-12年)
|-
! width=30| 順位 !!都市 !! 地域 !! 都市人口
|-
| align="center"|1 || {{Flagicon|ESP}} [[マドリード]] || [[マドリード州]] || align="right"|3,233,527
|-
| align="center"|2 || {{Flagicon|ESP}} [[バルセロナ]] || [[カタルーニャ州]] || align="right"|1,620,943
|-
| align="center"|3 || {{Flagicon|ESP}} [[バレンシア (スペイン)|バレンシア]]||[[バレンシア州]] || align="right"|797,028
|-
| align="center"|4 || {{Flagicon|ESP}} [[セビリア]] || [[アンダルシア州]] || align="right"|702,355
|-
| align="center"|5 || {{Flagicon|ESP}} [[サラゴサ]] || [[アラゴン州]] || align="right"|679,624
|-
| align="center"|6 || {{Flagicon|ESP}} [[マラガ]] || [[アンダルシア州]] || align="right"|567,433
|-
| align="center"|7 || {{Flagicon|POR}} [[リスボン]] || [[リスボン|リスボン地域]] || align="right"|547,631
|-
| align="center"|8 || {{Flagicon|ESP}} [[ムルシア]] || [[ムルシア州]] || align="right"|441,354
|-
| align="center"|9 || {{Flagicon|ESP}} [[ビルバオ]] || [[バスク州]] || align="right"|351,629
|-
| align="center"|10 || {{Flagicon|ESP}} [[アリカンテ]] || [[バレンシア州]] || align="right"|334,678
|-
| align="center"|11 || {{Flagicon|ESP}} [[コルドバ]] || [[アンダルシア州]] || align="right"|328,841
|-
| align="center"|12 || {{Flagicon|ESP}} [[バリャドリッド]] || [[カスティーリャ・イ・レオン州]] || align="right"|311,501
|-
| align="center"|13 || {{Flagicon|ESP}} [[ビーゴ]] || [[ガリシア州]] || align="right"|297,733
|-
| align="center"|14 || {{Flagicon|POR}} [[ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア]] || [[ノルテ (ポルトガル)|ノルテ地方]] || align="right"|288,749
|-
| align="center"|15 || {{Flagicon|ESP}} [[ヒホン]] || [[アストゥリアス州]] || align="right"|277,554
|-
| align="center"|16 || {{Flagicon|ESP}} [[ロスピタレート・デ・リョブレガート|ルスピタレート・ダ・リュブラガート]] || [[カタルーニャ州]] || align="right"|257,057
|-
| align="center"|17 || {{Flagicon|ESP}} [[ア・コルーニャ]] || [[ガリシア州]] || align="right"|246,146
|-
| align="center"|18 || {{Flagicon|ESP}} [[ビトリア=ガステイス]] || [[バスク州]] || align="right"|242,223
|-
| align="center"|19 || {{Flagicon|POR}} [[ポルト]] || [[ノルテ (ポルトガル)|ノルテ地方]] || align="right"|237,559
|-
| align="center"|20 || {{Flagicon|ESP}} [[グラナダ]] || [[アンダルシア州]] || align="right"|239,017
|-
|}

== 言語 ==
系統不明の[[バスク語]]を除いて、今日のイベリア半島で話されている言語の大半は[[俗ラテン語]]に起源を持つ。その歴史を通じて、イベリア半島では同時代に多くの言語が話されていたが、その多くは消滅したか使用されなくなった。バスク語はイベリア半島と[[西ヨーロッパ]]に生き残っている唯一の非[[インド・ヨーロッパ語族]]の言語である。現代のイベリア半島では、約3,000-4,000万人が[[スペイン語]]を、約1,000万人が[[ポルトガル語]]を、約900万人が[[カタルーニャ語]]を、約300万人が[[ガリシア語]]を、約100万人がバスク語を話す<ref>[http://www.euskara.euskadi.eus/r59-738/es/contenidos/noticia/inkesta_soziol_2012/es_berria/berria.html El Gobierno Vasco ha presentado los resultados más destacados de la V. Encuesta Sociolingüística de la CAV, Navarra e Iparralde] Euskara, 2012年7月18日</ref>。この数字にはバイリンガルやトリリンガルの数字も含まれており、この5言語がイベリア半島で広く話されている言語である。スペイン語とポルトガル語はイベリア半島という枠を超えて世界中に拡大しており、{{仮リンク|世界言語|en|World language}}となっている。

<!--== 歴史 ==
=== 先史時代 ===
==== 旧石器時代 ====
イベリア半島に人類が居住していた形跡は約50-40万年前に溯る。これら最古の住人は[[原人|原人類]]で、火を使い、石斧・石刃をはじめとする[[石器]]をつくり、洞窟に住んでいた。

1848年には半島南端の[[ジブラルタル]]付近で化石人類の人骨が発見された。その後も数カ所で発見された化石人骨は、いずれも[[ネアンデルタール人]]に属する。約20万年前頃にはすでにネアンデルタール人が活動しており、[[最終氷期]]までその活動は続いた。現生人類の[[ホモ・サピエンス]]の活動は、この[[氷河期|ビュルム氷河期]]に始まった。[[クロマニョン人]]がピレネー山脈を越えてフランス方面からやって来たと見られている。彼らが残した文化は、{{仮リンク|マドレーヌ文化|en|Magdalenian}}と呼ばれる。日常の道具は、狩猟漁労の石刃・鑿・鏃・弓矢・石の銛・石槍などと釣り針などの骨角器が発明された。洞窟に住み、壁面や岩に牛や山羊などの動物を描いた。これらの遺跡はピレネー山脈を間に挟んで、南フランスのドルドーニュ地方と、北スペインのカンタブリア地方に分布する。これらは紀元前2万5000年から紀元前1万年までの間に描かれたと見られている。このうち代表的なものは約1万5,000年前の[[アルタミラ洞窟]]で、1879年に発見された。狩猟の成果を祈る呪術的な理由で壁画を描いたとされている。

