便器

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便器(べんき)は、人間が主に小便排泄に使用する衛生陶器であり、建築部材である。設備の設置には給水排水工事を伴うため、工事は衛生設備工事業者が行うのが普通である。世界中のあらゆる建築物、住宅や施設の便所に、様々な設計や形態で設置されている。設置の仕方や汚物の処分方法は、使用されているそれぞれの国の人々の生活習慣によって違う。

小用専用の小便器と、大小用兼用の大便器がある。大便器には、トラップとよばれる水たまりを持つ水洗式の便器と、主に汲み取り式として使われる、便器に穴が空いた落下式の便器がある。

水洗式便器は、下水道が設置されている地区では下水道に接続し、下水道が設置されていない地区では浄化槽に接続する。浄化槽の場合は、内部に分解された汚泥がたまるために年に1回から2回程度汲み取る必要があり、処理をするためのバクテリアの補充などのメンテナンスを必要とし、バクテリアが弱まった場合等に投入するバクテリアの補給や、バクテリアの活性剤は大便器(和式便器や洋式便器)から流し込み、浄化槽に供給する。


小便器

壁掛け型小便器 センサーフラッシュバルブ方式
床置型(ストール)型小便器

日本にある近代的な陶器製の小便器は、主に男性用で、座らずに用を足す形になっている製品がほとんどである。衛生面から跳ね返り、尿石の付着を防ぐためにトイレボールと呼ばれる洗浄薬剤を排水口付近に置いたり、水洗式小便器上部の給水管に連結したサニタイザー(薬剤供給装置)により薬剤を便器に供給することもある。

古い公共の施設(公園などの公衆便所鉄道駅の構内など)では混雑時に複数人同時に並んで用が足せるように個別でない設備もあり、その場合人の立つ場所が一段高くなって、向かい側の溝に流す形になる。しかし近年は個別の設備が並んで設置されるのがほとんどである。

種類

  • 床置型(ストール)型小便器- 大型、中型、小型に分類され、公衆便所に並んで設置される場合、ささやかな仕切り板が付けられることがある。 以前の水洗便所用の製品ではトラップが無く、別に地中に埋め込まれた鉛管のトラップと組み合わせた方式であったが、現在の製品は大方が施工が容易な便器作り付けのトラップであり、尿石付着時の清掃を容易にする為にトラップが脱着式になった製品が製品が殆んどである。 また、トラップが無い製品は汲み取り便所で使用される場合もある。
  • 壁掛け型小便器 - 戦前からあり、俗に朝顔と呼ばれる普及品であったが、成人男性の股間の高さに設置されていることが多く、このタイプは子供には使いにくい。このため、低めの高さに設置されたり、踏み台を設けたりすることもある。
  • 筒型小便器 - 和風の飲食店のトイレで使われることが多く、はね返りと臭気防止のためを投入してある(尿素アンモニアへの酸化分解による臭気発生を低温にすることで防ぐ)場合もある。
  • 省スペース型小便器 - 一般住宅でも取り付けが可能な細身のデザインとなっている。TOTOでは「スリムU」の愛称がある。(ただし、2005年6月に生産終了した。現在では発売されていない)
  • 女性用小便器(サニスタンド)- アメリカで1930年代に当時は高級品のナイロンストッキングが普及した際、腰掛式では座った際に伝線などの恐れがあったが、中腰ならそれが防げるとして発売された女性の立ち小便用の便器。日本では1951年に東洋陶器(現・TOTO)が製造・販売を開始したが、まだ和服が多く、女性が座らず小用をするとは奇妙な製品だと一般に受け取られ、その結果普及せず、1971年に製造中止となった。なお、東京オリンピックの際には、外国の女性選手のために国立霞ヶ丘陸上競技場内に設置された。
  • 幼児用小便器 - ストール型小便器を幼児(男児)が使いやすいようにサイズを小さくしたもの(通常のストール型を幼児用として設置する場合もある)。幼稚園保育所及び公共施設(近年(百貨店ではかなり前から)、母親と共に訪れた幼い男児向けに、このタイプの小便器が女子トイレや多目的トイレに設置されていることが多い)で用いられる。INAX製のものはミニチュア版ストール型小便器といった形だが、TOTO製のものは丸型の独特の形をしている。
  • 尿瓶(男性用、女性用)
  • 尿筒(しとづつ)

構造

上部を起点に:上水道管、洗浄用のフラッシュバルブ(センサーやハイタンクによる自動洗浄の場合は水道管のみ)、洗浄水の吐水口、中心部、リム部(排泄時にちょうど尿が当たる部分)、排水口、陶器製のトラップ、配水管、排水管の途中に設けた排水トラップの順番となっている。

一方、壁掛け型小便器は便器本体がボルトやネジで壁に固定されており、便器の下部に排水トラップが露出している。

大便器

大便器は大小用に用いられる普通の便器のことであり、しゃがみこみ式(おもに和式・和風)と腰掛式(おもに洋式・洋風)がある。

和式大便器(和風大便器)

