人体の不思議展

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人体の不思議展(じんたいのふしぎてん)とは人間の死体の実物に樹脂加工をほどこしスライスしたものやさまざまなポーズをとらせたものなどが多数展示された展示会のこと。

概要

このような展示会はグンター・フォン・ハーゲンスが開発し数カ国で特許を取得しているプラスティネーションという技術によって可能になった。従来は死体の実物の標本といえば、ホルマリン液漬けになっているものや剥製のようなものであった。それがプラスティネーション技術をもちいて組織液を合成樹脂に置き換えることにより、臓器を腐らない状態でしかも生々しい外見で長期間展示できるようになったのである。

ハーゲンスはプラスティネーション協会Institute for Plastination(IfP)なる団体を設立、そして1995年より「Body worlds」という名称のプラスティネーションによって加工した死体を見せる展示会を世界各地で行うようになった。ハーゲンスは中国大連でVon Hagens Dalian Plastination Ltdを設立・所有、同地で死体加工工場を経営し大量の死体標本を制作している。

この展示会は一時期は画期的とみなされ(当初から一部の批判はあったものの)概して高く評価する声が多かったが、その後は深刻な人権侵害を引き起こしていると指摘され問題視されるようになってきている(日本では日本医師会高久史麿日本医学会会長から死体解剖保存法違反と指摘がされ始めている[1])。フランスでは2009年裁判所が展示会の中止を命ずる判決を下した。

経緯

日本では1996年から1998年ころまで各地で「人体の不思議展」が開催され、人間の死体を輪切りにスライスにした標本や、(他の臓器は取り除き)血管網だけを選択的に残した標本、胎児子宮に入れた状態の女性(妊婦)の死体の実物の標本、(皮膚を剥がされた)筋肉内臓だけの死体の実物標本がスポーツをしているポーズをとっているもの、あるいは動物の死体のプラスティネーション標本等々等々、従来一般には見られなかったような死体標本が数々展示され、人々の関心を集め、マスコミでもさかんに宣伝され、多くの人々が来場した。1996年から1998年の日本の「人体の不思議展」は、ハーゲンスのプラスティネーション協会と日本の主催者とが提携して行われたものであった。

ハーゲンス(プラスティネーション協会)は、「人体の不思議展」のような世界各地での展示会へ標本を貸し出すことによって、かなりの金額の利益を上げているとされる。

1998年から1999年ころに日本側の主催者とグンター・フォン・ハーゲンスとの間で契約内容で揉めて、プラスティネーション協会と共同での開催はとり止めとなり、展示に使われていた多数の標本もプラスティネーション協会に返却され、人体の不思議展は一旦は終了することになった。

だが、その後に主催団体の構成が変わり、ハーゲンスのプラスティネーション協会とは別の団体(ハーゲンスの団体のやりかたを模倣した中国人による団体)によって中国の地で新たに加工された死体標本を用いて、2002年から「新・人体の不思議展」と銘打って再び開催されるようになった。(「新」という文字は後に取り除かれ、結局再び「人体の不思議展」という名称になった)。

展示されている人体は、主として中国において人間の死体を加工、標本化したものである。そしてその死体が非人道的なやり方で調達され標本にされている、と指摘されている[2]瀬戸弘幸は、「中国政府は、政府の思い通りにならない人々を大量に死刑にすることによって殺害していると言われるが、そうして殺した人々の人体を本人の事前承諾も家族の承諾も無く勝手に加工して売買しているという疑惑がもちあがっている。こうして非人道的なやり方で作られ売買された死体が「人体の不思議展」に展示されている可能性が高い」と指摘している。

主催者「人体の不思議展実行委員会」は「死体の提供は同意を得ている」などと表示するなどしている。だが、それに関する証拠は提示されていない。主催者側は、疑念を抱いた人々やグループから死体標本の献体証明書の開示を求められても拒否するばかりで開示していない。

「人体の不思議展」の人体標本は当初、協力施設として南京大学が表示されており、報道でも南京大学の研究施設から貸与などと報じられていたが、南京大学はこれを否定して抗議を行っている[3]

フランスでは、2009年4月21日裁判所が、パリで開かれている人体展の中止を命ずる判決を出した。

山口県で開催されることになった際には、山口県保険医協会は2010年3月5日に財団法人山口県国際総合センターに対して『法と社会通念にそぐわない「人体の不思議展」の中止を求める要請』という文書を提出した[4]

新潟市中央区にある新潟県民会館で2010年夏に「人体の不思議展」が行われる予定となり、2010年4月20日新潟県保険医会は「人体の不思議展」開催中止を求める声明を発表した[5]5月17日には同保険医会から新潟県弁護士会に対して「人体の不思議展」の開催中止への協力を要請する文書が送られた[6]。だが、結局同年夏に「人体の不思議展」は開催され5万人以上が来場した。

2010年12月から2011年1月に「京都市勧業館みやこめっせ」にて開催された同展をめぐり、展示を問題視した京都府保険医協会等が2010年12月、死体解剖保存法に抵触することを理由に主催者を告発したが、京都府警察本部は同年5月、立件を見送った。厚生労働省との協議の結果、人体標本は死体に当たるが、展示行為を同法違反に問うことは難しいとの判断によるものであった。死体解剖保存法では、大学と特定の病院が研究や教育用に標本として保存する場合以外の人間の遺体保存については、遺族の承諾と都道府県などの許可を義務付けている。しかし同展では京都市に許可申請をしていなかった。京都府警は展示期間やその前後に標本を保管する行為は同法上の「保存」には当たらないと判断した。

出典・脚注

  1. ^ 死体を使った「人体の不思議展」 日本医師会も問題視 週刊金曜日「金曜アンテナ」
  2. ^ 中国の臓器売買と人体標本の疑惑を語る一体の人体標本 大紀元。但し「大紀元」自体が反中・親台の法輪功系メディアであることに留意する必要がある
  3. ^ 週刊金曜日2007年8月31日号
  4. ^ 『法と社会通念にそぐわない「人体の不思議展」の中止を求める要請』
  5. ^ 『「人体の不思議展」開催中止を求める声明』
  6. ^ 『「人体の不思議展」の開催中止にご尽力ください』

関連項目

外部リンク