アトキンスダイエット

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アトキンス・ダイエットに基づく食事の一例

アトキンス・ダイエット英語: The Atkins Diet)とは、アメリカ合衆国の医師で心臓病専門医であるロバート・アトキンスRobert Atkins )が提唱した食事療法の一種である。炭水化物の1日の摂取量を20g以内に抑え、タンパク質脂肪の摂取量を増やすことで、脂肪がエネルギー源として常に消費され続ける状態に誘導する[1]。炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を減らす代わりに、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物を積極的に食べる食事法である。低炭水化物ダイエットローカーボ・ダイエット低糖質食炭水化物制限食とも呼ばれ、アトキンス・ダイエットもこの食事法の一種である。

アトキンス・ダイエットの流行[編集]

1972年、ロバート・アトキンスは『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版した。アトキンスはこの本の中で、「肥満を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能な限り避けなさい」と推奨している[2]。この著書が世に出てから、アトキンスが亡くなるまでこの食事法は普及していた。2003年にイギリスで行われたアンケートによれば、300万人が、アメリカ合衆国においては11人に1人がアトキンス・ダイエットを試したことがあると推定されており[3][4]、成人の7人に1人がこの食事法を取り組んだという[5]

2000年2月24日アメリカ合衆国農務省は『Great Nutrition Debate』と呼ばれる討論会を主催し、アトキンスとバリー・スィアーズ( en:Barry Sears )をパネリストとして招いた[6]。アトキンスもスィアーズも、炭水化物の危険性を訴える点で共通していた[7]。この討論会では、アトキンスに対する批判が集中し、アトキンスはその批判に答える形で登壇に立った[8]

2003年には、パスタや米といった炭水化物が多い食べ物の販売額が4.6~8.2%ほど落ち込むことになり、それらの産業界からは数多くの怨嗟の声が上がり、クリスピー・クリーム・ドーナツの販売店からも恨みの声が上がった[9]。著書が売れたことに伴い、炭水化物の少ない特別製品を発売する企業が増えた。

2004年、ダイエットの1年後から頭痛下痢など、炭水化物が少ないことによる副作用もみられ、長期的な安全性は保証できないと報告された[10]

2004年2月の時点で、消費者の9.1%がこの低炭水化物ダイエットを実行していると答えていたが、同じ年の7月には2.1%に急落した。1989年にアトキンスが設立した法人企業『アトキンス・ニュートリショナルズ』は、連邦倒産法第11章に基づき、会社更生手続きをとった[11][12]

理論[編集]

炭水化物を摂取して血糖値Blood Glucose Levels, Blood Sugar )が上昇すると、膵臓からホルモンの一種であるインスリンInsulin )が分泌される。血中のブドウ糖濃度が高い(高血糖)状態は身体にとっては毒でしかないため、血中に溢れたブドウ糖をかき集めて筋肉や肝臓内のグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵庫)に蓄える[13]。その後、時間が経過するとともに、安静にしていても、運動する際のエネルギー源としてもグリコーゲンは消費されていく。グリコーゲンにも貯蔵しきれないぐらいに血中のブドウ糖濃度が上昇すると、インスリンはそれを全部中性脂肪に合成して脂肪細胞内部に閉じ込める[13]。それに伴い、血糖値が低下するが、インスリンの分泌量が多すぎると、急に空腹を感じたり、急激な眠気が襲ってくる。インスリンは全身の脂肪細胞に強く作用し、摂取した炭水化物を中性脂肪に合成して脂肪細胞内に閉じ込め、脂肪細胞は肥大していく。脂肪細胞は、肥大するにつれて「サイトカイン」( Cytokine, 「炎症性分子」)を放出するようになり、これは全身に有害な影響をもたらす。

炭水化物を食べ続けることで慢性的な高血糖が常態化すると、身体はさらにインスリンの分泌量を増やそうとする。インスリンの分泌量が異常に増える状態が続くことで高インスリン血症となり、身体にますます脂肪が蓄積して悪循環に陥る[14]。炭水化物の摂取を増やせば増やすほど、血糖値の乱高下を惹き起こし、細胞は燃料不足に陥り、それに伴って空腹を感じて食欲が増し、とくに炭水化物を多く含む食べ物に対する渇望感が強まる。この状態を「炭水化物中毒」と位置付けた。インスリンが体内で暴走し、炭水化物や砂糖が多いものを見境いなく欲しがる状態になる。これは「アルコール中毒」「薬物依存」と同じである[15]。血中のインスリン濃度が高い状態が続くことで、身体はインスリン抵抗性Insulin Resistance )を発症し、糖尿病を患うリスクが急上昇する。インスリンの大量分泌が常態化し、膵臓が疲弊すると、インスリンの分泌が機能不全に陥り、血糖値の微調整も不可能になり、糖尿病を発症する[16]。この状態でインスリンの注射を怠ると、命の危険に直結する。いわゆるメタボリック症候群Metabolic Syndrome )は、このインスリン抵抗性がより重篤になった状態でもある。

アトキンスは、肥満や糖尿病患者が増えた背景について、精製された炭水化物、とくに砂糖が大量に消費されるようになったのが原因と見ていた[17]

  1. 炭水化物および砂糖が多いものを極力避ける[18]
  2. 炭水化物を避けるか、その摂取量を減らし続けると、身体は脂肪を分解してできるケトン体keto )をエネルギーとして使うようになる。血中にケトン体が増えたこの状態を「ケトーシス」( Ketosis )と呼ぶ。これは糖尿病患者の体内で起こる「糖尿病性ケトアシドーシス」( Diabetic Ketoacidosis )とは明確に異なる。
  3. 結果として、体内の脂肪を燃焼しやすい状態となり、「脂肪だけを効率的に減らせる」という理論である。タンパク質と脂肪が豊富で、炭水化物が少ない食べ物は自由に食べて構わない。満腹感が訪れるまでしっかり食べる[19]
  4. 食べものは有機食品有精卵をすすめている[20]