ロータンク付き和式洗落とし大便器 明治時代の和式大便器(禅寺)
左: ロータンク付き和式洗落とし大便器, 右: 明治時代の和式大便器

しゃがみこみ式のひとつで、日本特有の構造であることから通常は和式と称される。和便(わべん)または日本式とも言う(韓国など海外では「東洋式」と呼ばれる場合もある)。床に埋め込まれる形で施工される、跨り屈んで使用する大便器。材質は陶器製で、列車用などにはステンレス製、公衆便所等の一部にはFRP製もごく少数ある。便器前部に、金隠しと呼ばれる部分があり、その形状は長らく半円状であったが1990年代頃より台形状にモデルチェンジされたものが殆んどである。

和式便器は平面床に埋め込んで施工される一般の和式便器と和式便器を一段(20~30cmほど)高くした床に設置し、便器後部を段違い部に張り出させて男子小用を兼ねる両用便器(兼用便器、段差式とも呼ばれる)が存在し、後者は小便器の設置空間が取り難い日本の住宅環境もあり、一般住居で広く採用された。

和式水洗便器の給水方式は床上給水式と床下給水式がある。

床上給水式は金隠し前部にある給水口に、タンクからの給水管やフラッシュバルブを直接、接続する方式で、施工が容易な為、隅付ロータンクと組み合わせた和式便器や、戸建住宅に施工されている和式便器の殆んどがこのこの床上給水式である。特に木造住宅の場合床下給水式で施工した場合、給水管と根太が干渉し、根太の下から給水管を通すと給水管にトラップが形成され洗浄機能に著しく影響する為に、施工の際、根太を欠き取らねばならないという面倒な施工方法を強いられる為に、一般的に木造住宅では床上給水和式便器で施工される。しかし、この床上給水式は給水管が露出する為目障りであり、さらにフラッシュバルブ給水の場合フラッシュバルブの位置が低位置となり、操作レバーを足で操作されることがあり故障や汚損の原因になったり、しゃがみこんだ時に給水管やフラッシュバルブが邪魔になり排便位置が後ろよりになりやすく、便器後部のリム部に汚物が付着する事があり、さらに、清掃時に給水管が邪魔になるなど、機能面・美観面で不利な面がある。

床下給水式は給水口が金隠し部の床下にあり、地中に埋め込まれた給水管と接続されるが、地中に埋め込まれた給水管には主に鉛管(便器接続部付近は銅管)を使用する為に鉛管を曲げ加工する熟練した職人を要し施工が難しい反面、給水管が露出せずフラッシュバルブを壁や便器から離れた場所、壁内等の自由な場所に設置出来、壁フラッシュバルブの場合、床上給水式とは違い、しゃがんだ時にフラッシュバルブを邪魔にならない位置に設置できる事から、排便位置が後ろよりになる事も少なく、便器から離れた場所や壁内にフラッシュバルブを設置した場合、和式便器の個室内は便器と壁に取り付けたフラッシュバルブの起動ボタンや起動センサスイッチーのみで給水管が全く露出しないトイレにする事も出来る為、清掃面・悪戯防止・施工後の見た目がスッキリしているなど、機能面・美観面で優れている為、デパートホテルオフィスなど非住宅のパブリックな空間で、主にフラッシュバルブとの組み合わせで広く採用されている。

また床下給水和式便器の場合 給水口が便器の通水部(リムの下部)より低い場所にある為、金隠し部の残水を排出する排出用の小穴(冬場の残水凍結による破損防止のため)が設けられている。

一般便器では鉢の長さを伸ばして金隠しの高さを低くした(少しでも前方にしゃがませて便器後方リム部への汚物付着防止を図った)エロンゲートタイプが増えている。


和式便器とタンクやフラッシュバルブからの給水管(水道管)の接続にはスパッドとよばれる真鍮製のテーパー状の部品を便器の給水口に組込み接続する。和式便器の給水口内もテーパーになっており、スパッドにはテーパー状になった合成ゴム製のスカートパッキンが付いており、これを便器給水口に挿入し、外パッキンと挟み込み締め付けることにより、完全に半永久的に便器に密着して漏水しないようになっている。スパッドの殆んどは便器の洗浄管(給水管)同様ニッケルメッキされているが、床下給水和式便器用のスパッドは地中に埋め込まれることからメッキ無しで真鍮の地肌剥き出しとなっている。

和式便器はコンクリート床に埋め込んで施工されるが、コンクリートの収縮や床のひずみなどによる陶器の破損防止の為に陶器とコンクリートが接する埋め戻し部分には緩衝材としてアスファルトが各メーカー出荷時より標準で塗装されている。(アスファルト塗装無しは注文生産)

また和式便器の排水口部は便器の排水部を排水管下水管)に直接差し込む一般型と便器の排水部にフランジがあり、便器のフランジと排水管(下水管)のフランジにガスケットを挿み、繋ぎ合わせるフランジ型がある。


和式便器には詰まりが発生した時に容易に異物を取り除けるように掃除口を設けた和風便器がパブリックのトイレを中心に設置されている事が多い。掃除口付き和式便器は便器後方にステンレスの蓋が付いた掃除口があり、掃除口は便器の排水部分に繋がっており異物を簡単に取り除けるようになっている。一部の掃除口付き和式便器は掃除口が便器のボウル部分(便鉢部)にあるものもある。