==== 新石器時代 ====
約1万年前に氷河時代が終わり、気候は温暖化した。地質年代では、完新世に入った。この頃のイベリア半島では、人類の活動は低調であった。北部のピレネー山中で絵を描いた石を特徴とするアジル文化、カンタブリアから大西洋岸に貝塚を残したアストゥリアス文化、洞窟壁画などの遺跡が残っている。ちょうどその時期には、地中海東端の[[メソポタミア]]で[[農耕]]が始まっており、紀元前5000年から紀元前4000年紀にイベリア半島に伝播した。当時の農耕は素朴なものであったが、まもなく大規模な農耕文化が伝わり、イベリア半島は[[新石器時代]]に入っていった。この時期の文化は半島の東南部の地中海沿岸地方に多く見られる。とりわけ半島南部の[[アルメリア]]が農耕文化受容の拠点の一つと考えられている。代表的な遺物に籠目(かごめ)模様の[[土器]]があり、アルメリア近辺、セビーリャからコルドバ付近、東部地中海沿岸、西はポルトガルのタホ川/テージョ川周辺、北は[[バスク地方]]にまで幅広く分布している。土器以外には[[ドルメン]](支石墓)があり、この巨石文化は今もなお謎に包まれているが、一般に太陽崇拝や死者崇拝などの宗教的な遺物であると考えられている。南部のアンダルシア、北部のガリシア、ピレネー地方、南部のポルトガルに広がる。

==== 青銅器時代 ====
新石器時代と明確な区分はないが、紀元前2500年頃に青銅器時代に入る。はじめに銅器が、次いで青銅器が用いられるようになった。これらの金属器は、地中海を渡って伝播してきたが、半島には鉱山資源が豊富にあるためやがて自作するようになった。農耕文化受容の拠点であったアルメリアでは、早くから銅器が用いられ、紀元前2000年頃に最盛期を迎えた。アルメリア文化と呼ぶ。集団埋葬の墳墓から推定して、[[氏族|氏族社会]]であったと考えられている。紀元前1500年頃には青銅器の使用が始まり、紀元前100年頃まで繁栄した。代表的な遺跡名から{{仮リンク|エル・アルガール文化|en|El Argar}}([[青銅器文化]])と呼ぶ。この頃から籠や壺形の[[甕棺]]を用い、個人別に家屋の地下に埋葬された。この文化は半島全域に広がり、錫を産出する西部のガリシア地方とアルメリアの二大中心地が形成され、東部地中海地方や南部都市との交易も盛んになった。さらに大西洋を越えたブルターニュやアイルランドなどとの交易も盛んに行われた。紀元前1000年頃を境に、半島の青銅器文化は沈滞していった。しかし、青銅器時代に培った地中海文化圏やヨーロッパ先史文化圏との強い結びつきが、これ以後も引き続き諸民族と交流していく。

=== 古代 ===
イベリア半島に最初に定住したのはイベリア人であり、その後断続的にケルト人がやってきて、次にフェニキア人やギリシア人などの地中海民族が植民市を建設した{{sfn|立石|2000|p=9}}。紀元前3世紀にはローマ人が半島を征服し、約700年間の支配下でラテン語化が進行した{{sfn|立石|2000|p=9}}。古代イベリア人が先住民を「イベレス」と呼んだのがイベリアの語源であるが、もともとはピレネー山脈南側の地域を漠然と指す単語だった{{sfn|立石|2000|p=9}}。

=== ローマ帝国支配下 ===
ローマ人は(現在のポルトガルも含む)半島全土をヒスパニアと呼び、このラテン語名がスペイン(エスパーニャ)の由来となった{{sfn|立石|2000|p=10}}。

=== イスラーム支配下 ===
ローマ帝国滅亡後は[[ゲルマン]]系の[[西ゴート王国]]の支配下に置かれるが、711年の[[ウマイヤ朝]]の[[ターリク・イブン=ズィヤード]]により西ゴート王国は滅亡、イスラーム史上最初の世襲王朝であるウマイヤ朝が西ゴート王国に代わって半島を支配することになる。ウマイヤ朝が滅亡するとその子孫がイベリア半島へ逃亡し、[[後ウマイヤ朝]]を建てる。

=== レコンキスタから現代まで ===
イベリア半島北部においては、[[アラゴン王国]]や[[レオン王国]]、[[カスティーリャ王国]]、[[ポルトガル王国]]などのキリスト教国が建国され、[[レコンキスタ]]を推し進めていった。一方、南部においては、1031年に後ウマイヤ朝が自滅し、多数のイスラーム系小王国([[タイファ]])が割拠する状態となった。後に、アフリカ大陸のイスラーム王朝である[[ムラービト朝]]、その後[[ムワッヒド朝]]の支配下に置かれた。