ケトン体[編集]

この食事法は、後述するケトン食と同じく、炭水化物の摂取を厳格に制限する代わりに脂肪の摂取は制限しない。この食事法を続けていると、脂肪酸を主要な燃料源として消費するよう身体が適応していく。脂肪酸は、細胞のミトコンドリアMitochondria )による酸化作用を通して消費される。これをβ酸化Beta Oxidation )と呼ぶ。人体には糖新生Gluconeogenesis )と呼ばれる経路があり、炭水化物や砂糖を食べずともブドウ糖を自ら生産する機能が備わっている。タンパク質を摂取したあとに体内で合成されるアミノ酸も糖新生の材料として使われるが、脂肪酸は材料にできない[21]

だが、アミノ酸Amino Acids )は体の成長と修復に必要な材料となるタンパク質を作る際に欠かせない材料であり、糖新生のためだけに消費されることは無い。脂肪酸はそのままの形では血液脳関門 The Blood–Brain Barrier )を通過しない。肝臓は「長鎖中性脂肪」( Long-Chain Triglycerides, LCT )を材料に、β-ヒドロキシ酪酸β-Hydroxybutyrate )、アセト酢酸Acetoacetate )、アセトンAcetone )、これらのケトン体を合成する。肝臓が合成したこれらのケトン体は脳内に入り、エネルギー源として消費される[22]。また、ケトン体は癲癇の発作を抑制する効果もあり、動物実験においては、アセト酢酸とアセトンが発作を抑制したことが確認されている。ケトン食およびアトキンス・ダイエットを続けると、脳のエネルギー代謝を適応的に変化させ、エネルギーが途切れないよう促進される。ブドウ糖に比べると、ケトン体はエネルギーの浪費が起こりにくい燃料となり、ミトコンドリアの増加を促進する。発作が起こっている最中にエネルギーの需要が増加することで、ニューロンNeurons, 神経組織を構成する1つ1つの細胞 )が安定した状態を維持するのに役立ち、それに伴ってニューロンの神経保護作用( Neuroprotective Effect )をもたらす可能性がある[22]

炭水化物の一日の摂取量を「10~15g」と、さらに制限したうえで、タンパク質と脂肪の摂取および食べる量は一切制限しない食事法もあり、これは『修正アトキンス・ダイエット』( Modified Atkins Diet )と呼ばれる。この食事法は、後述のケトン食療法とほぼ同じ作用を身体にもたらすことが分かっている[23]

は血液脳関門を通過するブドウ糖しかエネルギー源にできない」と主張する学者は少なくないが、炭水化物を制限する食事法を奨める人物の多くは「ブドウ糖だけではなく、ケトン体もエネルギー源にできる」として、この主張を否定することが多い。

BMIが30以上の肥満者を対象にした研究では、食べる量を一切制限しない高脂肪食/低炭水化物食の方が、エネルギー制限を行った低脂肪食/高炭水化物食よりもより強い体重低下作用が認められている[24]

食事法[編集]

誘導段階[編集]

  1. 最初の2週間、導入期間として「炭水化物の摂取量を1日20g以下」に抑える。こうすることで、身体がケトーシス状態に誘導される。
    • 炭水化物が10%以上含まれるものは禁止。ケチャップ、蜂蜜やシロップ、大量の砂糖を含む甘いもの全般、甘い果物、米、パン、麺・パスタ、バナナ、栗、豆の状態を保った豆、芋、フライドポテトやポテトチップスも禁止。緑色野菜に含まれる食物繊維は食べて構わない。
  2. カフェインを含む飲み物も制限する。アルコールは禁止。
    • 肉・魚・卵・チーズといった、動物性食品を中心に摂取することでエネルギーを補給する。ビタミンを補充するという意味で、サプリメントの摂取も許される[25]

この期間に、インスリン抵抗性と低血糖症が改善され、異常な食欲が治まる。この食事法を続けているうちに体臭口臭にケトン体が含まれるが、この匂いは時間の経過に伴って薄れていくとされる。

減量段階[編集]

続けていく過程で、体重の増加が確認できるまで、炭水化物の量を徐々に増やしていく。炭水化物をどれだけ摂取すればどれぐらい体重が増えるかを、自分で見極める。

体重維持段階[編集]

炭水化物中毒の状態に戻らないためにも、砂糖を多く含んでいるもの全般は禁止とする[26]。砂糖の代わりにステビアは使ってもよいとしている[26]ジャンクフードは健康を害するだけでなく、炭水化物中毒に戻ってしまうので禁止とする[27]

高果糖コーンシロップ蜂蜜砂糖果糖乳糖、精製された炭水化物の摂取の全般を禁止とする[28]オートミール玄米蕎麦のような精製されていない全粒穀物(※注 玄米も全粒穀物も血糖値を上昇させる)を少しだけ取り入れる[29]。魚、豆腐、野菜、豆から組み立てたメニューは健康的である、としている[30]

安全性[編集]

この食事法に対しては疑問や批判も多く、「心臓や腎臓に負担をかけるのではないか」[31]としばしば言われる。医師の新谷弘実は、この食事法を「良くない」と断じている[32]が、新谷は「ケトーシス」と「ケトアシドーシス」を混同していたり、「動物生タンパク質と動物性脂肪は人体には毒物」という前提で話をしていたり、アトキンスの死亡原因を自分で確かめもせずに勝手に勘違いしている点(アトキンスの直接の死因は、凍った路上を歩いている途中に足を滑らせて転倒し、頭部を強打したこと)が目立つ。後述のとおり、「タンパク質と脂肪は身体に悪い」とする主張に根拠は無く、その批判は筋違いである。

炭水化物とたんぱく質の摂取量によって10段階に分けて分析し、「炭水化物の摂取量が1段階減り、たんぱく質の摂取量が1段階増えるごとに、心筋梗塞脳卒中の発症のリスクが4%ずつ増え、低炭水化物・高たんぱく質のグループでは、そうでないグループに比べて発症リスクが最大1.6倍高まった」との報告がある[33]