和式水洗便器初期の頃の製品はトラップが別に作り分けられた分離トラップ式であったが現在は不凍帯にトラップを埋め込む寒冷地仕様の一部以外はトラップが一体に作りこまれた便器のみが生産されている。

幼稚園、保育園向けにサイズを小さくした幼児用も存在する。特にTOTOの幼児用和式便器であるC103は金隠しが丸型の一般用旧型和式便器C75(現在は廃番)をミニチュアにした形である。

金隠しが凶器となるおそれがあるため、刑務所用に金隠しの無いタイプもある。

便器に直結されているフラッシュバルブや給水管につかんでしゃがみこむとパイプ管を破損する恐れがあるため、列車便所のように便器の前に手すりを設ける場合もある。

洋式への移行

水洗便器の場合、住宅やオフィスの新築・リフォーム用としては洋式型に移行が進み、公共空間でもバリアフリーの観点から洋式の設置が進められている。しかし不特定の人が利用する便座に直接座ることを好まない人もいるため、不特定多数の利用がある公共施設への和式設置を望む声もあり、すべてを洋式にというわけには行かないようである。住宅用では、腰掛便器に改造工事ができるアタッチメント(TOTOの商品名は「スワレット」)もあり、簡単に腰掛式にリフォームできるようになった。

その他のしゃがみこみ式

しゃがみこみ式には和式以外にもいくつかの伝統的な洋式が存在する。

  • アラブ式
中東からアフリカにかけてのイスラーム文化圏に多く見られる様式。金隠しがなく、しゃがみこむ際に足を乗せる部分も一体になっている。
  • トルコ式
アラブ式から発展した形態で、日本では腰掛の「洋式」と区別するため(イスラーム圏の)トルコ式と呼称しているが、実際にはヨーロッパキリスト教圏の国で見られる形態である。
日本においてはこの便器をモチーフにした製品をかつてスターライト販売が生産していた。黒色プラスチック製のたらいに足場を設けたような風貌で、便器全体を洗浄するという非常に画期的な便器であった。かつては国鉄の主要駅や全国の公衆便所で採用されたが、いずれの形式も金隠しがない、ボウル面が狭い、しゃがみこんだ時の足幅が狭いなど、和式ほど洗練されていなかったこと、日本型の水洗便所に適さなかった等、文化的に受け入れられなかったかった事から現存数は少ない。

腰掛大便器(洋式・洋風大便器)

水洗便所、簡易水洗便所のほか、非水洗にも商品がある。男女大用、女子小用は便座に腰掛け、男子小用は便座を上げ立位で使用する便器で、本体の他、便座、便蓋で構成される。

日本ではペリー来航以来欧米諸国から伝わったため洋式と称するが、しゃがみこみ式に比べ洋式の形態は多様ではなく、ほぼ世界で共通した形式と言える。また西洋でもしゃがみこみ式の便器の採用例は多いが、日本では「洋式」と称した場合この腰掛式を指す。

身体障害者の使用に資する他、快適性の向上を図るため、

  • 便座が電熱機能を持った暖房便座
  • 温水を噴出させ大小用後の洗浄ができる温水洗浄便座(商品名:TOTO「ウォシュレット」、INAX「シャワートイレ」など)が開発され、広く普及している。

和式便器に比べ、使用姿勢の支障のなさや安定性に勝り、生活空間の水まわりにおけるバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化の核となる機器であるが、使用時に便座が直接身体に接触することが嫌われるほか、公共便所における清掃性、堅牢性は一般に和式便器の方が高い。洋式に慣れない中高年の一部には、便座を上げて便器の縁に足を乗せ、和式便器と同じ体勢で排便する者も存在する。

近年、さらなる高機能化が進み、便蓋の自動開閉、便器の自動洗浄機能などを搭載する商品も多くなり、電装化の進みつつある製品でもある。

なお、便器鉢部分の前後方向長さから、大きく分けて標準サイズとエロンゲートサイズ(大型)がある。大きさとしては標準サイズが32~34cm、エロンゲートが36~38cm前後と3~4cm程度の差であるが、洗浄方式(下記)においてサイホン式やサイホンゼット式が一般化したことや、便器そのもののサイズがコンパクトになったことから、近年はエロンゲートが主流となっている。また、背の低い子どもでも安心して使えるように高さを低くしたものもある。

幼児用の便器と通常の便器

身体障害者用として長方形、長円形のものや車椅子で移動しやすいように高さを上げたものも存在する。長方形や長円形のものは前向きに座っても、後向きに跨いでも使用できる。

幼児用として小型サイズのものもあり、幼稚園や保育園、近年では商業施設や公共施設の多目的トイレにも用いられる。これには洋式便器のミニチュア版と細長い長円型があり、後者は前向き、後向きどちらにでも座って(跨いで)使用できる。また、便器の蓋の代わりに幼児用の小さい便座を装備した「親子便座」を設けることも多い。

相撲部屋においては力士の体重に耐えられる大型の洋式便器が設置されている。

洗浄方式

もっとも簡易な普及品なのが洗い出し式、洗い落とし式であるが、構造上の欠点も多く、便器として性能が高いのは快適性や洗浄力を高めるべく開発された、サイホン式、サイホンゼット式である。汚物を水没させて便器の汚れ付着や臭気発散を防ぐ封水(溜まり水)の大きさ、洗浄力や排出力の強さと、背反となる洗浄水量の節減とが特にオイルショックに始まる「省資源時代」の技術的課題である。

