半陰陽
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半陰陽(はんいんよう、Intersexuality,hermaphroditism)は第一次性徴における性別の判別が難しい状態である。インターセックス (intersex)ともいう。また、この性質を持つ人を半陰陽者、インターセクシュアル(intersexual 、ISと略すことも)と呼称する場合もある。
概要
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医学的には性分化疾患 (Disorders of Sex Development:DSDs) に分類される。ただし、呼称についてはインターセックス(Intersexuality)なども含めて当事者の間では賛否両論があり、まとまっていない(詳細は「性分化疾患」の項目参照)。
半陰陽は、遺伝子、染色体、性腺、内性器、外性器などの一部または全てが非典型的であり、身体的な性別を男性や女性として単純には分類できない状態である。正確な数は不明であるが、少なくとも数千人に一人の割合でみられるとされる。
一部のジェンダー論やクィア論などでは単純には分類できない多様な性別のあり方があるとし、この半陰陽を男女のどちらにも属さない「第三の性」と位置づけるとする考えもあるが、実際のところ、インターセックスの状態を持つ人々の大多数が、典型的な男性/女性としての性自認を持っており、むしろ「インターセックス」とのステレオタイプ的なラベリングは拒絶されることが多い[1] [2]。
たとえば、2004年から2005年にかけてドイツで行われた大規模調査[3]では、性分化疾患当事者439人のうち、自らを「男でも女でもない」とした人は9人で、残りの430人は通常の男性か女性の性自認を報告している。
陽と陰、男と女といった対立的にして補完的なものの調和を重視する陰陽思想などに基づいて、半陰陽を理想的な性別のあり方とする考え方もあった。
生物学的位置づけ
半陰陽の原因としては、性染色体に稀なものが見られる場合や、胎児の発達途中における母体のホルモン異常が引き起こす場合などがある。また、モザイク体と呼ばれる、性染色体の構成の異なる細胞を併せ持つ場合もある。
男女両性の特質を中途半端に兼ね備える場合や、遺伝子上の性別と肉体的それが通常の組み合わせとは反対の場合もある。両性の性腺を兼ね備えたものを真性半陰陽、遺伝子と外見とで性別の異なるものを、仮性半陰陽と呼び、後者は性腺上の性別によって、男性仮性半陰陽、女性仮性半陰陽として区別される[4]。
身体的には、女性仮性半陰陽の場合、膣が塞がっている場合が多く、また陰核が通常よりも肥大し、これが男性器(ペニス)と間違われることがある。男性仮性半陰陽では、尿道下裂[5]や停留睾丸を併せ持った状態のこともある。
性染色体異常
- クラインフェルター症候群:外性器・内性器など通常の男性形をとる。精子の減少、乳房発達や男性更年期障害、骨粗鬆症、二次性徴の欠如などが見られることがある。
- ターナー症候群:外陰部は女性型
- XX男性:外陰部は正常男性を示すが、尿道下裂
- XYY男性:外陰部は正常男性
真性半陰陽
真性半陰陽では、その性器の状態は人それぞれであり、またその要因は未だ解明されていない。人体に2つある性腺のどちらか一方が精巣、もう一方が卵巣である場合と、精巣または卵巣が左右揃い、染色体構造は「46, XX」に次いで「46, XY」が多く、「46、XX/46、XYモザイク」も多い。男性型では尿道下裂、女性型では陰核肥大、陰唇癒合。
- 性腺異形成症:外陰部は女性型となる。
- 混合性性腺異形成症:染色体分析で「45、XO/46、XY」などのモザイクを示す外性器が男女中間型を示す。
仮性半陰陽
- 男性仮性半陰陽
- 女性仮性半陰陽
- 先天性副腎過形成
- 水酸化酵素欠損症
- 男性ホルモン産生腫瘍
- 非進行性女性仮性半陰陽
仮性半陰陽の発生要因
仮性半陰陽の発生は、その根本的な原因は様々であるが、少なくとも男性ホルモンが関係しているとされる。
胎児における外性器の分化は、染色体や遺伝子ではなく男性ホルモンの働きに因る。外性器の発生する時期にこれが働くことで外性器は男性化を起こし、それがなければ未分化、すなわち女性的な外性器の状態を示す。
遺伝子上は男性であっても、睾丸が男性ホルモンを分泌しない、細胞が男性ホルモンに反応しないなどで外性器が完全には男性化しない、あるいは、遺伝子上は女性であっても母体などからの男性ホルモンの影響で外性器の男性化が起こるといわれている。
二次性徴