2007年世界保健機関が報告したところでは、「タンパク質の多い食事は腎臓疾患や糖尿病性腎不全を悪化させる」[34]としている。2003年の報告では、「肥満や糖尿病を予防する食べ物」として「全粒穀物」を挙げている[35]国際糖尿病連盟英語版は、糖尿病の治療に対して「グリセミック指数が低い食品が良い」としており、これには全粒穀物も含む[36]

だが、「穀物の栄養価は極めて低い」「穀物は『食料』ではなく、『飼料』と呼ぶべきである」と断じつつ、「タンパク質の摂取を増やす食事は腎臓に負担をかけ、腎機能を低下させる」[37]という主張を「根拠が無い」と否定する人物もいる(後述)。

高脂肪の食事は「食生活指針」や多くの栄養学者によって「肥満や心臓病の原因となる」として否定されているが、「『脂肪の摂取を減らせば肥満や心疾患を防げる』という証拠は無い」と主張する人物もいる(後述)。また、「極度の低糖質・極度の高脂肪な食事」は『ケトジェニック・ダイエット』( The Ketogenic Diet )と呼ばれており、古くは1920年代前半、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニックMayo Clinic )の医師、ラッセル・ワイルダーRussell Wilder, 1885~1959 )がこの食事法を開発し[38][39]癲癇患者・肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している[40]

また、この食事法を開始して間もないころに体重が速やかに減るが、これはグリコーゲンの枯渇や余計な水分が身体から抜けたことが大きい。血糖値とインスリン濃度が高い状態になると、インスリンは腎臓に対して「ナトリウムを再吸収せよ」という信号を送り、腎臓はその指令のとおりに動く。インスリンは尿酸の分泌を阻害し、それに伴って身体は水分を保持しようとし、血圧は上昇する(→高血圧)。炭水化物の摂取を制限する食事を続けることで、血糖値と血中のインスリン濃度が低い状態が続くと、体内で変化が起こる。長時間絶食するか、炭水化物が多いものの摂取を避け続けることで血糖値と血中のインスリンの濃度が低下すると、腎臓は貯蔵していたナトリウムを、体内に溜まった余計な水分と一緒に体外に排出する。これは人体にとって有益な現象であり、炭水化物の摂取を制限するだけで血圧は簡単に低下し、降圧剤の服用回数を減らせる[41]。体重が200ポンド(約91kg)あり、炭水化物を常食している人がその摂取制限を開始すると、余計な水分だけで6ポンド(約2.8kg)以上が減る可能性があるとされる[42]

アトキンス・ダイエットができるまで[編集]

アトキンスは1959年にニューヨーク・マンハッタンにあるアッパー・イースト・サイドにて、心臓病および補完代替医療の専門医として開業した[43]

開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、デラウェア州にある会社、デュポン社DuPont )に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン( Alfred W. Pennington )が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した[44]

1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン( George Gehrman )は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった[42]

アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、食物繊維が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で本を書き始めた。1972年、『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、その数年後に補完代替医療センターを開設した[45]

2002年、アトキンスは心臓発作を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な感染症を患っていたからであって、脂肪の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した[46][47][48]。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。

2003年4月、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。4月8日、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し(これが直接の致命傷となった)、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している[49][50][51]

炭水化物を制限することによる利点[編集]

炭水化物は、脂肪やタンパク質に比べてインスリンの分泌にはるかに大きな影響を及ぼす。インスリンは食事における満腹感を減少させ、摂食行動にも影響を及ぼす。炭水化物の摂取を減らすと、インスリン抵抗性は緩和される。炭水化物を制限する食事は、インスリンの濃度が高い患者に有益である証拠が示された[41]

炭水化物が少なく、脂肪が多い食事は、空腹感と満腹感に大いに影響を与える。炭水化物が多く、脂肪が少ない食事(カロリー制限食)と比較すると、高脂肪食は体脂肪を減少させ、身体のエネルギー消費量の増加を促進する[41]

炭水化物を制限する食事は、体重を減らすという目的においても、低脂肪食よりも優れている証拠を示している[52]

また、炭水化物を制限する食事は、低脂肪食よりも大幅に体重を減らし、心血管疾患の危険因子も減少させる[53]

炭水化物の少ない食事は、血糖値とその制御の大幅な改善につながり、薬物の服用回数を減らせるだけでなく、服用の必要も無くなる可能性があり、この食事法は2型糖尿病の改善と回復にも効果的である証拠が示された[54]

ケトン食を含めて、炭水化物を制限する食事法は安全であり、長期に亘って健康を維持し、さまざまな病理学的状態を防止または逆転させる力がある[55]。ケトン食を止めると(炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らすと)、片頭痛や癲癇発作が再発する[55]

「炭水化物は肥満およびそれに伴う疾患の主要な推進力であり、精製された炭水化物や糖分の過剰摂取を減らすべきである」と結論付け、炭水化物を「Carbotoxicity」(「炭水化物には毒性がある」)という造語で表現する研究者もいる[55]

アトキンス以前の食事療法[編集]

ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン[編集]

フランスの法律家で美食家のジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(Jean Anthelme Brillat-Savarin)は、1825年出版の著書『Physiologie du goût』(『味覚の生理学』)にて、 「思ったとおり、肉食動物は決して太ることはない(オオカミジャッカル猛禽類カラス)。草食動物においては、動けなくなる年齢になるまで脂肪が増えることは無い。だが、ジャガイモ穀物小麦粉を食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく。・・・肥満の主要な原因の2つ目は、ヒトが日々の主要な食べ物として消費している小麦粉やデンプン質が豊富なものだ。前述のとおり、デンプン質が豊富なものを常食している動物は、いずれも例外なく、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則から逃れられはしない」>[56]、「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」[56]、「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」[56]と述べ、「身体に脂肪が蓄積するのはデンプン砂糖を食べるからだ」と断言している。ブリア=サヴァランは、タンパク質が豊富なものを食べるよう勧めており、デンプン、穀物、小麦粉、砂糖を避けるよう力説している[57][58]

