キャスリング
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キャスリング (Castling、キングの入城) はチェスのルールの一つ。キングとルークを一手で同時に動かす特殊な手を指す。
目次
キャスリングの目的[編集]
- 初期配置で中央にいるキングは、敵の攻撃にさらされやすい。特に多くの駒が飛び交う序盤戦では、キングはできるだけチェスボードの端にいた方が安全である。
- 逆に両端のルークは、できるだけ早く中央に出して活躍させた方が良い。
- キャスリングを行えば、この2点を一挙に進める事ができる。このルールはチェスをよりスピーディーに面白くするため、14~15世紀のヨーロッパで確立された。
キャスリングの基本[編集]
キャスリングは各プレイヤーに、一回のゲーム中に一度だけ与えられた権利である。非常に効率が良い手なので、ほとんどのプレーヤーが好んで使用している。だが便利な反面、この手は守らなければならない条件(制約)も多い。
キングサイドとクイーンサイド[編集]
- チェスボードの左側はクイーンサイド、右側はキングサイドと呼ばれている。
(右図のように、白から見た場合を指す。) - 白黒あわせて合計4つの場所で、チェスのキャスリングは行われる。
注意点[編集]
- チェスのルール上では、キャスリングに手数制限はない。序盤戦に行われるのが一般的だが、終盤戦近くでキャスリングが行われるケースもある。
- キャスリングは、あくまで権利であって義務ではない。戦法や戦型によっては、あえてキャスリングしないで戦った方が良い場合もある。
- あまりに早い段階でのキャスリングは、一概に良いとは言えない。敵の攻撃目標になり、かえって危険になる場合も多い。
- 左右どちらでもキャスリングできるような形にして、敵の戦型を見てからキャスリングを決めるのも一つの手である。
キングサイド・キャスリング[編集]
- (またはショート・キャスリング)
- 展開に必要な駒は2つで、キャスリング後のキングが端に近い。
- ほとんどのチェスのオープニングでは、こちらが採用されている。
- そのため何もつけず単に「キャスリング」という場合は、通常こちらを指す。
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- 記号: 0-0(ゼロ-ゼロ)
またはO-O(オウ-オウ)[1]
- 記号: 0-0(ゼロ-ゼロ)
クイーンサイド・キャスリング[編集]
- (またはロング・キャスリング)
- 展開に必要な駒は3つで、キャスリング後のキングの位置が中央に近い。
- そのため、キングサイド・キャスリングよりも採用されにくくなっている。
- こちらの長所は移動後のルークの位置。中央に近く、非常に効率的な形である。
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- 記号: 0-0-0(ゼロ-ゼロ-ゼロ)
またはO-O-O(オウ-オウ-オウ)
- 記号: 0-0-0(ゼロ-ゼロ-ゼロ)
キャスリングに必要な条件[編集]
チェスにおいて自分の駒を一手で2つ動かせる手は、 キャスリング以外に存在しない。キャスリングは義務でないが、ほとんどのゲームで白黒ともに頻繁に行われている。しかしその使用については、いくつかの条件(制約)がある。
- 1.キングとキャスリングさせる側のルークが、ともに初期配置から動いてはならない。
- 一度でも動いてしまったら、たとえ元の場所にもどってもキャスリングする事はできない。
- 特にキングを動かすと、そのゲーム中は両側ともキャスリングできなくなる。
- キャスリングに関係ない側のルークは、どんなに動かしてもキャスリングは可能。
- 2.キングとキャスリングさせる側のルークの間に、他の駒がいてはならない。
- どちらの側のキャスリングも、駒を飛び越えて行う事はできない。
- 邪魔をしている駒をランクから移動させると、キャスリングは可能になる。
- 3.現在キングがチェックされていてはならない。
- キャスリングでチェックから逃げる事は禁止されている。
- この場合一旦チェックを防げば、(防いでいる間に)キャスリングする事は可能である。
- また、チェックの制約はキングだけである。ルークは攻撃されていても特に問題ない。
