ヒトヨタケ
ヒトヨタケ | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Coprinopsis atramentaria (Bull.) Redhead, Vilgalys & Moncalvo (2001) | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
ヒトヨタケ |
ヒトヨタケ(一夜茸[1]、学名:Coprinopsis atramentaria)は、ハラタケ目ナヨタケ科ヒメヒトヨタケ属に属する小型から中型のキノコ。従来はヒトヨタケ科に属するとされて Coprinus atramentarius という学名が与えられていたが、分子系統解析によるヒトヨタケ科の再編に伴いナヨタケ科に移行され、種小名も変更された[2]。和名の由来は、傘が開いて成菌になると自己消化を起こして、柄を残して傘とヒダが一夜で黒いインク状に液化して溶けてなくなることから名付けられている[3][4]。地方により、コムソウ(秋田県)、マグソッタケともよばれる[1]。英語ではこのキノコを"インク・キャップス"(インクの傘)と呼ぶ。
解説
[編集]汎世界的に分布する[5]。春から晩秋にかけて、人里の畑や公園、道端、草地、庭園などの地上で見られ、コナラ・クヌギなど広葉樹の枯れ木や埋もれ木に束生から群生する腐生菌(腐生性)である[1][3][5][6]。
傘は径5 - 8センチメートル (cm) 、はじめ縁部がつぼんだ卵形だが、だんだん縁が反転して鐘形から頭が丸い円錐形となり縁が反り返る[3][1][5]。傘の色は灰褐色から淡灰褐色で、目立たない細かい繊維状の鱗片があり[3][6]、生長すると平滑となり溝線が現れ、放射状に裂けることが多い[5]。ヒダは密で離生し、初め白色であるが、胞子が成熟するにつれ胞子自体の着色のため、しだいに紫褐色から黒色に変わっていく[5][4]。肉は白色、無味でややキノコ臭がある。
柄は長さ8 - 18 cm[3]、白色で中空、中央部から下方に不明瞭なツバの跡がある[1][5]。肉は白色で、極めて薄い[5]。
成熟した子実体の傘は、縁から中心部に向かって酵素の働きによる自己消化により次第に液化し、ついには柄のみ残し[6]、一夜で溶けて黒色の胞子(担子胞子)を含んだ黒インクのような液と化してしまう[4]。胞子の一部は空気中に飛散するが、大部分はこの液とともに流出する。空気が乾燥していると、幼菌の状態で乾いてしまう場合もある[1]。
ヒトヨタケはその独特な生態から、日本では生息区域を近年減らし続けている。 ヒトヨタケの胞子を遠くに飛ばす役割に一役買っているのがハエです。 ですがそのハエも森林の破壊によって年々減少傾向にあります[7]。
ヒトヨタケやササクレヒトヨタケ、ネナガノヒトヨタケ(無毒)などいくつかの近縁種は腐った古畳やわらなど、腐敗した植物質によく発生する。漫画家松本零士が押入れにしまっていたパンツ(猿股)に生えたキノコを、「さるまたけ」と称して自らの漫画作品の題材にしたり、漫画家仲間のちばてつやに食べさせたというエピソードがあり松本本人は、「図鑑で調べたらヒトヨタケ」と言っている[7]。)
食・毒性と成分
[編集]傘の縁が液化する前の幼菌は食用になり、美味であるとされるが[5]、酒類を飲む前後に一緒に食べると、中毒症状を呈する[6]。中毒症状は、食後わりと短時間で顔が赤くほてり、頭痛、発汗、けいれん、吐き気、呼吸困難、頻脈などの悪酔いに似た症状が現れる[1][5][6]。
含有成分コプリンの代謝生成物1-アミノシクロプロパノールはジスルフィラム様作用を持ち、体内のアルデヒド脱水素酵素を阻害する[5]。エタノールは代謝過程においてアセトアルデヒドを経由して酢酸へと代謝されるが、この酢酸への変換にかかわるのがアルデヒド脱水素酵素である。この結果、アセトアルデヒドが血中に蓄積するために、著しい悪酔い症状様の中毒症状を起こすこととなる[5]。毒成分は体内に数日間残留し、コプリンの作用が体内から消えるまで、食後一週間程度は飲酒を控えたほうが良い[5]。
コプリンと同様のエタノール代謝阻害作用による中毒を起こす美味なキノコとしては、他にホテイシメジ(成分はオクタデセン酸などの共役エノン、ジエノン類)、キララタケが知られている。中毒症状は通常は4時間以内に、自然に回復する[8]。食用されるササクレヒトヨタケにはコプリンは含まれない[9]。