ウィリアム・バンティング[編集]

炭水化物を制限し、減量に成功したウィリアム・バンティング

炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、タンパク質脂肪を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランJean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソワ・ダンセル( Jean-François Dancel )、ユストゥス・フライヘアー・フォン・リービッヒJustus Freiherr von Liebig )、ウィリアム・ハーヴィー( William Harvey, 1807~1876 )、ウィリアム・バンティングWilliam Banting, 1796~1878 )、ジョン・ユドキンJohn Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である[42]。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、小麦粉のような精製された炭水化物、とくに砂糖である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた[42]。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。

ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴィーであった。ハーヴィーがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナールClaude Bernard, 1813~1878 )がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった[59][60]

クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴィーは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴィーは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[42]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴィーから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。

1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。バンティングが出版したこの小冊子の内容は、その後、何年にも亘って受け入れられ、新しい食事の模範として取り入れられるようになった[60]。当初は自費出版で発表したが、かなりの人気を呼んだことで、一般市民に販売しようと決めた。第3版は、2007年に印刷されたものがオンラインでも読むことが可能[61]

バンティング自身、『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー( Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )も、 著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている[42]

Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(「ダイエットするかい?」)、「Are you banting?」(「今、ダイエット中なの?」)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[59]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった[42]

南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークスTim Noakes )は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた[62]。ノークスは、「脂肪の摂取を減らし、炭水化物を沢山摂取せよ」と奨める考え方を「Genocide」(「大量虐殺」)と断じている[63]

サイエンス・ジャーナリストゲアリー・タウブスGary Taubes )による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[64]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる[65][66][67][68][69]

なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴィーにある」と主張した。

リチャード・マッカーネス(Richard Mackerness)は、1958年に出版した著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)にて、「体重が増える原因は炭水化物の摂取にある」と明言し、「肉、魚、脂肪は食べたいだけ食べてよい」とし、穀物と砂糖を避けるよう主張した[70]。マッカーネスは、ウィリアム・バンティングによる『市民に宛てた、肥満についての書簡』に触発されてこの著書を執筆した[71][72]

ヘルマン・ターラー(Herman Taller)は、1961年に出版した著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)にて「カロリーが同じであれば、どの栄養素も体内で同じ作用を示す、などということはありえない」「炭水化物が少なく脂肪が多い食事は体重を減らす」「炭水化物は身体に問題を惹き起こす」「炭水化物の摂取に敏感な人の体内ではインスリンが分泌され、脂肪が生成される」と述べ、肥満を防ぐために炭水化物を避けるよう主張している[73]

ケトジェニック・ダイエット[編集]

1920年代前半、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニックMayo Clinic )の医師、ラッセル・ワイルダーRussell Wilder, 1885~1959 )は『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取し、炭水化物の摂取は可能な限り抑える」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの[74]。元々は癲癇を治療するための食事法であったが、「肥満糖尿病に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「ケトン体」( Keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法を『ケトン食』『ケトン食療法』『ケトジェニック療法』『ケトジェニック・ダイエット』( The Ketogenic Diet )と呼ぶ。

1932年、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。

「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」[42]

アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中でケトン体について触れており、「炭水化物の摂取を極力抑え、脂肪の摂取量を増やすことで、身体はブドウ糖ではなく、脂肪をエネルギー源にして生存できる」という趣旨を述べ、体重を減らしたい人に向けて、炭水化物を避けるか、その摂取制限を奨めている。

ケトン食を摂取し続けることで、身体は炭水化物ではなくケトン体を常に燃料にする体質となり、肥満や過体重の場合、体重、中性脂肪、血糖値が有意に低下し、心臓病を起こす確率が低下する[75]。低脂肪食と比較して、ケトン食は肥満患者や糖尿病患者の体重を大幅に減らし、血糖値とインスリン感受性を改善させ、代謝機能障害に関係する死亡率も低下させる可能性がある[76]

ケトン食はミトコンドリアの機能と血糖値を改善し、酸化ストレスを減少させ、糖尿病性心筋症(Diabetic Cardiomyopathy)から身体を保護する作用がある[77]

また、ケトン食は記憶力の改善と死亡率の低下をもたらし[78]、末梢軸索(Peripheral Axons)と感覚機能障害(Sensory Dysfunction)を回復させ、糖尿病の合併症も防げる可能性が出てくる[79]

炭水化物制限食の歴史[編集]

「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。なお、1960年代以降、「動物性脂肪を豊富に含む動物性食品は、健康に悪影響を及ぼす可能性がある」と言われるようになると、栄養学者たちは、「動物の肉には、生命維持に欠かせない全ての必須アミノ酸、全ての必須脂肪酸、13種類ある必須ビタミンのうちの12種類がたくさん含まれている」という栄養学上の事実の指摘を控えるようになった[42]

「肉食動物は決して太らない」

「ヒトを肥満にさせるのは、日々の食事を構成するデンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」

「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」

「ジャガイモ、穀物、小麦粉由来のモノを食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく」

「デンプン質の食べ物を常食している動物の身体には、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則からは逃れられない」

「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している[80]

  • 1844年、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソワ・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、1864年英語に翻訳され、出版された。ダンセルは、

「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」

と述べている[42]。「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者ユストゥス・フォン・リービッヒ( Justus von Liebig )による研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。ダンセルは、

「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」

「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」

と述べた[42]

  • イングランドの医師、トマス・ホークス・タナーThomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )は、「『炭水化物を断つこと』こそが、減量を成功させる唯一の方法である」と確信していた。肥満治療について、「減食」と「身体活動」(「運動」)を、「ridiculous」(「何の価値も無い」)と切り捨てている。
  • 1866年ベルリンで開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法が、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。