次第に力をつけていったキリスト教国は、イスラーム王朝を南へ南へと圧迫し、その支配領域を広げていく。1479年には[[アラゴン王国|アラゴン]]王[[フェルナンド2世 (アラゴン王)|フェルナンド2世]]と[[カスティーリャ王国|カスティーリャ]]女王[[イサベル1世 (カスティーリャ女王)|イサベル1世]]の結婚により[[スペイン|スペイン王国]]が成立、レコンキスタに拍車がかかり、1492年にはイベリア半島最後のイスラーム王朝である[[ナスル朝]]が滅ぼされ、イベリア半島からイスラーム王朝は完全に駆逐された。
以降はスペイン王国と[[ポルトガル王国]]がイベリア半島を支配することになった。


以降はスペイン王国と[[ポルトガル王国]]がイベリア半島を支配することになった。スペイン王国はイスラーム教徒やユダヤ教徒に改宗を強要し、異端尋問をよりどころにして国家統合を進めた{{sfn|立石|2000|pp=14-15}}。ポルトガルもユダヤ教徒を弾圧してカトリックへの統合を進めており、半島の両国は対抗宗教改革の牙城となった{{sfn|立石|2000|pp=14-15}}。20世紀後半の両国に登場した独裁者である[[サラザール]]と[[フランシスコ・フランコ]]もまた、カトリックを国家理念とした統治を行っている{{sfn|立石|2000|p=15}}。スペイン・ポルトガル両国による大航海時代の到来には、大西洋と北アフリカに近いイベリア半島の地理的位置が大きく影響しており、またレコンキスタを推し進めたエネルギーが半島外部に向かったとも言われている{{sfn|立石|2000|p=15}}。中世の半島は様々な言語が話される他言語状況が生まれ、今日のスペインでも言語問題が残っている{{sfn|立石|2000|p=13}}。-->
== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{Reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{cite book|和書
* 立石博高編『新版世界各国史16 スペイン・ポルトガル史』山川出版社 2000年 ISBN 4-634-41460-0
|last=碇 |first=順治
|title=スペイン
|publisher=河出書房新社
|series=ヨーロッパ読本
|year=2008
|others=
|isbn=
|ref=harv
}}
* {{cite book|和書
|last=池上 |first=岑夫
|last2=牛島 |first2=信明
|last3=神吉 |first3=敬三
|last4=金七 |first4=紀男
|title=新版増補 スペイン・ポルトガルを知る事典
|publisher=平凡社
|year=2001
|others=その他の編者は小林一宏、フアン・ソペーニャ、浜田滋郎、渡部哲郎
|isbn=
|ref=harv
}}
* {{cite book|和書
|last=木内 |first=信蔵
|title=ヨーロッパⅠ
|publisher=朝倉書店
|series=世界地理
|year=1979
|others=
|isbn=
|ref=harv
}}
* {{cite book|和書
|last=立石 |first=博高
|title=スペイン・ポルトガル史
|publisher=山川出版社
|series=新版 世界各国史
|year=2000
|others=
|isbn=4-634-41460-0
|ref=harv
}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Iberian Peninsula}}
{{Commonscat|Iberian Peninsula}}
*[[イベリスモ]] : スペインとポルトガルの統合思想
*[[アストゥリアス]]
*[[イベリア人]]
*[[イベリア (アルベニス)]]
*[[イベリスモ]] - スペインとポルトガルの統合思想
*[[イベロアメリカ]]
*[[イベロアメリカ]]



2016年1月21日 (木) 11:24時点における版

イベリア半島
イベリア半島の衛星写真
地理
場所 南西ヨーロッパ
座標 北緯40度 西経4度 / 北緯40度 西経4度 / 40; -4座標: 北緯40度 西経4度 / 北緯40度 西経4度 / 40; -4
面積 581,353 km2 (224,462 sq mi)[1]
最高標高 3,478 m (11411 ft)
最高峰 ムラセン山
主権国家と属領
最大都市 アンドラ・ラ・ベリャ
最大都市 リスボン
最大都市 マドリード
最大都市 ジブラルタル
最大都市 フォン=ロムー=オデイヨ=ヴィア
人口統計
住民の呼称 イベリアン
人口 ~5,300万人
テンプレートを表示

イベリア半島スペイン語ポルトガル語ガリシア語:Península Ibérica、カタルーニャ語:Península Ibèrica、バスク語:Iberiar penintsula)は、ヨーロッパの南西に位置する半島である。

名称

古代ギリシア人が半島の先住民をイベレスと呼んだことがイベリア半島の名称の由来である[1]。しかし、もともとは漠然とピレネー山脈の南側に広がる地域をイベリアと呼んだ。一方、イベリア半島を属州としたローマ人はこの地をヒスパニアと呼称したが、このラテン語に由来して現在の「スペイン」は「イスパニア」とも「エスパーニャ」とも呼ばれるようになった。

地理

イベリア半島の位置(スペイン内)
タリファ岬
タリファ岬
エスターカ・デ・バレス岬
エスターカ・デ・バレス岬
クレウス岬
クレウス岬
ロカ岬
ロカ岬
イベリア半島の極地

範囲

南ヨーロッパにはイベリア半島、イタリア半島バルカン半島という3つの大きな半島があるが、この中でもっとも西にあるのがイベリア半島である。イベリア半島はヨーロッパ大陸の南西端にあり、西側は大西洋に、東側は地中海に面している[2][1]。さらに細かく見ると、北部は大西洋の一部であるビスケー湾に、東部は地中海の一部であるバレアレス海に面している。

