日本チェス協会

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日本チェス協会(にほんチェスきょうかい、: Japan Chess Association, 略称:JCA)は、チェス愛好者の国内団体。国際チェス連盟(FIDE)に加盟している。ただし国内法的には法人でも任意団体でもなく、自然人つまり代表者の個人事業である[1]。2006年と2010年のアジア大会チェス競技参加のため、一時日本オリンピック委員会の準加盟団体であったが、後に外れている[2]。同様に日本アンチ・ドーピング機構にも加盟していたが後に外れている[3]

前会長の死去した2003年1月以降、現在まで10年以上にわたり会長職は空席で、副会長・理事・監事等も存在せず、自称会長代行は渡井美代子(1945年生まれ)である(前会長の残余の任期はすでに終了しているため、正式の会長代行とは言えない)。

さらに後述するが、財務の不透明、上部組織である国際チェス連盟の規約に反する行為などのため、一部には批判が根強い。

沿革と概要[編集]

  • 沿革:
    • 1967年(昭和42年)、「日本トーナメントチェス協会」として設立。
    • 1968年10月、75番目の加盟国として国際チェス連盟(FIDE)加盟、これにともない「日本チェス協会」に改称。初代会長小松彰。
    • 1972年、小松会長辞任。
    • 1974年、松本康司が会長代行となり、1977年から会長[4]
    • 2003年1月、松本会長急死。事務局長・渡井美代子が規程に従い「残余の任期」の間会長代行となる[5]
    • 2007年1月、松本の死去から規程上会長の任期とされている4年[6]を経過したが、これ以降も渡井美代子は会長代行を自称し続けて現在に至る[7]
  • 本部所在地:東京都大田区西蒲田7-7-7-504
  • 機関紙『チェス通信』[8]
  • 会員数:不明。正確な数字は発表されたことがない。
  • 国別世界ランキング:91位(2016年1月現在)[9]
  • 2年ごとに開かれる国別団体戦のチェス・オリンピアードにはFIDE加盟以来の連続出場を続けている。2010年96位、2012年123位(史上最低)、2014年73位[10]。個人世界選手権の地区予選には、当初はほぼ毎回参加していたがじょじょに参加頻度が下がり、2004年以降では1回しか参加していない。FIDE主催の大会のほか、ワールドマインドスポーツゲームズ (WMSG) などにも選手を送っている。
  • FIDE加盟から50年近く経つが、今もFIDEの途上国支援委員会(CACDEC)の支援対象である[11]

主な主催大会[編集]

太字はFIDE公式戦

  • 全日本チェス選手権全国大会(5月)
  • ジュニア選手権、シニア選手権、小学生選手権(7月)
  • ジャパンリーグ(8月)
  • クラブ選手権、女子選手権(9月)
  • ジャパンオープン(11月)
  • 学生選手権(12月)

批判[編集]

財務の不透明[編集]

前会長の松本康司の死後も会長選挙が行われず、法人化されていない[12]ため監査もなく、自発的な情報開示もないため財務状況は完全に不明である[13]

会則で「JCAは財務リスクを伴う事業をKK日本チェス協会事業部JCABに委嘱する」[14]と定めている。そして会員が運営に参加するには、同一都道府県内の複数のクラブからなる連盟を作ってその代表を代表会議に送るしかない[15]。しかし代表会議メンバーには守秘義務が生じる[16]ため、一般会員にはどうやっても財務内容がわからない仕組みである。

さらに、新たな会長が選出された場合、前会長が事業部に対して行なった保証・裏書等を継承しなくてはならないという規定がある[17]

各種チェス用品について「会員価格での購入」を入会特典の筆頭に挙げている[18]が、ネット通販の発達した現在ではほとんどの商品について「会員価格」が市価より高くなっており、中には2倍を超えるものもある。さらに公式サイトのトップページで渡井個人名の著書だけを「初心者にお勧め」として宣伝販売している[19]

会則・規程の諸問題[編集]

翻訳した国際チェス連盟の公式ルール8.3項に「棋譜記録用紙およびその記録内容はその競技会の主催者の財産である」[20]という語句(太字部分、強調引用者)を勝手に追加している[21]。伝統的にチェスの棋譜は、いったん公になれば単なる事実の記録としてパブリックドメインになると認識されており、たとえ世界チャンピオンの棋譜でも無償で入手し自由に利用できる。事実、日本チェス協会自身も機関紙などの情報発信において自由に利用している。

会員がネットなどの媒体に意見や提案を発表すると、発表したという事実だけで提案却下の理由になる[22]。しかも発表の行為だけで処罰の理由になり得る[23]

FIDE主催国際大会の日本代表選手になると、大会への参加希望を表明してから大会2年後まで、各種国内大会への参加が義務づけられ、年2週間以上を拘束される。これを回避するには「相応の寄付」が唯一の方法である[24]。選手にとって大きな負担であるが、インターネットの発達した現在では国内大会など参加しなくとも相当なトレーニングが可能である。

国際大会への役員の参加費用も選手が負担することになっている[25]

段位制度ほか[編集]