「肉は無制限に食べてかまわない」[42]

「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」[42]

  • 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、

「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」

と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、

「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」

と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった[42]

  • オールソンの教え子でコーネル大学の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、1973年10月アメリカ国立衛生研究所で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、1967年1974年にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは

「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」

と述べた[42]

  • The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と砂糖を減らすように」と述べている[42]
  • 1907年、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている[42]
  • 1925年ロンドンにある聖トマス病院医科大学( en:St Thomas's Hospital Medical School )のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『ランセット』(『The Lancet』)の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている[42]
  • 1936年デンマークの医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた[42]
  • 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、

「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」

「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」

と、兵士たちに警告している[42]

  • 1946年に初版が出版されたベンジャミン・M・スポック( Benjamin M. Spock )による子育てについて記した著書『Baby and Child Care』にて「体重の増減がどれほどになるかは、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた[42]
  • 1963年、サー・スタンリー・デイヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、

「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」

「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」

と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。

「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」[42]

  • 1958年にはリチャード・マッカーネスRichard Mackerness, 1916~1996 )による著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)、1960年にはヘルマン・ターラー英語版Herman Taller, 1906~1984 )による著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。
  • イギリス生理学者栄養学者ジョン・ユドキンJohn Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。

「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」

「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」

「炭水化物は人間の食事には必要ない。『必須炭水化物』なるものは存在しない」

と明言している[42]

「ヒトを病気にさせるのは動物性脂肪ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』[81]は、何の役にも立たないが、炭水化物が少ない食事は肥満患者や糖尿病患者の健康を改善できるだろう」[82]と確信しており、「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている[83]2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病学会英語版The American Diabetes Association )が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した[84]2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁による「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した[85]

2011年、イーエンフェルトは著書『Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight』を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている[86]。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された[87]

  • イングランドの医師ジョン・ブリッファ( John Briffa )は、著書『Escape the Diet Trap』の中で、

「高糖質・低脂肪な食事に体重を減らす効果は無い」

「カロリー制限食は、体重を減らせないだけでなく、深刻な病気を患いやすくなる」

「体脂肪の蓄積を強力に推進する主要因子となるのはインスリンである」

インスリン抵抗性は、肥満および2型糖尿病と密接に関係している」

「インスリン抵抗性は、血糖値の乱高下、トライグリセライド(triglyceride, 中性脂肪値)の上昇で惹き起こされ、体内で発生する炎症作用の原因となり、これらはインスリンの大量分泌を促す食べ物の摂取で惹き起こされる。そのインスリンの大量分泌を惹き起こす食べ物は炭水化物である」

「食事に含まれる脂肪分の摂取と体重の増加には因果関係は無く、『脂肪の摂取を減らせば体重を減らせる』ことを示す証拠は無い」

「84時間に亘って生理食塩水のみの点滴を受け続け、絶食状態にあった被験者と、脂肪分だけを1日2000kcal分供給された被験者の血中の状態は、まったく同じであった」

「炭水化物の摂取を減らし、脂肪の摂取を増やすほど体重も体脂肪も減っていく」

「食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌を全く促さない以上、太る原因にはなり得ない」

「動物性脂肪の摂取と、肥満および心臓病には何の因果関係も無い」

マーガリンのようなトランス脂肪酸は避けること」

「穀物の栄養価は極めて低い。穀物を動物に食べさせると、本来ならあり得ない速度で脂肪が蓄積していく。このことから、穀物は『食料』ではなく、『飼料』と呼ぶべきである」

「『タンパク質の摂取は腎臓に負担をかける』とする説には何の根拠も無い。体重1kgにつき、2.8gのタンパク質を摂取しても、腎機能に悪影響が出ることを示す証拠は見付からなかった」

「タンパク質は骨の原料でもあり、タンパク質の摂取を増やすことで骨折のリスクは低下する」

「タンパク質の摂取もインスリンの分泌を促すが、同時にグルカゴンの分泌も誘発し、インスリンによる脂肪蓄積作用を緩和する」

「食欲を満足させるのに最も効果的な食事と呼べるものは、タンパク質と脂肪が豊富で、炭水化物が極めて少ない食事である」

「有酸素運動に体重を減らす効果は無い」

と述べている[88]

過食実験と体格の変化[編集]

2013年、イングランド人のサム・フェルサム( Sam Feltham )は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。彼は、「カロリーはカロリーである」(『A calorie is a calorie』)「自分が消費する以上の量のエネルギーを摂取するからヒトは太るのだ」とする理論に対して疑念を抱いていた[89]

最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」(「低糖質・高脂肪な食事」)に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった[90][91]。この高脂肪食で、フェルサムは余剰分のカロリーが56645kcalにも及んだが、全く太りはしなかった[89]

次に、フェルサムは摂取エネルギーの構成比を「炭水化物64%(892.7g)、タンパク質22%(188.65g)、脂肪14%(140.8g)」(「高糖質・低脂肪な食事」)に変え、1日の摂取エネルギーを「5793kcal」に調節し、再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は7.1kg増加し、腰回りは9.25cm膨らみ、顎の脂肪も膨らんでいた[92][93][94][95][96]。なお、この「炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らす食事」は、アメリカ糖尿病学会英語版The American Diabetes Association )やアメリカ心臓協会The American Heart Association )が推奨している「栄養バランスのとれた食事」である。

もう1つの実験として、フェルサムは「ヴィーガン食」(Vegan Diet, 完全菜食)による過食実験も実施した。ヴィーガン食は基本的に「高糖質・低タンパク・低脂肪」な食事である。1日の摂取エネルギーを「5794kcal」に調節したヴィーガン食で再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は4.7kg増加し、腰回りは7.75cm膨らみ、顎の脂肪も膨らみ、体脂肪率は12.9%から15.5%に上昇した[97][98]

