キクユ語

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キクユ語
Gĩkũyũ
話される国 ケニア
話者数 約5,347,000人(1994年)
話者数の順位 97
言語系統
言語コード
ISO 639-1 ki
ISO 639-2 kik
ISO 639-3 kik
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キクユ語: Kikuyu)またはギクユ語ゲコヨ語(Gĩkũyũ)/ɣekojo/ケニア周辺に住むキクユ族の言語で、ニジェール・コンゴ語族中央バントゥー語派に属する。 約600万人がケニア国内に居住し、国内では最大言語のひとつである。

方言[編集]

以下の4つの方言に分けられる。

キンディア方言

ギチュグ方言

ンディア方言

クトゥス方言

なお、クトゥス方言は他の3つの方言とはかなり異なっている。

文字[編集]

文字は a、b、c、e、g、h、i、ĩ、k、m、mb、n、nd、ng、ng'、nj、ny、o、p、r、t、th、u、ũ、w、y の26文字である[1]

音韻論[編集]

母音[編集]

母音は以下の7種類で、それぞれに対応する長母音が存在する[2]。同じ欄のうち左側が IPA、右側が正書法による表記を指す。

前舌 中舌 後舌
i (i) u (u)
半狭 e (ĩ) o (ũ)
半広 ɛ (e) ɔ (o)
(a)

子音[編集]

キクユ語の子音は以下の通りである[2]。同じ欄のうち左側が IPA、右側が正書法による表記を指す。

両唇音(bilabial) 唇軟口蓋音(labiovelar) 歯音(dental) 歯茎音(alveolar) 前部硬口蓋音(prepalatal) 硬口蓋音(palatal) 軟口蓋音(velar) 声門音(glottal)
破裂音(plosives) 無声(voiceless) t[注 1] (t) k (k)
前鼻音化(prenazalized) mb (mb)
有声(voiced) 前鼻音化 nd (nd) ŋɡ (ng)
摩擦音(fricatives) しばしば有声 h (h)
有声 β (b) ð (th) ɣ (g)
破擦音(affricates) 無声 t͡ɕ[注 2] (c)
有声 前鼻音化 nd͡ʑ (nj)
鼻音(nasals) 有声 m (m) n (n) ɲ (ny)
前鼻音化 ŋ (ng')
はじき音(flap) 有声 ɾ (r)
半母音(semi-vowels) 有声 w (w) j (y)

子音調和[編集]

キクユ語には子音調和と呼びうる現象が存在する[5]。これは c、k、th の母音で隔てられた直前の k が g として現れる現象である[4]

例:

  • kũ-ratha〈射る〉に対し、gũ-cookya〈返す〉、gũ-karanga〈炒める〉、gũ-thondeka〈作る〉[4]

c と k が無声音である一方、th は現代のキクユ語では有声音であるが、本来この音は無声音であったと見られ、子音調和は th が有声化する前から起こっていた現象であることが推察される[5]

アクセント[編集]

バントゥー語研究者の湯川恭敏はバントゥー諸語の名詞や動詞のアクセントに関する研究を行っているが、特にキクユ語の名詞については「そのあらわれる環境によって、あきれるばかりのアクセント変異を示」し[6]、また名詞アクセントの複雑さを踏まえてキクユ語は「バントゥ諸語の中でも最も複雑で、かつ、最も解明しにくい言語である」とさえ述べている[7]

文法[編集]

接頭辞がふんだんに用いられる。名詞の接頭辞として現れるクラスは、その名詞が含まれる名詞句やその名詞が主語となる節中の他の要素にも影響を与えうる。

形態論[編集]

クラス[編集]