南端はタリファ岬(北緯36度00分15秒 西経5度36分37秒 / 北緯36.00417度 西経5.61028度 / 36.00417; -5.61028)、北端はエスターカ・デ・バレス岬英語版(北緯43度47分38秒 西経7度41分17秒 / 北緯43.79389度 西経7.68806度 / 43.79389; -7.68806)、西端はロカ岬 (北緯38度46分51秒 西経9度29分54秒 / 北緯38.78083度 西経9.49833度 / 38.78083; -9.49833)、東端はクレウス岬である。北緯44度線と北緯36度線、西経9度線と東経3度線の間に位置し、日本でいえば北端は札幌市、南端は東京都とほぼ同緯度である[2]。東西は約1,100km、南北は約1,000kmである[1]。ざっくりと言えばイベリア半島は八角形の形状を持ち、その形状は「雄牛の皮」に例えられる[2]。これは古代ギリシアの地理学者であるストラボンが半島の形状を「球状の四角形」であるとして牛皮と比較したことに遡る。

半島の付け根には長さ435kmのピレネー山脈が広がり[1]、3,000m級の峰々がイベリア半島とフランスを分けている[2]。南西端はジブラルタル海峡がイベリア半島とアフリカ大陸を隔てており、海峡のもっとも狭い部分はわずか14kmである[2][1]。17世紀にはフランス王ルイ14世が「ヨーロッパはピレネーで終わる」という言葉を残した[3]。類似する表現に「ピレネーの向こうはアフリカである」「アフリカはピレネーに始まる」などがあり、いずれもヨーロッパ人がイベリア半島に対して抱いてきた異国趣味や優越感を表しているが、これらの言葉を初めて残したのが誰かは定かでない[4]。スペインの歴史学者ペドロ・ラインはイベリア半島を「辺縁ヨーロッパ」であるとした[3]

イベリア半島の面積は58万1,353km2であり[1]、うち約21万km2[1]標高610-760mに広がるメセタと呼ばれる広大な台地である[5]。メセタはセントラル山系によって北メセタと南メセタに分けられており、北メセタは平均標高700-800m、南メセタは平均標高600-700mである[6]スペインがイベリア半島の総面積の84.7%を、ポルトガルが総面積の15.2%を占めており、残りのごくわずかな比率をアンドラ公国とイギリス領ジブラルタルが占めている[1]。メセタは東から西に向かうにつれて緩やかに標高が低下し、ポルトガルのアレンテージョ地方では標高約200mである[6]。周囲を標高2,000-3,000mの山脈に囲まれたメセタの存在によって、イベリア半島はイタリア半島やバルカン半島とは異なる大陸的特徴を有する[6]。従来から半島の中心はマドリード都市圏南部のヘタフェであるとされている。半島の主要河川の大半はメセタに水源があり、山地にある標高の低い部分を突いて大西洋や地中海に向かって流れている。

イベリア半島は、アフリカとヨーロッパの、大西洋と地中海のあいだに位置する四つ辻、出会いの場である。たしかに、へんに起伏のある四つ辻であり、ほとんど障壁ともいえるものだ。だが、出会いの場であることには変わりはなかった。そこには、はるか昔から、さまざまな人間と文明が入りこみ、対立し合い、その痕跡を残している。 — ピエール・ヴィラール[7]

海岸線

イベリア半島の周囲全体の7/8は大西洋か地中海に面しており、海岸線長は4,000kmを上回る[4]。海岸線は3,313kmであるとされることもあり、この場合は地中海に面した海岸線が1,660km、大西洋に面した海岸線が1,653kmである。最終氷期最寒冷期(最盛期、LGM)には現在よりも115-120m水位が低く、この時期を最低値として現在まで約4,000年かけて徐々に水位を上昇させた[8]。その際に沈降によって形成された大陸棚は今日でも海面下に残っている。大西洋側の大陸棚は決して広大ではなく、海底は大陸棚から急激に深度を深める。南北長が700kmに及ぶ大西洋の大陸棚は、沖合からわずか10-65kmまでの範囲と推定されている。500mの等深線が大陸棚の縁であり、大陸棚から離れると水深1,000mに落ち込む[9]。イベリア半島の沿岸海域の海底地形は、石油掘削の過程で広く研究されている。ビスケー湾やイベリア半島西側の沖合には、水深4,800mのイベリア深海平原がある。

長い海岸線や地中海と大西洋の海流によって、外部から他者を受け入れることが容易であり、またイベリア半島から他地域に移民するのにも都合がよかった[4]。さらには、イベリア半島の沖合に存在するバレアレス諸島カナリア諸島は、半島と他地域を繋ぐ中継地となった[4]

河川

イベリア半島の主要河川

イベリア半島を流れる主要河川には、ミーニョ川ドゥエロ川/ドウロ川タホ川/テージョ川グアディアナ川グアダルキビール川セグラ川フカル川エブロ川などがある。ドゥエロ川/ドウロ川、タホ川/テージョ川、グアディアナ川、グアダルキビール川、エブロ川はイベリア半島の5大河川と呼ばれる[10]