フェルサムはこれらの過食実験を通して、

  • 「(脂肪が豊富で炭水化物が少ない食事を摂り続けても太らなかったことについて)簡単に言うなら、『食べ物に含まれる脂肪分には、ヒトを太らせる作用は無い』ということである」
  • 「炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らしたところで、あなたが食べた炭水化物は体内で脂肪に変わる」
  • 「精製された炭水化物を食べ続けていれば、身体に生化学的な損傷が発生し、インスリン抵抗性を初めとする疾患を惹き起こすだろう」
  • 「体重を管理する方法について、『食べる量を減らして運動量を増やせ』としばしば言われるが、これは誰の何の役にも立たない、愚鈍で疎慢な『助言』である」
  • 「精製された炭水化物のような『偽物の食べ物』ではなく、肉や卵のような『本物の食べ物』を食べよう」
  • 「脂肪が豊富な肉・魚・卵・ナッツ類、緑色野菜は食べたいだけ食べて構わない」
  • 「炭水化物を食べ続けている限り、あなたの身体から脂肪は減らない」
  • 「肥満や病気が蔓延しているのは、人々が『食べ過ぎるから』ではなく、『偽物の食べ物を食べるから』だ」
  • 「医療関係者に言いたいのは、患者に対して『偽物の食べ物』を減らし、『本物の食べ物』を食べるよう促すことだ」
  • 「各国の政府は、食事に関する政策を改め、『偽物の食べ物』を排除し、砂糖会社への補助金を停止すべきである」

と述べている[89]

食事比較[編集]

1956年、アラン・ケクウィック(Alan Kekwick)とガストン・パワン (Gaston Pawan)の2人は、ロンドンにあるミドルセックス病院(the Middlesex Hospital)にて、太り過ぎの患者を以下の3つの食事グループにそれぞれ割り当て、身体がどのような変化を示すのかを確かめる実験を行った。

  1. 摂取カロリーの90%を炭水化物から摂る
  2. 摂取カロリーの90%をタンパク質から摂る
  3. 摂取カロリーの90%を脂肪から摂る

1日の摂取カロリーは、3つとも「1000kcal」に揃えた。それぞれの食事に割り当てられた被験者の体重は以下のように変動した。

  1. の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.24ポンド(約0.1kg)増加した
  2. の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.6ポンド(約0.28kg)減少した
  3. の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.9ポンド(約0.41kg)減少した

炭水化物が少なく、脂肪の摂取量が多い食事を摂ったグループが最も大きく体重を減らす結果となった[99]。さらに、1日の摂取カロリーを「2600kcal」に調節した低糖質・高脂肪食を摂らせたところ、体重は大幅に減少した[100]

A TO Z 減量研究[編集]

2003年2月から2005年10月にかけて、『The A TO Z Weight Loss Study』(『A TO Z 減量研究』)と題した研究が行われた[101][102][103]。被験者は肥満体の女性であり、彼女らを以下の4つの食事法に無作為に割り当て、炭水化物が少なく、脂肪が多い食事が、心臓病、糖尿病に関係する危険因子に与える影響について調べたもので、体重、血圧、コレステロール値の変化についても比較した。

  1. The Atkins Diet(アトキンス・ダイエット)・・・炭水化物の1日の摂取量を20g以内、その後は50g以内に抑える。摂取カロリー、タンパク質、脂肪の摂取量は一切制限せず、食べたいだけ食べる
  2. LEARN Diet ・・・ いわゆるカロリー制限食。全摂取エネルギーのうちの55~60%を炭水化物から摂り、脂肪の摂取割合は30%以下にし、飽和脂肪酸の摂取割合は10%以下とする。定期的に運動をこなす
  3. Ornish Diet ・・・ 脂肪の摂取割合を10%以下とする。瞑想と運動を行う
  4. Zone Diet ・・・ 摂取カロリーのうちの40%を炭水化物から、30%をタンパク質から、30%を脂肪から摂取する

1. のアトキンス・ダイエットに割り当てられた被験者たちは、肉や魚を食べたいだけ食べ、それに付随する動物性脂肪を沢山食べるよう指導され、摂取カロリーと脂肪の摂取を減らす食事法に割り当てられた被験者と比較された。その後、アトキンス・ダイエットに割り当てられた被験者たちの身体には、以下の現象が起こった[42]

  • 体重が大幅に減少した
  • 中性脂肪が大幅に減少した
  • 血圧が低下した
  • HDLコレステロールが増加した
  • LDLコレステロールがわずかに増加した
  • 総コレステロール値はほとんど変化なし
  • 心臓発作を起こす危険性は大幅に低下した

これら4つの食事法のうち、最も大きく体重を減らし、血圧や中性脂肪も低下させたのはアトキンス・ダイエットであった。

この研究を主導したスタンフォード大学のクリストファー・D・ガードナー(Christopher D. Gardner)は、肉や脂肪を豊富に含む食事は危険かもしれない、と考えていたが、この研究結果を受けて、「A bitter pill to swallow」(「受け入れがたい現実」)と述べた[42]

炭水化物と脂肪、それぞれの摂取と影響[編集]

5大陸、18か国に住む135335人を対象に行われた大規模な疫学コホート研究の結果が『The Lancet』にて発表された(2017年)。これは炭水化物の摂取量および脂肪の摂取量と、心血管疾患に罹るリスクおよびその死亡率との関係についての調査であった。これによると、炭水化物の摂取を増やせば増やすほど死亡率は上昇し、脂肪の摂取を増やせば増やすほど死亡率は低下するという結果が示された。とくに、飽和脂肪酸の摂取量が多ければ多いほど、脳卒中に罹るリスクは低下した。また、飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸を問わず、脂肪の摂取は死亡率を低下させ、心筋梗塞および心血管疾患の発症とは何の関係も無かった[104][105]

飽和脂肪酸の摂取は、冠状動脈性心臓病、脳卒中、心血管疾患の発症とは何の関係も無く、飽和脂肪酸がこれらの病気と明確に関係していることを示す証拠は無い[106]