在来型の便器は便鉢外周の縁(リム)内に水を流し、その下部に幾つも設けられた孔から便器内に吐水するが、INAX(当時は伊奈製陶)の節水型タンク密結便器「カスカディーナ」以来、洗浄水の水勢を損なわずに効率的に便鉢洗浄する設計とするため縁水路を廃止しノズル吐水を行う構造が改良されてきた。このような構造は最近の家庭用新設便器において定着した感があり、さらに高級住宅向け便器として、洗浄、排出を電磁切り替えで行う水道直圧による節水便器(TOTO「ネオレスト」、INAX「サティス」)の拡販が図られている。

洗浄水量は、洗い落とし式で10リットル前後、サイホンゼット式では13リットル(いずれも大洗浄)というのが一般的であったが、最近は大洗浄で8リットル、小洗浄では6リットル程度への節水化を果たした新型製品が品揃えされた。その契機となったのは、1978年から1年近くにわたって続いた福岡大渇水であった。福岡市ではこの大渇水を契機に、サイホン系であっても洗浄水量を10リットルにするよう条例で義務付けた。これに“地元”のTOTOがいち早く対応し、「福岡市専用」商品を発売した。その後全国でも渇水の影響が広がったことから、現在ではライバルメーカーを含め節水型を「基本商品」に位置づけて対応。更なる節水効果をうたった商品も販売されている。

洗い出し式(和式)

和式便器で一般的な方式であり、もっとも安価なものである。使用中は汚物をいったん便鉢部分にためてから、リム部および後部からの水勢で汚物を流す。便鉢奥側にトラップ(排水路の封水)があるが、手前側の便鉢部の溜水部が少なく汚物が空気に触れるため臭気が発散しやすく、汚れの付着も多い欠点がある。

洗い落とし式(腰掛式、和式)

和式便器にも存在しているが、特に腰掛便器普及品の洗浄方式である。便鉢に吐出された水勢のみで汚物を排出する。欠点としては封水面が小さいため、汚物が付着しやすいほか、座面と封水との落差から水のはね返り(汲取式便器にならって、俗に「おつり」という)を気にする使用者も多い。ちなみに、洗い落とし式の和式便器は、現在は、寒冷地対応品(寒冷地仕様)程度にとどまっている。

ネオボルテックス式(腰掛式)

洗浄水の渦作用と水勢で流す方式。洗い落とし式の一種であるが、洗い落とし式の排出力の弱さを水流によって作る封水面の渦水流によって補う方式で、封水面も洗い落とし式より広い。便鉢はサイホン式より小さくなるが、洗い落とし式に比べ高い性能を、サイホン式より少ない洗浄水量と低価格で実現し、あわせて狭小現場への対応を図ることを狙いINAXで開発された方式で、タンク密結式の他に、一部公共用システムトイレ製品(壁掛式洋風便器)も発売されている。システムトイレ用のネオボルテックス便器はTOTOでも発売されている(TOTOでの呼称は「ニューボルテックス式」)。2006年には溜水面を拡大した「ワイドボルテックス式」がマンションリフォーム用に追加された。マンション用の排水芯が高い(155mm)床上排水では、サイホン作用を作ることが難しいため、ネオボルテックス式をベースに大型便器に適した改良がなされた。

サイホン式(腰掛式)

屈曲した排水路により管内を満水させ、サイホン作用を起こさせることによって汚物を吸引して排出する方式。大きな封水と強い排出力を持つ上位機種である。欠点としては吸引時の空気巻き込みによる騒音発生があるが、現在の住宅新築用では主流となっている方式で、性能確保と節水、消音化との両立が技術課題である。

セミサイホン式(腰掛式)

サイホン式の一種であるが、便鉢や封水量を小さくし、洗浄水量の節減と低価格化、あわせて狭小現場への対応を図ったTOTOの方式である。 欠点は便鉢および便座の小さいこと、及び汚物がサイホン式と比べ付きやすいこと。

サイホンゼット式(腰掛式、和式)

サイホン式をさらに強化し、封水部から屈曲部に向けてゼット孔を置き、このゼット孔からの水流で強制的にサイホン作用を起こさせる方式である。サイホン式よりさらに大きな封水面と強い排出力を得られるが、大きな封水面とゼット孔水流の必要から洗浄水量は多くなり、サイホン式に比べより大きな騒音や高価格となるのも欠点である。サイホン式同様の技術課題により公共用、タンク密結式とも改良が行われており、採用は多くなってきている。和式便器も発売されていたが、現在は発売が中止されている。

サイホンボルテックス式(腰掛式)

