おかま
おかま(オカマ、御釜[1])、日本において性自認(心の性別)が男性でありながら女装する男性(女装男性、女装家)[2]、又は男性同性愛者(ゲイ)も指す名称である[3][4][5]。
並びに性自認(心の性別)が女性であり、出生時の身体の性が男性のトランスジェンダー女性(トランス女性)全般に対しての差別や侮蔑的意味合いを持つ社会的偏見の標的として呼称や使用される場合がある。また、トランス女性自身は自虐する意味合いで自称する者もいる[6]。
反面にこの差別用語を逆手にとって日本では、マツコ・デラックスのような女装家、東郷健のように男性同性愛当事者や時にはトランス女性などが自らの性的マイノリティ(LGBT)としての誇りを持って自己や仲間へ唱えている者も中にはいる[3][4][5]
概要[編集]
「オカマ」は元々は肛門を意味する江戸時代の俗語であり[7]、転じてアナルセックスをする・される(おカマを掘る・掘られる)こともある女装をする男娼を指し[注 1]、1980年代頃から女性的な男性全般(非同性愛者含む)への名称になった[8]。なお、江戸時代には「おかまを割る」とも言った。
平成初期までは「オカマ」という単語はテレビや雑誌、果ては児童向け漫画・アニメなどでも普通に使われた単語であった。
元来ある炊事用具の おかま(御釜/御竈)は釜の丁寧語であるが、同性愛者の名称としての「カマ」が何なのかについては、底が丸く尻の形と似ている釜とする説、江戸時代に男娼を意味した「陰間(かげま)」がなまったものとする説、それに歌舞伎の「女形(おやま)」を関連づける説、梵語で愛欲を意味する「カーマ」を語源とする説など様々なものがある。
広義の男性同性愛者を指すときの「オカマ」は、(女性的な)男性同性愛者[3][4][5]、又はその中でもオネエ言葉を使う者、女装趣味の者、性風俗の職にある者、水商売や芸能の職にありショーなどを演じている者、男性から女性への性別適合手術を望まない性同一性障害の者、男性として出生したトランス女性全般など実際には異なる複数の概念が混同されている。
現在では「おかま(御釜)を掘る」という言葉は転じて、「交通事故での後部への追突」を表すスラングとしても用いられる[1]。
派生語には男性的傾向の強い女性同性愛者を表す「おなべ」、ゲイ男性につきまとう女性を表す「おこげ」などがある。
否定意見や論争[編集]
男性同性愛者の中でも、女性的な口調であるが女装はしない男性同性愛者(オネエ)や、トランスジェンダーの中で、女装だけして身体は男性のままでいたい人など、女性度が高い同性愛者は「オカマ」と自称する傾向がある。マツコ・デラックスは「オネエ」という配慮して産まれた呼び方を「無理に作った言葉」だとし、「体の中に“オネェ”っていう風習がないのよ」とコメントしている。そして、ゲイや女装へオカマという言葉を使うことを気にいっている。マツコは「オネェ」とは「オネェ言葉」のように口調に対する言葉であり、仲間内間でゲイや女装家に普段使う言葉ではないと述べている[2]。 男性同性愛者東郷健のよう自他共に呼ばれることを好む者もいる[3][4]。東郷は雑誌「ザ・ゲイ」編集長を務めた経歴があり、同性愛者や障害者らへの差別撤廃を訴える政治活動を展開しだした後は、衆・参院選挙や東京都知事選に立候補したが、いずれも落選した[9]。ゲイであると公的にカムアウトする日本人がいない時代に「何故君はやらないのか?男が男と寝ることを」「男が好きで何を悪い」と語っていた[10]。
そのため、2001年6月15日号の『週刊金曜日』の「伝説のオカマ」を自他共に呼称されてきた男性同性愛者である東郷健[3][4]についての記事「伝説のオカマ 愛欲と反逆に燃えたぎる」(及川健二 2001)のオカマという言葉を巡り、論争が起きている。
東郷健は、「伝説のオカマ」として根強いファンが存在しており、一部のゲイらは毎年命日には偲ぶ会が行っている。ゲイであることをカミングアウトしている松浦大悟元参議院議員、マンガ家/ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎らは2018年に開催された東郷の七回忌へ追悼コメントを寄せている[10]。
2020年3月、タイについての情報を扱うWEBメディア『タイランドハイパーリンクス』で、ライターの1人が執筆した記事について、「『オカマ』は差別用語」と抗議一本のみを受けたが、日本でテレビに出ているオネエタレントが自己へオカマを多用していて特に放送禁止用語ともされていないし、その他メディアや映画でも用いられていること、4000人に読まれた時点では抗議は唯一つであったことから問題ないと思っていることを明かしている[11]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ a b 日本国語大辞典,デジタル大辞泉, 精選版. “御釜を掘る(おかまをほる)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年2月23日閲覧。
- ^ a b “マツコが本音「オネェって言いたくない」と語った理由は?『かりそめ天国』”. plus.tver.jp. 2023年2月23日閲覧。
- ^ a b c d e “常識を越えて―オカマの道、七〇年”. 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア. 2023年2月23日閲覧。
- ^ a b c d e 株式会社ローソンエンタテインメント. “東郷健|プロフィール|HMV&BOOKS online”. HMV&BOOKS online. 2023年2月23日閲覧。
- ^ a b c 「常識を越えて: オカマの道、七〇年」,p18-20, 東郷健 , 2002年
- ^ “ゲイ用語の基礎知識 オカマ”. g-lad xx. 2023年4月21日閲覧。
- ^ 井上章一、古川誠 著、関西性欲研究会 編『性の用語集』講談社〈講談社現代新書〉、2004年。ISBN 4061497626。 NCID BA70044387。
- ^ 三橋順子 2009.
- ^ “元「雑民党」の東郷健氏が死去/同性愛者の差別撤廃訴え”. 四国新聞社. 2023年2月23日閲覧。
- ^ a b OIKAWA, Henri Kenji. “【追悼】「伝説のオカマ」東郷健さんの七回忌 日本のゲイ・ムーヴメントの先駆者 by 酒井佑人 | 日仏共同テレビ局フランス10”. 2023年2月23日閲覧。
- ^ 「オカマ」という言葉を使って「差別用語」だと読者に怒られる・・・ タイランドハイパーリンク 2020年3月14日 配信 (2021年4月25日閲覧)
参考文献[編集]
- 及川健二「個に生きる(5)東郷健 愛欲と反逆に燃えたぎる」『週刊金曜』第9巻第22号、2001年6月15日、NAID 40005028265。
- 松沢呉一、伏見憲明・及川健二・ほか『「オカマ」は差別か 『週刊金曜日』の差別表現事件』ポット出版、2002年2月。ISBN 4939015408。OCLC 55059651。
- 永六輔「オカマのことばはすばらしい(ことばからことばへ) (女とことば<特集>)」『月刊ことば』第4巻第4号、英潮社、1980年4月、2-8頁、ISSN 03865045、NAID 40004184670。
- 「ゲイとオカマとニューハーフ、違いは (またまたワイド 日本の疑問)」『サンデ-毎日』第78巻第26号、毎日新聞社、1999年9月16日、25頁、ISSN 00395234、NAID 40001488400。
- 三橋順子 (2009-06-12). “テレビの中の性的マイノリティ”. 週刊金曜日 17 (22): 22-23. NAID 40016598348.