また、多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やし、飽和脂肪酸の摂取量を減らしても、心血管疾患の発症リスクは減らせない[107]

砂糖と肥満[編集]

砂糖を摂取すると、高確率で肥満になる。砂糖は体内に入ると、血糖値の急上昇および高血糖の長時間の持続、インスリンの大量分泌、インスリン抵抗性、これらを同時に惹き起こす。果糖を投与された動物は、体重の制御ができなくなるだけでなく、摂食行動が止まらなくなり、体重が増えて体も動かさなくなることが動物実験で示された[108]。果糖は、インスリンやレプチンを初めとするホルモンの受容体を破壊し、ホルモン抵抗性を惹き起こし、糖尿病の合併症・内臓脂肪の蓄積・脂肪肝をもたらす直接の原因となる[109]

野生の肉食動物や、狩猟採集生活を送っている集団は、肥満になる可能性は極めて低いが、これは「炭水化物が多いもの・糖分・砂糖を摂取する機会がほぼ皆無であるから」である。

英語圏においては、『Sugar Addiction』(『砂糖中毒』『砂糖依存症』)という言い方が広まっており、「砂糖に対する欲求や、砂糖を多く含んだものが止められないという砂糖に対する渇望感は、中毒症状の一種であり、その中毒症状を惹き起こすのは砂糖である」という見方が広まっている。アメリカ合衆国の歯科医師ウェストン・プライス( Weston Price )は、狩猟採集生活を送っている集団の食生活についての研究をまとめた報告書『食生活と身体の退化―先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響』(1939年)の中で、「砂糖を食べるようになってから、虫歯を患ったり、栄養不足に伴う病気が増えた」と述べている。クイーン・エリザベス大学の栄養学教授、ジョン・ユドキンJohn Yudkin)は、著書『Pure, White and Deadly』(1972年)の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。1960年代、ユドキンはミネソタ大学の生理学者アンセル・キーズ英語版(Ancel Keys)と、「砂糖・脂肪論争」を繰り広げた。この論争では、「心臓病を惹き起こす原因は(食べ物に含まれる)脂肪分にある」というキーズの主張が通り、ユドキンの「砂糖が原因である」との主張は通らなかった。1970年代後半、アメリカ合衆国政府は「脂肪の摂取を減らし、炭水化物の摂取を増やせ」と国民に呼びかけたが、肥満・糖尿病・心臓病を患う国民の数は増加の一途を辿るようになった。

ユドキンの主張を支持する者の1人として、カリフォルニア大学神経内分泌学者ロバート・ラスティグ( Robert Lustig )がおり、カリフォルニア大学が製作・公開したラスティグによる講演『Sugar: The Bitter Truth』の中で、「砂糖は毒物であり、ヒトを肥満にさせ、病気にさせる」「砂糖の含有量が多いものには課税すべきだ」と断じており[110]、著書『Fat Chance』の中でもそのように主張している。また、「砂糖はカロリーがあるだけで栄養価は皆無であり、肥満をもたらすだけでなく、タバコアルコールと同じように中毒性が強く、含有する成分の果糖が内分泌系に悪影響を与え、心臓病や心臓発作、2型糖尿病を発症するリスクを高める」として、「砂糖の含有量が多いものには課税すべきである」との主張を科学雑誌ネイチャー誌(『Nature』)に発表した[111]

ゲアリー・タウブスは、2016年に出版した著書『The Case Against Sugar』(『砂糖に対する有罪判決』)の中で、「砂糖は『中毒性の強い薬物の一種』であり、ヒトを肥満にさせるだけでなく、心疾患の原因でもあり、健康を脅かす」「肥満とは、身体がホルモン障害を惹き起こした結果であり、そのスイッチを入れるのは砂糖である」と断じている[112]

カナダの腎臓内科医ジェイスン・ファン(Jason Fung)も、「砂糖の摂取は、血糖値および血中のインスリン濃度を速やかに急上昇させ、その状態を長時間に亘って持続させ、さらにはインスリン抵抗性をも同時に惹き起こす」「砂糖や人工甘味料は、インスリン抵抗性を惹き起こす直接の原因となる」「『どれくらいの量なら砂糖を摂取してもいいか』というのは、『どれくらいの量ならタバコを吸ってもいいのか』という質問と同じである」「砂糖を食べると太る。この事実に異を唱える者はいないだろう」「太りたくない、体重を減らしたいのなら、真っ先にやるべきなのは、糖分を厳しく制限することである」と断じている[113]

砂糖および果糖はインスリン感受性を低下させ、内臓脂肪の蓄積を促進し、空腹時の血糖値インスリンの濃度を上昇させ[114]、肝臓に脂肪を蓄積させ、ミトコンドリアの機能を妨害し、炎症の誘発を刺激し[115]脂質異常症インスリン抵抗性を惹き起こし、糖尿病発症を促進する[116]

砂糖の摂取を減らすことで、脂肪肝、肥満、各種疾患を防げる可能性がある[117]

砂糖および果糖の摂取は肝臓への脂肪の蓄積を促すが、炭水化物および砂糖が少ない食事を摂ると、蓄積した脂肪が急速に減少することが確認された。外部からの資金提供を受けることなく書かれた研究論文の著者は、「身体の健康を守るために砂糖の摂取を制限すべきである」と結論付けている[118]

インスリンと肥満[編集]

「インスリンがヒトを太らせる」[編集]

体重を目標もしくはそれ以下まで落としたものの、その後再び体重が増えてダイエット開始前と同じ体重に戻ったり、以前よりも体脂肪率が増加する。これは俗にリバウンドと呼ばれている。減量とリバウンドを繰り返すと、痩せにくく、太りやすい状態となる。