イベリア半島でもっとも長い河川はタホ川/テージョ川である。大西洋に注ぐミーニョ川、ドゥエロ川/ドウロ川、タホ川/テージョ川、グアディアナ川などは一部でスペインとポルトガルの自然的国境となっている。ビスケー湾に注ぐビダソア川は下流部でスペインとフランスの自然的国境となっている。ピレネー山中のフランス領土であるセルダーニュ・フランセーズ英語版を流れるセグラ川は、アンドラ公国の大部分を流域とするバリラ川英語版を集めた後にスペインでエブロ川に合流する、イベリア半島で唯一3か国を流れる河川である。イベリア半島を流れる河川の多くは季節によって流量が大きく変動する。

降水量の少なさに起因して、イベリア半島を流れる河川の流量は乏しく[11]、内陸部のメセタと海岸部を結ぶ航行可能な河川は存在しない[10]。イギリスやフランスのように運河を建設して物資を輸送することもできず[11]、モータリゼーションが進行した現代まで海岸部と内陸部の交流は乏しかった[10]。近世まで、マドリードから北東岸のバルセロナまで約2週間、マドリードから南部のセビリアまで約10日間を要した[12]。イベリア半島の主要河川に橋を架けることは困難であり、歴史的に諸地域の自然境界となった[10]。タホ川/テージョ川のトレドからスペイン=ポルトガル国境まで(中下流域)の範囲には、近代まで4つの橋しか架けられなかった[10]。グアダルキビール川のみは早くから河口から約85km地点に位置するセビリアまでの航行が可能であり、スペイン帝国はセビリアを大西洋貿易の独占港とした[10]コルドバも河川交通の要所として機能し、近代以前にはセビリアからコルドバまでの間に1つの橋も存在しなかった[10]。1717年に新大陸との交易拠点が大西洋岸のカディスに移されると、グアダルキビール川沿岸都市の重要性は低下した[13]

メセタは西部を除いて高い山脈に囲まれており、北はカンタブリア山脈、南はシエラ・モレナ山脈に阻まれている[12]。メセタ中央部にはセントラル山系があり、メセタ北部(旧カスティーリャ)とメセタ南部(新カスティーリャ)を隔てている[12]。ポルトガルを除けば小規模な海岸平野しかないが、エブロ川流域とグアダルキビール川流域には内陸にむかって長く海岸平野が伸びている[12]

イベリア半島の主要河川
河川名 全長
(km)
流域面積
(km2)
エブロ川 910 86,100 スペイン、フランス(支流)、アンドラ(支流)
タホ川/テージョ川 1,007 80,600 スペイン、ポルトガル
ドゥエロ川/ドウロ川 895 78,952 スペイン、ポルトガル
グアディアナ川 818 67,733 スペイン、ポルトガル
グアダルキビール川 657 57,101 スペイン
フカル川 498 21,578 スペイン
セグラ川 325 18,870 スペイン
ミーニョ川 315 16,275 スペイン、ポルトガル

山地

イベリア半島の位置(スペイン内)
アネト
アネト
モン・ペルデュ
モン・ペルデュ
セレード
セレード
ムラセン
ムラセン
アルマンソール
アルマンソール
ムンサラット
ムンサラット
モンカヨ
モンカヨ
トーレ
トーレ
イベリア半島の山

イベリア半島はとても山がちな地形であり、数多くの山系、山脈、山地、山塊、ピークが存在する。ピレネー山脈はヨーロッパ大陸とイベリア半島を隔てている。ピレネー山脈は西側より東側のほうが標高が高く、最高峰はアネト山(3404m)である。ピレネー山脈中にはアンドラ公国やフランス領のセルダーニュ・フランセーズ英語版などがあり、これらの地域は学術的にイベリア半島に分類される。3,000m級の山々を擁するピレネー山脈は険しい山地であるものの、その両端部は歴史を通じて数多くの民族が行き来しており、山脈の西端にあるバスク地方と東端にあるカタルーニャ地方は山脈を挟んで広がりを見せている[4]。中世にはカタルーニャ伯領が山脈の北側まで広がり、また近世にはナポレオン・ボナパルトなどが山脈の南側まで領土を拡大することを目指した[4]。このため、古くからピレネー山脈がスペインとフランスの自然国境として認知されていたわけではなかった[4]

イベリア半島北部のビスケー湾岸には東西にカンタブリア山脈が連なり、ピコス・デ・エウロパ山塊のトーレ・セレード(2648m)を最高峰とする。カンタブリア山脈の北側と南側では気候が大きく異なり、ガリシア地方からバスク地方にかけての湿潤な北側はエスパーニャ・ベルデと呼ばれる。半島北西部にはガリシア山塊英語版があり、とても古い上に侵食の激しい岩石からなる[14]。ガリシア山塊の最高峰は2127mのペナ・トレビンカである。

半島の中央部から東部にはイベリコ山系が伸びており、メセタとエブロ川流域の平原を隔てている。イベリコ山系はモンカヨ山地やアルバラシン山地など多くの山脈で構成されており、標高2313mのモンカヨが最高峰である。大西洋に向かって流れるタホ川/テージョ川やドゥエロ川/ドウロ川、地中海に向かって流れるエブロ川の源流はイベリコ山系にある。半島の中央部から西部には、東西に長く伸びるセントラル山系がある。グアダラマ山脈グレドス山脈など数多くの山脈で構成されるセントラル山系はメセタの北部と南部を隔てており、西端部はスペイン=ポルトガル国境を超えてポルトガルに至っている。ポルトガルの最高峰はアゾレス諸島ピコ山だが、ポルトガルのイベリア半島部分の最高峰であるトーレ(1993m)はセントラル山系のエストレーラ山地に所在する。セントラル山系の最高峰はグレドス山脈にある標高2592mのアルマンソール峰である。

