低炭水化物ダイエット

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低炭水化物ダイエット(ていたんすいかぶつ-、ローカーボダイエット、low-carbohydrate diets)とは、肥満糖尿病の治療を目的として炭水化物の摂取比率や摂取量を制限する食餌療法である。低糖質食糖質制限食[1][2]糖質制限ダイエットとも呼ばれる。

炭水化物摂取の基準は手法により、1日あたり糖質50グラム以下[3]または60グラム以下[4]アトキンスダイエット)、炭水化物質由来エネルギーが全エネルギーの40%未満[3]、1日あたり糖質130グラム以下[5]Richard K. Bernstein英語版[4]などがある。低炭水化物ダイエットでは糖質以外の栄養素を含む食品には制限をもうけない[3]

体重をコントロールする目的での炭水化物摂取制限には人気があるが、その長期的な健康上の利点やリスクについては論争がある[6][7][8][9]

手法[編集]

ゾーンダイエット[編集]

ゾーンダイエット英語版は、米国の生化学者であるバリー・シアーズ英語版が提唱した手法で、飽和脂肪酸の少ないタンパク質源を推奨し、炭水化物40%、タンパク質30%、脂質30%の割合で摂取するというものである[10]


アトキンスダイエット[編集]

アトキンスダイエットは1日糖質50グラム以下という極端な糖質制限を課す[3]ロバート・アトキンス英語版は肥満をひきおこすのは炭水化物だと1972年に著書 Diet Revolution で提唱し、ステーキ、卵、バターなどを望むまま食べながら体重を減らすことができると説いた[11]。この著書の販売数は数百万部を超えた[11]アトキンスダイエットは1970年代に流行し、2013年時点で再び流行している[12]。2003年のイギリスのアンケートによれば300万人が、米国では11人に1人がアトキンスダイエットを試したことがあると推定される[13][9]

江部康二は自らが経営する病院で生活習慣病患者に[14]アトキンスダイエットに近い[4]手法を推奨している。

論争[編集]

アメリカ医師会英語版は1972年にアトキンスが著書で推奨した手法を飽和脂肪酸コレステロールの多い食品を無制限に摂取することを推奨するひどい療法だと非難し、アトキンスが議会で証言するまでに至った[11]

炭水化物の危険性を訴える点で共通する[15]ロバート・アトキンス英語版バリー・シアーズ英語版らをパネリストとして招いて2000年2月24日にアメリカ合衆国農務省が "Great Nutrition Debate" と呼ばれるシンポジウムを主催した[16]。シンポジウムでは、彼らの人気ある手法の科学的妥当性についての懸念が栄養学者らから示された[15]

学協会の勧告[編集]

2013年のアメリカ糖尿病学会英語版の声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして2年までの短期間の低炭水化物食が推奨されたが、腎機能、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であるとされた[17]。2014年のアメリカ糖尿病学会の糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告では、血糖値コントロールには炭水化物カウント法などが重要だとされたが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず個人個人の食生活や好みに合わせるべきだとされた[18]

糖質制限食の流行を受けて日本糖尿病学会[3]2013年の提言で、日本人の肥満の是正と糖尿病予防に関しては「運動療法とともに積極的な食事療法」と「総エネルギー摂取量の制限」[19]カロリー制限[3])がもっとも重要であり、カロリー制限なしの炭水化物摂取制限は長期的な食事療法としての科学的根拠が不足しているため現時点では薦められないと呼びかけた[19]。同学会は、炭水化物摂取は日本人の平均摂取比率と同様の50~60%(150g/日以上)程度の比率を目安とし、どのような糖尿病合併症を持っているかによって増減させてもよいとした[19]。1日当たり炭水化物50グラム以下とするアトキンスダイエットなど極端な制限法をこの提言は否定したものと考えられる[20]

イギリスのDiabetes UK英語版1型糖尿病患者には低炭水化物食の有効性を示すエビデンスが不十分だとして薦められないとした[21]2型糖尿病には1年未満の短期間に体重減少効果がある場合があるが、長期的な効果やリスクについてはエビデンスが不足しており、低血糖症頭痛集中力低下・便秘等の副作用の可能性に注意が必要だと勧告した[21]

Physicians Committee for Responsible Medicine英語版によれば、アトキンスダイエットなどの高タンパク質・炭水化物制限の手法には、動物性の食事に起因する健康リスクへの考慮が不足している[12]

影響[編集]

低炭水化物食による体重減少の効果が低脂質食ゾーンダイエット英語版など他のダイエットより優れているかどうかについては相反する臨床試験の結果が報告されており、2014年のメタアナリシスの結果によれば効果に差はないと見られる[22]。6ヶ月の短期間では低脂肪食英語版と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり[23]便秘頭痛[24][25]口臭筋けいれん下痢脱力感発疹がより頻繁に見られる[25][26]。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との交絡が生じていると指摘され、研究にバイアスが生じている可能性がある[18]

短期的な影響[編集]