体重のリバウンド現象については、インスリンおよびインスリン抵抗性が原因と考えられている。ジェイスン・ファンは、「リバウンドとは、インスリンが設定した体重に戻ろうとすること」と述べている。「体重の『設定値』を決めるのはこのインスリンであり、インスリンが過剰に分泌される状態およびインスリン抵抗性が続くと、インスリンが『体重の設定値のつまみを回す』。こうなると、何をどうしようとも、身体はインスリンが設定した体重に戻ろうとする」「体重のリバウンドが起こるのは、あなたの意志が弱いわけでも、努力が足りないわけでもない。インスリンがその人の体重を決める」という[113]。また、身体活動および運動の効果に対しても、「体重を減らすことを目的に、食べる量を減らして運動をする習慣を付ける実験は、いずれも例外なく失敗に終わっている」「どれだけ運動を頑張ってこなし、食べる量を減らしたところで体重を減らす効果は無いことは証明済みである」「運動する人に比べて、運動しない人ほど痩せている[113]と結論付けている。「やろうと思えば誰でも太らせることが可能だ。インスリンを注射するだけでいい。インスリン濃度が高い状態が続く限り、どんどん太り続ける。何をどうしようとも無駄である」と述べ、「『肥満ホルモン』ことインスリンがヒトを太らせる」と結論付けている[113]。炭水化物の摂取制限を奨める人物も全員例外なく、「インスリンが出るから太る」という結論で一致しており、「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない(「身体が太って脂肪が蓄積したあとに、過食したり、動かなくなる」)」と断じている。

なお、インスリノーマとはインスリンの大量分泌を促す腫瘍のことであり、これを摘出しない限り体重も体脂肪も増加し続け、肥満の原因となる。また、インスリンを注射するか、インスリンと同様の作用を持つ薬を注射しても肥満になる。インスリンの濃度が高い状態では、身体は一方的に太り続けていく。これは、その人がどれぐらい食べたか、運動していたかどうかは、何の関係も無い。

1965年、医学物理学者のロザリン・サスマン・ヤロウ( Rosalyn Sussman Yalow )と、医師で化学者のソロモン・アーロン・バーソン( en:Solomon Aaron Berson )の2人は、「脂肪を脂肪細胞から放出させ、それをエネルギーにして消費する」ためには、「Requires only the negative stimulus of insulin deficiency.」(「『インスリン不足』という負の刺激以外は必要ない」)と明言した[42]

ハーバード大学の元医学部長ジョージ・F・ケイヒル・ジュニア(en:George F. Cahill Jr., 1927-2012)は、

Carbohydrates is driving insulin is driving fat.」(「脂肪を操るインスリンを、炭水化物が操る」)[42]との言葉を残している。

インスリンは脂肪分解を抑制・妨害する[編集]

インスリンは脂肪の合成と貯蔵を促進し、体内における脂肪分解を徹底的に抑制・阻害する最大のホルモンである[119][120][121][122][123]

インスリンは脂肪の蓄積を強力に促進し、空腹感を高め、体重増加を惹き起こす。たとえカロリーを制限したところで、インスリンを注射された動物には過剰な量の体脂肪が蓄積する[124]。。

インスリンの分泌を高める食事は、インスリンを注射した時と同様の作用をもたらす[124]

インスリンは、細胞へのブドウ糖の取り込みを促進し、脂肪細胞からの脂肪酸の放出を抑制・妨害し、肝臓でのケトン体の産生を抑制し、脂肪の沈着を促進し、主要な代謝燃料の循環濃度までも低下させる[124]

肥満における危険因子には、高インスリン血症が関わっている。インスリンの濃度が正常より高い場合や、インスリンの濃度がほんのわずかに上昇するだけで肥満は惹き起こされる。インスリンの分泌を阻害する薬物を投与するか、インスリンの濃度が低下すると体重は減少する[124][125]。脂肪分解を抑制・妨害する作用は、インスリンにおける最も敏感な代謝作用である。空腹時でもインスリンの濃度がわずかに上昇すると、脂肪細胞における脂肪分解作業は阻害される[125]。細胞へのブドウ糖の取り込みを刺激するには、通常の6倍のインスリン濃度が必要になり、肝臓における糖新生Gluconeogenesis )を抑制するには、インスリンの濃度が2倍になるだけで十分である[125]

脂肪細胞が満杯になってしまう場合に備えて、新しく脂肪を貯蔵する場所を確保するため、インスリンは脂肪細胞を新しく作るよう信号を送る[42]

17歳の時に1型糖尿病を発症したある女性は、その後47年間に亘って太ももにある2か所の部分に、毎日インスリンを注射し続けた。彼女の太ももには、マスクメロン大の脂肪の塊ができあがった。これは、「彼女が何をどの程度食べたか」とは何の関係も無く、「インスリンによる脂肪生成効果」に他ならない。全身のインスリン濃度が上昇している時にも、同じ現象が起こる。糖尿病患者がインスリン療法を受けるとしばしば肥満になるのは、これが理由である。『ジョスリン糖尿病学』(『Joslin's Diabetes Mellitus』)には、「It results from the direct lipogenic effect of insulin on adipose tissue, independent of food intake」(「食べ物の摂取とは何の関係も無い、脂肪組織に対するインスリンによる直接的な脂肪生成作用の結果である」)と説明されている[42]

食後の血糖値の上昇とインスリンの分泌を最も強力に促進するのは炭水化物である[54]。タンパク質もインスリンの分泌を刺激するが、インスリンと拮抗する異化ホルモン、グルカゴン(Glucagon)の分泌も誘発する。一方、食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌にほとんど影響を与えない。この生理学的な事実は、低糖質・高脂肪食が人体に有益であることを示す理論的根拠となる[124]

肥満、インスリン抵抗性、メタボリック症候群、2型糖尿病を患っている患者が、炭水化物の摂取を制限し、脂肪に置き換えて食べると、最大限の効果が得られる可能性がある[126]

体重を減らしたい人、心血管疾患の危険因子を減らしたい人にとって、炭水化物が少なく、脂肪(トランス脂肪酸を除く全ての脂肪。飽和脂肪酸一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸)が多い食事はその選択肢となりうる[53]

脚注[編集]

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参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]