トレド山地は半島中央部から中西部にかけて国境を超えて伸びており、1603mのラ・ビリュエルカが山地の最高峰である。半島南西部にあるシエラ・モレナ山脈はグアディアナ川とグアダルキビール川の流域を隔てている。シエラ・モレナ山脈の最高峰は1332mのバニュエラである。ベティコ山系はイベリア半島の最南端部を西端とし、地中海岸のアリカンテ県まで東西に長く伸びている。ベティコ山系はプレベティコ山系、スブベィコ山系、ペニベティコ山系という3つの支山系に区分される。ペニベティコ山系はシエラネバダ山脈などを内包しており、シエラネバダ山脈にはイベリア半島最高峰、スペインのイベリア半島部分最高峰のムラセン山(3478m)がある[15]

地質

イベリア半島の主要な地質

イベリア半島はエディアカランから完新世まであらゆる地質時代の岩石を含み、ほぼすべての種類の岩石が存在する。きわめて重要な鉱床も見つけられる。半島のコア部分はイベリア山塊英語版として知られるヘルシニア造山期英語版クラトン岩石からなる。北東部はピレネー山脈の褶曲帯と結合しており、南東部ではベティコ山系と結合している。これらふたつのチェーンはいずれもアルプス・ベルト英語版の一部である。半島の西側はマグマに乏しい大西洋の開口部によって形成された大陸境界によって区切られている。ヘルシニア造山期の褶曲帯はほとんど中生代と第三期の岩石に埋もれているものの、東部のイベリコ山系カタルーニャ海岸山脈を通じて露頭している。

地質は土層、石灰層、粘土層という三層からなる。珪土層は主に半島西部に広がり、ガリシア地方、ポルトガル北部、メセタなどに分布している[6]。石灰層は主に半島東部に広がり、ピレネー山脈、カンタブリア山脈東部(バスク山脈)、イベリア山系、ベティコ山系などに分布している[6]。粘土層は北メセタや南メセタの一部、エブロ川・グアダルキビール川・タホ川の各河川流域に分布している[6]

気候

イベリア半島の気候は地域によって大きく変化するが[16]カンタブリア山脈を境にして乾燥イベリアと湿潤イベリアの二つの地域にわけることができる[6]。カンタブリア山脈以北の北西岸はエスパーニャ・ベルデと呼ばれる、年降水量は800-1,500mmの西岸海洋性気候であり、夏季は涼しく冬季は穏やかである[16]。エスパーニャ・ベルデでもっとも降水量が多い季節は秋季であり、山岳地帯では年降水量が3,000mmに達する場所もある[6]

カンタブリア山脈以南の地域は乾燥イベリアと呼ばれ、年降水量は800mmに満たない地中海性気候である[16]。夏季は乾燥し、特に内陸部では冬季は寒さが厳しい[16]。乾燥イベリアで降水量が多い季節は春季と秋季であるが、山間部を除けば300-600mmの場所が多い[6]。ラ・マンチャ(La Mancha)地方はアラビア語の「乾いた土地」(al mancha)に由来する[13]。乾燥イベリアでは短期間に豪雨となって降ることが多く、河川の流量に大きな影響を与えることなく蒸発するため、南メセタには砂漠状の地形景観が見られる[13]。乾燥イベリアの中でも地中海岸や大西洋沿岸では海洋の影響を受け、夏季の暑さは比較的酷くなく冬季は暖かい[16]。しかし、ポルトガルの内陸部やスペインのメセタは大陸性の気候であり、夏季は暑く冬季は厳しい寒さとなる[16]。ポルトガル南部やスペイン南部は極度に乾燥する[16]。年降水量約200mmのアルメリア地方はイベリア半島でもっとも乾燥した場所であり、極度に乾燥するのはアフリカ大陸のサハラ砂漠からの季節風の影響を受けるためである[6]

スペインの内陸部にはヨーロッパでもっとも気温が高い場所があり、コルドバでは7月の日中の平均気温が摂氏約37度となる[17]。スペインの地中海岸では夏季の日中の平均気温が摂氏約30度となるのが一般的である。これらの地域とは対照的に、半島北西部にあるガリシア地方のア・コルーニャでは、夏季の日中の平均気温は摂氏23度をわずかに下回る[18]。涼しく湿度の高い夏季の気候は、半島北岸の大部分の地域に共通している。冬季の気温は夏季の気温より場所による差異が少ない。スペイン内陸部では冬季の降霜が一般的であるものの、日中の最高気温は摂氏0度を上回ることが多い。イベリア半島の最低気温記録はメセタ西部で記録した摂氏マイナス24度、最高気温記録はアンダルシア地方のセビリア県北東部で記録した摂氏45度である[6]