2003年、低脂肪食と低炭水化物食をランダムに割り振ったランダム化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重を減少させたが、1年間では有意な差が見られなかった[23]。2004年の研究では、6ヶ月の短期間に限り、体重が減少しているうちは、低糖質食を患者にすすめても安全だろうと提言されている[27]

ただし6ヶ月以内であっても、低炭水化物ダイエットでは便秘頭痛が経験されることが多い[27](ある3ヶ月の実験で16人中2人以上[24]、ある6ヶ月の実験で51%以上[28][25])。6ヶ月間の比較で、低脂肪食のダイエットと比較して低炭水化物ダイエットは口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られた[25]

低脂肪食よりも低炭水化物食の方が、より体重減少やHDLコレステロール・血清トリグリセリドの改善がみられた。[29]
糖尿病患者に対しての2年間の比較では低炭水化物ダイエットと高炭水化物ダイエットでの体重減少、HbA1cに差がなかったとの報告もある。[30]

4週間の実験で低炭水化物ダイエットは低脂肪ダイエットや低GIダイエットと比べて血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールが高くなり心血管疾患のリスクが高まった[31]、炭水化物より脂肪から多くカロリーを摂取するとアンケートに答えた人は乳がんのリスクが高い[32]、などの報告がある。

長期的な影響[編集]

10年以上の長期的な影響では、低炭水化物では死亡リスクが高いという2007年の調査結果がある[33][34]。低糖質食が死亡率心血管障害にどう影響するかを調べた2012年発表のメタアナリシスによれば、低糖質食は死亡率を増加させることが示された[6][35]

幼少期より10年以上にわたってインスリン治療を受けてきた1型糖尿病患者が、低炭水化物食開始と共に急速なインスリン減量を行ったところ、糖尿病性ケトアシドーシスを発症した例が報告されている[36]

死亡率に関する10年以上の長期追跡調査[編集]

  • 2007年、ギリシャで1993年から2003年にかけて2万2944名のコホート研究で、低炭水化物で高タンパクの食事はより高い総死亡率に関連付けられていた[33]。2007年、スウェーデンにおける4万2237人の女性での12年間におよぶコホート研究では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた[34]
  • 2010年、ハーバード大学による4万4548人の男性と8万5168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物食をベースとした低炭水化物ダイエットは男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物をベースとした低炭水化物ダイエットは死亡率を低下させていた[37]
  • 炭水化物を脂質に置き換える低炭水化物食を行った場合、摂取(置換)する脂質の種類(総脂質、飽和脂肪酸(SFAs)、一価不飽和脂肪酸(MUFAs)、多価不飽和脂肪酸(PUFAs)により全死因死亡率や心血管疾患死亡リスクが異なることが報告された[38]。この報告によれば、総脂質またはSFAsは全死因死亡率が上昇し、MUFAsではリスクは低下した。また、MUFAsは有意な減少であったとされた[38]

高タンパク質の影響[編集]

低炭水化物ダイエットでは、炭水化物の比率を減らすことからタンパク質の摂取量が多くなる[30][33][34]。2011年に6週間の高穀類繊維 (high cereal-fiber)の食事より高タンパク質の食事のほうがインスリン抵抗性を高くし、糖尿病リスクを上げることが示された[39]

2007年の世界保健機関による報告書では、高タンパク質食は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させるため、糖尿病高血圧多嚢胞性腎疾患によって腎不全の可能性がある場合には適切にタンパク質制限が行われるべきだとしている[40]。また、高タンパク質食では特に動物性タンパク質による腎結石のリスク増加がありうるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性タンパク質が望ましいとされる[40]

脚注[編集]

  1. ^ 江部康二「低糖質食(糖質制限食 carbohydrate restriction)の意義」『内科』105巻1号、100~103ページ、2010年。[1]
  2. ^ 江部康二「低炭水化物食(糖質制限食)の有効性と安全性 (香川栄養学園創立80周年記念事業 第22回 女子栄養大学栄養科学研究所 講演会 糖尿病治療最前線 : 栄養食事療法を巡って)」『女子栄養大学栄養科学研究所年報』(19):2013、37-50ページ。[2]
  3. ^ a b c d e f 田代 淳 学術研究 最近の糖尿病治療・食事療法の考え方 千葉県栄養士会雑誌No.11 2013.12.10
  4. ^ a b c 全国生活習慣病予防月間2013 第3回予防月間講演会 参加者からの質問: 食事指導に関するQ&A 「糖質制限」に関して 回答:池田義雄 2013年 日本生活習慣病予防協会
  5. ^ 原 純也 糖尿病食事療法「カーボカウント法と低糖質食」を知っていますか? 第546回「実地医家のための会」12月例会糖尿病ケアまるわかり講座 2012年12月8日
  6. ^ a b Noto H, Goto A, Tsujimoto T, Noda M (2013) "Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies". PLoS ONE 8(1): e55030. "Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies" doi:10.1371/journal.pone.0055030
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関連項目[編集]