クラスの体系について、Benson (1964:x) の分類は以下のようなものとなっている。スラッシュで隔てられているものは、左側が単数、右側が複数を表す。

グループ クラス 接頭辞
名詞 形容詞 代名詞
I 1 / 2 mũ- / a- mũ- / a- ũ- / a-
II 3 / 4 mũ- / mĩ- mũ- / mĩ- ũ- / ĩ-
III 5 / 6 rĩ-, i- / ma- rĩ-, i- / ma- rĩ- / ma-
IV 7 / 8 kĩ- / i-, ci- kĩ- / n- kĩ- / i-, ci-
V 9 / 10 n- / n- n- / n- ĩ- / i-, ci-
VI 11 / 10 rũ- / n- rũ- / n- rũ- / i-, ci-
VII 12 / 13 ka- / tũ- ka- / tũ- ka- / tũ-
VIII 14 / 6 ũ- / ma- mũ- / ma- ũ- / ma-
XI 15 / 6 kũ- / ma- kũ- / ma- kũ- / ma-
15a kũ-[注 3] kũ- kũ-
X 16 / 15b ha- / kũ- ha- / kũ- ha- / kũ-

統語論[編集]

語順[編集]

一致[編集]

たとえば名詞句の場合、修飾される名詞のクラスによって、後に続く〈…の〉という意味を表す連結辞の形もクラスに対応したものに変化する。

  • 例: maguta ma mbarĩki
グロス: 油 の トウゴマの種子
訳: ひまし油(直訳: 「トウゴマの種子の油」)

また、名詞句中の形容詞や数詞の接頭辞の他、節中の動詞の接頭辞も主語の名詞のクラスと同じものとなる。

グロス: 指 一 殺さない シラミ
訳: 「一本の指はシラミを殺さない。」

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 基本的には歯音だが、地域により歯茎音となる[2]
  2. ^ 無声歯茎硬口蓋摩擦音 [ɕ] として現れる場合もある[3][4]
  3. ^ 動詞の不定形に用いられる。

出典[編集]

  1. ^ Benson (1964:ix).
  2. ^ a b c Benson (1964:xii).
  3. ^ 湯川 (1985:190).
  4. ^ a b c 湯川 (1999:41).
  5. ^ a b 湯川 (1999:63).
  6. ^ 湯川 (1995:248).
  7. ^ 湯川 (2014:46).

参考文献[編集]

洋書:

  • Benson, T.G. (1964). Kikuyu-English dictionary. Oxford: Clarendon Press.  (NCID BA19787203); London: Oxford University Press. (NCID BA05142276)(キクユ語-英語辞書。項目はキクユ語のアルファベット (参照: #文字) 順に並べられ、名詞は接頭辞(参照: #クラス)を除いた順で並べられている。)

和書:

  • 湯川恭敏 (1985).「キクユ語名詞アクセント再論」 『アジア・アフリカ言語文化研究』29, 190-231.
  • 湯川恭敏 (1995).『バントゥ諸語動詞アクセントの研究』ひつじ研究叢書〈言語編〉第5巻、ひつじ書房。ISBN 4-938669-38-2
  • 湯川恭敏 (1999).『言語学』ひつじ書房。ISBN 4-89476-113-0
  • 湯川恭敏 (2014).『バントゥ諸語の一般言語学的研究』ひつじ研究叢書〈言語編〉第117巻、ひつじ書房。ISBN 978-4-89476-678-5

関連文献[編集]

文法書:

  • Barlow, A. Ruffel (1951). Studies in Kikuyu grammar and idiom. Edinburgh: Foreign Mission Committee of the Church of Scotland. NCID BA88470884
  • Mugane, John M. (1997). A Paradigmatic Grammar of Gĩkũyũ. Stanford: Center for the Study of Language and Information (CSLI). NCID BA33576933

ことわざ集:

  • Barra, G. (1960). 1,000 Kikuyu proverbs: with translations and English equivalents. NCID BA28088839
  • Njũrũri, Ngũmbũ (1969). Gĩkũyũ Proverbs. NCID BB24245091
  • Wanjohi, G. J. (2001). Under One Roof: Gĩkũyũ Proverbs Consolidated. Paulines Publications Africa. NCID BB23175591
  • 杜由木『夜には、夜のけものがあるき 昼には、昼のできごとがゆく』東京図書出版、2015年。ISBN 978-4-86223-828-3

関連項目[編集]

外部リンク[編集]