高級住宅向けのタンク一体型超消音便器として開発された方式で、便器の奥に一体化されたタンクから洗浄水を短時間に独特の窪みのついた便鉢の封水下へ吐出させ、落水音なく水位差をつくり、空気を巻き込まない渦作用の起こる便鉢形状によってサイホンを発生させ、空気を吸い上げることなく排出する。排水路の構造が複雑なため異物の詰まりやすい傾向があり、また大量の吐出水を確保するため洗浄水量はサイホンゼット式よりさらに多くなり、節水面、維持費用面の欠点となるが、強い排出力のほかサイホンゼット式よりさらに大きな封水面を確保でき、徹底して空気の巻き込みを排した洗浄騒音の静粛さが特徴である。タンクが便座とほぼ同じ高さにありローシルエットである。高級住宅、ホテルのほか、公共用にも静粛性が求められる場所で採用されている。

ブローアウト式(腰掛式、和式)

強力な水勢のゼット孔をトラップ底面から排出口へ向かって設け、もっぱらその噴出力で汚物を排水路へ吹き飛ばし排出する方式。封水面が広く排出力が強い。サイホンゼット式と違い、サイホンを発生させず排出力は水勢のみで排水路の構造を直線化でき、特に異物の詰まりに強いが、その反面、水勢を強い噴流発生に集中させるため、便鉢流下水が少量となり洗浄力がやや弱いほか、構造上噴流が空気中に露出し騒音が非常に大きいのが欠点で、洗浄方式もフラッシュバルブに限られ住宅用には適さず、特に詰まりへの強さを期待する公共便所やシステムトイレで、近年腰掛式、和式とも採用が広がっている。

水道直圧式(腰掛式)

TOTO「ネオレスト」(同社は「シーケンシャルバルブ式」と呼ぶ)やINAX「サティス」(同社は「ダイレクトバルブ式」と呼ぶ)の洗浄方式で、サイホンゼット式に準ずる封水を持たせ、

  1. 水流を便鉢に流下させ洗浄
  2. 続いて排水路に噴流を流し排出
  3. 排出後再び洗浄水を流下、便鉢の封水を復元する

一連のタイミングを電磁弁でコントロールして便器洗浄する節水型便器。2006年現在、大6リットル洗浄をいち早く実現している。汚物をゼット孔の噴出力のみで排出することからブローアウト式の一種といえるが(ただしTOTOでは「サイホンゼット式」の一種としている)、特有の騒音はゼット孔を排水路の深い位置に置くことや噴流の噴出時間を自動コントロールすることで抑制している。洗浄操作を自動化(センサー化)した操作性、ロータンクを廃止したデザイン性や節水性に優れるほか、貯水が不要となり連続使用も可能にするが、停電時は特殊な手動操作により洗浄しなければならないほか、一般に便鉢の洗浄力はサイホン式よりやや劣り(サイホン式は便鉢を100%の水流で洗うが、この方式の場合は70%程度)、水圧の低い場所では使用できないのが欠点である(INAXサティスは、水圧の低い場合にそれを補う低流動圧対応ユニットをオプションで用意している)。

ハイブリッドエコロジーシステム

TOTOの商品。水道直圧式をベースに小型タンクを組み合わせ、水道から直接流れてきた水はボール内の洗浄に、内蔵タンクからの水はポンプで加圧してゼット穴部分から勢いよく噴出させる新洗浄方式。これにより従来タンクレストイレが使えなかった水圧の低い場所(戸建て2階、マンションの高層階、高台など)でも使用可能になっている。2007年8月1日発売の「ネオレストハイブリッドAH」で採用。[1]

6リットル便器

  • INAXでは2006年より、大洗浄6リットル・小5リットルを実現した節水便器「eco6」(エコシックス)を発売している。現在の節水型サイホンゼット便器が限られた洗浄水量において排出性能確保をゼット孔吐出水に依存しており、便鉢流下水量を制約して洗浄力を低下させているとの反省に立ち、節水と便鉢洗浄力向上との両立を念頭に再設計された新系列である。ゼット孔を設けず、独自設計の分配管を介して洗浄水を吐出させる「まる洗い洗浄」を核にしたサイホン式(サティスアステオ・アメージュV・Pita)およびネオボルテックス式(アメージュC)と、「まる洗い洗浄」にゼット孔排出を併用した水道直圧式(サティス)との3種が品揃えされた。
  • TOTOも同年8月より、INAXサティス競合品のネオレストで大6リットル・小5リットル・男子小4.5リットル洗浄の新シリーズを発売した。さらに11月からは、ピュアレストシリーズやウォシュレット一体型便器:Zシリーズ、住宅用システムトイレ:レストパルSXなどのロータンク式サイホンゼット便器で便器内部構造の改良により6リットル洗浄を実現している。

注意事項

節水効果を上げるため、よくサイホン系でタンク内にペットボトルや煉瓦などを入れ、タンクに貯水できる水量を減らすことが行われているが、メーカーでは「これは誤りで、却って故障の原因となる」として、行わないよう求めている。

タンクを用いるものでは、タンクと便器が一体となって設計されており、タンク満量の水量でどんな糞尿でもきれいに洗い流すことができるようにしている。九州朝日放送ドォーモ』が、地元ということでTOTO本社に行ってトイレ開発の現場を取材した際にも、関係者が開発のやり方を見せながらそのように指摘したことがあった。節水化の方式としては上記の便器における排水形状の変更だけではなく、便器に被膜することで、汚れにくくするとともに少ない水量でもきれいに洗い流せるようにしているものもある。TOTOは「Ce F ion Tect」(セフィオンテクト)の名称でこの技術に関する特許を取得しており、他の自社水回り商品だけではなく、自動車のサイドミラーにも応用されている。

