人体実験

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人体実験(じんたいじっけん)とは、人間に行われる医学上の実験のこと。医学の発展に重要な役割を果たしてきたが、歴史上において倫理的に問題がある実験が行われたことも少なくなく、現在では「人体実験」の語は否定的ニュアンスをもって語られる場合がある。

歴史

インフォームド・コンセントを経ない臨床実験は第二次世界大戦以前、世界各国の医療現場において実施されていた。第二次世界大戦ドイツでの強制収容所における収容者に対する、回復の望めない臨床実験が行われたことがニュルンベルク裁判で問題となり、1947年医学界において「ニュルンベルク綱領」が採択され、臨床実験における説明責任が医療者において確認されるに至った。

概説

医学的技術の開発には、人体を直接研究することが不可欠である。もちろん、動物などを使った研究も行われるが、動物と人間では異なる部分も多く、最終的には人体を扱う技術である以上、人間で試さなければわからない部分も多い。病原体の研究では、人間にしか感染しない病原体が少数ではあるが存在し、その研究のために人間を使った例がいくつか知られる。

現代の文明は個人の生命をより尊重する方向に進んでおり、いかなる理由であっても人体実験を無条件で許容することはない。しかし、古くは異民族や人種が異なればさほどそれを重視せず、あるいは死刑が比較的簡単に行われたから、個人が死ぬことに対してもそれほど問題視しなかったこともあり、人体実験が行われた例は数多い。そういった時代には奴隷死刑囚知的障害者被差別民貧困者を使った例がしばしばあった。

また、アメリカ合衆国が自国の兵士などに対し行ったとされる放射線人体実験など、被験者に危険性を知らせなかったり、被験者を騙して行った例もあった。いわゆるロボトミー手術など、特に理論もはっきりしないままに方法が提出され、ひとたび人体実験で「効果」が確認されれば、リスクの評価もきちんとなされないまま即座に実用化された。現在では考えられないことである。

しかし、次第にそのようなことは許されなくなり、危険を説明した上で、それでも志願するものを対象とするようになった。その他、学者が自らの体で実験を行うことがある。古くは、華岡青洲などの例のように、近親者が志願して行なわれた例もあり、それらは美談として語り伝えられている。

現在においても、北朝鮮では政治犯を人体実験の対象としていると脱北者は証言している[1]

SF等のフィクションでは、いわゆるマッドサイエンティストが往々にして人体実験を行ったり、場合によっては自分自身で人体実験を行う場面がしばしば見られる。常軌を逸しているということを示すのによい題材、といったところである。マッドサイエンティストが自分自身に人体実験を行なって悪のスーパーマンとなるのはよくあるパターンの一つでもある。

実際におこなわれる場合

現在でも臨床試験治験)と呼ばれる形で行われているが、これには厳しい規制があり、対象となる人物には参加に先立ちインフォームド・コンセントが行われ、参加は自由意志によって行われる。また、可能な限り安全性を保つように行われる。臨床研究において得られた個人情報の取り扱いに際しては、十分なプライバシー保護のための配慮を行う必要もある。

突発的な事例

ロベルト・コッホによるコレラ菌の発見に際して、マックス・フォン・ペッテンコーファーは培養されたコレラ菌を飲んで見せた(自飲実験)。彼は発病しなかったが、その理由は明らかでない。

似た例として、水俣病の原因が新日本窒素肥料(現チッソ)水俣工場の排水ではないかと疑われた際に、ある工場長がそれを否定して工場排水を飲んで見せた、と言う事件があった。もっとも、この場合は有害物質の蓄積が問題なので、一杯飲んで見せてもその疑惑を否定することにはならない。

人体実験の例

脚注

  1. ^ 脱北者の悲痛な訴え、弁護士協会が人権白書 (朝鮮日報 2008/10/13)
  2. ^ 性病の人体実験で83人が死亡 グアテマラで米科学者ら

関連項目