実力の客観的指標であるレイティング以外に、独自に「段位」を認定しているが、国内トップクラスでレイティングが2400前後のFM羽生善治[26]よりも、2100以下の渡井美代子[27]や国際タイトルを持たない権田源太郎[28]の方が段位が高い、またソフトで簡単に解ける問題の解答提出だけで初段・二段を認定するなど、まったく実力を反映していない。将棋や武道では年長の九段が若手の四段より弱いことは珍しくないが、日本チェス協会は国際タイトル体系の整備された国際組織に後から加盟しながら、国際タイトルを取れない人が高段者になっている点が特異である[29]。公式ウェブサイトにも段位者名簿はあるが国際タイトル取得者のリストはない。また有償の段位を取得しないと全国大会や国際大会に出場できない[30]

さらに渡井は特典規定によって取得した女子限定のWIMのタイトルについて、男女共通タイトルのIMよりレイティングで200点低いものであるにも関わらず、一般向け講座のための経歴の中でIMを取得したように詐称している[31]

FIDEの規定違反、多数の除名[編集]

まず、個人事業でしかないものはFIDE加盟の要件を欠いている[32]

渡井が会長代行となった2003年から2007年まで、日本選手権を国際チェス連盟の公式規定[33]よりも短い80分+1手30秒の持ち時間で行なっていた[34]。これでは本来はレイティングの算出対象にならない[35] が、そのまま報告していた[36]。また現在ある国内のFIDE公式戦も、参加者の国籍・局数などの条件を満たしていないため、国内大会だけでは国際マスター(IM)、グランドマスター(GM)といった高位の称号を得ることは不可能である。

何度も女子チャンピオンとなっていたある会員が1995年の国際大会で不祥事を起こした際に、FIDEの倫理規定では3年間の出場停止が制裁の上限である[37]にも関わらず除名した。また元チャンピオンで日本人として初めてFIDEマスター資格およびIMノームを取得した男性が日本選手権の持ち時間短縮を批判したところ、その人のチェスオリンピアード参加資格を直前に取り消し、FIDE公式レイティングを抹消した。ほかにもネット上で運営方針を批判した会員や、チェス国籍が日本だった元チャンピオンのフランス人男性(フランスの国際大会への日本人選手招待の世話をしていた)などを除名した。これらは松本会長時代のできごとであるが、その死後も被除名者の復帰や名誉回復は行なわれていない。

このような状況のため、近年では所属協会をアメリカ合衆国チェス連盟に移すなど、日本国内にいながら他国のチェス国籍になっている登録選手も存在する[38]

近年の運営[編集]

2013年には日本選手権、女子選手権、ジャパンリーグと主要大会で運営のミスが続き、問題となった[39]

2013年、日本オリンピック委員会(JOC)はパワーハラスメントなど不当行為の対策について加盟団体にアンケートを実施した。当時準加盟団体であった日本チェス協会は、相談窓口の設置を「検討していない、当面事務局で対応」と回答している(事務局すなわち渡井美代子である)[40]。また外部の仲裁・調停機関として日本スポーツ仲裁機構があるが、仲裁の対象はJOCや日本体育協会などの加盟・準加盟・傘下団体に限られる[41]ため、準加盟から外れた日本チェス協会会員は申し立てができない。また同機構では法的拘束力のない調停(和解あっせん)も行なっているが、手続き開始には被申立人(チェス協会事務局すなわち渡井)の同意が必要である。つまり会員と事務局の間にトラブルが発生しても、渡井の同意がない限りどこにも相談できない。

脚注・出典[編集]