水洗便器にはトラップと呼ばれる排水路の封水(水溜り)があり、下水道の悪臭や硫化水素等のガスを遮断する。また衛生害虫ネズミ等を排水管から屋内へ侵入するのを防ぐ。 長期間便器の使用(通水)が無いと蒸発により内部の水が減少し排水トラップ内の封水が乾いたり、自己サイフォン現象や管内の負圧が大きいと破封(トラップ内の水が減少しトラップとしての機能を失う現象)が起こり悪臭や硫化水素等のガス、衛生害虫ネズミ等が排水管から屋内へ侵入する恐れがあり、場合によっては破封した便器のトラップから下水管からの騒音が聞こえる場合もあり、破封が起こらないように配慮が必要である。 また便器のトラップに溜まった水が、ゆらゆらと動く事があるが、これは下水管の負圧から起きる現象で、これが強くなると破封が起こる原因となる。


給水の形態

フラッシュバルブ式

水道管に直接、バルブ操作後一定時間水の流れるフラッシュバルブを取り付け、便器に給水する方式。
簡便でコンパクト、かつ使用水量も少なく連続使用が可能という利点がある反面、25A以上の給水管径が必要、水道の圧力が低いと使えない上、フラッシュバルブ動作時の流水音が大きく、大便器用フラッシュバルブの場合、起動弁のレバー棒が足で踏まれて操作される事が多く故障や衛生面で問題があるという欠点がある。また凍結による破損にも弱い為、流動弁を設けて凍結防止対策をした寒冷地用フラッシュバルブも存在する。
日本ではデパート、ホテル、オフィス、駅などの商業施設や工場、あるいは学校などの連続使用が求められる様々な水洗便所で多用されている。
その反面、一般住宅での採用は少なく、戸建住宅では一般的に給水管径が13A、15A、20Aである為に、大便器用フラッシュバルブを使用する事が出来ず、屋上等に受水槽からの高置水槽を設置し、25A以上の給水管径と水圧を確保できる集合住宅や、特殊的に25A以上の給水管を導入している一部の戸建住宅に僅かに設置されている程度である。
作動原理はフラッシュバルブの押し棒レバー等の起動弁を操作すると内蔵されているピストンバルブ(フラッシュバルブの心臓部の部品でシリンダー状のバルブ)のリリーフバルブの逃し弁が開きピストンバルブ上部の圧力室部の水が抜け、給水圧力でピストンバルブが上昇し吐水(便器への給水)が始まり、同時にピストンバルブのストレーナーフィルター)から小穴を経て圧力室に水が入り、やがて圧力室の水圧が高くなると徐々にピストンバルブが下降しはじめて自動的に水が止まる。
大便器用フラッシュバルブを設置する際は断水時等給水管の負圧による逆サイフォン現象による汚水の逆流防止の為に負圧破壊装置であるバキュームブレーカの取り付けが義務付けられている。
バキュームブレーカには吸気弁と給水閉止弁が内蔵されており、給水管に負圧が発生すると直ちに給水閉止弁が閉まり、吸気弁より外部の空気を吸い込み汚水の逆流を防止する。またフラッシュバルブの吐水時(便器への給水時)以外はフラッシュバルブ~便器への給水管に吸気弁より空気を取り入れ大気圧状態にする。この為フラッシュバルブ閉止時(便器洗浄終了時)バキュームブレーカの吸気口から空気吸入音が聞こえる事がある。また無数に開いた穴の吸気口を持つ旧型バキュームブレーカの場合、フラッシュバルブ起動開始時(便器洗浄開始時)に吸気弁が閉まり、フラッシュバルブ閉止時(便器洗浄終了時)に吸気弁が開く吸気弁の開閉動作が吸気口の無数に開いた穴から垣間見える。
フラッシュバルブの操作方法は長らく押しボタンやレバー棒の起動弁を手動で操作して起動させる方法が主体であったが近年に新設されるトイレのフラッシュバルブでは大便器用、小便器用共にセンサーで人体を感知して使用後に自動で起動する自動フラッシュバルブや手かざしセンサーや薄型のタッチスイッチで電磁弁を作動させ起動する電装式のフラッシュバルブが主体になってきており衛生的になっている。特に大便器用の自動フラッシュバルブはセンサーの感知した時間で大、小の流し分け機能も搭載しており節水にも有効である
自動フラッシュバルブや電磁スイッチタイプの電装式のフラッシュバルブには大便器用、小便器用共に設備保護洗浄機能が搭載され長時間使用(通水)が無い場合、蒸発により内部の水が減少し排水トラップ内の封水の乾きからの破封を防止する為に設備保護タイマーにより最後の洗浄から24時間周期で自動的に1回分の洗浄を行う機能を持ち、更に大便器用では、小洗浄が連続する場合、大便器配管つまり防止のため使用状況に応じて大洗浄を行う機能も持っている。
自動フラッシュバルブの一部は水勢を利用して水力発電をして自らの制御電力に使用する機能を搭載した機種も存在する。
近年は小便器用、大便器用共に便器本体にフラッシュバルブを組み込んだ物や壁内ににフラッシュバルブを設置される事も多く、フラッシュバルブが直接目に見えない場所に設置される為、悪戯防止にもなるほかスッキリしていてトイレ空間の向上が図られている。
フラッシュバルブはボディや内蔵されたバルブも含めて概ね100以上の部品から構成されている。材質はボディやピストンバルブ部は真鍮青銅製、ピストンバルブのストレーナーフィルター)部とシートパッキン中心部は状のステンレス製、ピストンバルブのワン皮パッキンは牛革なめし加工した皮革または合成ゴム製、ストップバルブ(止水栓)、バキュームブレーカ、シートパッキンの外枠部等のパッキン類は合成ゴム天然ゴム皮革製、ピストンバルブ内部のバルブ部、バキュームブレーカ内枠、レバーハンドルの押し棒部付根はABS樹脂製である。
以前に製造されたフラッシュバルブの配管接続部やバキュームブレーカの一部のパッキンには石綿製のパッキンも使われたがアスベスト問題法的規制があり現行品のフラッシュバルブには使用されていない。
フラッシュバルブ式の便器に汚れ、除菌、尿石付着防止等の洗浄薬剤を便器の洗浄水に添加する場合、タンク式のように直接薬剤を投入出来ない為、サニタイザー(薬剤供給装置)等の薬剤の入った機器をフラッシュバルブの給水管に組込み連結し水をサニタイザーに流入させ溶解した薬剤を大便器、小便器に供給する。この装置は衛生面や快適性を重視する施設を中心に設置されている事が多く、最近では自動フラッシュバルブに前述のサニタイザーを内蔵したフラッシュバルブも大便器用、小便器用共に存在する。