その根本的な原因により、二次性徴の表れ方は様々である。性腺の働きが正常で遺伝子的な異常の無い、単純な外性器の発達不全の場合には、二次性徴期に通常に性ホルモンが分泌され、(外見とは逆の)本来の二次性徴が発現するといわれ、この場合にはこの肉体的変化で気付くことが多い。また、男性仮性半陰陽の中で、睾丸が女性ホルモンのみを分泌する場合には、女性としては十分とはいえないまでも乳房の発達が起こるとされ、この様な場合には男性ホルモンが働かないために陰毛などが発生しないともいわれる。
性自認
2004年から2005年にかけてドイツで行われた大規模調査[3]では、インターセックスの状態を持つ当事者439人のうち、自らを「男でも女でもない」とした人は9人で、残りの430人は通常の男性か女性の性自認を報告しており、むしろ「インターセックス」とのステレオタイプ的なラベリングは拒絶されることが多い。
自己・周囲の認知
仮性半陰陽の場合、外見的には表に出ている男性または女性そのものであることも少なくないため、周囲はおろか当人も全くそれに気づかない場合もある。精巣や卵巣も形成され、外見通りの性別に(たとえ遺伝子情報のそれと反していても)成人する。
たとえば男性仮性半陰陽(遺伝子は男性だが女性の形態をとる)の場合、本人もそれと知らずに結婚、一生を女性として過ごすこともある。ただしこの場合、膣はあるものの子宮が痕跡的で少なくとも機能しないため、自然な妊娠はできない。少なくとも現在のところ、男性仮性半陰陽の女性が出産にまで至った事例は知られていない。クラインフェルター症候群などの男性は極端に精子が少ないため、自然的に受精させることはほぼ不可能だが人工授精での受精は可能である。不妊治療の過程で自分が半陰陽であることを知り精神的な打撃を受けることもある。
社会認知
社会的には現在、半陰陽の状態を持つ人々は差別以前に日本ではほとんど認知されていない。明治以前には少なくとも「ふたなり」という単語が存在する程度にはそれを認知していた。
しかし、明治になって西洋式の考えが導入された時点で、生殖能力に欠ける事が多く「産めよ増やせよ地に満ちよ」のできない、あるいは難しい半陰陽の状態を持つ人々は社会から無視され、単純に先天的疾患と分類するようになってしまったとも指摘される。
またごく最近では、性的ファンタジーとしての両性具有ではない、半陰陽の状態を持つ人の現実的な問題を描いた漫画『IS』(著:六花チヨ、講談社刊)や、半陰陽当事者である漫画家新井祥の作品などが話題となり、以前より少しは半陰陽の状態を持つ人々(インターセクシャル)の存在が認知されるようになった。が、これらの作品でも半陰陽について分かりやすい解説を加えているにもかかわらず、その概念が理解できず、未だに「性同一性障害」と混同している人は少なくない。
偏見と実像
インターセックス(性分化疾患)は両性具有なのか
まず第一に、性分化疾患とは、約60種類以上ある疾患群の総称に過ぎず、そのような単一の疾患があるわけではない。両性具有のようなイメージに参照されると思われる卵精巣性性分化疾患においても、性腺が精巣・卵巣に分化していない状態であり、両方の性腺を併せ持っているわけではない。その他の性分化疾患においても、内性器と外性器、性染色体などがマッチしていなかったり、内性器や外性器の発達が不十分だったり、性ホルモンが不足しているなど、「両性具有」という完全性をイメージさせる状態とは全く異なる。
インターセックス(性分化疾患)は「男でも女でもない性」「第3の性」なのか
上記にある通り、性分化疾患を持つ人達の大多数は、違和感なく通常の男性/女性として生活しており、むしろ、「男でも女でもない性」「第3の性」とラベリングされることは拒絶される場合が多い。たとえば通常の女性として育ち、性自認も女性の完全型アンドロゲン不応症の女性は、以前「精巣性女性化症」と呼ばれていたが、この疾患名は「女性ではない」という印象を与え、大きく傷つく人が多かったため、当事者の切実な要望から現在の疾患名に変更された。このような状況を代表として、通常の男性・女性の性自認を持っている当事者に対して、「男でも女でもない」と名指しすることは、実情に合わず、当事者を大きく傷つける可能性が高い。性分化疾患の当事者の中には、「男でも女でもない」と自認する人もいるが、それは、性分化疾患を持たない人の中にも自認する人がいて、性分化疾患を持つ人に限らず、厳に尊重されるべきである。
インターセックス(性分化疾患)の状態を持つ人の多くは間違った性別を与えられているから苦しんでいるのか