- 4.これからキングが通過するマスに、敵駒の筋が効いていてはならない。
- キングが通過するマスも、キャスリング直後のマスも安全でなければならない。
- (白の場合キングサイドはf1とg1が、クイーンサイドはc1とd1のマスが該当する。)
- この場合も敵駒の筋を一旦解消すれば、その間にキャスリングは可能である。
- ルークが通過するマスは対象にならない[2]。
- 5.その他の注意点
「チェスのルール#公式戦でのルールとマナー」の2番目の項目、『「手」について』を参照のこと。
- (1)2つの駒を動かす際に、両手を使ってはならない。使用する手は「片手」に限られている。
- (2)キャスリングは、キングの動きの一つとされている。必ずキングが先で、その次にルークを動かさなければならない。
- 公式戦では先にルークに触れてしまうと、キャスリングの動きとはみなされない。ルーク単独の動きとみなされ、そのゲーム中は手が触れたルーク側へのキャスリングの権利が失われてしまう。
- この(1)と(2)は国際チェス連盟において、公式なルールとされている。
- なお(通常は気にする必要はないが)、キングとルークが同じランクに存在する必要もある[3]。
キャスリングについての、よくある誤解[編集]
- キングがキャスリングの数手前にチェックを受けていても、キャスリングは可能である。キャスリングの際にチェックを受けていなければ問題ない。
- キャスリングしない側のルークはもちろん、キャスリングする側のルークも敵の攻撃の有無は関係ない。現在ルークが攻撃を受けていても、キャスリングは可能である。
- キャスリングする側のルークが通過するマス[4]も、敵の攻撃の有無は関係ない。現在敵駒の筋が効いていても、キャスリングは可能である。
キャスリングの実戦例[編集]
実戦におけるキャスリングは、次のような形になる。これらはあくまで一例であり、他にも様々な形がある。
白のキングサイド・キャスリングの一例
白のクイーンサイド・キャスリングの一例
黒のキングサイド・キャスリングの一例
黒のクイーンサイド・キャスリングの一例
キャスリングに関係した用語[編集]
オポジット・キャスリング[編集]
- 英語の「opposite castling」を指す。白黒互いのプレイヤーが、反対の側へキャスリングを行う事。
- 「白:キングサイド、黒:クイーンサイド」、または「白:クイーンサイド、黒:キングサイド」のどちらかになる。
- シシリアン・ディフェンスのドラゴン・ヴァリエーションなど、よく知られたオープニングも多数存在する。
- オポジット・キャスリングをした後で、相手のキングの頭にポーンを繰り出す攻撃もある。これは「ポーン・ストーム (Pawn storm) 」と呼ばれている。
アーティフィシャル・キャスリング[編集]
- 英語の「Artificial castling」で、「人工的な」キャスリングという意味。「キャスリング・バイ・ハンド(castling by hand)」とも呼ばれている。
- キャスリングの権利を失ったキングが、(余分な手数をかけつつも)自分で動いて通常のキャスリングの形に収まる事。
(例:1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Nf6 4. Nc3 Nxe4 5. Bxf7+ Kxf7 6. Nxe4 Be7 7. 0-0 Rf8 8. d4 exd4 9. Nxd4 Kg8 右図)
注釈[編集]
- ^ 一般的には「0(ゼロ)」を使用する。「O(オウ)」の方は、PGNなどで使用される。
- ^ 白ならクイーンサイドのb1、黒ならクイーンサイドのb8の事。
- ^ この制約は、1972年にFIDEに採用された。この制約がないと、ファイルeのポーンがプロモーションしてルークになったとき、盤の両端のキングとルークで垂直に長いキャスリングができてしまう。 これは、Max Pam によって“発見”され、制約ができる前に Tim Krabbe によって彼のジョーク・チェス・プロブレムで使われた。
- ^ 白の場合はクイーンサイドのb1を、黒の場合はクイーンサイドのb8を指す。
関連項目[編集]
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