イベリア半島北部の山間部にはブナ、オーク、クリなどの森林が広がり、また草原や牧場が多く、トウモロコシやリンゴが栽培される[16]。散居集落と零細土地所有制度が一般的である[16]。地中海岸では斜面を開墾して段々畑が築かれることが多く、灌漑農業によって柑橘類が生産されている[16]。柑橘類やオリーブ栽培の北限は地中海性気候の影響する北限と重なる[6]。内陸部のメセタには小麦やブドウが生産されるものの生産性は低く、半島南部はオリーブや穀物が生産される[16]。南部は大土地所有制度による粗放的農業が卓越しており、大半は集住集落となる[19]。アンダルシア地方東部の沿岸部は亜熱帯性気候であり、サトウキビやバナナも栽培される[6]

イベリア半島主要地域の平均気温[20][21]
都市 分類 最冷月 4月 最暖月 10月 気候帯
スペインの旗 ア・コルーニャ 最高気温 13.5 16.2 22.8 19.1 海洋性気候(Cfb)
最低気温 8.0 9.9 16.4 13.0
スペインの旗 ビルバオ 最高気温 13.2 16.8 25.5 20.8 海洋性気候(Cfb)
最低気温 4.7 7.1 15.2 10.8
ポルトガルの旗 ポルト 最高気温 13.8 18.1 25.7 20.7 地中海性気候(Csb)
最低気温 5.2 9.1 15.9 12.2
スペインの旗 バルセロナ 最高気温 13.6 18.0 28.5 22.1 地中海性気候(Csa)
最低気温 4.7 9.4 20.2 13.5
スペインの旗 マドリード 最高気温 9.8 18.2 32.1 19.4 地中海性気候(Csa)
最低気温 2.7 7.7 19.0 10.7
ポルトガルの旗 リスボン 最高気温 14.8 19.8 28.3 22.5 地中海性気候(Csa)
最低気温 8.3 11.9 18.6 15.1
スペインの旗 セビリア 最高気温 16.0 23.4 36.0 26.0 地中海性気候(Csa)
最低気温 5.7 11.1 20.3 14.4

国・領域

イベリア半島の位置(スペイン内)
スペイン
スペイン
ポルトガル
ポルトガル
フランス
フランス
アンドラ公国
アンドラ公国
ジブラルタル
ジブラルタル
イベリア半島における国・領域の位置

現代のイベリア半島は政治的に以下の地域に区分される。スペインとポルトガルの国境が自然地理学的に大きな意味を持つことはなく、スペイン語ガリシア方言はスペイン語カスティーリャ方言よりもはるかにポルトガル語に近いなどといったことが起こる[3]

イベリア半島の国・領域
国(領域) 人口(人) 面積(km2) 面積比率
スペインの旗 スペイン[22] 約4300万 493,519 85%
ポルトガルの旗 ポルトガル[23] 約1000万 89,261 15%
フランスの旗 フランス[24] 12,035 540 約0.1%
アンドラの旗 アンドラ公国[25] 84,082 468 約0.1%
ジブラルタルの旗 英領ジブラルタル[26] 29,431 7 約0.001%

主要都市圏

イベリア半島の位置(スペイン内)
マドリード(1)
マドリード(1)
バルセロナ(2)
バルセロナ(2)
リスボン(3)
リスボン(3)
バレンシア(4)
バレンシア(4)
ポルト(5)
ポルト(5)
イベリア半島の主要都市圏
イベリア半島の都市圏人口(2015年)[27]
順位 都市圏 地域 都市圏人口
半島 世界
1 56 スペインの旗 マドリード首都圏 マドリード州 6,171,000
2 83 スペインの旗 バルセロナ都市圏 カタルーニャ州 4,693,000
3 166 ポルトガルの旗 リスボン首都圏 リスボン地方 2,666,000
4 315 スペインの旗 バレンシア都市圏 バレンシア州 1,561,000
5 333 ポルトガルの旗 ポルト都市圏 ノルテ地方 1,474,000
6 444 スペインの旗 セビリア都市圏 アンダルシア州 1,107,000
7 648 スペインの旗 ビルバオ都市圏 バスク州 756,000
8 679 スペインの旗 サラゴサ都市圏 アラゴン州 723,000
9 685 スペインの旗 マラガ都市圏 アンダルシア州 716,000

主要都市

イベリア半島の位置(スペイン内)
マドリード(1)
マドリード(1)
バルセロナ(2)
バルセロナ(2)
バレンシア(3)
バレンシア(3)
サラゴサ(4)
サラゴサ(4)
セビリア(5)
セビリア(5)
マラガ(6)
マラガ(6)
リスボン(7)
リスボン(7)
ムルシア(8)
ムルシア(8)
ビルバオ(9)
ビルバオ(9)
アリカンテ(10)
アリカンテ(10)
イベリア半島の主要都市
イベリア半島の都市人口(2011-12年)
順位 都市 地域 都市人口
1 スペインの旗 マドリード マドリード州 3,233,527
2 スペインの旗 バルセロナ カタルーニャ州 1,620,943
3 スペインの旗 バレンシア バレンシア州 797,028
4 スペインの旗 セビリア アンダルシア州 702,355
5 スペインの旗 サラゴサ アラゴン州 679,624
6 スペインの旗 マラガ アンダルシア州 567,433
7 ポルトガルの旗 リスボン リスボン地域 547,631
8 スペインの旗 ムルシア ムルシア州 441,354
9 スペインの旗 ビルバオ バスク州 351,629
10 スペインの旗 アリカンテ バレンシア州 334,678
11 スペインの旗 コルドバ アンダルシア州 328,841
12 スペインの旗 バリャドリッド カスティーリャ・イ・レオン州 311,501
13 スペインの旗 ビーゴ ガリシア州 297,733
14 ポルトガルの旗 ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア ノルテ地方 288,749
15 スペインの旗 ヒホン アストゥリアス州 277,554
16 スペインの旗 ルスピタレート・ダ・リュブラガート カタルーニャ州 257,057
17 スペインの旗 ア・コルーニャ ガリシア州 246,146
18 スペインの旗 ビトリア=ガステイス バスク州 242,223
19 ポルトガルの旗 ポルト ノルテ地方 237,559
20 スペインの旗 グラナダ アンダルシア州 239,017