ウェブサイトの出典は特記のない限りすべて2014年12月6日閲覧(追加分はそのつど明記する)。

  1. ^ そのため公式ページのドメイン名の末尾が「.com」である。
  2. ^ JOC加盟団体一覧。2014年のアジア大会ではチェスは開催競技から外れた。
  3. ^ JADA加盟団体一覧、2015年9月29日現在 2016年2月15日閲覧。
  4. ^ 1977年までの沿革は増川宏一『チェス』pp.260-262(法政大学出版局、2003年、ISBN 4-588-21101-3)による。
  5. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>会長規程第13項「会長が死亡…で…職責を継続できなくなったときは執行局長(事務局長)が残余の任期を代行する」。
  6. ^ 同上第10項「会長の任期は4年とし、重任を妨げない」
  7. ^ 協会公式サイト。
  8. ^ 会員に配布されるほか、都道府県の中央図書館に寄贈されていることがある。
  9. ^ FIDE公式サイト、国別ランキング、2016年1月26日閲覧。順位は活動中 (active) の選手上位10名のレイティング平均で決まる。長く安定して90位前後である。
  10. ^ 近年は参加国の急増によって順位の信頼性が下がっている。
  11. ^ FIDE公式サイト、途上国支援委員会
  12. ^ 1998年施行のNPO法人法などによって法人設立は以前よりも簡単になっている。
  13. ^ 2011年施行のスポーツ基本法違反のおそれがある。同法第5条2「スポーツ団体は、スポーツの振興のための事業を適正に行うため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう努めるものとする。」
  14. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>会則、第21項。ただし「KK」と明記されている事業部の法人登記が確認されたことはなく、会社法違反のおそれがある(同法第7条「会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない」)。
  15. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>代表会議に関する規程
  16. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>事業部規程第19項「JCABはJCAとは独立した企業体であり企業秘密は守られねばならない。会長及び代表会議メンバーその他役員は守秘義務を持つ」
  17. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>会長規程第11項「会長の交代は…新会長がJCABに対する保証、裏書等の一切を継承する文書に署名提出する以前は、第3者に対して効力を持たない」
  18. ^ 協会公式サイト>入会案内「…入会すると次の特典が得られます。1 チェス駒、盤、書籍、チェスコンピュータ、チェス用品の商品情報を受け、世界の一流品を会員価格で購入できます。」
  19. ^ 協会公式サイト
  20. ^ 日本チェス棋約2009 公式サイト(>日本チェス棋約)で公開されているルール翻訳文。
  21. ^ FIDE公式サイトのルールブック 原文は「8.3 The scoresheets are the property of the organiser of the competition.」で、記録用紙について規定しているだけである。
  22. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>意見具申等に関する規程2-c-2項「具申等に関し、徒党を組み、あるいは賛同者を集めるため文書(具申書のコピーを含む)を配布またはネット上で公表することは威示行為として、決定に対する干渉と見なし、具申等は却下する」
  23. ^ 同上7-1項「…提案者が提案の内容を配布することは威示行為と見なされ、制定機関に対する干渉である。過当な干渉は罰則の対象となる」
  24. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>選手規程7-1.「選手は、選手となることを希望したときから…参加した大会終了後の少なくとも2年間次のJCA競技会の全てに参加しなければならない。…その他の事情は海外交流基金に相応の寄付をすることにより、会長の承認を受けることによる以外、考慮されない」。たとえば地方在住の選手が5月の全国大会で代表資格を得、翌年秋のオリンピアード出場を希望した場合、計3年余りの間に50日以上拘束され、この間の参加費・旅費等はすべて自己負担である。あるいは世界的な選手であるヒカル・ナカムラが日本協会に移籍してオリンピアードに参加したとすると、その後は出場報酬・賞金のある国際大会の招待を断って、低レベルな日本の大会に自費参加しなくてはならない。
  25. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>選手規程第22項「…選手がチームの一員の時は…チーム編成に必要とされる(上位組織からの参加要件に役員派遣が含まれる時)役員の参加に要する費用を含めて、選手が分担して負担する。…」
  26. ^ FIDEの選手データ、羽生善治
  27. ^ FIDEの選手データ、渡井美代子
  28. ^ FIDEの選手データ、権田源太郎。最高到達レイティングは2225で五段の水準である。実際にも五段で、六段陣にも負け越していたが、ある時新たに作られた規程によって一挙に八段となった。また会員の誰かがグランドマスターになると段位は十段になるが、その時に松本と権田も十段になれるという規定がある。協会公式サイト>段位規定>2.E.4項、2016年1月18日閲覧。
  29. ^ たとえば日本卓球協会にも段級位制 (卓球)があるが、卓球に終身称号としての国際タイトルはないし、高段の取得は国際戦の成績によらねばならず、競技による段位と運営貢献による名誉段位も分かれている。
  30. ^ 協会公式サイト>JCA会則・規程>JCA段位規程第3項および第4-A項。
  31. ^ 池袋コミュニティ・カレッジ講座紹介など。「渡井美代子:…1994年日本人として初めてのIMタイトルを獲得」
  32. ^ FIDE定款 「2.1. Members of FIDE are national chess federations...」 federationとは一般に小組織の連合体を指し、個人事業を含まないことは明確である。
  33. ^ 最低で90分+1手30秒相当。そもそもこれでさえ、先進国の子供向けの大会と同程度かそれより短い。
  34. ^ 協会公式サイト>競技会予定・結果>第40回全日本選手権全国大会、など
  35. ^ FIDE公式戦規定1.1項「For a game to be rated, each player must have the following minimum periods in which to complete all the moves, assuming the game lasts 60 moves. Where at least one of the players in the tournament has a rating 2200 or higher, each player must have a minimum of 120 minutes....(大意:レイティング2200以上の選手を1人でも含む大会では、60手続くとして120分が必要)」。80分+1手30秒では60手で110分にしかならない。
  36. ^ 2008年度選手権(2007年5月開催)の報告
  37. ^ FIDE倫理規定3.2項「Anyone acting in contravention of this code can be excluded from participation in all FIDE tournaments or from specific types of tournaments for a period of up to 3 years.」
  38. ^ USCF Osaka Chess Club
  39. ^ USCFの大会審判(TD)資格を持つFM上杉晋作による記事、日本チェス協会の「今」を考えてみた
  40. ^ 文部科学省資料『JOC通報相談窓口運用スキーム』[1] 2016年1月18日閲覧。
  41. ^ スポーツ仲裁規則第2条 [2] 2016年1月18日閲覧

関連項目[編集]

外部リンク[編集]