タンク式

専用のタンクにあらかじめ注水しておき、バルブ操作によって洗浄水を放出する方式である。タンクに一定量の水を貯える方法はいくつかあるが、現代日本においてはフロートバルブを使用する方法が一般的である。タンクの形状や配置によっていくつか種類がある。タンク式の場合満水になるまで次の洗浄が出来ない欠点がある為、公共施設等の利用者が多いトイレではフラッシュバルブが採用される事が多い。


ハイタンク式

天井に近い位置にタンクを置き、給水管を伸ばして床面の便器へ給水する方式。8時だョ!全員集合コントシーンを連想させることから、俗にドリフとも呼ばれる。かつては落差が大きい方が洗浄力で有利とされていたことから、戦前期から昭和50年代中ごろまで圧倒的多数を占めていた。しかし、メンテナンス性の悪さ、設置時の制限、イニシャルコストが高いなどの欠点があったため、以降は急速にロータンク式へと置き換えられた。現在は既存の旧い建物でわずかに見られる。また、水道圧が確保できない際に、押しボタンで遠隔操作するバルブを使用して見かけだけ直圧式にした隠しハイタンクが若干だが存在する。陶器の他に、日本での水洗便所普及初期や、戦時中などに木製のタンクが製造されていた。木製のタンクは内壁に銅板が張り詰められ防水されていた。
なお、TOTOは2012年4月1日をもって、ハイタンクの部品や本体をすべて廃盤予定。
これに伴い、TOTO製のハイタンクは消滅し、50年の幕を閉じる。

ロータンク式

便器のすぐ上、人間の腰元程度の高さにタンクを置き、直下の便器へ給水する方式。タンク上部を洗面器にしておき、給水される水を手洗いに使用することもできる。かつては便所の室内のコーナーに壁かけ、ハイタンク式同様給水管で便器と接続する隅付ロータンクが主流だったが、ハイタンク式が新たに作られなくなり互換性の必要がなくなったこと、ステンレスまたは真鍮のパイプが露出することに対する美観の問題、占有する面積が大きくなることなどから、便器の真上にタンクを載せた密結形が主流となった。その後、昭和60年代から近年まで戸建住宅水洗便所の殆どを占めた。このロータンク式では、タンクの上部にはタンクの蓋の代わりに、手洗い器を兼ねている水盆を置き、タンクの給水の一部の水が手洗い部に出て来る仕組みである。この場合トイレ内に個別に手洗い器を設ける事を省略できる為に、狭い空間のトイレでよく採用されており、この形態は日本特有の方式である。便器の汚れ防止、除菌、便器~配管の尿石防止付着の為の薬剤を便器に供給する為に薬剤をタンク内に投入したり、タンク上部手洗い用水盆部に薬剤を置いて薬剤を溶解させ便器洗浄水に薬剤を添加する場合が多い。これらは青色や緑色で着色されている薬剤も多く、洗浄をすると便器に青色や緑色の水が流れる。またこれらの洗浄薬剤は芳香剤も含んでいる事も多く芳香剤代わりに薬剤を投入する事も多い。

シスタンバルブ式

ハイタンク式と同様に天井に近い位置にタンクを置き、給水管を伸ばして床面の便器へ給水する方式あるが下部の給水管にフラッシュバルブ同様のバルブを組み合わせたものをシスタンバルブといい、主に公衆便所のトイレで多用され、フラッシュバルブと同じ操作方法でありながらタンク式である為に満水になるまで次の洗浄が出来ない欠点がある。最近は採用例が減っている。
なお、ハイタンクと同じく、シスタンバルブ式(ハイタンクなどの)の部品も2012年4月に廃盤予定。
これに伴い、TOTOはハイタンクの製造の幕を閉じる。