言語

系統不明のバスク語を除いて、今日のイベリア半島で話されている言語の大半は俗ラテン語に起源を持つ。その歴史を通じて、イベリア半島では同時代に多くの言語が話されていたが、その多くは消滅したか使用されなくなった。バスク語はイベリア半島と西ヨーロッパに生き残っている唯一の非インド・ヨーロッパ語族の言語である。現代のイベリア半島では、約3,000-4,000万人がスペイン語を、約1,000万人がポルトガル語を、約900万人がカタルーニャ語を、約300万人がガリシア語を、約100万人がバスク語を話す[28]。この数字にはバイリンガルやトリリンガルの数字も含まれており、この5言語がイベリア半島で広く話されている言語である。スペイン語とポルトガル語はイベリア半島という枠を超えて世界中に拡大しており、世界言語となっている。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i 池上 et al. 2001, p. 41.
  2. ^ a b c d e 立石 2000, p. 3.
  3. ^ a b c 木内 1979, p. 212.
  4. ^ a b c d e f g 立石 2000, p. 4.
  5. ^ Fischer, T (1920). “The Iberian Peninsula: Spain”. In Mill, Hugh Robert. The International Geography. New York and London: D. Appleton and Company. pp. 368–377. https://books.google.com/books?id=wyUbAAAAYAAJ&pg=PA368 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m 池上 et al. 2001, p. 42.
  7. ^ 立石 2000, pp. 5–6.
  8. ^ Edmunds, WM; K Hinsby; C Marlin; MT Condesso de Melo; M Manyano; R Vaikmae; Y Travi (2001). “Evolution of groundwater systems at the European coastline”. In Edmunds, W. M.; Milne, C. J.. Palaeowaters in Coastal Europe: Evolution of Groundwater Since the Late Pleistocene. London: Geological Society. p. 305. ISBN 1-86239-086-X 
  9. ^ “Iberian Peninsula – Atlantic Coast” (pdf). An Atlas of Oceanic Internal Solitary Waves. Global Ocean Associates. (February 2004). http://www.internalwaveatlas.com/Atlas2_PDF/IWAtlas2_Pg087_IberianPeninsula.pdf 2008年12月9日閲覧。 
  10. ^ a b c d e f g 立石 2000, p. 6.
  11. ^ a b 碇 2008, p. 14.
  12. ^ a b c d 立石 2000, p. 7.
  13. ^ a b c 木内 1979, pp. 214–216.
  14. ^ Silurian graptolite biostratigraphy of the Galicia - Tras-os-Montes Zone (Spain and Portugal)”. CSIC. 2016年1月12日閲覧。
  15. ^ Introduction to the Birds of Spain”. Spanish Culture. 2016年1月12日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g h i j k 立石 2000, p. 8.
  17. ^ Standard climate values for Córdoba”. スペイン気象庁(Aemet). 2015年3月7日閲覧。
  18. ^ Standard climate values for A Coruña”. スペイン気象庁(Aemet). 2015年3月7日閲覧。
  19. ^ 立石 2000, p. 9.
  20. ^ Standard Climate Values, Spain”. スペイン気象庁(Aemet). 2015年3月7日閲覧。
  21. ^ IPMA Climate Normals”. ポルトガル気象庁(IPMA). 2015年3月7日閲覧。
  22. ^ カナリア諸島バレアレス諸島などの島嶼部を除外したスペインの人口。Census data スペイン国立統計局(INE)。
  23. ^ マデイラ諸島アゾレス諸島などの島嶼部を除外したポルトガルの人口。Census data スペイン国立統計局(INE)。
  24. ^ ピレネー山中にあるセルダーニュ・フランセーズ英語版の人口。この地域は学術的にイベリア半島に含まれる。
  25. ^ ピレネー山中にあるアンドラ公国は学術的にイベリア半島に含まれる。
  26. ^ イベリア半島最南端部にあるイギリス領土。
  27. ^ Demographia World Urban Areas & Population Projections 第11版(2015年版)
  28. ^ El Gobierno Vasco ha presentado los resultados más destacados de la V. Encuesta Sociolingüística de la CAV, Navarra e Iparralde Euskara, 2012年7月18日

参考文献

  • 碇, 順治『スペイン』河出書房新社〈ヨーロッパ読本〉、2008年。 
  • 池上, 岑夫、牛島, 信明、神吉, 敬三、金七, 紀男『新版増補 スペイン・ポルトガルを知る事典』その他の編者は小林一宏、フアン・ソペーニャ、浜田滋郎、渡部哲郎、平凡社、2001年。 
  • 木内, 信蔵『ヨーロッパⅠ』朝倉書店〈世界地理〉、1979年。 
  • 立石, 博高『スペイン・ポルトガル史』山川出版社〈新版 世界各国史〉、2000年。ISBN 4-634-41460-0 

関連項目