さっとゆでて下処理し、ホイル焼き、鉄板焼き、ねぎぬたや三杯酢、山椒や柚の香りの吸い物などに適する[3]。特に脂質との相性がよいので大量に収穫した場合は肉とのバター炒めにしてもよい。
ササクレヒトヨタケは、少し粘り気のあるキノコなのでサッと湯掻いて生クリームや、レモンクリームと合わせてクリームパスタにしてみると、とても相性の良い組み合わせになります。 キノコ自体にあまりクセががないのでイタリアンパセリ等がとても合います。
類似のキノコ
[編集]食用キノコのササクレヒトヨタケは、傘は明瞭な大きな鱗片があってささくれ、傘の形が大きく異なり円柱状で、幼菌は優秀な食菌として栽培もされていて食べるときの酒の制限はない[1][6]。ヒトヨタケの傘の表面はささくれない[5]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h 長沢栄史監修 2009, p. 127.
- ^ Redhead SA, Vilgalys R, Moncalvo J-M, Johnson J, Hopple JS Jr.; Vilgalys, Rytas; Moncalvo, Jean-Marc; Johnson, Jacqui; Hopple, Jr. John S (2001). “Coprinus Pers. and the disposition of Coprinus species sensu lato.”. Taxon (International Association for Plant Taxonomy (IAPT)) 50 (1): 203–41. doi:10.2307/1224525. JSTOR 1224525.
- ^ a b c d e f 瀬畑雄三監修 2006, p. 117.
- ^ a b c 大作晃一 2015, p. 49.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 吹春俊光 2010, p. 135.
- ^ a b c d e f 牛島秀爾 2021, p. 99.
- ^ a b “松本零士 パンツに生えたキノコをちばてつやに食べさせた”. NEWSポストセブン. 小学館 (2021年4月9日). 2021年11月8日閲覧。
- ^ 化学的な機構はKienzlerら(1992年)の概説が参考になる
- ^ Benjamin, Denis R. (1995). Mushrooms: poisons and panaceas — a handbook for naturalists, mycologists and physicians. New York: WH Freeman and Company. p. 285. ISBN 0-7167-2600-9
参考文献
[編集]- 牛島秀爾『道端から奥山まで採って食べて楽しむ菌活 きのこ図鑑』つり人社、2021年11月1日。ISBN 978-4-86447-382-8。
- 大作晃一『きのこの呼び名事典』世界文化社、2015年9月10日。ISBN 978-4-418-15413-5。
- 瀬畑雄三監修 家の光協会編『名人が教える きのこの採り方・食べ方』家の光協会、2006年9月1日。ISBN 4-259-56162-6。
- 長沢栄史監修 Gakken編『日本の毒きのこ』Gakken〈増補改訂フィールドベスト図鑑 13〉、2009年9月28日。ISBN 978-4-05-404263-6。
- 吹春俊光『おいしいきのこ 毒きのこ』大作晃一(写真)、主婦の友社、2010年9月30日。ISBN 978-4-07-273560-2。
- 池田良幸『北陸のきのこ図鑑』橋本確文堂、2005年7月。ISBN 4893790927。
- Kienzler, Thomas、Strazewski, Peter、Tamm, Christoph 、1992年「A New Synthesis of Coprine and 0-Ethylcoprine」『Helvetica Chimica Acta』75号1078ページ、2010年11月27日参照
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 酒を飲む前後に食べると中毒を引き起こすきのこ(コプリン群) 財団法人 日本中毒情報センター
- 毒きのこデータベース 2016年3月までは滋賀大学教育学部サイト内で公開されていたコンテンツの移転先