水洗便器の製法

便器の製造は長石、陶石、粘土を水に混ぜた泥漿(でいしょう=泥水)を作り、泥漿を型に流し、成形する。

成形型は石膏製と樹脂製があり、石膏製は型の製造が容易で安値ある反面、ライフサイクルが短く、樹脂型は型の製造が高価であるがライフサイクルは非常に長く、大量に成形が可能である。主に多品種少量生産の場合は石膏型を、大量生産の場合は樹脂型が用いられている。

成形された製品は約24時間熱風の中で乾燥させ、キズやヒビがないかをひとつひとつ肉眼で検査し検査に合格した製品は 施釉(せゆう)と呼ばれる色付けと艶を出す釉薬を吹き付けた後、焼成工程に入り、トンネル窯で、約24時間かけて焼き上げる。

陶器は焼きあがると10%ほど元の大きさから縮むことから熱による縮みと重力での変形を正確に逆算しなければならない技量が必要である。

完成した便器は出荷前検査として、擬似異物等の代用物にて洗浄不良検査、水漏れ検査等全数洗浄検査を、目に見えない傷がないかどうかは、製品をハンマーで叩き、その音で判断する検査を実施し、出荷される。


便器への尿石付着防止

尿石は尿中に溶けているカルシウムイオンが炭酸などと反応し、カルシウム化合物として。便器および便器のトラップ、便器からの配水管の内部に付着する。尿石には尿中の有機物も含まれており、これが腐敗分解すると、トイレ独特の臭気が発生する。トイレにおける悪臭の主たる原因になっており、尿石が便器~排水管への付着、蓄積が進むと悪臭がさらにひどくなり、やがて排水管の詰まりが起こる。このため各業者から尿石除去及び防止の薬剤が発売されており、古くからトイレボールと呼ばれる球状の尿石防止薬剤を男性用小便器排水口付近に投入される事が多かったが、最近は洗浄水を電気分解し生成した機能水を流しバクテリアの繁殖を抑制してアンモニアの発生や尿石付着を防止する機能がある小便器が発売されているほか、公共の施設の水洗式トイレでは水洗便器の洗浄水に尿石防止の薬剤を添加する装置であるサニタイザー等が設置される事が多い。この装置は主にデパート、駅、ホテル、劇場等の衛生面や快適性を重視する施設の、男性トイレでは小便器に、女性トイレでは和式大便器・洋式大便器の便器洗浄管(便器への給水管)に組込み連結して設置される。

サニタイザーが設置されている男性トイレでは、概ね小便器のみに設置され、和式大便器・洋式大便器には設置されない事が多いが、同一箇所の女性トイレには殆んどの和式大便器・洋式大便器 にサニタイザーが設置されている。これは同じ大便器でも男性トイレの大便器に比べ女性トイレの便器(大便器)は排尿に供される頻度が極端に高い為である。(男性トイレの大便器にもサニタイザーが設置されているトイレも存在する)

サニタイザーの作動原理は、水洗フラッシュバルブを操作して便器に水を流すと、水は水圧により給排水管(便器の給水管からサニタイザーに連結した管)を通り、フロート弁を経由してサニタイザー内に流入する。水がサニタイザーに流入すると、フロートが上昇してフロート弁が閉鎖される。このためにサニタイザーへ流入する水の量は、常に一定となる。サニタイザーに流入した水は、薬剤本体と接触して薬剤を溶解する。便器へ流れる水流の強さが弱まると、フロートが降下してフロート弁が開き、サニタイザー内の薬剤を溶解した水は給排水口を経由して便器に流れ込む。一回のフラッシュバルブの操作により便器に流れる水の量はほぼ一定であり、水流の強さの時間的変化も一定した状態が繰り返されるので、サニタイザーに水が流れ込み、薬剤を溶解して便器へ流れる過程も一定した状態が繰り返され、常にほぼ一定量の薬剤が溶解して便器に供給される。便器への流水が終了する間際に薬剤を溶解した水が便器に供給されるので、薬剤を溶解した水はほとんど希釈されることなく便器内に留まり、尿石の付着防止、消毒、脱臭などに効果的に作用させることができる。

サニタイザーに内蔵されている薬剤はメーカーや種類により様々で液体またはゼリー状の薬剤がカートリッジボトルに入った物あるいはティーパック状の薬剤が納められている事が多く、芳香効果も併せ持っている薬剤もあり、一部にはトイレボールと同じ薬剤であるパラジクロロベンゼンを主成分とした薬剤もある。液体状、ゼリー状の薬剤が内蔵されている場合、薬剤による泡立った水や芳香効果がある泡立った水が便器から出てくるのに対し、パラジクロロベンゼン系の薬剤が内蔵されている場合、トイレボールと同様のナフタレン(ナフタリン)系の独特な匂いの水が便器から出てくる。いずれもサニタイザーはメーカーから一定周期で定期的に薬剤交換、薬剤補充される。

脚注

  1. ^ TOTO - タンクレストイレ・ネオレスト

関連項目

外部リンク