帽子屋

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ジョン・テニエル筆による、ナンセンス詩『きらきら光るコウモリさん』を暗誦する帽子屋

帽子屋(ぼうしや、The Hatter)は、ルイス・キャロル児童文学不思議の国のアリス』に登場する、架空の人物である。

概要

彼は一般にはいかれ帽子屋The Mad Hatter)の呼び名で知られているが、原書の中で彼がこの名で呼ばれる場面は存在しない。『不思議の国のアリス』にて帽子屋が最初に登場する章「気違いのお茶会」(A Mad Tea-Party)は、しばしば誤まって「いかれ帽子屋のお茶会」と呼ばれるが、実際はこのお茶会は三月ウサギの庭園で催されている。

物語終盤で、ハートの女王のタルトを盗んだ容疑を掛けられたハートのジャックの裁判の証人として呼び出される場面では、ハートの王様は「そうびくびくせずともよい、さもないと死刑にするぞ」と声を掛けることで帽子屋を落ち着かせようとする。帽子屋は『不思議の国のアリス』の続編である『鏡の国のアリス』にも、白の王様の伝令の一人ハッタ(Hatta)として再登場する。

ジョン・テニエルによる挿絵では、小柄な体と、水玉模様の蝶ネクタイ、頭に被った異様に大きなシルクハットが特徴。帽子に添えられた「10/6」という札は、10シリング6ペンスの意味であり、当時のイギリスの通貨による帽子の値段である(物語内で、被っている帽子も売り物と自ら語っている)。

このキャラクターは「帽子屋のように気が狂っている(mad as a hatter)」という英語の慣用句が元になっており、その語源は、帽子のフェルトの加工過程に水銀が使用されていた時代に由来すると考えられる。当時の帽子製作において、帽子職人が水銀の蒸気を吸入するのを防ぐことは不可能であった。水銀の吸入を繰り返す内に、体内に残留した水銀は錯乱した発語行為や乱視などの神経障害を引き起こした。また水銀中毒が危険なレベルにまで進行すると、中毒者は幻覚などの精神錯乱の兆候を示すことがあった。当時の人々はいかなる精神の変容状態も「狂気(mad)」の一言で片付けており、それらの症状や続いて起こる死の原因は、まったく説明不可能なものであった。

モデル

ジョン・テニエルが挿絵に描いた帽子屋は、かつてオックスフォード大学のカレッジの一つクライスト・チャーチの用務員であったテオフィルス・カーターがモデルと考えられている。カーターは1851年ロンドン万国博覧会に出展された、起床時間が来ると傾いて眠っている人間を床に放り出す仕掛けの、目覚まし時計付きベッドを発明した。カーターは後に家具店を開業し、シルクハットを被って自分の店の玄関の前に立つという習慣から"the Mad Hatter"の呼び名で知られるようになった。テニエルは挿絵に用いるために、わざわざオクスフォードへカーターをスケッチしに来たと伝えられている。

原作以外での帽子屋

  • 1951年の映画。
  • 2010年の映画、『アリス・イン・ワンダーランド』では、帽子屋の本名はタラント・ハイトップ(Tarrant Hightopp)。彼の一族は、白の女王に仕える帽子職人だったが、ある日、赤の女王の軍勢に襲撃され、彼を残して一族は全滅してしまった。以来「アンダーランド・アンダーグラウンド・レジスタンス」として、お茶会の場で救世主・アリスを待ち続けていた。劇中ではワンダーランドの救世主の到来を意味する予言詩として「ジャバウォックの詩」を暗唱する場面がある。
  • アメリカの推理作家エラリー・クイーンの『Yの悲劇』では、主舞台のハッター家を「マッド・ハッター一族」となぞらえ、その一方で有名ないかれ帽子屋ほど狂ってはいなかったと記している。
  • エラリー・クイーンの短編「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」(創元推理文庫『世界短編傑作集 4』に所収、嶋中文庫版の作者短編集『神の灯』には「マッド・ティー・パーティ」のタイトルで所収)では、オーエン家のパーティーで『不思議の国のアリス』の一場面として「キ印のお茶会」が演じられ、帽子屋を演じた主人が行方不明となっている。
  • アメリカの推理作家ジョン・ディクスン・カーの『帽子収集狂事件』(原題" The Mad Hatter Mystery ")では、「マッド・ハッター」による連続帽子盗難事件が発生している。
  • コミックシリーズ『バットマン』には、『不思議の国のアリス』にのめり込み、自身も帽子屋の扮装をした怪人マッドハッター(本名:ジャービス・テッチ)が登場する。

その他

参考文献