インターセックス(性分化疾患)について、「生まれた時に間違った性別を与えられている」「勝手に医者や両親が性別を決めている」「性別を決めずにインターセックスとして育てるべきだ」などと述べられることがあるが、これはすべて誤解である。まず、大多数の性分化疾患は、将来の性自認がほとんど自明であるか、出生時の検査によって判明する[要出典]。当然ながら、すぐには判明しないケースもあるが、インターセックス(性分化疾患)の当事者運動は、健康上の問題がない美容上の性器形成手術の弊害は訴えてきているが、性別決定そのものを否定しているわけではない。それ以前に、「間違った性別を与えられて苦しんでいるから、インターセックスとして育てるべき」との誤解は、ではインターセックスというもので育てれば、それは間違っていないのか、本人は苦しまないのかという大きな問題を持っていることに気がついていない。また、以前、フェミニスト生物学者のアン・ファースト=スターリンは、性器の形、内性器と外性器の組み合わせから、「5つの性別」にすればよいとした論文を出版したことがあったが、これは性分化疾患(インターセックス)の当事者から大きく批判された。性器の形(ペニスの長さが男性として適当かどうか)を基準に、正式な検査を行えば男性として育つことが自明であったケースにおいても、性器切除の上女性として育てられ、後に勝手に手術を受けさせられた当事者の人生が大きく狂ってしまうということが頻発しており、インターセックスの当事者運動は、性器の形だけで性別を決めないように訴えていたのだが、ファースト=スターリンの論文は、ファースト=スターリン自身が、インターセックス当事者運動の支援者であったにも関わらず、運動の目的を全く理解しないものであった。そのため、ファースト=スターリンは後に「5つの性別論」を撤回している。
インターセックス(性分化疾患)は「IS(アイエス)」と呼ばれているのか
コミックなどによって流布された誤解であるが、一部の当事者しか用いない。元々はトランスジェンダーの人々が使い出した略語であり、当事者から言い出した自称ではない。上記の通り、性分化疾患を持つ人々の大多数は通常の男性・女性として生活しており、「IS:インターセックス:中性」といったイメージは拒否されることが多い。また医療現場では、「副腎皮質過形成」「アンドロゲン不応症」「クラインフェルター症候群」「MRKH」などの個別の疾患名が用いられ、「性分化疾患」も「インターセックス(IS)」という用語も用いられない。「インターセックス」はもともと生物学の用語で、昆虫や爬虫類、魚類などに用いられた用語であったが、後に医学論文などで、人間に対しても用いられるようになっていた。しかしそれは、医学内部の論文などで用いられる俗称であり、実際は、昔の医療現場での告知では「hermaphrodite(半陰陽)」を基準にした用語が用いられることが多かったが、患者の心理的な状態を理解出来ない医師によって、誤って「インターセックス」という用語が用いられたり「男でも女でもない」と告知されるケースもあった。後に「hermaphrodite(半陰陽)」という用語も蔑視的であるとして医学・医療では用いられなくなっている。現在では「インターセックス」「インターセクシャル」との用語は、学術的論文では、以前のように、生物学の範囲でしか見られなくなっている。しかし、当然ながら、性分化疾患当事者が「インターセックス」という用語を用いてはいけないということではなく、それは個々の考えにより、厳に尊重されなければならない。 日本小児内分泌学会性分化委員会による平成20年3月1日付けの「性分化異常症の管理に関する合意見解」によって、国内での真性半陰陽については、Ovotesticular DSDと呼称するように提唱されている。
インターセックス(性分化疾患)の人々がいるので、生物学的にヒトの性別は2つではないのか
ジェンダー論やクィアセオリーなどでこう述べられることがあるが、「生物学的には」ヒトの性別は、性腺・外性器・内性器の組み合わせが典型的である男性・女性が大多数であるため、男性・女性の2つである。そもそも、「 インターセックスの人々がいるので、生物学的にヒトの性別は2つではない」との主張は、性分化疾患を持つ人達の通常の男性・女性としての自認を踏みにじることにもなりかねず、政治的な利用は厳に慎まれるべきである。もちろん、性分化疾患の人の中には、性自認が揺れている人もいるし、また個人的な政治主張として「男も女もない」と主張する人もいるが、それは、性分化疾患ではない人がそういう状態にあったり、そういう政治的信念を持つことと変わりがない。ただし、個人の政治的信念は厳に尊重されるべきである。
日本での法的な対応
出生直後に外見上の性別が不明瞭である場合、出生届等で性別留保という手続きをすれば戸籍には性別は記載されない。
手術
現在、日本において半陰陽の状態を持つ子が生まれた場合、整形手術が行われることが多い。特に生まれてすぐに手術を行うことで生殖能力の保持に関わるケースなどもあり、医師と親の判断に任されることが多々ある。しかし、本人の身体についての説明が十分でない場合、後に本人のアイデンティティを揺るがすことがある。手術をすることによって初めて自分の体に満足する人もいるが、インターセックスの当事者団体では、半陰陽の状態を持つ子供が生まれた場合、即座の整形手術は健康的な問題を含まない限り避けられるべきで、かつ、男性女性どちらかで養育するように推奨している(ただし、後々で明確になる本人の性自認は尊重すべきであり、成長に合わせた柔軟性も必要である)。モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則第18原則は特にこうした十分なインフォームド・コンセントの伴わない医療介入から児童が保護される必要性を訴えている。
手術の問題点としては、説明が十分になされないゆえのアイデンティティの危機、性感帯の切除による満足の減少、また、ホルモンの減少によって骨粗鬆症になりやすくなる、精神が不安定になる場合がある(骨粗鬆症に関しては、生来的なホルモン不足により起こることがほとんどで、その上ではホルモン投与などの治療はむしろ推奨される)。
俗語・その他の呼称など
半陰陽はふたなり(二成・双成)、両性具有(りょうせいぐゆう)、アンドロジニー (androgyny) と呼ばれることもある。また、半陰陽者のことをハーマフロダイト 、 ギリシャ神話に出てくる半陰陽の人物ヘルマプロディートスの名をとってヘルマプロディトス (Hermaphroditus) 、アンドロギュノス (Androgynous) と呼ぶこともある。
関連項目
- 性別 - 男性 - 女性
- 性的少数者
- 性分化疾患
- 性同一性障害
- モントリオール宣言
- ジョグジャカルタ原則
- クラインフェルター症候群、ターナー症候群は染色体異常、性別を参照
- アンドロゲン不応症
- 性決定遺伝子
- 雌雄モザイク
- 作品
- 美少女戦士セーラームーン - 武内直子の漫画。天王はるか(セーラーウラヌス)
- 性別なんて決められない!、恋せよオトメン☆ - 自身も半陰陽である漫画家矢吹レオのエッセイ漫画。
- すぷりんたあ - 寺内大吉の小説
- セックス・チェック 第二の性 - 「すぷりんたあ」を原作とする増村保造監督の映画
- 仮面の女 - 「すぷりんたあ」を原作とするテレビドラマ。
- リング、らせん、ループ、バースデイ - 鈴木光司の小説。山村貞子。なお映画版では半陰陽の設定は描かれない。
- 二分割幽霊奇譚 - 新井素子の小説。
- IS〜男でも女でもない性〜 - 六花チヨの漫画。及び、漫画原作を元にしたドラマ作品。
- 革命の日 - つだみきよの漫画。
- インターセックス - 帚木蓬生の小説。
- 診療科
- 人物
- 新井祥:漫画家。自身が半陰陽であることを「性別が、ない!」シリーズで取り上げる。
- 橋本秀雄:日本半陰陽者協会代表。
- ジョン・マネー:アメリカの心理学者・性科学者で、性分化疾患(半陰陽)の研究で有名。身体的性別とは別個にあるジェンダー・アイデンティティを見いだした。「ジェンダー・アイデンティティの形成は、生物学的要因による先天的なものか環境要因による後天的なものか」との論争において、環境要因を重視し、外性器を失った男児デイヴィッド・ライマーを女児として育てさせるよう両親に勧め、女性としてのジェンダー・アイデンティティを獲得するようカウンセリングをおこなった。
- デイヴィッド・ライマー:乳児期に医療事故で陰茎を失った後、ジョン・マネーの助言によって、14歳まで両親より女性として育てられた男性。しかし彼自身は環境によって女性であることのジェンダー・アイデンティティを持つことはなく、この悲劇を防ぐために自らの体験談を世間に公表した。
- スタニスラワ・ワラシェビッチ:元陸上競技選手。女性選手として新記録を残したが、死後、両性具有者であることが判明した。
- キャスター・セメンヤ:南アフリカ共和国の陸上競技選手。2009年世界陸上女子800mで優勝し、その後の医学的検査で両性具有者と判明したと報じられた。[1]
脚注
- ^ “Does ISNA think children with intersex should be raised without a gender, or in a third gender?” (英語). ISNA. 2010年12月7日閲覧。
- ^ “インターセックスについてのよくある質問 (FAQ)”. 日本インターセックスイニシアティブ. 2010年12月7日閲覧。
- ^ a b “Clinical evaluation study of the German network of disorders of sex development (DSD)/intersexuality: study design, description of the study population, and data quality” (英語). BMC Public Health (2009年4月21日). 2010年6月25日閲覧。
- ^ 横田 & 迫間 1935, pp. 785–786
- ^ 横田 & 迫間 1935, p. 788
参考文献
- 横田, 浩吉; 迫間, 忠義 (1935), “半陰陽”, 京都府立医科大学雑誌 15 (3): 785-794 2009年10月3日閲覧。